辺境伯令嬢の追放行脚   作:dwwyakata@2024

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何もかもを知ったアイーシャ。

人間になって世界に戻り、そのまま安らかに生きる選択もありました。

壊れた心を直して、普通に生きる選択だってありました。

しかしアイーシャには、それをする気はありませんでした。

今まで見てきた世界が、アイーシャにそうはさせなかった……

アイーシャが帰ろうと判断する事はなかった。そうさせるほど、アイーシャが生きてきた世界は、あまりにもアイーシャを拒絶しすぎていたのです。






3、世界が終わり世界が始まる。

あらかた世界の情勢やら用語やら、機械の使い方とかをわたしが学び終えると、ノイマン達はみんな空を覆うような巨大な宇宙船で帰っていった。

 

わたしの判断を、それでいいのだなと聞き直して。

 

いいと答えると、それもまた選択した事だと認めてくれた。

 

確かに、人間なんぞよりよっぽど出来た種族だ。

 

30億年前に滅びた人間の文学では、蛸の姿をした宇宙人を非人道的で邪悪で残忍な存在として描いていたらしいが。

 

実際に蛸から知的生命体に昇華した生物は、人間よりもずっと理性的で他者を尊重する事が出来ている。

 

歴史の皮肉でしかない。

 

ノイマンには手を振って、最大限の敬意で見送る。

 

わたしには一応恩人と呼べる存在も何人かいたが。

 

ノイマンはその一人であることは間違いなかった。

 

既に最後に地球に残った、転生神が人間を使って遊び場にしていた管理区は、宇宙船に改装されている。

 

これからこの管理区が向かうのは。此処から12万光年ほど離れた、どこの銀河とも離れた所にある人工星だ。正確には其処に用意されている巨大なコロニーの一つである。

 

同じように色々問題がある種族が行く場所で、ただしそれでも他の種族と共存出来るようになったら其処から離れる事ができる。

 

ある意味種族単位での監獄だ。

 

そして地球を焼き滅ぼし後続の可能性を断った上、三十億年も進歩出来なかった人間は、そこに入るのも順当だろう。

 

わたしは宇宙船の内部に向かう。

 

既に太陽に群がっていた巨大な水素供給船も離れている。

 

太陽はいわゆる超新星爆発を起こした後、ブラックホールにも白色矮星にもならず、次の太陽になる。

 

既にそれがはっきりしているから。水星を飲み込み更に拡大している太陽が全てを破壊し尽くす前に。

 

この宇宙船は、太陽系を離れるのだ。

 

わたしは管理室に入る。

 

30億年分の進歩をした管理AIは、前の性格が腐りきっていた転生神とはまったく違って、とても丁寧で平等だ。

 

今も人間が、他の生命体と共存出来るように、あらゆる過去事例を踏まえながら試してくれている。

 

わたしは、それがおかしくならないように見守る。

 

神の真似をするつもりはない。

 

悪い見本は見ているのだ。

 

だから、そうはならない。

 

この身がナノマシンの集合体となり、細胞は全て有機物から無機物に転換したとしてもだ。

 

いざという時はわたしがいつでも止められるように設定してある管理AIが立体映像で姿を見せる。

 

ちなみに、姿は四角い板にしてある。

 

立体映像でも、もうあまり人間と関わり合いになりたくないのだわたしは。

 

管理するのに適切な立場というのは、近からず遠からず。

 

わたしは人間ではあったがまた人間になりたいとは思わない。

 

人間の大半は嫌いだが尊敬できる人間もいた。

 

だから、そんな奴が、この立場で丁度良い。

 

「アイーシャ様、準備が整いました」

 

「わかりました。 起動準備」

 

「コロニー船エデン、出港開始します」

 

複数の声が重なる。

 

そして、もはや灼かれようとしている地球の一区画に残っていた、最後のシェルターが。

 

それそのものが宇宙船として、死に絶えた大地から剥がれ。

 

宇宙へと浮き上がり始める。

 

コロニー内の人間は、それに気付いてさえいない。

 

