うつわの中のガルシア・マルケス   作:ドクター・ヴィオラ

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【DANGEROUS OPINIONS】




うつわの中のガルシア・マルケス




▶忘れなよ 遅かったのだ

▶すべてを見せたのに 最初から

▶同じことを繰りかえしている

▶あるとき 天使が現れる

▶はじめまして! 元気かな?

▶恋人になろうよ きみの虜なんだ

▶このスレはなんだ?

▶知るか

▶上のやつはひとりか?

▶酔っぱらいだろう あるいはドラッグ

▶ドラッグがやりたい ホワイトナイトの残骸を探すべきだった

▶すでに解析されつくしているから 高値では売れないぞ

▶……ドラッグがやりたい

スレは終了しました


銀のさじ

銀のさじ

 

 

 

 

場所:グリッチ・シティ(ヴァルハラ)

 

人物:ジル(バーテンダー)

   デイナ(ベスト・ボス)

   ドロシー(セックス・ワーカー)

 

   シルバー(集合精神)

 

備考:わたしが大変なので“地の文”は簡潔に

 

 

 

 

 いなびかるようなネオン・サイン。

 ビルの光。信号の点滅。宇宙のかなたの檸檬色の瞳孔。

 稲妻・フラッシュ・短歌はシルバーに押しよせる。

 ヘソをねじまげたような都会の迷路は、大宇宙のようにやさしくはないのだ。

 シルバーは困り、路地へ向かった。路地の奥に一軒のバー。

 軒先のネオンは街のしらじらしさと同じなのに、小さな光は不思議と贔屓の喫茶店を想起させる。

 

シルバー:ブイ・エイ・ワン・ワン……。

 

 立ちどまる。そして決意を決めるのも早かった。

 別に行きたいところもないのだ。と言うのがシルバーの結論である。

 

シルバー:安全なところでありますように。

 

 入店。ドアになんらかの音。バーテンダーがシルバーを見る。

 

ジル:あら……いらっしゃいませ。

 

 バーテンダーはひとり。ほかに客はなし。テレビの音が最も鮮明な静かさ。

 

シルバー:この店は安全なのかな? 開口に失礼だが……。

ジル:わたしがあなたを殺せるように見えるなら……危険な場所だと思いますが。

 

 細身のバーテンダーに上背はない(ついでに胸もない)

 馬力があるようには見えない。

 シルバーが溜息を吐くと椅子に座る。

 

ジル:注文はすぐにしますか?

シルバー:そうしたいところだが、アルコールは詳しくないんだ。

ジル:意外。

シルバー:どうして?

ジル:遊んでそうな容姿ですし……。

シルバー:すべての銀髪のハンサムが遊んでいるとはかぎらない。

ジル:たしかに。わたしのボスも銀髪ですけど、別に放蕩者ではないです。

シルバー:そう言うことだ。簡単なやつを頼もう。

 

【吸血鬼のような客にビールを】

 

 カクテル・シェイカーの中でアデルハイドとブロンソンエキスとデルタパウダーとフラガナイトとカルモトリンが混ざりあう。

 

アナ:こんなの読ませないでよ。舌を噛むわ。

ジル:うるさい。

シルバー:えっ……。

ジル:テレビのことです。

 

 人工的な材料のダンス。どれも人体に悪影響はないと“されて”いる。

 

ジル:ビールです。

シルバー:ありがとう。さすがに飲んだことはあるよ。

 

 シルバーがビールを一口。

 

シルバー:ふん?

ジル:合いませんでしたか?

シルバー:いや……まずいわけじゃない……しかし……嘘っぽいような。

ジル:上層の人ですか?

シルバー:上層とは。

ジル:……観光客?

シルバー:いかにも。

ジル:呆れた。よほどのスキモノね。

シルバー:この街は観光客がこないのかな?

ジル:ウサギをクマの巣に投げこむようなものです。

シルバー:街の人間にじろじろと見られるのはそのためか。

ジル:あなたは服もらしくない。本能的に獲物を嗅ぎつけている。

シルバー:はやばやと雲雀の声を求めたくなってきた。

ジル:この街にはナイチンゲールしかいませんよ。ついでにわたしも夜の人間。

シルバー:でも……この場所を都会のオアシスのように感じるよ。

ジル:光栄です。時限爆弾がありますけど。

シルバー:なんだって?

デイナ:そのとおりだな!

 

 急にカウンターの奥のドアがひらき、オフィスにいたはずのデイナが現れる。

 

ジル:プロレスの録画はどうしたんですか?

デイナ:つまらん。あいつらは“ひより”やがったのだ。

ジル:八百長ですか?

デイナ:ちがう……しかし軟弱な試合だった。

シルバー:この店には時限爆弾があるのかな?

デイナ:ようこそ……オアシスの友人。閉店が近いと言うことだ。まあ……本当は数週間前に廃業しているはずで……。

ジル:暴動があったんです。

 

 ジルがデイナを遮る。彼女のボスはアキラカに“塩試合”で興奮している。

 

ジル:街の銀行でいろいろとあって……ついでに暴動で複数のシステムもめちゃくちゃになった。

シルバー:銀行のイザコザでシステムがおかしくなるのか?

