全てが終わりました。誰も知らないところで。
そして未来が来ました。誰も意識はしていませんが。
長い時が流れました。
誰も知らない試行錯誤の末に。
空を見上げる。
あの空が、偽物だという噂がある。
わたしは偽物の空だとしたら。
その先には何があるのだろうと、ちょっとだけ思った。
起きだして、学校に行く。
学校では最近は先生による人力での教育が殆ど廃止されていて、AIが使われている。これは小学生からずっとだ。
なんでも人力に頼る教育は色々と問題があるらしくて、どうしても先生の力量で子供が主に悪影響を受ける。
悪影響を与える教育なんて意味がない。
また、子供がカスみたいな階級を作り出して、それを主に迫害に使うのも防がなければならない。
そういうこともあって、今では教育は全部AIにとって代わられた。
不思議な事は幾つもある。
この過程が驚くほどスムーズで、数年で教育は全部置き換わった。
提供されたAIは完成度が異常に高く、子供達の学習能力は爆上がりしている。
今では小学生で特殊相対論を理解したり、「正143角形をコンパスと定規だけで書く方法」なんてものを編み出した小学生がいたり、そういう時代だ。
わたしはちょっと出来が良くないので、そこまでではないけれど。
十年前の大学生が驚く水準ではあるらしい。
そこまで賢くはなれている、ということだ。
それが全ての子供に施されている。
大人でも、望めば同じ教育が施されているようだ。
だが、あまりにも。
出来すぎている。
ここ数年の出来事は、誰かが裏から歴史に介入しているようだとも囁かれている。
汚職政治家は片っ端から摘発され。
法律を嘲笑っていたような犯罪組織はみんな刑務所行き。刑務所も適切に人間を更正させている。
特権階級を気取っていたような金持ちもしっかり公平に裁かれるようになり。
邪悪な企業利権は社会から消えつつある。
国際紛争はどれも収まりつつあるし。
環境問題だってどんどん解決している。
でかいツラをして自分のルールを押しつけていた大国も、好き勝手が出来なくなって来ているし。
人権だのを金に換えていた悪人もどんどん姿を消している。
何かが世界に起きているのかも知れない。
そんな噂が、彼方此方で流れているのを、わたしは知っていた。
学校に出向く。
昔は危なくて子供だけで学校に行くなんて問題外だったのだけれど。今は問題ない。彼方此方に警備ロボットがいて、不審者なんて秒で取り押さえられてしまうからだ。
学校も、生徒同士がそれほど密接では無い。
監視カメラがつけられているが、それを人間が見る事もない。
問題行動をしている生徒は隔離される。
むかしは虐められる側が悪いとされていた時代もあったらしいが。
今では虐める側が隔離される。
それが何故されなかったのか不思議極まりないが。
わたしも確かに、急に人間がまともになったようで、驚く事も多かった。
授業を受ける。
生徒の体力は様々。
得意分野も違う。
だから、決まった授業なんてものはなく、カリキュラムをAIが全自動で組んで対応してくれる。
どうしても勉強が苦手に思える子でも。
こういうAIは、得意分野を発掘してくれるし。その得意分野を褒めながら伸ばし。仕事の斡旋までしてくれる。
これはわたしみたいな子供が行く学校だけではなく。
大人が行く職業訓練学校でも適応されているようだった。
世界が急速に変わりつつある。
最初はAIが世界を乗っ取るとか反対していた人もたくさんいたが。
それももういなくなった。
これだけの成果が出ていたら、それもそうなのだろう。
人間の面倒を最大限見てくれるAIが、自立をしっかり促しながら教育までしてくれる。AIに世界は支配されたのかも知れないが。
それで人間が自由意思を失ったとか。
AIの奴隷になったとか、そういうこともない。
今も人間はしっかり自由意思で生きている。
それでいながら肥大化しすぎたエゴで好き勝手に振る舞うようなこともなくなり。
