Ⅸやナヌークからも逃げられるように〜まずはカンパニーを受け流す   作:日登

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 非ログインユーザーの感想ってONにできたんだ……と気づいて、受け付けるようにしました。


 あと読み返して、前話のCパート、ブートヒル視点が終わった後のくだりが要らないと思ったため削除しました。


なぜ【神秘】なのか

 俺の【神秘】の能力について語るため、少し前置きを語る必要がある。

 なにせ花火の変身能力といい、ジェパードの頑丈さといい、運命の行人のもつ異能力は少なからず「過去の人生」や「目標」に影響されていることが多いのだから。

 

 

 

 さあ時計を巻き戻そう。

 僕が産まれた0歳まで。

 

 ほらライトノベルとかでさ。転生者が赤ちゃんの頃から魔力鍛えて無双する展開あるだろ?

 もう見飽きたってほどテンプレになったあれ。

 せっかく転生したなら俺だって同じことするよなぁあああああ。

 

 

 

 …………なんて気楽に考える余裕はなかった。

 

 

 

 スターレイルの世界には【虚無】の星神がいる。

 

 

 「この世の中は全て無意味で、何も存在してない」という盲信から全てを消し去るヤバい神様。

 原作のピノコニー編2章で擬似的な死を体験したアベンチュリンが虚無に近づいたように、黄泉やティエルナンが大勢の死に触れることで【虚無】の運命に関する存在になったように。

 

 スターレイルという作品では、死に近づくと【虚無】に近づくのだ。

 

 そして、体がどんどん消えていく難病に罹る–––という設定がある。

 

 

 ………なら、転生しており、一度完全に死んでいる俺は?

 刃ちゃんのような不死身……死に嫌われた存在でもなく。

 持明族のような、【不朽】の生まれ変わりの加護を持っている訳でもない俺。

 更にはこの世界をゲームだと……現実に「存在してなかった世界」だと認識していた俺は?

 

 当然、虚無に近づく。

 Ⅸに近づいた他の者と同様に––––どんどん自分の存在が消えて虚無になっていった。

 

 卵子の頃から、脳みそがない状態でも意識を保ちながら転生して、その瞬間に虚無の星神()に遭って、自滅者になった。

 

 

 

 

 

 ……さーて問題です。

 俺はどんどん存在が消えていく訳ですが。

 自滅者になった俺が、まず最初に失ったものはなんでしょーか?

 

 ヒントは、俺の中にあったけど厳密には俺の物ではない、そして超大事なものです。

 自分ではなく、他人の人生に関わるものです。

 

 

 

 

 

 

 

 ––––答えは、「本来産まれるはずだった元の肉体の持ち主の魂」だった。

 

 

 

 

 

 

 

 何も悪くない赤ん坊の魂だった。

 

 

 

 

 憑依転生、というジャンルがある。

 ゲームや漫画、小説に登場していたキャラクターに自分の意識が成り変わり、無双したり運命を変えたりするストーリーなのだが。

 当然、転生されたせいで、元のキャラの人格は変わったり、消えたりしているわけだ。

 

 なら、転生者が肉体を奪ったことで消えた魂はどうなったのだろう。

 

 

 

 

 他の作品ではわからない。ミホヨですらパラレルワールドを世界観に取り入れているのだ。

 もしかすると宇宙が違えば、二つの魂が融合したり、二重人格になっていた未来もあったのかもしれない。

 

 

 ただ、俺の産まれたこの世界では、憑依転生すると元の魂は【虚無】に吸収されるらしい。

 

 

 俺の場合は、間違いなく、自分が乗り移ったことで元の子どもの人生を奪ってしまった。

 

 

 自分が転生したことで、他の誰かの命を奪ってしまったのだ。

 

 

 

 罪悪感で気絶しそうになりながら。

 自分が意図せず殺人者になったことに怯えながら。

 消滅してしまった魂に、どうやったら償いができるか必死に考えながら。

 

 

 

 

 この過去を塗り替えよう。

 

 

 決意した。本当に被害者のためを思うなら、道は一つ。

 

 自分の犯した過ちを塗り替えて、被害者を救い出そう。………という【神秘】、過去の過ちを改変する運命を選んだ。

 