空にあるのはまがい物の光景。

 

既に星座はほとんど消えてなくなっている。

 

誰もが見上げている空は。

 

三十億年前に地球で見えていた星空。

 

月も既にない。

 

サンプルを取った後、地球への落下が始まっていたので。資源回収用の宇宙船で別の場所に資源用として銀河連邦が持ち去ったのだ。金星や火星も同じように処置された。特に金星はいわゆるテラフォーミングをすれば充分に知的生命体が住めるとかで、他の星系で活用するという。

 

地球を離れた船が動き出す。

 

わたしは運動音痴だったが、今ではナノマシンを活用する事で、最強の人間くらいの身体能力を発揮できる。

 

その気になればもっと出力も上げられる。

 

だが、それ以上上げるつもりは無い。

 

これで充分、と判断しているからだ。

 

魔法などは今でも使える。

 

これもナノマシンを利用しての応用だが。

 

乱用するつもりはなかった。

 

「地球の重力を振り切りました」

 

「太陽系外縁部に向かい、恒星間移動用大型マスドライバに乗ります。 それから幾つかの星間マスドライバを経由しつつ、500年ほど掛けて目的地に向かいます」

 

星間マスドライバは、人間の文学であるSFに良く出て来たワープ装置のようなものだ。亜空間歪曲航法とかいうのと、その中での航行を更に超加速する事が可能な、移動式の移動用超大型宇宙船である。

 

ちなみにこのコロニーが地球を去った後は、最後の自動監視船が太陽系に残っている資源などを確認。生物が存在しない事も確認して。

 

それが去り次第、太陽系から少し距離を置き。

 

超新星爆発を既に太陽系周辺に展開しているシールドシステムが防いで以降。それらのシールド船を移動させ。自身も太陽系の跡地を去る。

 

太陽系は爆発後、10億年もした頃にはまたバランスが取れた恒星が出現し、多数の惑星が出現するように水素などの量を調整してある。

 

だがそれは太陽系ではなく。

 

新しい星系だ。

 

地球人は、地球型惑星にしか生物は発生しないと思い込んでいたようだが。実際には生物が発生するかどうかはかなり運が作用するらしく。どんな星でも発生するときは発生するし。その逆も然り。

 

いずれにしても、新しい星系で、生物が出現するかどうかはまったく分からない、ということだった。

 

生物が発生しないそういった星は、古くは多数の星間国家が奪い合ったそうだが。

 

銀河連邦が安定したシステムで宇宙を統治し始めてからは、そういうこともなくなったそうである。

 

少なくともここ80億年ほど、乙女座超銀河団の範囲では大丈夫であるらしい。

 

いずれにしてもこの船の性能は、太陽系を出るまでに数分。

 

そして、銀河系を出るまでも半年程度しか掛からない。

 

わたしはむしろ。

 

この船が抱えている管理区の、人間の状態を確認しなければならなかった。

 

自席に着くと、データを見る。

 

また、幾つもの国が割拠する状態になっている。

 

古くに現れた世界の狼藉者達の伝承は、恐怖とともに根付いているようだ。

 

なお、あの転生神が管理用のデバイスとして配置していた巨人は、既にわたしが取り除いておいた。

 

あれらはただ悪戯に人間を苦しめて遊ぶために転生神が配置しただけの合成生物だった。

 

それを知った後は、排除になんら躊躇はなかった。

 

今の人間は近代の少し前くらいの文明になっている。

 

幾つかの列強が小国を巻き込んで戦争をしているが。

 

それも許容範囲内だ。

 

わたしが監視するようになってから、まだ人類は破滅していない。だが、このまま行くと、核融合か。更にその上を行く反物質兵器を開発して。いずれ滅びる。

 

管理区は空間を歪曲して、擬似的に宇宙も作ってある。

 

宇宙まで部分的に進出出来た事も、今まで何度かはあったらしい。

 

だが宇宙でも結局戦争を始めた挙げ句、滅び去ってしまった。

 

それが三十億年続いた。

 