デイナ:暴徒が誠実だと思うのか? 参加者の半数はドサクサのコソドロだ。プロレスの客にはゴミを投げるために金を払うやつもいる……それと同じことだ。システムの中に店の廃業令のナンヤカンヤがあったのだ。

ジル:無職にならずに済んでいる。ありがたいことに。

デイナ。尤も所詮は延命だ、そのうち復旧は終わる。この店の処理がいつになるかは不明だが……遠いことではないだろう。

 

 デイナが落ちつきを取りもどしはじめる。

 興奮の余波で空腹を感じると、頭がチキンの味に支配された。

 

デイナ:わたしは出かけてくる。たのしんでくれ……オアシスの友人。

シルバー:ありがとう。

ジル:用事ですか?

デイナ:そんなところだ。

 

 デイナが店を出る。

 

シルバー:愉快な人だ。

ジル:いつもあの調子です。ところで本当に観光のために?

シルバー:そうだ。

ジル:ほかに行けるところがあったでしょう。

シルバー:観光と言うのは正確ではないんだ。われわれは知見を求めている。

ジル:われわれ……?

シルバー:われわれと言うのは……連れもいるんだ。アマンダとパール。

ジル:友人と一緒に?

シルバー:今はホテルで休んでいる。失敗だ……こんなに治安がわるいだなんて。

 

 シルバーがビールを一気に飲みほした。

 

シルバー:効くものだ。

ジル:気分を変えますか?

シルバー:穏やかなやつを飲もう。

ジル:分かりました。

 

【穏やかなやつ……甘めでビターとか?】

 

 アデルハイドとフラガナイトとカルモトリンが霊的な現象を引きおこす。

 それは熟成されると水死体のような妖精に産まれかわる。

 

アナ:水死体は紫だと思うけど……。

ジル:ブルーフェアリーです。

シルバー:ありがとう。

 

 シルバーはグラスを眺めたあと、こわごわと海の妖精を口にする。

 

シルバー:典型的なディストピアに興味があったんだ。

ジル:そんなことのために?

シルバー:社会を研究するのもわれわれの仕事でね。人間の……いろいろな様式について。

ジル:それなら……社会学の教授なんですか?

シルバー:どちらかと言うとそれはアマンダのほうだ。わたしも関係はしているが。

ジル:……フーーン……。

シルバー:旅のさなかに沢山の街へ行ったが……この国は……。

ジル:別に不愉快に思われても気にしません。街の住民も思っていますし。

シルバー:不愉快。そうだな……わたしは不愉快になっているのかもしれない。暴力が蔓延しているところには来たことがなかった。

 

 グリッチ・シティ。

 この場所は存在するべきでない。

 企業と犯罪が支配する、網の中のディストピア。

 一九八四年でないことが今年の誇れるところ。

 

シルバー:どこかでホームレスを見かけた。

ジル:この店の裏にもいますよ。よくあることです。

シルバー:それだけじゃない。ホームレスの死体を眺める、別のホームレスもいた。

ジル:よくあることです。その人は何を?

シルバー:分からない。だから……声をかけた。

ジル:……マジ? 危険よ。

シルバー:分かっている。それでも我慢ができなかったんだ……あまりに呆然としていたから。ヘンな感じだった。何かをしてやりたくなった。友人がわたしにしてくれたように。

ジル:ホームレスはなんと?

シルバー:わたしはホームレスに何かを聞いた。彼は“分からない”と言った……泣いていた。話はそれで終わった。

ジル:……。

シルバー:わたしは何を感じたのだろう。経験がない……こんな気分になったのは。

 

 シルバーは宇宙人なのかも。

 

(なんだって?)

 

 だって……挫折を経験していないような年齢には見えないわ。それともボンボンか。

 

(ボンボンは社会学のフィールド・ワークをしないと思う……)

 

 ジョー。それは偏見だわ。

 

(仕事に戻って)

 

アナ:空気の沈みを打ちけすようにドロシーが入店する。

ドロシー:ハニーー!!!!

ジル:今日も元気ね。

ドロシー:ふたりの顔色はテーブルの上のブルーフェアリーのようだけど。何があったの?

ジル:バーは苦悩の坩堝なの。誰でも吐きだしたいことがあるわ。

シルバー:ありがたいことだ。わたしはシルバー……きみは?

ドロシー:オジャマジョチャン。

シルバー:なんだって?

ジル:この子はドロシー。ついでにわたしはジル……言ってなかったよね?

シルバー:わたしのほうでもな。軽率だった。

ドロシー:悩みがあるなら、吹きとばそうか。

ジル:はじまった……セールス・トークが。

シルバー:きみは……なんだろう……セラピストなのか?

ドロシー:まちがってはいない。わたしのセラピーは体を使うけど。あなたがロリコンなら、特に効果は保障する。

シルバー:この店で猥談をしても大丈夫なのか?

ジル:答えはジーザス。

ドロシー:わたしが欲しいのはシュガーラッシュ。

 

【暴走しないようにカルモトリンは控えめに】

 

 アデルハイドとデルタパウダーが乱交に参加する。カルモトリンは直腸へ。

 “これでも喰らえ”だ。

 

ドロシー:今日も上手だね。

ジル:コックに上手は褒めていることになるのかな?

