辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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4、終わりの先に出来たもの

穴から顔を出してみる。

 

一応、外の様子は落ち着いていた。それは風魔法で調べたから、外に出てみたのであるが。

 

なんだこれは。

 

今まで殺戮の限りが尽くされたとは思えない程の穏やかさだ。

 

外に出て見ると分かるが、あらゆる全てが信じられないくらい静かになっている。荷車ごと外に出て見ると、近くにあった出城は人が普通にいるようだった。しかし、どうにも様子がおかしい。

 

「何だか話している事がおかしいですね」

 

「風魔法で拾っているんですね。 どんな内容ですか」

 

「聖女様が現れて、王子から婚約破棄を突きつけられたとか言っています」

 

「はあ?」

 

軍師どのが珍しくそんな風に声を上げていた。

 

聖女が現れたことはいい。覚悟していたことだ。数百年前にも、たくさんの聖女を自称する輩が現れて、世界中で狼藉を尽くしたのだから。

 

それはそうとして、王子と婚約。

 

しかも婚約破棄。

 

「ハルメンの王族は全滅したんですよね」

 

「間違いなく」

 

「王子もですか」

 

「王子もです。 それに王子はそもそも婚約者がいましたし、そういった婚約者を作るというのは国の契約に当たるものです。 例えば旧パッナーロみたいな腐敗の極限に達している国だったらともかく、意外と王族というのは自由に振る舞えないんです」

 

とにかく、首都へ移動だ。

 

すぐ近くにあるのだから、別に難しくは無い。

 

首都近くの森の中に潜む。

 

本来はこう言う場所は極めて危険なのだが、空気が全然違う。だいたい少し前まで猛獣が人間の肉食い放題で、この辺りも我が物顔に闊歩していたのに。それもいなくなっていた。

 

首都では門前に衛兵がいるが、何というか軍人らしくない。ただ槍を持って立っているだけだ。

 

こういう歩哨というのは、基本的にそれなりに厳しい仕事だ。

 

気を抜いていれば犯罪者などに舐められるし、襲撃する隙があると勘違いされると色々と厄介な事になる。

 

また多くの兵士がいる、練度が高いという事を見せる事で、悪事を企む輩にたいして未然の防御にもなる。

 

それがなんだアレは。

 

あくびまでしているし、それを誰も咎めもしていない。

 

滅茶苦茶になった首都が復興しているのはどうでもいい。何が起きてもおかしくはないからだ。

 

しかし人間そのものが代わったとしか思えない。

 

風魔法で拾う限り、ハルメン国は存続しているようだ。あの状態では、滅んだも同然だったが。

 

しかし見ると、門を好き勝手に人間が行き来している。

 

旅人の馬車も信じられないくらい軽装備だ。

 

「門番が出入りの手形すら確認していない。 これは職務怠慢で本来は重罪です」

 

「確かに、あまり考えられない事態だな。 スポリファールもこうなってしまっているのだろうか」

 

「アイーシャさん、拾った風魔法での情報を、僕達にも出来るだけ詳しく届けてください」

 

「分かりました」

 

まあわたしだけではどうにもできないだろう。

 

とにかく情報を集めるしかない。

 

城が完全に元に戻っているのは、あの死体だらけの悲惨な状態を見る限りとても信じられないが。

 

もしも神がいて。

 

それが介入したのだったら、命さえ粘土細工みたいに好き勝手に出来るのかもしれない。あの光がそうだったのだろうか。

 

だとすれば、もろに浴びていたらどうなっていたのか。

 

まあ、何もかも尊厳を奪われていただろうな。

 

「聖女が第七王子との婚約を破棄されて、田舎に左遷されるそうです。 それも第七王子の好みに合わなかったとかで」

 

「ハア!?」

 

軍師殿がまた怒りの声を上げる。

 

そもそも軍師どのの話によると、この国の王子は二人。一人は既に既婚。婚約者がいた王子も三十半ばだったそうである。婚約者を今更作ったのは、第一王子に子供が出来なかったのが理由らしい。愛妻家で知られている第一王子は新しい妻を迎えるつもりがないらしく、それで第二王子が……ということだったそうだ。

 

離宮で殺されていた王女は年が離れていたこともあり、王子達には可愛がられていたそうだが。

 

ただ妾腹と言う事もあって王位継承権はなく。

 

形だけでも冷遇しておかないと佞臣がすり寄る可能性もあったとかで、ああいう措置がされていたとか。

 