まあ、転生神は下衆だったが。

 

あいつを下衆にしたのは、そんな事を三十億年も繰り返していた人間という生物そのものだ。

 

それを監視し続けるには、わたしが適任だ。

 

それは、今はもう分かっていた。

 

しばらく監視を続けていると、見つけた。

 

軍師どのの子孫だ。

 

軍師どのは晩年になってやっと結婚して子供が出来たが、その子孫はいずれもあまり優秀ではなかった。

 

今では賊まがいの事をして、彼方此方をふらついている。

 

軍師殿が見たら嘆くだろうな。

 

そう思う。

 

アンゼルの親族も見つける。

 

アンゼルの妹の子孫である。アンゼルがあんな事をしたから国にいられなくなって、カヨコンクムに逃げ込む寸前で異変が発生。

 

その後は異変に巻き込まれたがかろうじて生存。

 

後はアプサラスと軍師殿がまとめあげた都市に入って、命脈をつないだようだ。

 

此方はあのアンゼルの親族とは思えない程の善人である。

 

聖女と呼ばれているようだが。

 

わたし達が滅ぼしたあの外道とは、何もかもが大違いだ。

 

宗教的な信仰対象としての聖人なんて、裏で結構悪さをしていたりもするものなのだけれども。

 

このアンゼルの親族は、隅から隅まで確認しているが、悪さなんてする事も思いつかない様子で。

 

それで生きていけるのか、見ていて不安になる程だ。

 

幸い隣人に恵まれて、今では周囲が華やぐようである。

 

善人もいるものなんだな。

 

わたしは、そんな風に彼女を見ていて思う。

 

いずれにしても血統なんてこんなものだ。

 

あれほど立派だった軍師どのの子孫がこんなだし。

 

シリアルキラーとして非常にタチが悪かったアンゼルの血縁者がこうなる。

 

だから、血縁なんてのは信頼しなくて良い。

 

血縁に対する絶対信仰が人間のもっとも悪い性質なのだというのはある程度分かってきている。

 

だがそれをどうすればいいのか。

 

まだそれが分からない。

 

管理AIが声を掛けて来る。

 

「アイーシャ様。 太陽系を離れます」

 

「分かりました。 くれぐれも管理区の人間には、異変を察知させないようにしてください」

 

「了解です。 それにしても、本当に何も手を加えなくてもかまわないのですか。 巨人と呼ばれた監視端末を取り除いたくらいですが」

 

「今回はそのままやってみましょう。 遺伝子データはとっておいてください。 手を入れるのだとしたら、大規模かつ大胆な方法が必要になると思います。 他の似たような環境にいる知的生命体の、失敗の経緯についても調べておきましょう」

 

今の管理AIはとても従順で、悪さをする気配もない。実績もある管理AIで、今までに様々な種族を知的生命体まで昇華しているらしい。

 

わたしはデータを渡して、時々注文をつけるだけでいい。

 

管理AIも従順とは言えど、核戦争を起こせとか、そういう命令には従わないし。わたしもそれでいい。

 

やがて太陽系を離れる。

 

後方にある太陽系の映像を見やる。

 

シールドが展開されているのは、いつ致命的な爆発や、ガンマ線バーストが発生してもおかしくないからだ。

 

だから淡い光で包まれているように見える。

 

船は完全に亜空間に入り、爆走している。だから、あれはあくまで太陽系近くにある人工衛星からの超光速通信による映像だ。

 

それでも、最後に一度だけ見ておこうと思う。

 

わたしが生きていた世界は。

 

何から何まで偽物だった。

 

だけれども、そこで暮らしていた人間は本物だった。

 

あの醜悪さは三十億年前から同じであったらしいし。

 

どの時代に生まれたとしても、わたしはきっと同じような目にあったか。或いは子供のうちに殺されてしまったのかも知れない。

 

そんな風にさえ思う時はある。

 

だが、それはそれこれはこれ。

 

途中での時間は、観察と調整に費やす。

 

たかが一年や二年くらいで滅ぶようなことにはならない。

 