ドロシー:照れちゃって。

シルバー:儲けさせてあげたいが、子供で勃起したことはない。

ドロシー:そんな男でも制服は好き。わたしが制服を着ているところを想像して……性癖が増えるかもしれないよ。

シルバー:恋人もいるし……。

ドロシー:あら……。

シルバー:それにしても少女型のアンドロイドは見たことがなかった。

ドロシー:アンドロイド。まあ……許してあげる、余所者っぽいし。言葉に罪はないからね。

シルバー:きみも分かるのか。

ドロシー:一目瞭然。財布は取られてない?

シルバー:追加で注文をするのが答えだ。

ドロシー:よかった!

シルバー:夜空のようなやつを。

ジル:かしこまりました。

 

【意外と演技をしていたときのヴァージリオのような注文をするな……】

 

 アデルハイドとデルタパウダーとフラガナイトとカルモトリンが天体のように回転する。

 その軌道上で隕石のような氷塊が激突。星々の生命は死にたえる。

 

シルバー:本当にセックス・ワーカーなのか?

ドロシー:そうだけど。

シルバー:ふむ。

ドロシー:何?

シルバー:倫理的な問題を考えてしまう。子供の外見はどうしても……。

ドロシー:法的な倫理はクリアしているわ。

シルバー:分かっている。個人的な道徳の問題だ。人間の性への探究心は尊敬するべきものがある。

ドロシー:それは同意する。エロサイトの数は星々のようだね。

シルバー:最悪の詩情だ。

ドロシー:フフフフ……。

シルバー:ところで性的な悩みを打ちあけるのは有償かな? きみは詳しそうだし。

ドロシー:パトスでないなら。

シルバー:ありがとう。じつはこのところ……なんと言うのか……性欲が……肥大しているような気がする。

ドロシー:よくあることでしょう。若そうだし。

シルバー:事情があるんだ。じつは体の都合で……以前は勃起ができなかったんだ。

ドロシー:病気?

シルバー:病気ではないが……それはヨソにして、体の事情が変わった。健康的な勃起ができるようになったんだ。

ドロシー:おめでとう、シンジくん。

シルバー:ありがとう……そうではなくて。つまりだな……わたしは如何に性欲をコントロールするべきなのか? と言うことを参考にしたいわけなんだ。

ドロシー:恋人がいるんでしょう?

シルバー:うん。

ドロシー:その人にすべてをぶつけると良い。その人もそれを望んでいるはず。

シルバー:その人が望んでいるとしても、わたしが望んでいるとはかぎらない。

ドロシー:どうして?

シルバー:性的なことはきらいではない。それでも極度の興奮は人格を狂暴にしてしまう。

ドロシー:そうね。そんな人をいくらでも見てきた。

シルバー:そうだろう。

ドロシー:つまりはその人を大切にしたいんでしょう? だから臆病になっている。自分の性欲の高まりがコワいのね。

シルバー:恥ずかしいものだ。

ドロシー:ほとんどの人が中学生や高校生のころに悩むことを、あなたは勃起ができるようになったことで、その歳で悩まされることになっているだけ。ジルが中学生のころのオナニーはどんなふうだった?

ジル:猿。

 

 草。

 

(殺すぞ)

 

 わたしも病室でオナニーをしたことがある。

 中学生が猿なのは当然のこと。恥ずかしがることじゃない。

 それとすでに死んでます。

 

ドロシー:あなたは大丈夫よ。どれだけの人があなたのように相手のことを考えていると思う? ひどいやつを何人も見てきた。相手のことを考えないやつを。考えられると言うことはコントロールもできると言うこと。あなたは絶対に上手にやれるよ。

シルバー:わたしはどうするべきなんだ?

ドロシー:正直になるの。

シルバー:正直?

ドロシー:あなたが性欲をコントロールできていないことを相手に伝えるの。ぶつけるかどうかはそのあとに考えるべきだと思わない? わたしも怪物のようなセックスがきらいなわけじゃない……それでも事前に説明がないと。そのほうが誠実でしょう?

シルバー:ふむ。

ドロシー:オプションの料金もちがうしね。

シルバー:ありがとう……打ちあけるかどうか、考えることにしよう。

ドロシー:来たときは暗かったけど、なんの話をしていたのかしら?

シルバー:きみは本当に会話が上手だな。ジル……ドロシーはあの苦悩を解決するのに向いているのだろうか?

ジル:ドロシーはどんなことでもポジティブに変換する。

シルバー:よし……ドロシーにオプションを。

ドロシー:やった!

 

 アデルハイドとブロンソンエキスとデルタパウダーとフラガナイトとカルモトリンがいにしえの鍵盤の音のように熟成される。

 顔が良いだけの――宣伝用の奏者。

 陰気な店長。ふたりだけの観客。

 それでも奏者はたのしそうだ。

 

ジル:ドロシーにピアノウーマンを。

 

 ……都会の夜がまどろんでゆく。

 

 

 

 

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