辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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綿密に練られた作戦

入念に準備した情報

それでも相手が相手

絶対など……ありません。






1、肥大した心

聖女が歩いている。

 

その周囲には、やたら「清潔感がある」格好をした取り巻きども。今の時点で、全員が既に奴が入った街に侵入済。

 

ストレルとメリルは置いてきたが。

 

これは戦闘出来ないからだ。

 

街では、涙すら流しながら、民が聖女様、聖女様と喚声を挙げている。こんなにされないと満足しないのか。

 

路地裏から様子を見ながら、わたしは呆れる。

 

側にいるトリステは、純金の金床に置かれている石を何度かガントレットで触って確認していた。

 

ガントレットで掴むと、かなりの速度で腐食する。

 

それは事前に確認してある。

 

だから、聖女に石を刺したら即座に離せ。

 

そうアプサラスが言っていた。

 

聖女がこっちに来るまで、もう少し時間がある。この石が直に肌に触れたら、多分即死する。

 

そういう話もされているから、トリステは青ざめていた。

 

わたしは出来るだけ、金の状態維持を支援する。

 

土魔法の本領発揮だ。

 

それにしても、街の人間を全部自分に都合がいい存在にして、こう褒め讃えさせて。

 

気にくわない存在まで作りあげて。それを痛めつけて楽しむ。

 

精神性の醜悪さが、どんどん伝わってくる。

 

足下まである無闇に美しい金髪も、非実用的過ぎるほどに長い。あれの世話も、恐らくは取り巻き達にやらせているんだろう。

 

取り巻きの顔は何度か見たが、違和感があると思ったら、何となく分かってきた。

 

顔が半分女なんだ。

 

そう思うと、更にげんなりした。

 

男装した女性による劇というのは、一定層の需要があると聞く。その逆も然りらしい。

 

なにも取り巻きを全部そうしないでもと思うのだが。

 

いずれにしてもあれらが、スポリファールの……いや世界最強の騎士アルテミスでも勝てない相手なのは事実。

 

今は、作戦開始の合図を待つしかない。

 

青ざめているトリステ。

 

この子はまだ生理が来ていない。

 

そんな幼いのに騎士になっているのは、魔法に関してずば抜けた才能があったからだ。特に筋力強化は凄まじい倍率を掛けられるらしく、大人の騎士と互角以上に渡り合っていたらしい。

 

剣術に関しても優れていたそうだ。

 

だが、それも勇者の取り巻きには、まるで歯が立たなかった。

 

誰も守れなかった。

 

だから、今度こそは。

 

そう、出る前に使命感を口にしていた。

 

アプサラスに気負いすぎるなと言われていたが。

 

なんとなくだが、この子の運命が分かっていた。だけれども、わたしは止めない。止めるわけには、行かなかった。

 

喚声を挙げている民の間を歩き、自分に対する称賛の言葉に酔っている聖女の前に、ふらふらと出るのはクラウスだ。

 

そして、倒れてみせる。

 

一斉に肉人形が剣に手を掛けるが、すっと聖女が手を横に。

 

すすけているが、顔がそれなりに整っているクラウスを見て、それで喜んだのだろう。

 

「如何なさいましたか」

 

「申し訳ございません。 貧乏学者であるゆえ、何日も食べていないのです」

 

「まあ、それは大変ですわ。 皆、施しを」

 

「分かりました、聖女様」

 

すぐに取り巻きが数人動く。

 

仮に興味を持ったとして、兵士にでもやらせればいいものを。そんな事を取り巻きにやらせるのは、聖女が猜疑心深く、肉人形にして自分を褒め讃えるだけの存在にした兵士なんぞ信用していない事を意味する。

 

自分の能力の一部である取り巻きだけを信じている。

 

それでありながらその取り巻きで性欲を満たしている。

 

おぞましい矛盾だ。

 

これで、取り巻きが離れる。

 

ここからが勝負だ。

 

クラウスに話しかけながら、聖女がどういう学問をしているのか聞く。確かクラウスは歴史学専攻だったはずだが、星占いがどうこうとか言っていた。星占い。思わず口が引きつりかける。

 