少なくとも後百年くらい先になる。

 

わたしはこんな体になってしまったから、もう年齢は気にしなくてもいい。このナノマシンは基本的に自己複製を行う事も出来るので事実上不死らしいし。

 

宇宙の破滅が来たらそれは死ぬだろうが。

 

なんでも宇宙の破綻は最速でも1京年くらい先らしいので、まあ気にしなくてもいいだろう。

 

宇宙の様子を見る。

 

とっくにアンドロメダと合体し始めている天の河銀河は、この銀河団で最大の銀河に成長しつつある。

 

まだ銀河系の要素が強いが半年もすれば、ダイナミックな天体現象を見る事が出来るだろう。

 

このコロニー船は超新星爆発の直撃にも耐え抜くが、それでも最低限の管理はしなければならない。

 

時々声を掛けられ、判断を仰がれる。

 

頭の出来はナノマシン生命体になってもあまり変わっていないけれど。

 

わたしでも判断できる程度の事だ。

 

だから別に問題は無い。

 

幾つかの細かい指示は出しておく。

 

人間のいる管理区は、強力な次元バリアで隔離されていて、以前のわたしみたいに境界を抜ける事故はもう起きない。

 

わたしも、そちらに戻る気もない。

 

管理は遠隔でやらなければならないが。

 

それについては、技術が難しいので、それほど正確にわたしも把握はできていなかった。

 

「アイーシャ様」

 

「ん」

 

「貴方の話がされています」

 

「ああ、メリルが話したのが伝承になっているそうですね」

 

転生神が作った穴は塞いでおいた。

 

技術が進めば、あの下に入ってくることも可能になるからだ。

 

アルテミスの活躍がどうしても伝承としては人気だったようだが、メリルはわたしの事をどうしても伝承に残したかったらしい。

 

あれからもうだいぶ経っているのに。

 

だからこそだろうか。

 

わたしを題材にした話などは、ちょくちょくと作られているようだった。

 

「恐ろしい魔女としての物語のようです。 通った後は誰も生き残らなかったのだと」

 

「まあある意味事実だから仕方がないですね」

 

「ただ、性格がだいぶ違いますね。 極めて気性の激しい人物として描かれているようです」

 

「別にかまわないですよ。 侮辱しようとどうでもいい。 わたしはあの時代をあの世界で生きた。 そして転生神を名乗って実際にやりたい放題玩具を転生させていたクズAIをわたしが斃した。 それだけで充分過ぎるくらいです。 誰も知っていなくてもいい。 わたしがやりたかったからやったし、生き残りたかったからあがいた。 それについては、人間は知らなくても、メリルは残そうとしてくれたし、外の世界では知られている。 だから、それでかまいません」

 

これは本音だ。

 

無欲なことだとAIは言うが。

 

違う。

 

わたしには、自己顕示欲なんて生まれなかった。

 

高徳の末に欲を断ったのでは無い。

 

最初から壊れていて存在しなかった。

 

作るべき時に作り損ねた。

 

そういうことなのだ。

 

だから、褒め言葉にはならない。煽りの可能性はない。此奴は、今のAIには、そういう事が出来ないようになっている。

 

わたしが題材だという人形劇が行われているというので遠隔で見る。

 

わたしは目とかつり上がっている真っ赤な髪の恐ろしい魔法使いで、アルテミスが手も足も出ず、悪魔ですら怖れる存在として描写されていた。

 

大げさな。

 

わたしは巨人を退けるのが精一杯。

 

こっちに落とされる直前でさえ、片腕を失ったアルテミスには勝てなかっただろう。その程度の実力だった。

 

広域殲滅は得意だったが、雑魚が相手だから出来た事。

 

転生神の起こした世界の改変が起こらず列強が健在なままだったら、いずれ特務に狩られていたと思う。

 

それにしてももの凄い容姿だな。

 

ただ苦笑するだけだ。

 

人形劇が終わると、わっと喚声が上がっている。

 

ふうと溜息をついて顔を上げる人形師。

 

