情報を集めて、いざ決戦……
今までで最強の相手、ではありません。
しかし戦いにくさで言うと今までで間違いなく最悪の相手です。
大きな犠牲が出る事を覚悟しなければなりません。
正義というが、そんなものは人の数だけある。
人によっては大勢のために少数を殺す事が正義になったりする。悪辣な手段で金を稼いでいた人間が、孤児院だののために行動していた例もあった。
わたしはアンゼルとたくさん賊を処理していた時期。
そういう世界の簡単では無い仕組みを知った。
だからといって、指定された賊をまとめて窒息させる手が鈍らなかったのが、わたしらしい歪みだったのだろう。
心を作り損ねた怪物。
それは色々といわれ、彼方此方で追放されたのも仕方がないのだと思う。
剣聖と弟子達が暴れ始めている。
満面の笑みだ剣聖は。
正義を振るう事を心の底から喜んでいる。身体能力にものを言わせただけの剣を振るって、自分で用意した悪党を斬りながら、なんだかよく分からない口上を述べ立てている。
全てが遊びだ。
あれも正義の一つなのだろうか。
だとしたら、他の誰とも相容れない。あいつだけが楽しい正義だろうなと、わたしは思う。
クラウスが魔法を練り上げていた。
詠唱は人によって変わる。
クラウスは朗々と太い声で歌うように詠唱する。そして、練り上げられたのは、空に輝く燃え上がる火球。
クラウスが、それを剣聖に投擲する。
剣聖は迎撃せず、それをすっと避けて。後方で、火球が炸裂するのだった。
明々と照らされる街。
大量に始末される賊と同時に、片手間にそれを剣聖はやっている。
ほぼ同時に、アプサラスとカルキーが戦闘状態に入る。わたしも、それにあわせて、最大火力で魔法をぶっ放していた。
水を空中で収束させ。
最大の圧力で、剣聖に向けてぶっ放す。
あまり攻撃に魔法を使うとき、こういう派手なのは使わない。わたしは静かに相手を窒息させるのが一番得意だ。
だが剣聖には、剣聖自身に作用するような魔法は一切通じない。
剣術という設定の得体が知れない力で、全て一瞬で無効化されるだけだ。
だから、敢えてこういう派手な攻撃で、わたしがそういう戦い方をする存在だと誤認させるのだ。
剣聖は乱入してきたわたし達を見て、にやにやと笑っている。片手間に野菜みたいに「悪党」を斬り伏せながらだ。水魔法も、紙一重で避けてみせる。だがそれは、高速で誤魔化しただけ。
達人がやっているような、見切りとは違う。
悪党に紛れて、アプサラスとカルキーが、それぞれ練り上げた剣術を剣聖に叩き込もうとするが。
割って入った弟子が、二人を跳ね返す。
二人とも分かりきっていたようだし。
アプサラスは氷の魔法を使って、空中に足場を作ると、剣聖の弟子だという青い髪をした女の一撃を回避していた。
あれが凄い高等技術だと今は知っている。
わたしは移動を続ける。クラウスとメリルとともに。
メリルは、渡されている投石機。
布で作っただけの粗末なものを使って、必死に剣聖に石を投げつけた。
ただの石だ。
剣聖はそれを、鼻で笑いながら避けてみせる。
まあ、メリルの投擲した石なんて、わざわざ能力を使うまでもないのだろう。
剣聖が攻勢に出ようとした瞬間。
背後から、アルテミスが必殺の一撃を入れる。
回り込んでいたのだ。
大量の悪党に紛れて。
剣聖が珍しく驚いた様子で、その一撃を回避する。
世界最強の騎士の、必殺の奇襲でもダメか。当然アルテミスの固有魔法であろう必中も入れていただろうに。
更にアルテミスが、土魔法で瞬時に作った土の槍を放つ。その全てを剣聖が弾き返した瞬間。
全員で動く。
此処までは、想定通りだ。
剣聖は初撃は必ず回避して、二撃め以降は撃ち返す。
そして態勢が崩れた相手を斬る。
この戦闘での約束を必ず守っている。
