辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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アイーシャにとってはアルテミスは仇も同然です。まあアンゼルを殺した所を直にみた訳ではありませんが、あらゆる状況証拠がそうと告げています。

ただ、それでもアルテミスの存在は必要なのです。

勇者には犠牲なしで勝てましたが、それも殆ど初見殺し。後の奴に同じ手が通じるとは思えません。

わずか数秒でも、世界にとっての狼藉者を食い止められる存在。それが必須なのです。






2、アルテミスの復活

街の外の拠点に篭もると、しばらくは蓄えた食事を消費しながら、アルテミスの回復に努めた。

 

アルテミスが勇者と戦って敗れたのだとすれば、それまでは正気を保っていた可能性が高い。

 

ひょっとすると、光から逃れた可能性も高い。

 

他にも同じように光から逃げ延びた者だっていてもおかしくはない。

 

情報を収集するためにも、アルテミスは助けなければならなかった。

 

交代で回復魔法を掛ける。

 

本当に手酷く痛めつけられた上で、数日水も食事も与えられていなかったのが体に損傷を与えている。

 

こう言う傷は、心身に一生もののとなって残る事も多い。

 

アルテミスはそこまで際だった美人ではないが。

 

それでもこんな風に尊厳を破壊されているのは、見ていて思うところもある。わたしが幼い頃に受けた暴虐と同じようなものだからだろうか。

 

聞いておきたい事もある。

 

アンゼルを殺したのがアルテミスなのか。

 

恐らくそうだろうし、仕事だったからなのだろうが。

 

それでも聞いてはおきたかった。

 

アンゼルが性格が腐っていたとは言え、あの村の民間人を皆殺しにしたのは紛れもない事実。

 

わたしの友人だったのも事実だが、それはそれとして罪人だったのも事実なのだ。

 

わたしも散々賊は殺して来たが、それは身を守るためであったり、或いは仕事でやってきた事だ。

 

アンゼルの場合は違う。

 

それも分かっているので、真相が分かった場合は、受け入れる覚悟もあった。

 

三日ほどで、アルテミスは目を覚まして。自力で粥を食べられるようになった。

 

その間に、クラウスが街に出向いて、残っている服を見繕ってきた。鎧も一式。

 

ただ、鎧はほとんど無事なものはなかったし。

 

アンゼルみたいな特務の騎士が着ていたものは、相当な高級品だっただろうが。

 

「少しずつ食べてください」

 

「何となく助けてくれたのは覚えてます。 すみません、迷惑を掛けました」

 

「今はとにかく体力を戻してください。 全てはそれからです」

 

わたしは粥に少しずつ肉を入れる。

 

これも懐かしい。

 

昔やっていた事だ。

 

鶏卵を入れられれば言うことはないのだが、それもちょっと厳しいだろう。そもそも鶏がいるかどうか。

 

畜産農家の辺りは見にいったが、殆ど牛やらは獣に食い荒らされていたし。

 

鶏もしかり。

 

生き延びた僅かな数は、皆逃げ散ったようである。

 

後は野生化したのを、再度捕まえて戻さなければいけない状態だろう。

 

それをする手間暇が、どれほど掛かるか分かったものではない。

 

淡々とアルテミスの治療を進めていく。

 

更に数日でアルテミスは歩けるようになった。

 

それで、少しずつ軍師どのが聴取を進めていく。

 

軍師どのには先に頭を下げられた。

 

こっちの聴取を優先させて欲しいと。

 

合流した後に、わたしとアルテミスの因縁については話はしてある。だから軍師どのは事情を知っている。

 

わたしもアルテミスは別に不倶戴天の相手ではなく、確認はしておきたいだけの話である。

 

だから、軍師どのを遮るつもりはない。

 

「やはりあの光から逃れたんですね」

 

「はい。 旧パッナーロ領でも皆がおかしくなって、その中には歴戦の騎士や、優れた魔法使い、国が雇っている学者や、役人達も多くいました。 僅かな正気の騎士とともに事態を収拾しようと走り回ったのですが、全て無駄で……最後の光を見て、騎士達を集めて、必死に地下に逃れたんです」

 

「我々と経緯は同じようですね」

 

「わたしが見てきた範囲では、新生パッナーロ領も同じようでした。 カヨコンクムのロイヤルネイビーやクタノーンの黒軍に蹂躙されたばかりだというのに……」

 