どうやらアルテミスの子孫らしい。

 

結構名が知れた人形師のようだが。

 

まあ、祖先から真相なんて聞かなかったのだろう。

 

魔法は、まだこの世界に残してある。

 

ただし、魔法の素質は遺伝しないようにしてあるのもそのままだ。

 

転生神が作ったその仕組みだけは良かったのだと思う。

 

あれは血統主義を貴ぶ人間を指さして笑うためのものだったのだろうが。結果として、魔法が強い人間が権力を独占して子々孫々やりたい放題をするのを防ぐという点では意味があったのだ。

 

それに今思えば、伯爵の滑稽な最後も、それに起因しているし。

 

伯爵がどう死んだかは、後でログで確認した。

 

フラムの行動を見て、やってくれたのかとだけ思ったし。

 

伯爵の死にはまあ順当だなと思った。

 

ちょっとだけすっきりもした。それで良かった。

 

アルテミスの子孫が、弟子らしいのと話している。

 

「ヘルメス先生、次の演目はどうするんですか」

 

「明日辺りに騎士アプサラスのものをやります」

 

「ああ、あの悲劇ですか。 恐ろしい魔女の話といい、先生が得意な分野ですね」

 

「うーん、ちょっと違うんですよ。 というか、そもそもアイーシャの話も、だいぶ事実と離れているのは私でも分かっています」

 

そうなのか。

 

ちょっと以外だ。

 

ヘルメスという名前の、アルテミスの子孫は言う。

 

これはあくまで娯楽。

 

アルテミスから、アイーシャという魔法使いが、自衛以外では敵を殺さなかったことは聞いている。

 

敵認定したら容赦もしなかったようだが、アイーシャが殺したのは賊や人に害なす獣の類。

 

それに世界に対する狼藉者。

 

だけれども、その恐ろしさは今に伝わっている。

 

だから、分かりやすいその恐ろしさだけを抽出して劇にしているのだと。

 

「もしアイーシャが見ていたら、怒るかも知れませんね」

 

「また感傷的な。 既に鬼籍に入った存在なんて創作の素材ですよ」

 

「それは違う。 過去の人の積み重ねがあるから今がある。 いずれもっと名が売れて、本当に好きな劇をやって食べていけるようになったら。 祖先から聞いている事実に近いアイーシャも、劇でやってみたいと思っています」

 

そうか。

 

嘘をついている様子はない。

 

わたしは嘆息すると、別の所への監視に切り替える。

 

今回も、結局人間は滅ぶかも知れない。

 

だとしても、どうして滅ぶのか。

 

どうして致命的な破滅に突き進むのか。

 

それらのデータは取っておきたいのだ。

 

やがてそれらのデータを総合し。

 

今ヘルメスがいったような、過去の蓄積を全て生かせば。

 

その時には、人間の未来をやっと作る事が出来るかもしれない。

 

三十億年分の蓄積があれば、上手く行くかも知れないというのもおかしな話ではあるが。わたしはもう立場として、現実にそれをやっていかなければならないのだ。

 

コロニー船に近付いてくるものあり。

 

亜空間で近付いてくると言う事は民間船ではない。

 

軍の警備艇だ。

 

警備艇にアクセスして、照合を済ませる。

 

警備艇は何処かの方面軍艦隊の一隻で、照合を済ませると途中まで護衛してくれるということだった。

 

この辺りは大丈夫だが、一部の地域では暴走したAIが海賊化していたりと。完全に安全な訳でもないらしい。

 

そういうこともあって、きちんと軍部隊は護衛をしてくれる。

 

有り難く、その護衛を受ける。

 

そうやって、現地に向かう。

 

時間を掛けながら。

 

 

 

到着したのは、とてつもなく巨大な構造物だった。

 

人工天体というが、大きさは太陽系どころか、直径四光年ほどもある。

 

中枢には巨大な人工恒星が存在しており、その周囲に様々な環境に調整したコロニースペースが多数存在していた。

 

周囲には護衛のための自立稼働戦闘艦が警邏している。

 