斬るのはほとんど相手の体の抵抗が存在しないように刃が通っており、恐らく能力で切っているのでは無く相手を二つに割っているのだろうと軍師どのは分析していた。
だから剣をとめる事は不可能だ。
出来るとしたら。
飛びついたのは、メリルである。
メリルに飛びつかれて、剣聖は驚いたらしい。必死の形相で、子供が飛びついてきたのだから、それは驚くだろう。
弟子達のうち一人が、こっちにくる。
カルキーが、血しぶきを噴き上げながら、斬られるのが見えた。
アプサラスも、もうもたないだろう。
アルテミスが、不意を突かれて驚いている剣聖の首を狙って、一撃を入れるが。剣は首で止まってしまった。
それも、非常に不自然な止まり方だった。
笑いながら、剣聖は剣を振るう。
回避しきれない。
アルテミスの右手が、ざっくり切られて、吹っ飛んでいた。メリルも体を剣聖が揺すっただけで血しぶきを巻き上げながら吹っ飛ばされる。
後一手。
クラウスが、地面に手を突き、大量の土砂を巻き上げる。
剣聖がそれを瞬時に切り裂いて、それでクラウスにも斬撃を浴びせる。
それで気付いたのだろう。
自分の腹から、手が生えていて。
わたしが、ガントレットで掴んでいる白い石で、剣聖の体を貫いたことに。
何が起きたのか、理解出来ないと顔に書いていた。
今の土で、わたしは土魔法を使って最大加速。
そのまま隠していた白い石を握りつつ、剣聖の後ろから、ただ石をつきだしたのである。
それだけだ。
初撃は回避する。
それ以降は弾き返す。
クラウスの土魔法は範囲攻撃だと判断したのだろう。だから、土魔法から身を守っただけだった。
だから視界も防がれ。
土魔法の中を通ってきたわたしに気付けなかったのだ。
体が塩になっていく剣聖。
その時、ずっとにやついていた剣聖の顔に、恐怖が浮かんでいた。
「な、なんだよ、なおらねえじゃねえか! ど、どんどん体が……」
「お師匠さ……」
先に弟子が塩になって崩れる。
辺りにたくさんいた悪党が、全て腐肉の塊になって、どしゃりと潰れた。
剣聖が、息を切らしているわたしを、最後の力で殴り飛ばして。わたしは家に叩き付けられたが。
その家がそもそも張りぼてなのだ。
どっと音がして崩れて威力を最大限緩和してくれた。そうでなければ、それで死んでいただろう。
意識がぐらつく中、訳が分からない繰り言をほざく剣聖を見る。
奴は立ったまま塩になり、全身が崩れ果てていく。
同時に、奴の遊び場に変えられた街も。見る間に廃墟になっていく。これは、この街は復興なんてしていなかったのか。
新パッナーロはハルメンの援助を受けて復興を急いでいたようだが。それでも復興できる状態ではなかったのかもしれない。
どしゃりと、剣聖が塩になって崩れ果てた。
同時に、わたしも意識を失っていた。
目を覚ます。
全身の酷い痛みを我慢しながら、どうにか状況の把握をしようと務める。
酷い血を浴びた跡のあるアプサラスが、わたしに回復魔法を掛けていた。
「動くな。 どうにかする」
「皆は……」
それだけしか言えなかった。
カルキーは、唐竹に斬られて即死していた。
やはり不吉だったのだろうか。
アルテミスは右手を肩の先くらいから失い。傷口を縛って寝かされている。
クラウスは。
クラウスは、ざっくりやられて即死だったようだ。文字通り両断されてしまったらしく、即死だったのは救いだったのだろう。
そうか。
四角四面で五月蠅い人だったけれど、勇者も聖女もこの人が命を張ってくれたおかげで斃せたようなものだった。
そしてメリルは。
メリルは、ずっと泣いていた。
無事では無さそうだ。今まで回復魔法をずっと掛けていたのだろう。
「カルキーとクラウスは助からなかった。 アルテミスの腕は普通に切断されたものではなく、魔法での回復を受けつけなかった。 メリルは内臓が破裂していたが、どうにか再生させた。 お前もだ。 骨折だけで八箇所、内臓も大きな打撃を受けていた」