あの手の女性は、ありもしない託宣の類をありがたがると軍師どのは言っていた。

 

そして、案の場聖女は食いついていた。

 

「まあそれは素敵ね」

 

「実は星占いにて、この街にある予兆が出ていたのです」

 

「予兆?」

 

もっともらしいことをクラウスが言い始める。

 

このもっともらしい話は、軍師殿が考えつき。クラウスがそれを丸暗記したものである。それをごく自然に口に出来るのは、流石と言うかなんというか。

 

そして、この瞬間。

 

軍師どのが。狼煙を上げていた。

 

聖女の取り巻きの数人が、充分に離れたからだ。

 

即座に仕掛けたのは、アプサラスとカルキーである。勿論、まともに戦っても秒で斃されるのは分かりきっている。

 

其処にアルテミスも加わる。

 

アプサラスとカルキーは二人がかりで、離れた取り巻きに。

 

アルテミスは、聖女至近の取り巻きに、全力で剣を叩き込む。

 

理想的な奇襲。

 

それでも、一目で分かるほど力量差が決定的だ。

 

だっと、飛び出すトリステ。

 

わたしは全力で土魔法を使う。聖女に対して使っても絶対に通用しない。それは分かっている。

 

だから、トリステが袖口から偲ばせ。ガントレットにつなげてある純金に用いる。ガントレットに金を追加で供給し続ける。

 

それでも腐食が早いし、人間が握っているから、数秒ともたない。だが一秒でももたせられれば。

 

「聖女様! 危ない!」

 

事前に街にいる子供の肉人形から剥ぎ取った服を着たトリステが、聖女を突き飛ばそうと飛びつくように動く。

 

丁度アルテミスが、必死の斬撃を飛ばした瞬間だ。

 

聖女がふんと鼻を鳴らすと、斬撃は消し飛び。アルテミスが凄まじい何かに張り倒されて、それで地面に叩き付けられていた。

 

取り巻きの肉人形が、其処へ殺到して、剣を閃かせる。

 

本来だったら万に一も助からない。

 

だが、その時。

 

聖女に対して、トリステが最大加速。聖女はアルテミスを見ていたから、その異常に即座に気付けなかった。

 

気付けなかったのは恐らく瞬きするほどの時間。

 

しかし流石に世界の法則を変え、それに依怙贔屓されている狼藉の存在。

 

異常に気づいて、トリステを見る。

 

ほんの僅かな距離、トリステが届かない。そこで、トリステがねじ切られ、肉塊になって爆ぜ割れ飛び散るのが分かった。

 

聖女はあざ笑っていた。それが、赤い血肉が飛び散る中、わたしには見えた。

 

既に聖女に向けていた石は慣性がついたまま。

 

激しい血肉のシャワーの中で、聖女は最後までそれに気付かなかったようだった。

 

「トリステ!」

 

アプサラスが叫ぶ。

 

飛び散った血肉の中で、立ち尽くしている聖女。

 

取り巻き共は既に動きを止めていた。

 

聖女の腹には大きな穴が開いている。石は砕けた黄金のガントレットからも飛び出し、そのまま聖女に突き刺さったのだ。あらゆる魔法の影響を受けつけず、その上位だろう力でもまったく干渉できないそれは、黄金のガントレットがなくなれば、ただの慣性に従って飛ぶだけだった。恐らく聖女は守りの力で身を守っていたのだろうが。それも無意味だった。

 

瞬時に聖女の全身が塩に変わっていく。致命傷だと一発で分かる。

 

それだけじゃない。

 

体が膨れあがっていく。痩身だった体が膨れあがり、豚のように肥満していく。勿論顔もだ。

 

髪の毛もぼろぼろのぼさぼさになっていく。

 

凄まじい金切り声を聖女が上げていた。

 

それは意味を為さない言葉だったが、何となく分かった。

 

どうしてわたしが。

 

この国をこんなに素晴らしい場所に変えたのに。

 

それだけが、限界だったのだろう。

 

大穴が開いていた聖女が、ぼきりと折れて。地面に落ちる前に崩れて潰れていた。

 

トリステの残骸である血肉の海の中に、塩の塊が落ちて、溶けて行く。

 

聖女は死んだ。

 

