Ⅸやナヌークからも逃げられるように〜まずはカンパニーを受け流す 作:日登
裏庭12やっとクリアできました。
10年………短命な人間にとっては膨大な時間でも、1000年とか生きる種族の蔓延るスターレイルの世界では初心者扱いされる修行時間。
そんな10年の成果、俺は【神秘】の運命をそれでも必死に歩んだ結果。
【神秘】に関するすっごく微妙な能力を手に入れた。
いや応用すれば凄いことはできるんだよ? けど普段はあまりにも使い所が限られる上に、使っても簡単に破られるとかいうザコ能力でしかないのだ。
目標は、カンパニーがこの星から手を引いた上で、その後のスウォームの襲来を乗り切ること。
「–––––で、その【神秘】の能力を使って、俺たち『巡海レンジャー』の救難信号を偽造したってかぁ? ……イカしたマネしてくれるじゃねえかベイベー!」
「でしょ! ありがとう。ほんとうに危なかったんだから! ニュースで流れてたでしょ、うちの星が九割以上、占拠されかけたって!! ……だからありがとね、おじさん」
「おじっ?! おい坊主、感謝するならおじさんって呼び方やめろ、俺はまだおじさんって歳じゃねぇ!」
朗報、巡海レンジャーに助けを呼んだらブートヒルが来た。
そりゃあ来るよね? だってこの人、カンパニーの市場開発部に故郷燃やされてんだもん。
いやーマジでサイボーグだ。マジでかっこいい。ギザ歯だ、ターゲットマークみたいな目だ、生ブートヒルだ!!
一人のスターレイルファンとして、原作キャラに出会ってテンションが上がらないはずがなく。
「おい腕にぶら下がるな坊主。俺の体、間接剥き出しだから皮挟んでも知らねえぞ? …あー何で懐かれちまったのかね」
ふっ、この体が10歳で良かったぜ。復讐誓ったとはいえブートヒルは元から気の良い兄ちゃんである。面倒臭そうにしながらも割と甘やかしてくれた。
「………というか坊主、よく俺たちへ救難信号を出せたな。カンパニーのベイビーどもは、セキュリティ徹底して、俺たちに見つからないようにしてただろ? 救難信号も妨害されるはずなんだが」
「たぶん、この救難信号が本当は
「………【神秘】の改竄能力か。しっかし坊主の故郷は【純美】の勢力だろ? そっちを信仰しなくて良いのか?」
「? イドリラ様は信仰しているし【純美】も歩んでいるよ? 別に一つの「運命」に縛られる必要もないじゃん」
「………そうだな。ああ、坊主はそれでいい」
ヤベッ地雷だったかも。そういや【巡狩】……復讐の運命って復讐一筋で他には曲がれない人たちだったんだ。
ブートヒルは寂しそうに笑いながら、小さな俺の頭を撫でてくれた。
「あー少し湿っぽい空気になっちまった。話戻すぞ、坊主は頭いいだろうから聞くが……気づいているか? カンパニーの奴ら、まだこの星の支配を諦めてねえぞ」
「うん。その、虫の大群が来るから守るって言ってるらしいね……一応聞くけど本当なの?」
「
やっぱり。
「一応、『純美の騎士団』って勢力にお前らの保護を引き継いでもらうよう取り計らってはいるけどよ。……正直、この星は捨てて逃げた方が良いぜ」
「ありがとうヒル兄ちゃん。……けど、できない。この星の美しい文化がなくなってしまう」
「文化ぁ? 文化や歴史をぶっ壊して改竄するのが、お前ら【神秘】の運命だろうが。
よく特殊能力に目覚めるまで【神秘】の深みにたどり着けたな」
「いやぁそれほどでも」
「ほめてねえよ!? つーか生きろ、命あっての物種だ。文化なんざ人が残っていればいくらでも」
「いくらでも再現できる……そんなの
人さえ残っていれば、いくらでもやり直せる。
ブートヒルの言い分は理解できるし、物語なんかではそっちの言い分の方が正しく書かれるのだろう。
だけど、
「……僕は、この星にお世話になった」
星など、土地など代わりはいくらでもあるとしても。
「……先人が築いた文化に、平和に世話になった」
もっと平和な星があるとしても。
こんなこだわり無意味だって笑われても。
命を危険に晒すだけで、なんの意味もない虚無だとしても。
「……僕が産まれて、恩があるのはこの星なんだ。その恩を忘れて、星が危険ですじゃあ見捨てて逃げます、なんて不義理は
「……その無駄なこだわり、意味も必要もねえぞ」
「意味なら作ってやるさ。たとえ意味ないって呆れられても、意味のないって常識ごと上書きして改竄してやる」
僕ならできる。
だって、
「俺たち【神秘】は、常識を塗り替える運命なんだから」
ブートヒルはオーバーリアクションで肩を落とす。
「ホーリーウーウーボ……。1ヶ月、1ヶ月だ。純美の騎士団が来るまではお前のこと手伝ってやる。……その間にカンパニーとスウォームを何とかする目処を立てろ。それが無理なら、拉致してでも、坊主をこの星から逃すぞ」
「ありがとう。俺も家族いるし、そこは約束する」
そうして俺たちは指切りげんまんで約束した。
***〈ブートヒル〉視点***
救難信号を出したガキは、どうも憎めなかった。
つい重ねてしまうほど俺に似すぎているのだ。