「貴方は」
「私は剣聖の弟子に二箇所斬られたが、どうにか動ける。 また部下を死なせて、生き残ってしまった。 全滅を覚悟しなければならない状況で、被害は二人で済んだのだ。 喜ぶべきなのだろうが……そんな気にはなれん」
「回復魔法、使います」
動くなと、念を押される。
最後に剣聖に吹っ飛ばされた衝撃、それこそ世界が変化する前のオークに殴られたのと同じようなものであったらしい。
瀕死の状態ですらそうだったのだ。
もう一度やったら勝てないだろう。
それから、アルテミスが必死に回復を掛けてくれて。それでどうにか動けるようになるまで二日。
わたしは五体満足なだけマシという状態だ。
白い石については、気絶する前に必死に荷車の方に放り投げた。上手く金の金床に落ちているといいのだが。
白い石について確認すると、軍師殿が先に用意しておいたガントレットでどうにか掴んで、金床に乗せてくれたらしい。
軍師殿が何度か来て、水を飲ませてくれた。
わたしは動けるようになると、メリルとアプサラスに今度は回復魔法を使う。メリルも酷い状態だ。
わたしが目を覚ます前に、何度も血を吐いていたそうだ。
何が悪党退治か。
剣聖とやらの方が余程の悪党ではないか。
わたしも勿論悪党だが、あれは人間とは違う力を持った悪党だ。だから被害の範囲も桁外れである。
それに、だ。
此処はクタノーンと違って生存者がいるようだ。
皮肉な話で、剣聖が食事を好んでいたため、普通の生活をしている民もいたのだろう。
ただし世界の法則ごとねじられて、それで無事である筈もない。
元々剣聖との戦いに巻き込まれて破壊されている上に、世界の法則が壊れてしまったのである。
街はほぼ廃墟。
僅かに生き延びたらしい民は、こっちに敵意を向けていた。
出ていけ。
そう露骨に此処で叫んでいる者もいる。
全員酷いぼろを着ていて、剣聖の領域の人間みたいに素材も分からない色とりどりの服など消え失せていた。
軍師どのが来る。
石を投げられて。即応したアプサラスが氷の魔法でそれを受け止めていた。アプサラスの視線を受けて、ひっとちいさな悲鳴を漏らす民。被害者ぶった表情が色々苛立つ。被害者には代わらないだろうが。
ずっと剣聖の玩具にされていてそれで良かったのかあれは。
良かったんだろう。
思い返せば、わたしも伯爵領にいた頃。周りには、もう諦めて状況を受け入れて、無気力に死んで行く奴がたくさんいた。
そういう人間は一定数いる。
此処で被害者面しているのもそういう連中だ。
いずれにしても、もう用はないが。
「アプサラスさん、すみません」
「かまわない。 それでどうだった」
「僕に危害を加える余力のある人は殆どいませんね。 これは賊すら湧かないような状態ですが、それでも全滅してしまったクタノーンよりはましだと思います」
「そうか。 もう少し早く奴を斃せれば、すこしはましだったのかもしれないな」
わたしは、体力を戻すように言われる。
かゆを啜って力を戻しながら。それでやっと体へ与えられた打撃を自覚する。全身がようやく痛み出したというべきか。
回復魔法で体を治すが、焼け石に水だ。
しばらくは、身動きさえできないだろう。
カヨコンクムが無茶苦茶になっているだろうし、下手をすると狼藉者が領域を拡大している可能性すらあるが。
それでも、今行くのは自殺行為であって。
万が一も勝ち目もない。
今は戦うための力を蓄えなければならなかった。
動けるようになったメリルが、アプサラスの指示で料理を作り始めている。
アルテミスは右手を失ったものの、左手で剣を振ることは元から出来るようで、残った狼藉者との戦いに備えているようだった。
軍師どのとアルテミスが色々と話をしている。