アルテミスは仕事人かと思ったが、一応他人を思いやる心はあったのか。

 

粥も少しずつ形があるものにしていく。

 

話も、少しずつ聞いていく。

 

光が収まって、何もかもおかしくなった世界で呆然としていると、いきなりアルテミスは魔王とか言われたそうである。

 

街の人間なんかが、全員でアルテミスを魔王と呼び始めたそうなのだ。

 

そもそも魔王とはなんだろう。

 

そう困惑していると、あの勇者が現れた。

 

一目で勝てない相手だと悟ったと、アルテミスはにへらと笑う。この情けない笑い方、あの一度見たのとまったく変わっていない。

 

人々を惑わし破壊の限りを尽くす魔王とか言われたそうで、困惑しながらアルテミスは対応したらしいが。

 

勝てる相手ではなく、あらゆる攻撃も通じなかったらしい。

 

勇者が手下にしていた頭頂部から変な耳の生えた割烹着女にもまるで勝ち目がなかったと、アルテミスはぼやく。

 

まあそうだろうな。

 

わたし達が勇者を倒せたのだって、奇蹟に等しかったのだ。

 

それで取り押さえられた後、民草が大歓声を上げて。鎧を剥がされて、それでその場で激しい暴行を受けたらしい。

 

民草の前で強姦は流石にしなかったようだが。いずれにしても気を失うまで殴られて。気がついたらよく分からない魔法で拘束されて。あの辺境の街に運ばれている最中だったそうだ。

 

魔力をどうやってか封じられて、魔法での反撃も出来ず。

 

道中で食事も何も与えられずに、酷く参った。

 

とにかく排泄もその場でさせられたので、非常に悲しかったらしい。

 

十字架に中腰で縛り付けられて、しかも最後に残っていた下着まで(汚物まみれだったそうだが)剥ぎ取られて。

 

剥ぎ取る時に、民草がゲラゲラ笑っていた事だけは覚えているという。

 

だとすると、わたし達がどうやって勇者を斃したのかとかは覚えていないし。

 

勇者がわざわざ自分でアルテミスを殺そうとしていた時は、何が起きていたか理解出来ていなかったとみて良いだろう。

 

軍師どのは咳払いすると、生き残りについて聞く。

 

学者二人、魔法使い一人、騎士が三人。

 

名前は殆ど知らない人ばかりだったが、騎士の一人はあのアプサラスだ。これは心強いとわたしは思った。

 

ただ、生きているかは微妙だ。

 

アルテミスだけが勇者に倒されたのは事実だが。

 

その後、他の生き残りがどうなったか分からない。あの勇者の実力だと、片手間に皆殺しにされていてもおかしくない。

 

「私達が潜伏していたのは、旧パッナーロの東辺境伯領です。 勇者がいなくなった今、探しに行く価値はあるかと思います。 ただ私は見ての通りなので、まだしばらく回復に時間が掛かりますが……」

 

「生き残りとは出来れば合流したい。 二手に分かれましょう」

 

軍師どのは言う。

 

わたしに、東辺境伯領に出向いて欲しいと言う。

 

わたしの事情は知っているだろうに、随分なことを頼んでくるものだ。

 

わたしが正気か、という顔をすると謝られる。

 

「すみません。 しかし土地勘があるのは貴方だけなんです。 騎士アルテミスは身動きが取れません。 あの高速移動の魔法も、本当に心強い。 気にくわないのなら、殴ってくれてかまいません。 お願いします」

 

「……そうですか」

 

わたしは咳払いすると、アルテミスに聞く。

 

わたしを覚えているかと。

 

覚えていると答えた。

 

そうか、それは意外だ。

 

世界最強が、わたしみたいな雑魚を覚えてくれているとは、とても光栄な話である。

 

そのまま続いて話を聞く。

 

「アンゼルを殺したのはあなたですか」

 

「はい。 あの人はサーチ&デストロイの命令が出ていました」

 

確か裁判も何もなしに即座に見つけ次第殺せ、という命令だったな。わたしはまあそうだろうなと思ったが。

 

続けて話を聞く。

 

「わたしを見逃した理由は?」

 

「貴方にはその命令は出ていませんでした。 それだけです」

 

「そうですか。 スポリファールはわたしの事を裏切り者として見つけ次第殺そうと考えていると思っていましたが」

 