辺りにいた聖女の取り巻きも、全て塩になって崩れ果てた。

 

だがトリステをどうすることも出来なかった。

 

他の誰にも、トリステと同じ事は出来なかっただろう。

 

凄まじい血の臭いだ。

 

わたしは歩く。

 

歩み寄る。

 

私に敵意をずっと向けていたし、ずっと嫌っていた子だったけれど。それでも勇敢に、絶対的な死に立ち向かった。

 

周囲の光景が歪み始める。

 

不自然な建物が崩れて行く。聖女をひたすら讃えていた人間がその場で溶け崩れ始め、殆どはその場で腐りきった死体になって、ぐしゃりと潰れていた。生きている人間も僅かにいるようだが、痩せこけ、酷く衰弱しているようだった。

 

ハルメンを覆っていた聖女の力が消える。

 

聖女を褒め称えるためだけに改造された国が、全てその干渉を受けなくなって、崩れて行く。

 

いずれこうなったことは分かっている。

 

聖女が飽きればこうなったのだろうから。

 

それが早かったのか遅かったのかは分からない。いずれにしても、周囲は既に腐肉と腐食した残骸の展覧場だった。

 

アプサラスが来る。腕を折られたようだった。カルキーに至っては、腹に大きな裂傷を受けている。

 

アルテミスは立ち上がれずにいる。

 

わたしは、このままだと一番命が危なそうなカルキーから治療に掛かる。わたしの回復魔術は大した腕ではないけれど。

 

それでも、何もしないよりはマシだ。

 

クラウスも治療を始める。

 

周囲の人間は、皆正気に戻ったのだろう。

 

わたし達を指さして、罵り始める。酷く衰弱しているが、いずれもが明かな敵意を向けてきていた。

 

「お、お前達のせいだ! お前達が来たから、夢が終わってしまった!」

 

「聖女様は確かにろくでもない女だった! だがそれでも、夢の中にいられたんだ!」

 

「出ていけ!」

 

嘆息。

 

まあ、分かっている。

 

どうにもできない事だ。僅かな生き残りは、一生わたし達を恨み続けるだろう。そしてこの国は、わたし達を国賊として記録するに違いない。

 

いずれにしても、次だ。

 

今分かっている世界に対する狼藉者は、剣聖と戦王、あと何か分からない子供を侍らせている女。

 

ともかく治療を急ぐ。

 

アプサラスはじっとトリステの残骸に黙祷を捧げていた。これでは墓を作るどころではない。

 

自分に敵意を向けた存在を、粉みじんにしていい。そんな風に考えるのが聖女だった訳だが。

 

だからこそトリステの特攻は意味を持った。

 

他の三人も斃すのであれば、恐らく同じような所から活路を見いだせるかも知れない。そしてこの街。

 

明らかにスポリファールで勇者を仕留めた時よりも痛みが激しい。

 

もしも、世界を少しでもマシにするつもりだったら。

 

急がなければならないのかも知れなかった。

 

わたしにはただ生き延びることしか頭にないが。

 

それでも、アプサラスやアルテミス、軍師どのと連携しなければ、まず生き延びることはできないだろう事は分かっている。

 

だからそれは意識しておかなければならない。

 

治療が終わったので、街を出て行く。

 

石が飛んできた。

 

それほど勢いはなかったが、風魔法で弾き散らす。

 

石を投げたのは、痩せこけた、トリステとほとんど年も変わらない子だった。

 

トリステが命まで賭けてあいつを斃したのに。

 

そう思うと、わたしもちょっと苛立ちがわき上がってくるが。

 

アプサラスが言う。

 

「いいんだ。 行くぞ」

 

「わかりました。 それで街の周囲にわんさか色々いますが、それは駆除してしまって良いんですね」

 

「狼やら熊やらだな。 オークやゴブリンも……。 我々はさっきの戦いでの損耗が大きい。 頼めるか」

 

「やっておきます」

 

カルキーが、ほとんど赤い染みしか残っていないトリステの遺品を探しているが。そのカルキーにも石が投げられていた。

 

クラウスが風魔法でそれを防ぎ、叱責。

 

彼奴を斃さなかったら。

 