「第七王子なんてこの国にはいません。 だいたいそんな下の方の王子なんて、そもそも基本的に冷や飯を食べさせられるか、政略結婚の道具です。 何もかも国政を馬鹿にしている! ハルメンはそんなに腐敗した国ではありません!」

 

「落ち着いてくれ軍師どの。 それよりもどう見る」

 

「……数百年前の時よりも、世界が受けている侵略の規模が大きいのかも知れません」

 

軍師どのが言う。

 

何でも数百年前にも大混乱の後に好き勝手な称号を名乗る連中が降臨して、やりたい放題の限りを尽くしたそうだが。

 

その時は既存の国はそのままで。それらを勝手に狼藉者が蹂躙したのだそうだ。

 

だがこれは。

 

既存の国が、勝手に何もかも弄くられている。

 

聖女様だ。そういう声が上がって、馬車が出てくる。

 

二階建ての馬車だ。

 

いや、そういうのがないとは言わないが、あんな背が高い馬車は目立つだけだし、防御にもあまり適していない。

 

例えば周囲を分厚く兵が護衛して、王族やら大貴族やらが乗るとかなら分かるが。周囲には護衛の兵もいない。

 

「察知される可能性が高いので、迂闊に風魔法での諜報は控えてください。 遠くから見るだけにします」

 

「分かりました」

 

森の中で身を潜める。

 

クラウスが眼鏡を作る要領で、拡大視の魔法を作る。これで近寄らなくても聖女とやらの顔を拝める。

 

複数の拡大視の魔法を重ねて、角度を変えることで、潜んだままで馬車の二階にいる聖女とやらが見えた。

 

馬車に乗っているという追放されたという聖女は、なんだか違和感がある格好をしていた。

 

何というか、どこかの令嬢みたいに分厚く服を着込んでいる。その服も遠目からは素材が分からない。絹か。それにしては分厚そうなのだが。首からぶら下げているのはなんだ。何かの飾りだろうか。いずれにしても、聖女というのはなんなのか、さっぱり分からない。

 

そして髪の毛は無駄に異様に美しい金髪で、腰……いや足下くらいまで伸ばしている。目立ちすぎである。聖女というのは目立つのが仕事なのか。しかも悪目立ちの方だ。見ていてなんだあれはと言葉が漏れる。

 

だいたい追放されたならしゅんとしていそうなものだが。わたしだって最初追放されたときは実際どうしていいか分からない状態だったのだが。

 

追放されたというのに、むしろうきうきしているようだ。

 

「何もかもがちぐはぐですね……」

 

「例の道具、試してみますか」

 

「いや、それよりも」

 

聖女の周りの人間を確認。

 

なんというか、作り物みたいな顔をしたなよっとした背ばっかり高い男が取り巻きとして、一緒に馬車に乗っている。

 

見覚えがあるかと聞かれて、軍師どのが見た事もない連中だとぼやく。

 

それに見ていて分かるが。

 

あれ、多分この世界の人間じゃない。

 

だいたい動いて喋っているが、なんというか動かされて喋らされているという感じである。

 

人形だアレは。

 

まさか聖女の能力の一つなのではあるまいか。

 

ともかく聖女が行く。

 

そうすると、いきなり首都が寂れた。

 

それを見て、絶句する軍師どのとクラウス。

 

寂れた様子を馬車から首を出して聖女が見て、くすくすと笑っている。その聖女も、嫌みな程の美女だが。

 

体の動かし方とかに違和感がある。

 

なんだこれは。

 

聖女の定義はさっぱりわからないが、そもそもいきなり街一つが寂れるような様子を見て、にたにた笑っているような奴が、まともとは言い難いし。

 

その取り巻き肉人形達も、その様子を見て聖女にひたすら甘い言葉を掛けているようだった。

 

「スポリファールの様子も確認しに行きましょう。 これは、ひょっとすると……数百年前の地獄とは、少し違うのかも知れません」

 

軍師殿の現実的な提案である。

 

わたしは分かったと頷くと、土魔法と風魔法での移動を開始する。

 

出来るだけ人は避けた方が良いだろう。

 

世界は変わってしまった。

 

破壊の光に包まれた世界は、もはやもとの世界とは根本的に違うのかも知れなかった。

 

 

 

(続)








世界に現れた異邦の存在。

それらは数百年前以上の力を持っていました。

数百年前の狼藉者達は、自分が好きかって出来ればそれで良かった。

しかし今度の狼藉者達は、自分の好き勝手に世界を強制的につきあわせることが出来るのです。

蟻と巨人どころの戦力差ではありません。

生き延びるための絶望の戦いが始まります。





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