主にこの次の相手とどう戦うか、だが。
その他に、どう国を再建するかも話しているようだった。
「生き延びた人間は多く無い。 どこの国もだ。 完全に無人になってしまったクタノーンの事もある。 今後は打撃をほぼ受けていないグンリやドラダンからの人間の入植に任せるしかないのかも知れないが……」
「国家の再建は厳しいでしょうね。 人を一箇所に集約して、都市国家からやり直すしかありません。 技術などはできる限り保全して、再起のために尽力しないと」
「数百年でここまで立て直したのに全てやり直しか」
「残念ながら。 元を断てればいいのですが、そもそもあのような狼藉者が此方の世界に来る仕組みもよく分かっていません。 本当に転生神などというものがいるのか、そうでないのかさえ……」
世界の法則を好き勝手に変えるような連中を送り込んでくる輩だ。
そもそもやりあっても勝ち目なんかないだろうと、軍師どのは事実を口にする。
わたしはなんとか余裕が出来てきたので。
回復魔法の威力を上げて、すこしずつ回復速度を速める。その結果魔力の消耗も早くなり、腹も減る。
メリルが作る粥を口にしながら、体を治す。
内臓はもう大丈夫か。
クラウスが斃されなければまだマシだったのだと思うが。
それも今では、どうしようもないことだった。
「それでいつカヨコンクムに向かうんですか? どの経路で」
「海路は避けましょう。 アイーシャさんの移動魔法は海も移動出来ることは分かっていますが、それでも出来るだけ危険は避けるべきです」
「分かりました。 陸路だと、スポリファールに戻って、それから北上ですね」
「そうです。 今のうちに力を蓄えておいてください」
頷く。
街の外にアプサラスが出かけて来る。
そして、生息している大型の動物を仕留めてくる。
元はあの巨大なパッナーロに生息していた巨大鳥らしいが、今では見る影もない。それをばらして、肉を焼いて。
自分で食べて確認する。
「おいしいですか、それ」
「まずいな。 食べられたものではない。 だが毒もない。 調理の過程で味をマシに出来ればいいのだが、調味料一つない現状ではな」
野草なども分布がかなり変わっているそうだ。
特に虫は殆どいなくなってしまっているらしい。
そういえばクタノーンでも、死体に虫すら集っていなかった。
虫が嫌いだという人間はたくさん見て来た。
世界の法則を変えた連中も、世界に虫など必要ないと考えたのかも知れない。
しかしその結果、死体は腐るだけで、傷んだ死体が迅速に骨になって土に帰っていくこともない。
また、動物の体内に寄生虫もいないようだ。
寄生虫対策に、アプサラスは一度肉を凍らせてから解凍していたのだが。それも必要ないかもしれないとぼやいていた。
肉を焼いて、なんとか一番美味しい状態にする。
粥だけでは足りなくなってきたわたしも、相伴に預かる。
周りからの敵視の視線はどうでもいい。
アンゼルと一緒にいた頃……もっと前から浴び続けていたし。
今更どうとも思わない。
ただ戦う力が皆無な軍師殿が危害を受ける可能性があるし、片腕を失っているアルテミスも何が起きるか分からないから。
わたしはある程度、周囲を見張らないといけなかった。
肉はまずかったが、それでも焼きたてだからまだ食べる事ができる。わたしは火魔法は使えないが火を熾すのは得意だから。言われてそれを手伝う事も行う。
皆が回復して来たのを見計らって、軍師殿が此処を離れる事を告げてくる。
わたしが出る準備をしていると、数人のぼろぼろになった連中が、此方に向けて集まって来ていた。
いずれも殺気だった目をしている。
「おい」
「何用か」
「剣聖様を殺したのはお前達だ。 責任を取れ。 何もかも滅茶苦茶になったのはお前達のせいだ」
「そうか」
アプサラスはそれだけ。