「騎士アプサラスは貴方の事を後悔していたようです。 もう少し側に置いて、壊れてしまった心をどうにかしてあげるべきだったと」

 

ちょっとそれを聞いて驚く。

 

あの冷酷そうな女騎士が。

 

頼りにはなりそうだとは思っていたが、人間味なんぞかけらもないという点ではわたしの同類と思っていたのだが。

 

それは意外だ。

 

まあいい。それが聞けたのなら充分だ。

 

「アンゼルはわたしの友人でしたが、ただアンゼルが殺されたのはそれはそれで理にかなっています。 わたしは誰がアンゼルを殺したのかを知りたかった。 その理由も。 だからそれで充分です」

 

「……貴方はやっぱり人間離れしていますよ。 私より」

 

「褒め言葉として受け取っておきます。 わたしが見てきた人間は、はっきりいって醜かった。 少しずつ、あれらと一緒でなくてもいいとわたしは思って来ています」

 

それを聞いて、誰もが黙り込む。

 

アルテミスから受け取った騎士勲章を持つと、わたしは食糧だけ担いで、拠点を出た。

 

後は、現地に向かうだけだ。

 

此処からあの辺境伯領だと、今のわたしだと三日……休憩を減らせば二日くらいで済むだろう。

 

軍師どのが書いてくれた手紙もしっかり懐に入れる。

 

そしてわたしは、土魔法と風魔法を駆使して、一気に移動を開始する。

 

全てが壊れてしまったスポリファールは。

 

もう今更、何かしらを顧みるものもないだろうなと思った。他の国も一つに一人好き勝手に世界をねじ曲げる狼藉者が出ているのだとすれば。

 

きっともはやこの世界に希望はないだろう。

 

混沌の時代が地獄だったように。

 

この世界には、第二の混沌の時代が来た。

 

それだけだ。

 

 

 

高速で移動を続ける。途中で街やら村やらを見るが、あの勇者のためにしつらえられた世界だったからだろう。

 

勇者が死んだ今は元に戻った。

 

何もかもが廃墟と化し。

 

僅かに生き延びている人間は、わたしを見ても虚ろな表情だったし。声を掛けても、ろくに返事もなかった。

 

生きているだけでマシというべきか。

 

元々あの光を浴びて、精神が崩壊するような目にあっていただろうし。

 

それが元に戻っても、後遺症は大きいのかも知れない。

 

うち捨てられている物資を回収させて貰う。

 

あまり大量に落ちている訳ではない。

 

軍の倉庫などを漁る。

 

民家なんかから略奪をするつもりはない。この生きているだけでやっとの人間の物資かもしれないからだ。

 

わたしは賊やロイヤルネイビーがやっていたことをなぞる気は無いし。

 

連中の同類にもならない。

 

人間は本能をさらけ出すとああなる。

 

それは世界がおかしくなる前から分かっていた。

 

世界がおかしくなってからは、それが可視化されただけで。全員が賊やロイヤルネイビー。直に見てはいないが、クタノーンの黒軍も同類だったようだが。そういう連中と同じになっただけ。

 

それを分かっている。

 

わたしはロイヤルネイビーに雇われていたが、連中と一緒になったつもりはない。

 

人間は醜い。

 

それについては、今回の一件で良く理解した。

 

わたしも人間だが、だからこそああはなりたくない。

 

そういう思いも持ち始めていた。

 

アンゼルがあの田舎街でいった。わたしの事を、自意識が薄いと。

 

確かにそうだ。

 

だけれども、今は少しずつ自意識が生じ始めている。だからわたしは、ああはならないと決めている。

 

移動を続ける。

 

砂漠の近くにまで、一日半で到着。

 

これは更に魔力が上がっているようだ。

 

砂漠の手前の街で、水を作る。湧かして冷やして、そして一気に飲む。排泄も済ませておき、コンディションをベストに。

 

それから夜になるのを待って、一気に砂漠を越えに掛かる。

 

星の読み方は理解している。

 

途中でオアシスだったかいう水場を見たが、そこも酷く殺し合った形跡が残されていて、死体が点々としていた。

 

死体は腐る暇もなく干涸らびてしまったようで、骨にさえなっていなかった。

 

此処を守っていたのは、かなり責任感がある兵士達だった筈。

 