 

 【神秘】は歴史を塗り替え、今と未来を改変する能力。

 この能力なら、自分のせいで死んでしまったあの子を取り戻し、自分のせいで死ぬことのない過去を与えてやることができる。

 

 

 

 

 必ず、虚無に染まった元の魂を冥界から連れ戻して、あの子にあるべき幸せな人生を返してあげよう。

 

 

 「運命」とは、歩んだ選択と覚悟の力。

 

 【神秘】の運命を全速力で進んだ。

 家族が優しいことに気づいてからは更に罪悪感を刺激されながら、血反吐吐いて、自分のせいで家族を悲しませまいと血反吐すら隠して、更に頑張って。

 そんな覚悟が、功を制したのだろうか。

 

 運も良かったのだろう。

 

 3歳の頃、俺はようやくあの子を取り戻した。

 

 

 

 そして、【神秘】の力で現実を改変して、本来手に入れるはずだった肉体を与えた。

 この星の住民は、遺伝子ではなく魂で性別が変わるらしく、産まれてきたのは女の子だった。

 

 ちなみに俺は男だ。肉体も精神も。本来はうちの両親からは女の子が産まれるはずだったのが……俺が前世で男だったから、それすら歪めてしまったらしい。

 

 

 必ず、この子が本来あるべきだった人生に戻してあげる。

 

 必ず、この子を幸せにしてやる。

 

 

 

 

「存在してくれて、ありがとう」

 

 

 そんな意味を込めて………その子に、(ザイ)と名付けた。

 

 

 あとはザイちゃんに、元の人生を返してあげるだけだ。

 

 

 

 …………以上が、俺が「存在しないものを上書きする」能力に目覚めたきっかけだ。

 

 

 

***

 

 

 

 罪悪感とは無関係に、この星と家族は大好きだ。

 

 優しい世界、優しい家族。

 今はそれらに俺の秘密を隠すため、彼らが危険な目に逢う未来を塗り替えるために【神秘】を歩んでいる。

 

 そして、

 

「コウちゃん、コウちゃん! 見て! 虫さん!」

 

 あー娘がかわいい。

 

 本当に泣きそうになる。自分のせいで一度は虚無に染まってしまった子どもが、平和な星で、虫すら殺さずに笑顔で遊んでいるのだ。頑張ってよかった。

 

 本当は俺、自分の存在を消して、家族には【神秘】の現実改竄で「元からザイちゃんが娘だった」、「俺はいなかった」って本来の歴史に戻そうとしたんだけどね?

 

 ザイちゃんが泣きながら「ヤダ! コウちゃんがパパなの!」って抱きしめてくれたんだよ!!

 

 自分は加害者だって説明しても、元の親は違うかもしれないって言っても、ずっと甘えてくるんだ。「離さない! そんなの知らないから行かないで」って顔を服にうずめてくるんだ。

 

 

 

 もうね、泣きそう。

 罪を許された。愛された。それだけで救われた。

 

 

「ちょっカメムシ近づけないでよ! 俺、昔パンツにカメムシ入ったまま寝転んじゃったせいでトラウマなんだから!」

 

「知ってる! やーいコウちゃんのビビりー!」

 

 

 今は絶賛、反抗期だけどね?

 

 

「それ、僕以外にはやっちゃダメだよ?」

 

「ニシシ、コウちゃんだけの特別だよ?」

 

「おい坊主、甘やかしてばかりじゃ教育上スウィートなことになんぞ? こいつ多分、他所でも似たことやってるぜ? こういうのはガツンと言ってやらなきゃ、どんどんエスカレートして––––」

 

「うっさい説教ジジイ! 人にピストル向けるオッサンに言われたくない!」

 

「あぁ? 口答えしてっとロクな大人になれねえぞ! ベイビー、擁護たのむ」

 

「すみません。娘には勝てないんです! っていやピストル人に向けるなってのは正論だよね。俺、怖かったんだけど!!」

 

「? あーそうか。忘れてた、確かに俺が悪いな。済まねえ。お前らの星じゃあ常識が違うんだったな。………けどよ、一つ言い訳させてくれや。……カンパニーと事を構えてっと、少しのリスクに銃口を向け合うなんざぁ軽い挨拶になってくんだわ」