故郷を愛して、今まさに故郷がカンパニーの市場開発部に理不尽を受けて、故郷のために戦って。
このガキの人生、故郷滅ぼされる前の俺と、ほとんど同じじゃねえか。
……俺もこいつみたいにレンジャーや純美の騎士団を頼って、助けを求めていれば、家族ぐらいは逃がせたのかねぇ。
けっ。やめだ。自分をガキと重ねて見るなんざ、鉄の復讐者のやることじゃねえ。
「おい坊主。その、もう一人のお仲間ってのは使えんのか? カンパニーとの戦いで足手纏い抱えんのはゴメンだぜ」
「大丈夫。今から味方にする娘……ザイちゃんって、いつもはぐうたらだけど、状況さえ整えてやればスゴイできる子なんだから。神様だって負けない。ザイちゃんの育ての親にして婚約者の僕が保証します!」
「育ての親って……いや婚約者って……マセガキ坊主おまえまだ10歳だろうが」
「いやぁー拾っちゃって」
ガキを拾って育ててもいんのかよ……。マジで俺の人生そっくりじゃねえか。
こいつが星や家族を失わずに、復讐なんて考えねえ未来を作ってやりたいもんだ。
「……一応言っとくが、その【神秘】の能力でカンパニーを騙そうとか考えるなよ。
奴らは神秘対策のノウハウだって完璧だ、もしバレたら宇宙中で指名手配されて一生カンパニーの奴隷にされんぞ」
「うへぇ、なんで一企業がそんな権力持ってんだよ……てか、侵略なんてする企業の商品がなんで売れるんだよ」
「報道も奴らが牛耳ってんだよ。奴ら以上に商品を宣伝できる奴らは居ねえし、フェイクニュースもお手のもん。……俺の故郷も奴らに滅ぼされてな、けど、表向きには原因不明の事故ってことにされてる」
「……その隠蔽に、もしも【神秘】が関わってたら言ってね。僕の【神秘】の腕前でどこまで暴露できるわかんないけど」
そうこう話しているうちに、俺たちは目的地に辿り着く。
そこは教会だった。【純美】の星神イドリラ………をイメージした像が崇められ、裏手には田畑の広がる自然豊かな純美の教会。
この星は、【純美】の加護のおかげで人間の基本スペックが高い。だからガキでも労働に勤しんでるし、大人だって勉強の時間がある。
勉強と仕事を効率よく済ませた時間で、趣味をしたり美を探求したりするのがこの星の文化らしい。
で、その
ザイはすぐ見つかった。目を奪われた。
思わず、
「おーいザイちゃーん、いるー?」
「うげーなんで来たの変態……。拾って育てた女の子と結婚する変態の顔なんて見たくないんだけど」
「そう言わずにさー、ちょっと星の危機を救いに行かない?」
「ヤダめんどくさい。どーでもいいから、グータラしてたい」
「そっか。じゃあ大丈夫、無理には強制しない。用事も済んだし僕はこれで……」
「え……う、うぅ……ぐすっ、ひぐ……置いて行かないで!! せっかくなら仕事終わるまで待ってて、後でおんぶして連れて帰って!!」
ワガママ言って、嫌なことあったらすぐ泣くその言動は、ただの反抗期と好き避けの混じった小娘だ。
ちょっとワガママだが、坊主はこの嬢ちゃんの育ての親らしい。7歳のガキなんて親に甘えてなんぼだろう。
乱れてなお美しい黒髪、ベビーフェイスな黒目。7歳児とは思えない別嬪な見た目をしているが、そんなことはどうでもいい。
………こいつ、何者だ?
こいつを渦巻く虚数エネルギー、間違いなく『司令』級、というか司令の比じゃねえ。
この自分が消えそうな感覚、多分こいつは………。
「あ、紹介するよ。この子がザイ……え?」
「ベイビー。済まねえな、銃を向けちまって」
「な、なんで」
「覚悟を試すためだ………質問するぜ。そいつ、なんだ?」
ガキに銃口向けて脅すなんざ自分でもヘドが出るが、「宇宙全体の危機」と比べて、背に腹は変えられねえ。
銃口を向けると、坊主は、怯えながらそれでも強気に言った。
「家族」
「そういう話じゃねえ! ベイビー、わかってんのか? ベイビーはこの星が大好きなんだろ? なら、なんで
「それでも大切な家族なんだ。どんなに危険でも。誰が、何と言おうと」
坊主は、背後に手を制しながら、在という名の小娘を背に庇う。………いや違うな。この小娘を制して、俺を庇ってやがる。
「こいつが何者なのか、確かに俺は知ってる。どれだけ危険なのかもわかってる。………けど、1番大切な人なんだ」
銃口を向けられて、怯えながらなお、家族だと言う。
……親ってそんなもんか。
……ハニーを庇う男ってそんなもんか。
「はぁ………悪かった。試すようなマネしてな。そいつについては後で説明しろよ」
「もちろんけど、その、誰にも言わないでね?」
指切りゲンマンってな。
Tips:幸造(こうぞう)
本作の主人公。
ゲームとして『崩壊スターレイル』をプレイできた世界から、星神信仰のある原作世界に転生した。
運命は【神秘】を中心に、【純美】ともう一つ、合計三つの運命を歩んでいる。しかし神からの一瞥はまだである。
名前の由来は、彼の親が「幸せをいっぱい造れますように」と願いを込めたため。
家族を悲しませまいと、自分が転生者だとは墓まで持っていくつもりである。