ハルウララと元陸上部の転生トレーナーがゴールする   作:シャリ

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前編:トレーナー(オリ主)の一人称視点

後編:ハルウララがメインの三人称視点で続き


前編:トレーナー(オリ主)

 俺は転生者だ。

 前世ではソシャゲとして存在していた「ウマ娘」の世界で生きている。

 

 前世の学生時代は陸上選手として活躍し、短距離走で全国大会に出れた。走ることが好きだったから実に充実していた。

 社会人としてはスポーツ大学の陸上で副コーチとして指導を始めたが……勤務2年目の春、交通事故で死んだ。あっけない幕切れだった。

 

 

 この世界に転生してからも、走りに対する情熱は持っていた。前世と同じく学校の陸上部に入り、短距離走に打ち込んだ。でも、すぐに気づいた。

 この世界では、人間の陸上なんて誰も見ていない。

 人気は全部、陸上ではなく競バ──ウマ娘たちのレースに持っていかれていた。

 

 高校の陸上部は、部員が俺一人だけ。大会に出ても、俺以外はやる気のない選手しか見当たらない。

 ある地区大会で、同じ種目の選手に聞いてみた。俺は走ることが好きだから陸上をしているが、君はなんで陸上やってるのかと。

 

「内心評価のためでしかないよ。陸上は適当に走るだけですぐ終わるから楽なんだよね」

 

 彼の答えに、胸が冷えた。俺は本気で走りたかったのに、周りはそんな気分だった。

 それでも俺は大会を勝ち上がり、全国大会まで進んだ。だが、そこでも空気は大して変わらない。観客席は空席ばかりで、選手の表情に真剣さはなく、なんとなくで走っているのが見て取れた。

 

 

 決勝戦で、俺と走って負けた選手が悔しがることもなく笑いながら言った。

 

「ウマ娘に勝てねえんだから、そんなに必死にやってもムダだろ」

 

 その言葉が、俺から熱を奪った。

 ウマ娘のスピードは、確かに人間の限界を超えている。どんなに努力しても、彼女たちには敵わない。

 

 ウマ娘の走りに比べたら、遅いだけの人間の走りなんて見る価値も存在価値も殆どない。お遊戯のような、ただのかけっこ扱い。

 それがこの世界の事実であり、常識だった。

 

 

 周りがやる気のない環境で全国一位になった俺は陸上を辞めた。

 愛用していたスパイクをダンボールに仕舞い込んで、部活の顧問に「辞めます」とだけ告げた。グラウンドに来ることもなかった名ばかりの顧問は、当然ながら引き止めなかった。

 

 

 

 陸上を辞めてからの一ヶ月、俺は目的を失っていた。学校が終わると、近所のゲーセンに通うようになった。格闘ゲームをやりこみ、クレーンゲームで無駄遣いし、時間を潰す。

 気晴らしをしているというのに心は晴れず、どこか虚しかった。

 

 ある日、ゲーセンを出て家に帰ろうとしたとき、駅前の街頭ビジョンに目が止まる。巨大なスクリーンには、勝利したウマ娘のインタビューが映し出されている。

 彼女の名前は知らなかったが、輝く瞳と自信に満ちた笑顔が印象的だった。

 

「今日の勝利は、トレーナーさんと一緒に走り抜いた結果です! あの人がいなかったら、絶対にここまで来れてません!」

 

 彼女の言葉が、俺の胸に突き刺さった。

 

 トレーナー。

 ウマ娘を支え、彼女たちを勝利に導く存在。ウマ娘のレースは、確かに人間の陸上とは比べ物にならないほどの注目を集めていた。でも、そこには人間の努力も不可欠。

 トレーナーの指導、戦略、情熱──それが、彼女たちの輝きを支えている。

 

 俺は立ち尽くした。陸上では、俺の走りは誰にも届かなかった。でも、トレーナーなら?

 俺の知識、経験、情熱を、ウマ娘に注ぎ込むなら?

 夢をもう一度追いかけられるんじゃないか?

 

 

 走って家に帰ると、俺は両親に宣言した。

 

「俺はウマ娘のトレーナーになる!」

 

 両親は驚いたが、俺の目を見て反対はしなかった。「お前が本気なら、応援するよ」と父が言ってくれた。

 

 その夜、俺は久しぶりにスパイクを取り出した。

 

「もう一度、走ってみよう。ウマ娘と一緒に」

 

 

 

 

 

 

 あの日から月日が経ち、新人トレーナーとして日本ウマ娘トレーニングセンター学園──通称、トレセン学園の所属になれた。

 トレセン学園の門をくぐった勤務初日、俺は広大なグラウンドを見渡した。ウマ娘たちが軽快に走る姿、トレーナーたちの真剣な指導、響き合うかけ声。

 

 この場所は、俺がかつて夢見た「走る喜び」に満ちている。

 胸が高鳴った。ここなら、俺の情熱をぶつけられる。もう一度、走る意味を見つけられる。

 

 

 新人トレーナーとして最初の仕事は、担当ウマ娘を決めることだ。

 トレセン学園では、担当を持たないウマ娘たちが参加する「選抜レース」が定期的に開催される。基本的にトレーナーは選抜レースを見て、パートナーとなるウマ娘を選ぶ。

 