この国が元に戻った頃には、全員死んでいたのは間違いないんだぞ。

 

そういつもの冷静さとは裏腹に怒鳴ると。石を投げた女は、哀れっぽく泣き出した。

 

同情する気にはなれなかった。

 

 

 

街の外で待機していた軍師どのと合流。

 

戦闘の経緯について話し、トリステが倒れたことを告げると。軍師どのも黙祷していた。

 

機械的に見かけ次第人間の害になりうる獣やゴブリン、オークなんかを処理して移動する。

 

ゴブリンやオークは、聖女が死んでも元に戻らないようだ。

 

今回の狼藉者達が現れた時に世界にもたらされた歪みは、それだけ大きかったのか。それとも、世界そのものが、今回の混沌にあわせて変えられたのかも知れない。確かに連中が姿を見せる前から、ゴブリンもオークも姿が変わっていた。それについては、わたしが直接見ていた。

 

移動中、散々動物を駆除。

 

ゴブリンもオークもかなりいる。

 

聖女はあれだけの力を持ち、圧倒的な力を持つ取り巻きを連れていたのに。これらを駆除しなかったのか。

 

そう思うと、色々不可解だが。

 

或いは自分のありがたみを見せるために、敢えて残していたのかも知れない。

 

わたしの技量では、回復魔法には限界がある。だから、特に傷が重いアルテミスは、荷車に乗せて移動してもらうしかなかった。

 

「アルテミス、一体どんな攻撃を受けたのか解析は出来そうか」

 

「少なくとも魔法ではないですね。 凄まじい斥力で押し返されましたが、あんな破壊力だったのに魔力は一切感じませんでした。 勇者の時もそうでしたが、混沌の時代に世界に現れた狼藉者達と同じで、拡大解釈した「能力」やら「スキル」やらを使っているのだと思います」

 

「スキル?」

 

「当時の記録がわずかに残っていてな」

 

クラウスが言う。

 

言いながらも、横になったままのアルテミスに回復魔法を掛けていた。

 

混沌の時代にいた連中は、不可解な独自用語をたくさん持ち込んだ。その中には、今では定着している単語もある。

 

いわゆる古語だ。

 

だが定着しなかったものも多い。

 

その一つがスキルだそうだ。

 

元々は特技や職能的な意味だったらしいのだが。普通そういうものは、自分で試行錯誤しながら身に付けるものだ。

 

例えば料理なんかが顕著で、あれは先人の知恵を元に、努力と修練で身に付けていくものである。

 

だが狼藉者達が使っていた言葉の意味は違う。

 

何らかの妙な能力と同義で、特に「外れスキル」なんて彼等が言っていたものは、凄まじい破壊力を持ち。それを曲解或いは拡大解釈することで、事実上の万能であったそうだ。

 

「外れなのに最強だったんですか?」

 

「どうも混沌の時代に現れた者達が好んでいた二つ名とも一致しているらしい。 彼等にとって劣等だの落第だのは、むしろ最強の意味に近かったようだ。 本来とは反対の意味を二つ名につけるのが、彼等の流行りだったのだろう」

 

「よく分かりませんが」

 

「生態を分析するのは討伐には必須だ。 それに……」

 

ハルメンの首都を見やる。

 

ただでさえ聖女の踏み台として徹底的に蹂躙されたこの都市は、ほぼ更地にされてしまっている。

 

軍師どのが、ああと嘆いて。

 

そして俯く。

 

再建は無理かも知れない。

 

聖女が自分の楽しみの為だけに踏みにじった此処は、謂われなき悪意をぶつけられ続けたのだ。

 

その結果、こうなってしまった。

 

激しい干渉を受けた結果だろう。建物なんかも崩れ果てている。

 

元々はスポリファールの大都市と見劣りしない大きな街だったのに。

 

今では千年前の遺跡と言われても、そうかと思ってしまうほどのものだ。

 

「とにかくスポリファールに戻った後、対策を協議します。 一秒でも早く特に戦王は仕留めないと非常にまずい事になるでしょう」

 

「分かった。 だが、奴は恐らく女性に対する特攻持ちだろう。 それに男性は、そもそも国に入れないかも知れない。 魔法なんぞ無力に等しい。 多分近付くだけで正気を失うぞ」