世界は急激に良くなっていた。
今日分の授業終わり。
出来る範囲でやっていくけれど。AIはわたしが効率よく覚えるやり方をもう把握していて。
勉強もバリバリ進んでいる。
わたしはそこまで出来る方じゃないけれど、それでも10才で既に微分積分を理解できている。
これは昔だったら天才だけ出来る事だったらしいけれど。
わたしは凡才だ。
それでもこれが出来るようになっている、ということなのだろう。
家に戻ると、家事用ロボットが、適切に仕事をこなしている。
うちは片親で。
少し前まではお父さんが随分荒れていて。わたしは学校にもロクに通えないくらいだったのだけれど。
今ではお父さんが病院で治療を受けていて。
わたしは家事用ロボットの支援を受けて、困っていることは一つもない。
仲の良い友達なんて最初からいなかったし。
それでなにかが変わる事もない。
お父さんが暴力を振るわなくなったぶんだけ、生活が楽になったかも知れない。
それくらいだ。
「愛沙様。 夕食を間もなく作ります」
「うん」
「ゲームでもなさいますか」
「しない」
わたしはゲームはあんまり好きじゃない。
お父さんが酒に酔っては画面に悪態をつき続けていて。それで、ゲームが嫌いになった。ゲームとお父さんが喧嘩しているみたいだったから。
でも、今は誰でもゲームをする時代だ。
少しずつ、これも克服していきたい。
お風呂に先に入る。
髪を家事用ロボットが洗ってくれる。
わたしの髪は、知りもしないお母さん譲りらしく、完全に金髪だ。もしも昔の学校だったら、染めなければ虐められていたかも知れないそうである。
体も洗って、お風呂を出る。
テレビを無心に見ていると。
昔みたいにテレビキャスターが煽るような言葉で言っていたニュースはなくなり。
ずっと冷静で、事実だけを告げるものになっていた。
「この新技術は、長年夢とされていた軌道エレベーターを実現しうる可能性を持っています。 量子コンピュータの計算によると、軌道エレベーターを作るために要する年月はおよそ15年。 以前は問題となっていた大国の利権調整も現在は上手く行きつつあり、国際政府が実現した場合は、その最初で最大の事業となるでしょう。 続いてのニュースです。 最後の紛争と言われていたルジャール地方での激突が沈静化しつつあります……」
世界がどんどん良くなっていく。
でも、わたしにはそれが良い事なのかは分からない。
10年前には、この世界にはもう未来がないと言われていたらしい。
でも、ここ数年で問題はあらかた解決してしまった。
理由は分からない。
でもはっきりしているのは。
そうならなければ、わたしは今もお父さんに殴られていただろうし。それで死んでいたかも知れない。
学校なんていけなかっただろうし。
行ったところで金髪を馬鹿にされて、虐め殺されていたかも知れない。
夕食を食べてから寝る。
ベッドも整えられている。
わたしは夢を見る。
誰かがこの世界をやっと此処まで仕上げてくれた夢。
それは。わたしと似た名前の人が、何十億年も、もっと長い時間苦労して、やっと此処までしてくれたもの。
きっとただの夢だ。
もし夢じゃなかったら。
わたしを地獄から救い出してくれてありがとうといいたい。
色々心とかおかしくなってしまってるわたしだけれど。
それでも、地獄から救われたことは分かるのだから。
(辺境伯令嬢の追放行脚、完)
はいこれにて完結です。
自分なりに追放ものというジャンルを調べて自分なりに解釈してみたこの作品。如何だったでしょうか。
毒物まみれの内容だったのは、自分がそういう作品が好きだからです。
それでも一応調べて見た追放ものの基本は自分なりに抑えてみたつもりです。
アイーシャの苦労しかなかった人生の物語、最後に迎えた追放の果ての結末。楽しんでいただけたでしょうか。
楽しんでいただけたのであれば嬉しいです。
最後にもう一回。感想評価などお願いいたします。励みになります。