 

「そっか……そりゃ危険な宇宙旅してたら、危険な現地民には臨戦体勢を維持するのは基本か。……てか俺らも今カンパニーとの冷戦中じゃん。ごめん。俺もそっちの常識を考えてなかった」

 

「いいってことよ。ガキに大人の常識強要したのは俺も同じだ、な? 手打ちと行こうぜ兄弟!」

 

 ザイちゃんを迎えに行った後、俺たちは遊ぶザイちゃんをあやしながら作戦会議を開いていた。

 

 

 会議の口火を切るのは俺から。

 

「そもそも仮にスウォームの進行を防げたとしても、絶対カンパニーはこの星の【存護】を諦めないと思うんだよね。………根本的にこの星を諦める理由を提示しないといけない」

 

「俺としちゃあ市場開拓部のベイビーどもが集まるのは好都合だが、この星を巻き込むのぁ流石にキュートだからな。アドバイスだが………カンパニーは利益至上主義、要するにお金儲けが1番の派閥だ」

 

「つまり、この星を侵略する以上のメリットを、カンパニーに提示すれば解決すると?」

 

「話が早えじゃねえか。まあ俺の復讐も考えてくれんなら、できれば『市場開拓部』の不利益になって、そこと喧嘩している『戦略投資部』ってとこの利益になる………ああ済まねえ。説明がまだだったな」

 

 そうしてブートヒルは、俺たちに絵でわかりやすくカンパニーの部署や部署同士の関係性を教えてくれた。

 

「まあ、つまりだ。『戦略投資部』は少ーし損をさせても、メリットがあれば味方してくれるって訳よ!」

 

 そういやストーリーでも言われていたな。

 ダイヤモンドは結果至上主義。

 アベンチュリンがカンパニーに詐欺を働いた際も、それ以上の利益があると売り込んで結果を出せば高級幹部にまで昇進できた。

 貴石を砕いた時もなんだかんだで許されたし、

 

 

「でも、メリットって……」

 

「はい、はーい! わたしなら役に立つと思う!」

 

 と、ここで声を発したのがザイちゃん。

 

 しかも内容的にはあながち間違いではない。

 

 どころか、この親バカの色眼鏡を抜いたとして、客観的にこの星で最も価値のある存在を考えると、まあ間違いなくザイちゃんになる。

 

 ザイちゃんのこと、ヘルタが知ったら飛んで来るぞ?

 

 けど、

 

「うーん。まあカンパニーなら、ザイちゃんを寿命まで幸せにしてくれるってなら、交渉札に使うってのもありなんだけど」

 

「やめとけ。嬢ちゃんはメリット以上に、危険がデカ過ぎる。一生、金に汚えハニーどもの悪意に振り回されんぞ。人生、壊れんぞ」

 

「むー。でも、この星って他に価値のある物、ないんでしょ?」

 

 痛いところを突かれた。

 

 この星は文明レベルが低い。たとえ価値あるものがあっても、簡単に略奪できる。

 

「なあ坊主、お前さんの【神秘】って結局どこまでヤレるんだ?」

 

 星全体がダメとなると、残る選択は二つ。

 

 個人能力で利益を提示するか、他の巨大勢力に頼るか。

 

 ……で、ザイちゃんがダメなら、次点で俺が能力を売り込むのが良いって訳だが。

 

 

「………あまり効力は強くないよ? 認識しているその場の一人でも【神秘】を暴きたいって思えば、一瞬で解けるし」

 

 虚構歴史学者のギャラガーが、週休七日に身バレしたせいで最後には消えちゃったのと同じで。……【神秘】ってバレると、とたんに効力を失うんだよ。

 

 まあザイちゃんの肉体と魂は、虚無から取り戻す際に「他の運命」を混ぜたから、神秘を解いた今でも普通に生きられているけど。

 

 このビミョーな能力、マジで対人相手だと、不意打ちくらいにしか使えないぞ?