 

「……」

 

戦王は。

 

国全てを自分の性欲発散場にした。民全てを自分好みの女にするという異常な行動を取っており、斃した後も深刻な被害が簡単に想定できてしまう。

 

そういう意味では聖女よりもタチが悪い。

 

国中を自己顕示欲の発散場にした剣聖もタチが悪いが。

 

もし奴が「空いた」スポリファールやハルメンに来たら、もはや再建どころではなくなるだろう。

 

確かに急いで仕留めなければならない事については、わたしも同意できる。

 

問題はカヨコンクムにいる変な女だ。

 

幼児、それも女児ばかりにして愛でているというのは、ちょっとよく分からない。しかも全部都合がいい性格にして。

 

母性だけ満たしたいのだろうか。

 

いずれにしても、そいつも場合によっては駆逐しなければならないのだろう。どうやるかは、軍師どのに任せるしかない。

 

拠点に戻って、残していたストレルとメリルと合流。

 

とりあえず、本格的な治療に入る。

 

トリステが死んだ。

 

それを告げると、ストレルはさめざめとないた。メリルは衝撃を受けたようで。言葉を一言も発しなかった。

 

トリステは肉塊も残らなかったので、わずかに残った遺品だけを墓に埋めておく。

 

葬儀はスポリファール式で簡素に行った。

 

トリステの鎧は無事だったが、今後使うかも知れない。墓に埋めるわけにもいかなかった。

 

数少ない特務の装備だ。

 

例え狼藉者共に無力だったとしても、他の相手には有効なのである。

 

葬儀が終わった後、幾つか話をする。

 

まずは、全員でクタノーン国境まで移動する。

 

これについては、わたしが移動魔法を担当する。

 

途中で剣聖の縄張りを通る事になるので、それは要注意だ。

 

奴も危険人物に代わりはない。

 

発見された場合には、それこそ作戦なしでは万一にも勝ち目なんかないだろう。

 

それから、国そのものが性欲の塊である戦王のために都合良く改変されているクタノーンの奥地にどう入るかを解析する。

 

軍師殿がいうには、わたしとメリルが無事だったのは、国境近くだったから。

 

そうでなければほぼ確定で魅了されて、奴の性欲処理用の道具にされてしまっただろうということだ。

 

メリルを一瞥。

 

生理も来てない年だろうに。

 

まあ、そういう事をする男はいる。

 

ハルメンが潰された時、4歳だったという末の王女がどういう事をされて死んだかは、わたしも現場を見て知っている。

 

だからわたしには、まあそうかも知れないなとしか言えなかった。

 

「とにかく情報を集めて、活路を探すしかありません。 近づけない相手の場合は、どうにかして相手を狙撃するしかありませんから」

 

「正確な居場所を把握して、それで撃ち抜くと言う訳だな」

 

「はい。 簡単な事ではないでしょう。 それに当然、魔法も通じないとみるべきです」

 

「厄介だな」

 

アプサラスが呻く。

 

クラウスが眼鏡を直した。

 

「剣聖の縄張りの内部で拠点を作らなければならないのも気になる。 どんな問題が起きるか、知れたものではない」

 

「それもありますね。 移動しながら、出来るだけ急いで策を練ります」

 

「それでどうします?」

 

わたしが視線で指したのはストレルとメリルだ。

 

この二人はもう戦力にならない。

 

特にメリルは、魔法が出来る訳でもない。

 

だが、軍師どのはいう。

 

「意外とメリルが活路になる可能性はあります。 男性の性欲というのは色々面倒なもので、人によって違うんです。 まあ女性もそうではあるんですが、男性の場合は好みが多岐にわたっていて。 或いはその好みから外れるようであったら……」

 

「今度はメリルに自爆特攻をさせると?」

 

「……」

 

アプサラスが明らかに軍師どのを責める。青ざめるメリル。

 

だが、方法もない。

 

最悪の場合には、考えておかないといけないのかも知れなかった。








世界に依怙贔屓されている存在を相手にするというのはこういう事です。

勇者戦は運が良かった。

ただそれだけなのです。


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