やっと砂漠を抜けると、昼間に生活するために、数日かけて慣らされた。兵士達は砂漠を越えるとき、この訓練をするという。
砂漠の端の方は豊かな土地に変わっていて、秩序だった農民達が耕している。
わたしがいた国では、農民は奴隷と殆ど扱いが代わらなかったのだけれど。
この国では、兵士達が敬意をもって接している。
パッナーロに比べて優れている点は多いんだな。
だけれども、今は優れている点だけが見えているだけだと、わたしは思った。
数日砦で監視されながら過ごす。
それから、厳つい顔のおじさんが来て、メダルを見せるように言われた。メダルは肌にくっついていて。わたしの場合は手の甲にあったので。それを見せる。殆ど気にならないくらい、不快感はない。
「よし、これで君達はスポリファール市民だ。 仕事については、希望があるなら聞く。 希望がない場合は此方で手配する。 子供は学力を見て、教育機関に分配する。 学費については大人になってから稼いで返して貰う」
後は説明を幾つか受ける。
わたしは教育機関とやらにはいかないらしい。
オアシスでやっていたことがメダルに記録として残されていたらしく。
他の人がみんな連れて行かれたあと、軍の人らしいおっかない人が何人も来て、囲まれていた。
「君はアイーシャというのだな。 ええと、推定十歳か。 それでその魔法の腕は、確かに素晴らしい。 よくあの過酷なパッナーロ国で生き延びる事ができたな」
「はい……」
「いや、大変だったな。 ウチの国では有能な人間は大歓迎だ。 君は早速、魔法の資格を取って、この国に尽くして欲しい」
よく分からないけれど、顔を上げると。
笑っているのは口だけだ。
みんな、目が笑っていない。
逆らう選択肢は存在しない事が分かった。
尽くして欲しいじゃない。
尽くさないと殺す、だ。
この国について、少しずつ分かってきた気がする。
多分、何もできない人でも、何もできない人用の仕事があって。何かできる人は、それが出来る人のための仕事があって。
それで、みんなガチガチに決まった人生を生きている。
できる事を生かした事ができるなら、まだいいのかもしれない。
実際伯爵に飼われていた時よりも、フラムの下で使われていた時の方が、わたしには過ごしやすかった。
此処は、それが更に過酷になると言う訳か。
「魔法は才能に依存する代物だが、この国ではそれの伸ばし方のノウハウをずっと蓄積してきている。 ノウハウというのももたらされた言葉であるらしいな、うはははは」
「はははは」
厳ついおじさんが笑うと、他の人も控えめに嗤う。
フラムと同じだなと思う。
フラムほど暴力的ではないけれど、怖さに関してはこの人達も、あまり代わりがないなとわたしは感じた。
ハイム先生が言っていた。
スポリファールは楽園では無さそうだな、と。
わたしも同感だ。
この国は、国としてはずっとしっかりしているのだと思う。
一部の偉い人が、偉いから偉いという理由で、やりたい放題をしていたのがパッナーロだとすれば。
人がその力に応じた仕事を死ぬまでしなければならない。
それが多分、この国なんだ。
ともかく、つれて行かれる。
広い場所に出た。
たくさんの魔法が使われた跡なのだろう。
激しい破壊がたくさん起きた跡が、土地に刻まれている。
「えっぐい跡だろう。 古い時代には通用しないだろうが、今だと世界最強を噂される騎士が君の少し上の年にいてね。 その子がぶっ放した魔法の跡だよ」
「……っ」
フラムなんて、此処ではド素人も良い所なんだ。
あのどんという凄い音。
あれは、きっとスポリファールでは凄い魔法を使える人がたくさんいて。そういう人が、一斉に使ったんだ。
だから、一瞬で何千人も吹っ飛んだんだと思う。
今更怖くなってきた。
とにかく。
一つずつ、魔法についてやらされる。
わたしは火以外なら使えるけれど、年の割には凄いと言われるだけ。つまりもっと凄い人が幾らでもいるということだ。
今まで仕事でやったことがある魔法をあらかた使う。
その間に、栄養補給はしっかりさせられた。
子供もいたけれど、大丈夫だろうか。
そんな事を思っていると、集中するようにと。叱責が飛ぶ。
それは鋭い声ではなかったけれど。首をすくめるには充分なくらい、低い強い威圧が篭もっていた。
フラムより怖い人間なんていないと思っていたのに。
こっちではあらゆる意味でフラムは素人なんだと、なんどでも思い知らされる。
きっとまともにたくさんの人が動いている国というのは。
こういうものなんだろうとも。
それで、まる三日掛けて、できる事を全て吐き出させられた。
それからわたしは、メダルに魔法を掛けられて。
多分情報を更新させられたのだと思う。
それから、ゆったりとした服を着た人が何人か来る。ローブというらしい。わたしが着込んでいる襤褸を見たあと、その人達はひそひそと話した後。同じローブというのを手配してくれた。
わたしとしては、贅沢にお風呂にも入れたし。
ご飯だって食べられたので、それでいい。
なんと藁では無い寝床も用意して貰ったし。
この国そのものは怖いとは思っているけれど。
ただ、待遇に不満はなかった。
襤褸はとっておく。
ローブというのは生地からして今まで着ていた多分麻だとかを材料にした服とは違う。色も鮮やかだ。
たしか伯爵一家は絹とか言う生地で作った服を着ていたらしいが。
この服も、似たようなものなのかもしれない。
「これから早速仕事をして貰います」
「分かりました」
アポルトスと名乗った年配の女性に、素直に返す。
ちなみに言葉は同じだ。
何百年前かの時代。
なんでも世界の人間が使う言葉が一斉に同じものになるという事件が起きたらしい。それ以降、便利なのでみな同じ言葉を使っているらしかった。
これについてはどこの国でも同じだそうである。
つれて行かれる。
これからもわたしは。
多分、ずっと流されながら生きていく事になるのだと。そう感じていた。
(続)
新たに足を踏み入れたスポリファール国。
此処は王政では無い統治制度を敷いている国家で、現在この世界に存在する国家でもっとも法治主義が行き届き、軍事力も技術も優れています。国政も腐敗が少なく、若くて勢いがある国ではあります。
ただし法治主義が行きすぎていて、ちょっと彼方此方息苦しい国ではありますが。
またこの国の南部にはハルメンという別の国が存在していて、其処のことをスポリファール人は蛮族呼ばわりしていますが……
ずっとこの強国とやりあっているということは、つまりそういうことなのです。
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