 俺の場合は前世知識で強いウマ娘の担当になる……なんて考えは一切ない。そもそも、前世で該当ソシャゲはやってないし競馬の歴史も知らない。本当にコンテンツとしての存在を知っていただけ。

 

 だから俺は「走ることが好きだ」と心から言えるウマ娘と組む。

 前世でもこの世界でも、俺は走る喜びを信じてきた。成績や才能だけを見るより、走ることに純粋なウマ娘と一緒に夢を追いかけたい。

 

 

 選抜レース当日、俺は観客席でプログラムを握りしめた。出走するウマ娘たちの名前とプロフィールに目を通しつつ、芝とダートで距離や人数も変えて実施される選抜レースを観ていく。

 

 ウマ娘たちがスタートラインに立ち、号砲とともに飛び出す。担当トレーナーがおらず、まだ未成熟ながらも彼女たちのスピードは、やはり人間の限界を軽く超えていた。地面を蹴る音、風を切る姿──すべてが圧倒的。

 

 どの子も個性的で、輝く可能性を秘めている。でも、俺の心はまだ決まっていなかった。俺はただ速さや順位を見ているわけじゃない。

 彼女たちの表情、走り方、ゴール後の態度。それぞれの「走る理由」を探していた。

 

 レースが進むにつれ、俺の目は自然とあるウマ娘に引き寄せられた。

 彼女の名前はハルウララ。ピンクの髪をなびかせ、華奢な体で懸命に走る姿。

 速くはなかった。いや、はっきり言えば、彼女はどのレースでも最下位だった。それでも、彼女の走りは俺の心を掴んでいた。

 

 他のウマ娘と比べて多くの選抜レースに参加して疲れがあるはずなのに、手を抜くこともなく一生懸命に足を動かしている。

 息を切らせ、汗を流しながら、彼女はまるで走ることそのものが楽しくて仕方ないみたいにトラックを駆けていた。ハルウララの顔には、曇り一つない。

 ゴールラインを越えた瞬間、彼女は両手を広げて「やったー!」と叫ぶ。

 

 最下位なのに。誰よりも遅かったのに。

 彼女の笑顔が一番輝いて見えた。

 

 

 

 全ての選抜レースが終わった後、俺はハルウララに会いに行った。

 

 彼女はグラウンドの片隅で……そばにトレーナーらしい人もなく、一人で休んでいた。近くを通る他のウマ娘やトレーナーたちは、彼女をちらりと見るだけで通り過ぎていく。どうやら「最下位のウマ娘」としか見ていないらしい。

 

「お疲れ様。君の名前はハルウララで合っているかな」

 

 俺は声をかけた。彼女はぴょんと立ち上がり、キラキラした目で俺を見る。

 

「うん! わたしはハルウララだよ!」

 

 俺のトレーナーバッジに気づくと、ウマ耳を動かしながら訊ねる。

 

「ねえ、トレーナー? 私のレース見てた?」

 

 無邪気な笑顔に、思わず俺も口元が緩む。

 

「見てたよ。最後まで諦めずに走っていたね。すげえと思った」

 

 俺が言うと、彼女は照れたように頭をかいた。

 

「えへへ、でも最下位だよ? みんなに置いてかれちゃった」

 

 そう言って笑う彼女に、俺は少し真剣な声で聞いた。

 

「ハルウララ、君が走っている理由を聞きたい。最下位でも一生懸命になれる君のことが知りたいんだ」

 

 彼女は一瞬考え込むように空を見上げ、すぐに明るい声で答えた。

 

「んー、だって走るの楽しいもん! 風がビュって感じるのとか、足が地面を蹴るのとか、すっごく気持ちいいんだ! 勝てなくても、走ってるだけでウララ、めっちゃハッピーなんだよ!」

 

 その言葉に口元が緩む。

 走る喜び。純粋に、ただそれだけを愛する気持ち。

 俺が陸上の世界に踏み込んだシンプルな気持ちと同じだった。

 

 

「俺の担当ウマ娘になって欲しい」

 

 俺はまっすぐ彼女の目を見る。

 

「君と走らせてくれ」

 

 ハルウララは目を丸くして、しばらく俺を見つめた。

 そして、突然ぴょんと跳ねて、満面の笑みで叫んだ。

 

「ほんと!? ウララと一緒に走ってくれるの!? やったー! すっごく嬉しい!」

 

 彼女の笑顔は、まるで太陽みたいだ。

 その瞬間、俺は確信した。ハルウララと一緒に走るなら、俺の情熱は絶対に無駄にならない。

 彼女の笑顔を守りながら、彼女の走りを輝かせる。それが、俺の新しい夢の第一歩だ。

 

「よし、じゃあ明日から本格的に始めるぞ!」

 

 俺が言うと、彼女は元気に返事した。

 

「うん! ウララ、いーっぱい頑張るよ!」




【後書き】
ハーメルン投稿8作目です。

次回は、ハルウララがメインの三人称視点で続きます。
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