それがあんな風にエゴを剥き出しにして暴れ狂ったのだと思うと、なんだか胸がもやもやする。

 

それにだ。

 

見覚えのある鎧を見つける。

 

これは確か、パッナーロから脱出する時に護衛をしてくれていた騎士の一人の。

 

鎧の中には当然のように死体が入っていて、しかも首が飛ばされていた。

 

そうか。

 

責任感のある人だったな。

 

そう思うと、やはり心がすこし痛む。

 

どうして世界をこんな風に滅茶苦茶にしたのか。誰がやったのか。それらを思うと、わたしは苛立ちも浮かぶ。

 

神だかなんだか知らないが。

 

もしもやった奴がいるなら、あの石をぶつけてやりたいところだ。

 

砂漠を明け方までに越える。

 

派手に砂埃を巻き上げてわざと移動したのは、辺境伯領から見えるようにするためである。

 

恐らく見えてはいる筈だ。

 

辺境伯領に、砂漠を越えて到着。

 

わたしが此処を離れて数年。具体的に何年経過したかは忘れてしまったが。それでもだいぶ時間が立った。

 

随分と街が変わっている。

 

もう殆ど誰もいないが、伯爵の屋敷があったところは砦になっていて。立派な城壁があり。

 

あの過酷なスラムは、綺麗に整備されたようだ。

 

全部あの混乱で焼け落ちてしまったようだが。

 

わずかに生き延びた人間が、わたしを見て、こそこそと隠れる。毛並みが良さそうとか、時々わたしは言われたなそういえば。

 

別に今豪華な服を着ているわけでもなんでもない。

 

無言で辺りを見回す。

 

騎士アプサラスほどの使い手だったら、さっきのに気付く筈だが。風魔法を展開して、周囲を探る。

 

生きている人間は本当にまばらだ。

 

これでは、わたしがいた頃の伯爵領と同じ……いやそれよりも酷いな。そう思って、わたしは溜息をついていた。

 

反応できたのは、わたしも修羅場を潜ってきているからだ。

 

至近距離まで接近してきたその人が、わたしに剣を振り下ろしていた。わたしは風魔法で強引に体を動かして、一撃を避ける。

 

相手もわたしに剣を当てる気はなかったようで、追撃はしなかった。

 

「誰だ」

 

相手は誰何してくるが、一目で分かった。

 

騎士アプサラスだ。

 

あれ、この人こんなに背が低かったか。

 

わたしはあまり背が伸びなかったが、それでもなんだか以前より縮んだように思う。それに老けた。

 

最初に出会った時よりも、明確に年を取っている。フラムなんか手も足も出ない使い手だというのが一発で分かる強い騎士だったのだが。今では、手が届かない相手とは思わなかった。

 

「お久しぶりです」

 

「……まさか、あのフラムの所にいたアイーシャか」

 

「はい」

 

「燃えるような赤い美しい髪、何より綺麗になったな。 アルテミスから話は聞いていたが、本当に綺麗になって驚いたぞ」

 

すこし疲れた様子の物言いだ。そしてアルテミスは、アンゼルが死んだ直後わたしに出会った事を、アプサラスに報告していたのだ。そうか、どうやらわたしは自分が思っている以上に、周囲に警戒されていたのだろう。

 

わたしは軍師殿が書いた書状と騎士勲章を出す。

 

立場的には、もう敵も味方もない。

 

今のも、わたしが敵かどうか試すための行動だったのだろう。いちいち怒るつもりもない。

 

「生き残っている人間からの文です。 目を通してください」

 

「分かった。 アルテミスがどうなったか知っているか」

 

「わたし達で保護しました。 これ、預かった騎士勲章です。 貴方に見せるようにと言われました」

 

「なんと。 あの凄まじい化け物が現れた時は絶望さえ覚えたのだが……そうか」

 

勇者も斃したというと、絶句するアプサラス。

 

その姿は、なんだかとても小さく見えていた。

 

文を読み終えると、アプサラスは案内してくれる。生き残りのいる場所にだ。

 

生き残っていたのは、騎士が二人だけ。

 

一人は此処を離れた時のわたしくらいの年の女騎士。なんとも生意気そうな雰囲気である。髪の毛は亜麻色だが、何だか髪型が昔のアンゼルを思わせる。

 

もう一人は忠実そうな男性騎士。黒髪を短く切りそろえている。

 