場所が場所なので、滅多にない事だが、それでもテロなどは警戒しなければならないらしい。

 

内外両方という観点からだ。

 

戦闘艦には一隻当たり百万を超える戦闘ロボットが搭載されていて、それらはそれぞれが核を使って滅んだ当時の地球人類くらい単騎で圧勝で制圧できる性能があるそうだ。まあ、世話になることはないだろう。

 

誘導に従って、その一つにコロニー船を向かわせる。

 

既にこのコロニー船にあわせて区画は調整されており。

 

コロニー船は管理区を切り離して、其処へドッキングさせる。

 

わたしと管理AIのいる区画もコロニー船と切り離して、ドッキングを済ませ。管理態勢を整える。

 

コロニー船そのものとは此処でお別れだ。

 

解体して資源に戻すのか、別の保護区に行くのか、或いはただ補完して時を待つのかは分からない。

 

中枢にある、高高度AIがアクセスしてくる。

 

「始めましてアイーシャ。 此処の管理をしている最高位AI、ladshkf;dqwopdqphffqpwuewqです」

 

「アイーシャです。 よろしくお願いいたします」

 

「返事をありがとうございます。 滅多に用事は生じないとは思いますが、何かあったら何でも聞いてください。 データベースも開放しておきます。 いつでも閲覧してください」

 

礼をいうと、回線を閉じる。

 

此処にいるのは好戦的すぎる種族や、独善的すぎる種族や、地球人と大差ない連中ばかりである。

 

いずれにしても、他の管理区と関わる理由もない。

 

よくしたもので、他の管理区もどれも訳ありばかりらしい。

 

巨大な刑務所であり。

 

わたしは看守というわけだ。

 

それもいい。

 

奴隷として実の親に売り飛ばされたわたしが、今では人類という罪人の看守をやっている。

 

それもまた、運命の皮肉ではないか。

 

わたしは大まかな指示を出すだけのつもりだ。

 

介入していけばいずれ情も湧くかも知れないし。

 

そうなれば転生神みたいに遊び始めるかも知れない。それではいけない。それでは全てがもとの木阿弥だ。

 

長い戦いになるだろう。

 

だが、わたしは孤独を苦にしないし。

 

単純労働も苦にしない。

 

だから、どれだけでも、腰を据えてやっていくだけだ。

 

どうせすぐに終わるようなこともないのだから。

 

なお、管理区の内部時間を弄って、高速である意味の輪廻を回す事は禁止されている。

 

巨大な人工恒星があるといっても、エネルギーは無限ではないからだ。

 

どこも困りものの種族を収監している巨大刑務所である。

 

「アイーシャ様」

 

「どうかしましたか」

 

「しばらくは人間は絶滅はしないと思います。 今のうちに、過去のデータを分析し、次のことを考えておいては如何でしょうか」

 

「そうですね。 あらゆる試行錯誤をすることになるでしょうし。 それに……」

 

下手に人間を弄っても、どうせ上手く行かない。

 

同格の知的生命体がいても、自分は宇宙一優れていると考えるのが人間だ。

 

そんなのが代わるには、よほど大規模な変革が必要になるだろうが。

 

それはわたしには思いつかない。

 

ならば総当たりでやるしかない。

 

転生神がやっていた遊びの内容も確認しておく。

 

奴は定期的な間引きの為に、ろくでもない輩を文字通り「転生」させて大量殺戮をさせていたわけだが。

 

それさえしなければ。

 

色々な世界を用意していた奴の行動にも、ある程度はみるべき点があるかも知れないのだ。

 

時間は文字通り幾らでもある。

 

ナノマシン生命体になった今は、ナノマシンが基本的にほぼ不滅だし。仮に頭が鈍っても、チューニングをすることだって出来る。

 

昔魔法だと思っていた事も出来るし。

 

別に不自由は無い。

 

ちょっとおかしな話ではあるが、水魔法を使って体を洗ったり、風魔法で髪を乾かしたりするのにずっと慣れていたからだろう。

 