それを聞いて、激高した民が襲いかかってくるが。全員わたしがその場で窒息させた。死なないようにするのは一苦労だ。呼吸困難に陥らせて、地面でのたうち回らせる。
助けてだの言い出すので、反吐が出る。
殺すつもりできた癖に。
殺すか。
そう思った所で、軍師どのがいう。
「止めてくださいアイーシャさん。 こんな人達でも、この世界の数少ない生き残りなんです」
「別にかまわないですが、生かしておくと多分周りからもの奪ったり殺したりしますよこれら」
「それでもです」
「わかりました」
まあ、ただで許すつもりもないが。
今きた奴らの何人かは、メリルに戦王と同じ目を向けていた。それがどういう意味を持っているかわたしも分かっている。
窒息の魔法を更に瞬間的に強化して、それで終わり。
殺しはしない。
ただもうまともな思考は出来ないだろう。
人殺しとか、出て行けとか、他のが騒いでいる。
言われなくても出ていく。
勝手に後はすればいい。
伯爵領にいた頃から、この国は嫌いだった。剣聖に玩具にされたことについては同情はするが。
そもそも此奴らが腐った貴族を好き勝手にさせていたから、最終的に列強に国は分割されたし。
その過程でロイヤルネイビーや黒軍みたいな連中が、やりたい放題に暴れたのではないか。
まあもう人間としては何もできないしそれでいい。
移動を開始する。
もうこの辺りの経路は分かっているので、軍師どのに案内されなくても分かる。太陽の位置と影の方向で。今向かっている方角も理解出来る。
そのまま東辺境伯領まで向かい、砂漠に入る。
この砂漠も何回か越えたが、今ではすっかりただ通るだけの場所だ。日の光を遮る必要があるが、それはアプサラスが氷魔法でやってくれた。
アルテミスに軍師どのが話をしている。
「どれくらい戦えそうですか」
「剣聖や勇者が相手だと一瞬時間を稼ぐのがやっとです。 やはり利き腕を失うと厳しいですね」
「そうですか。 後の一人が、戦いやすい相手だと良いのですが」
「……」
砂漠を越えるのも数刻で済む。
スポリファールに入るが、前の喧噪は何処にも残っていない。世界でもっともまともだった国は、既に廃墟と同義だ。
これからグンリやドラダンが進駐してくるのか。
そうだといいが。
もしも勇者やらの狼藉者のお代わりが来たら、もはや対処なんてしようがない。
そして世界を平気で滅茶苦茶にした奴らが、転生神とやらに送り込まれてきたのだとすると。
そいつにまともな倫理だのがあるとも思えない。
わたしも倫理なんてものはないから分かるが。
世界の支配者がわたしになったら、それは世界の終わりだ。
わたしと似たような輩が、この世界を滅茶苦茶にしているのだとすれば。それは狼藉者どもみたいな連中が、わんさか現れるのも道理だろう。
移動を続けて、夕方まで進む。
それで一旦休憩を入れる。
魔力量だけなら、アルテミスに並んだかも知れない。
戦闘力では論外だが。
夕食の準備をする。
そういえば、メリルがまったく喋らなくなった。軍師どのが時々話しかけているが、頷くだけだ。
無口な子ではなかった。
だとすると、あまりにも残虐な剣聖の蛮行を見て、それで心が決定的に壊れてしまったのかも知れない。
それにもう一つ。
魔力が見えている。
大人になってから魔法が使えるようになる人間は普通にいると聞く。何らかの切っ掛けで、メリルくらいの年なら魔法が使えるようになるのはおかしなことじゃない。
アプサラスも気付いていたようで、魔法の訓練をするとメリルに告げていた。
勿論それは、最後の狼藉者との戦いの為だ。
今は猫の手も借りたい。
それがアプサラスの考えだろう。
例えそれが如何に非道であっても。
剣聖が領域を広げ始めていたように、最後の一人がそれを始めても不思議ではない。
今は、順番にすこしずつ、やれることをやらなければならなかった。