スポリファール辺境の街。其処の近くで作った拠点で合流する。幸いアプサラスも無事だった。
アルテミスはすっかり調子を取り戻したようである。それは何よりだ。アンゼルに対する件では遺恨もある。それはどうしても、理屈で抑えていてもある。だが、それも我慢できる範囲だ。
そういえば。
勇者はどうして此処でアルテミスの処刑をしようと思ったのだろう。それについては、ちょっとなんとも言えない。
あいつはもう死んでしまったし。
ちなみに戻って見るとアプサラスが主導権を握っていた。
それはそうだろう。
アプサラスは軍司令官で、多くの人を束ねていた立場だ。そういうのに一番適している。この中で政治指導者を出来るのは、多数の人を束ねた経験があるアプサラスくらいだろう。
文民統制という考えもあるらしいが。
残念ながら、今は統制をできる「文民」がいないのである。
「良く戻ってくれた。 それでは情報交換をしよう」
「はい」
一つずつ、話をしていく。
ちなみに帰り際に覗いてきたロナウは剣聖の勢力下にあった。どうやら狼藉者達にとって、誰かしらが領土にしようとさえ思わなかったのか。或いはこの事態を引き起こした転生神だかなんだかが、その価値もないと判断したのか、それも分からない。
「そうなると、カヨコンクムは子供だらけになっていたんですね」
「そうですね。 それもやたら可愛い女の子だらけ。 子供らしい言動もしていなくて、ただ可愛いだけの肉人形だけでした。 支配者になっている狼藉者は、男性かと思ったら、こぎれいな女性でしたね。 子供をたくさん侍らせて、それだけで満足しているようでした」
「歪んでいるな。 子供は生意気ですぐに悪い事を覚えるし、なんなら暴力的で大人より残忍なものだが」
「そうですね。 覚えがあります」
アルテミスは噂に聞いているが、魔法が使えるようになるまでは、随分と苦労が絶えなかったらしい。
周囲の子供の残虐性をもっともよく見て育ったのだろう。
わたしもそれは同じなので、頷きしかない。
気があうのは、妙に腹が立つが。
「今の時点で一番危険性が高そうなのは、ハルメンにいる聖女と、クタノーンにいる戦王と見て良さそうだな」
「そうですね。 まずは近場の聖女から排除を考えましょう。 後、金が必要です。 純金が」
軍師どのが言う。
アルテミスが加わった事もあり、狼藉者に対する戦術が増えたが。いずれにしてもあの訳が分からない石は、素手で触れるものではない。
例えばガントレットを金で作って掴むにしても、あの腐食からして、長い時間もてるか分からないし。
何よりアルテミスが金ガントレットを持って石で殴りに行っても、それが通じる相手ではないだろう。
「アイーシャさん。 あなたの土魔法による金の加工が肝になります。 アルテミスさん、勇者と同等の相手を足止め出来るのは、何秒くらいですか」
「全力で二秒がやっとですね」
「……二秒間足を止めて、その間に石を直撃させるしかないでしょう。 直撃さえさせれば、確定で殺せるとみて問題ありません」
「わ、わたしはもう無理よ……」
ストレルが嘆く。
確かにもう精神的に限界だろう。わたしももう一度、同じように投擲が出来るとはとても思えない。
挙手したのはカルキーだ。
多分、もっとも身体能力がこの中で高い。
単純な武力ではアプサラスの方が上らしいのだが、筋力なんかはこの騎士として訓練を受けている男がもっとも優れているだろう。
「私が石を投擲なりなんなりします」
「スポリファールの精鋭騎士がそう言ってくれるとありがたい。 ただ、それも状況次第です。 必要な時には声をお掛けします。 ストレルさんは、とにかく心と体を休めてください。 作戦は私が立てます」
「……」
恨みがましい目で軍師どのを見るストレル。
まあ、わたしはやる事はやった。
連れてきたメリルは、ずっと青ざめていた。無事な子供がいるというだけで、とても重要なのだが。
戻る過程でも散々ろくでもないものを見たので、それで精神的にかなり参っているのだろう。
帰路で見た。
剣聖の凶行を。
奴が弟子と称する肉人形の女を連れて行く所、領主が全て悪徳領主に突如変貌する。兵士も例外なくその手下に。
剣聖はろくに抵抗も出来ぬそれらを片っ端から斬り伏せ。何故か魔法と剣の達人となった領主と切り結んで、それを斬り殺していた。
それを見て、弟子達がひたすら剣聖を持ち上げる。
勇者とまったく同じだ。
全て都合が良く出来ている。
距離を取って拡大視で確認したが、あれは明らかにそうなるように振る舞っている。そしてやれやれとか言いながら、明らかに剣聖は肉人形に持ち上げられるのを喜んでいるのだった。
それでもまだ聖女と戦王にくらべれば危険度も低い。
それがどれだけイカレているかは、わたしでも分かる。
この世界に狼藉者がどうして現れるのかはよく分からない。
分かっているのは、なんだかよく分からない石一つで、それらに立ち向かわなければならないということだ。
「メリルさんは、ストレルさんと一緒に炊事や洗濯をお願いします。 人数が増えてきましたので」
「わたしもやりますよ」
「アイーシャさんは、これから聖女を斃すための偵察を頼みます。 トリステさんとアルテミスさんとともに、ハルメンに先行してください」
「……」
無言になる。
生意気で明らかにこっちを敵視している女騎士と。
自分の心を整理は出来ているとは言え、アンゼルを殺したアルテミスと一緒にか。
軍師殿はお願いしますと頭を下げる。
わかった、良いだろう。
とにかく聖女は国を意図的に滅茶苦茶にして明らかに面白がっている。早めに始末しないと危ないだろう。
それは同意だ。
今はエゴを表に出すべきではない。
わたしは嘆息すると、作戦支持に従うのだった。
(続)
情報収集は終わりました。次のターゲットはハルメンを縄張りにしている聖女です。
この言葉もすっかりミーム化していますね。実際に一神教で信仰されている存在なんかもいるので、ミームにして安易に扱うのはとても危険な言葉です。
それにこいつのどこが「聖」女やねんと言いたくなるような輩も、ミーム化の弊害で多くの創作で見受けられるように思います。まあ宗教のご本尊なんてそんなものかも知れませんが。
いずれにしても次の相手も油断など許されない相手です。
文字通り桁が違う相手なのですから。
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