どっちも知らない。

 

互いに自己紹介。

 

女の子はトリステ、男性はカルキーというそうだ。

 

「アルテミスの話によると、もう何人かいるという事でしたが」

 

「みな殺された。 あの勇者という化け物が連れていた、頭頂部に耳がついた変な服の女にな。 まるで草でも刈るように。 非戦闘員でもおかまいなしにだ」

 

そうか。

 

あの勇者からすれば、魔王の手下とでもいうべき相手だったのだろうし。面白半分に鏖殺するだけの相手だった、ということか。

 

全員は助けられなかった。

 

勇者は斃したが、まだ聖女をはじめとして世界には狼藉者が闊歩している。

 

それでも戦闘要員が三人も加わったのなら、それは大きな意味がある。

 

ストレルがもう駄目になりかけな状態だと言う事もあるし。

 

まずは正気の人間で集まって、それでどうにか生き延びる道を探すしかないだろう。

 

「その妙に綺麗な女魔法使い、誰ですか騎士隊長」

 

「昔の知り合いだ。 お前の年くらいからのな。 此処の出身者……いや厳密にはわからないのか。 ともかく、伯爵の迫害を直接受けた被害者だが、今では世界でも上位に入る魔法使いだ」

 

「信用できるんですか」

 

「今は争っている場合ではない。 あの勇者のような化け物共が他にも闊歩しているのだぞ」

 

そう言われると、うっと言って黙るトリステ。

 

カルキーは咳払いすると、それでどうすると聞いてくる。

 

「隊長、いや副団長。 騎士団長が既に亡くなられた今、貴方が騎士団長になるべきでは」

 

「亡くなったんですか」

 

「あの勇者とやらに一瞬で殺された。 ……地位など無駄だ。 とにかく今は、世界を好き勝手にしている者達をどうにかしなければならない。 驚くべき事に、あの勇者は既に倒れたという」

 

「なっ……!」

 

カルキーが立ち上がる。

 

スポリファールの騎士は、わたしが見てきた特務の中でも間違いなく最強だ。同数だったらロイヤルネイビーの精鋭でも手も足も出ないだろう。アンゼルがあれだけロイヤルネイビーの中でも高い評価を得ていたのに、アルテミスには瞬殺だったのを考えてもそれはよく分かる。

 

その実力をもってしても、あの勇者はそれだけ絶対的な絶望だったのだ。

 

それを倒せたとなれば、驚くのは当然であろう。

 

「勇者とか言うバケモノの手先になって、好き勝手をほざいているだけじゃないですよね、そいつ」

 

「その可能性は低い。 奴の影響を受けていた人々の事を覚えているだろう。 そしていきなり街が朽ちたことも。 今回の世界に対する侵略者は、世界を自分に都合がいい場所へと変えてしまう程の規模の力を持っているそうだ。 それが倒れたのなら、世界がまた一気に朽ち果てた事にも説明がつく」

 

「……でも、あの滅茶苦茶になった世界が、一度は元に」

 

「あの人形みたいな人間達をみて、それで良かったのかトリステ!」

 

アプサラスが喝破すると。

 

生意気そうな女騎士は、うっとだまり。

 

そして涙をこぼし始める。

 

家族とか好きだった人とか失った可能性は高いだろう。それが人形であっても、戻って来たのなら。

 

そう考えてしまうのかも知れない。

 

「わたしもアルテミスと協力して、情報を集めていた。 新パッナーロには、また別の狼藉者が出ている。 ハルメンにもいるということは、恐らくだがカヨコンクムや、クタノーン。 グンリやドラダンにもいるかも知れない。 もう少し連中の情報を集めてから反撃に転じる事を考えないといけないだろうな」

 

「しかしこの秩序が崩壊した街の人々は……」

 

「もはや生きていくだけで精一杯だ。 何もできない。 此方からも何もしてやれない」

 

そうアプサラスが告げると、悔しそうにカルキーが呻く。

 

ともかく今は、世界に対する狼藉者の排除が最優先だ。

 

そう声を掛け。わたしに頷く。

 

これで更に三人を追加か。

 

でも、何人いても、あのアルテミスが手も足も出なかった相手だ。如何に世界に対する狼藉者を瞬殺出来たあの石があったとしても。

 

簡単にいくとは、とても思えなかった。

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