今でもシャワーだのを使うよりも、浴室でそれで済ませてしまうことが多い。

 

それがわたしにとっての「人間性」なのかもしれない。

 

経験から人間は変わるのだ。

 

感情なんてものが育たなかったとしても。

 

仕事をする。

 

まあ、ここに来る間にも、仕事はしていたのだ。

 

こういう世界はどうだ。

 

既に試されている。

 

ではこう言う世界はどうか。

 

それも試されている。

 

調べて見ると、人間は原始文明から始めさせても、一万年程度で破滅してしまうことが分かっている。

 

その間に出現した人間の遺伝子データは、世界がどう発展してどう破滅したかのデータもろともに全て保存されている。

 

高潔な人間も中にはいた。

 

まともな人間も。

 

だが、そういう人間ばかり集めて世界を作っても、どうしてもカスは出現する。それは統計として証明されている。

 

それに、転生神が遊び始めてからは、開始から9000年程度の文明で始めさせて遊んでいたようだし。

 

破綻とやり直しの間隔が早まっている。

 

勿論転生神が遊んでいたデータの中には例として見なせないものもあるが、それでもデータとしては総数で100万を超えている。

 

だから、それらを統計として生かせば、あるいは活路が見いだせるかも知れないのである。

 

しかも側には専門家のAIもいるし。

 

もっと多くの種族や、もっと多くの試行錯誤を見てきた高高度AIもいる。

 

それらのアドバイスも受けられるだろう。

 

ふと気になったので、監獄から出られた種族はいるのか調べて見る。

 

いるらしい。

 

今までに114例あるそうだ。

 

そしてそれらは、きちんと銀河連邦で暮らしているそうである。

 

115例目になろうとは言えない。

 

もうすぐ上手く行きそうな種族がいるかも知れないからだ。

 

一通り仕事の下準備を終えると、一眠りすることにする。

 

ナノマシン生命体になっても、たまに睡眠はする。目的は気分転換のためである。

 

一度眠ると、一月くらい眠ってしまうこともある。

 

前はそんな風には眠れなかったから、気分転換のために眠り溜めしてしまう訳だ。

 

それにそれくらいのスパンでする仕事でもある。

 

だから、それで別にかまわない。

 

起こされれば、すぐに起きるし。

 

寝台で横になると、昔の夢を見る。

 

あの腐れ伯爵の醜い顔。

 

同類の奴の一族。

 

特権意識を拗らせた人間はああなる。

 

貴族制はそのうち終わりを告げるらしいのだが、それでも一定数貴族制を復活させようと考える連中は出るらしい。

 

優性思想というらしいが。

 

まあどうでもいい。

 

わたしは伯爵の事をずっと忘れないだろう。あれが事実上のわたしの親だ。そしてあれが貴族だ。

 

だから、わたしは最初から間違えたのだろうし。

 

巡り巡って此処にいる。

 

迫害の記憶はどうしてもわたしの中で残っている。

 

火の魔法が使えないなら、孕み袋にもならない。

 

そう言っているのは、伯爵の醜く太った長男だ。

 

わたしの記憶は、ナノマシン生命体になることで、全部蘇った。だから完全記憶能力じみた事も出来る。

 

それが良い事ばかりではなく。

 

こういうろくでもない記憶も蘇るのは色々閉口させられるが。

 

いずれにしても、此奴らはフラムに皆殺しにされた。

 

それでいい。

 

目が覚めると、33日経過していた。

 

起きだすと、まずは体を洗う。必要ないが、それも気分だ。

 

ただ、気分で何かを害するつもりはない。

 

わたしは、転生神の後釜になるつもりはなかった。

 

これからは、わたしはずっと人間が独り立ちできるようになるまで、悠久の時を此処で過ごすことになるだろう。

 

人間の世界から追放されたわたしが最後に行き着いたのは。

 

もう追放されない世界。

 

人間の世界に戻る気は全く無い。

 

今は、この追放されない世界で。

 

ただ、静かに自分の仕事を続けていこう。そう思っていた。

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