 

 

「………まあいい、ちょっと戦ってみろ」

 

「なんで!?」

 

「ベイベー……。これからスウォームと戦うかもしれねーんだろ? 俺も実力を正確に知ってねーと、庇って戦えばいいのか、戦力に数えていいのか判断つかねえんだよ」

 

 

 すげえ正論。

 そりゃ今から戦いになる可能性あるなら、味方の戦力はできるだけ詳細に知りたいよな。

 

 そう言って、ブートヒルは一つの箱を取り出す。

 

「昨日カンパニーからパクってきた、真蟄虫のサンプルだ。……奴らマジでスウォームにこの星を襲わせる気だぜ?」

 

 

 ブートヒルは嘘も吐くし冗談も言うが、ライン越えの冗談は絶対に言わない男だ。

 腹芸も不意打ちもできるが、基本は正々堂々の決闘を好む。嘘で他人を操って裏で策略を巡らせるイメージはあまりない。

 

 マジで、カンパニーの奴ら……。

 

 

「わかった。じゃあ俺のビミョーな能力、いっちょ見せてやるとしますか!」

 

 そうして俺は、戦いの火蓋を切った。

 

 

 

 

***

 

 

 ––––「存在しないもの」を上書きする能力。

 

 

 この世から消滅、()()()()()()()()少女の魂を再現しようとした俺の覚悟が現れた能力。

 

 

 チートじゃんと思い、いざ蓋を開ければ、【神秘】という運命のせいで残念な性能になった能力。めっちゃビミョーな能力。

 

 なんだよ。その場の誰かが「そいつは偽物だ! 消えろ!」って()()()()()で能力が解除されるって!?

 いや原作にもそんな描写あったけどさぁ……解除の条件が緩すぎませんか?

 ネムリに刺される直前ですら、せめて暴露の言葉はありましたよ? せめて思うじゃなくて、言うくらいには条件厳しくしようよ!

 

 

 

 なんて嘆きはしたが、この能力のおかげで目的が達成できたのは事実だった。

 

 それに、この能力、知性のないスウォームやそもそも解除する意思すらない虚無の神様()なんかにはめっぽう強い。

 

 何より、スタレのファンにとっては夢の国みたいな使い方ができる。

 

 

 今、戦う理由は、奇しくも原作と同じ、託された星を守るため。

 

 他の【運命】の派閥に乗っ取られそうな、先代の愛した星を守るため。

 

 

 

(原作再現! ………『クロック・トリック』)

 

 

 

 いま、()()()()()感情を植え付ける。

 

 ファンお馴染みの、開拓者がピノコニーで使っていた感情を操る能力の【神秘】による再現だ。

 皮肉にも、意思の力で跳ね除けられるところまで原作通り。

 

 

 まあこちらは「相手の今の感情を消せない」「既に相手に存在する感情は植え付けられない」という、これまたビミョー要素を加速させる厄介な縛りがあるのだが……。

 

 

「スウォームども、『共食い』しろ!!」

 

 

 スウォームには、繁殖する本能以外は()()()()()

 

 それはつまり、俺の【神秘】を解除しようと考えることもできず、更には色んな「存在しない本能」を上書きし放題ということだ。

 

 

 

 俺はやっぱり、スターレイルというゲームが大好きなのだろう。

 

 

 

(原作再現! ………『運命切替』)

 

 俺の戦い方は、あのゴミ箱系主人公を模倣している。

 

 一時的に、自分が歩んでない、自分に()()()()()()運命へと切り替える。

 

(運命切替–––【知恵】。祝福発動、『運命の反響』)

 

 

 能力の参考にするのは、「模擬宇宙の祝福」。

 

 知恵の運命の反響。

 虚数属性の全体攻撃を行いながら、1番体力の多い敵に対して追加攻撃が発生する特殊状態を付与する、そんな攻撃ができる祝福。

 

 どうやら洗脳した敵は敵判定と同時に味方判定になるらしく、スウォームの攻撃でも追加攻撃が発生して、スウォームの行動によってエネルギー(RP)が溜まる。

 

 

 毎秒、数十発は「運命の反響」を連打できる。

 

 スウォームが分裂して体力満タンの敵が追加されても、追加攻撃はそいつを優先して狙う。

 

 

 共食いによる、スウォーム同士でのダメージ。

 運命の反響発動時のダメージ。

 特殊状態『シナプス共鳴』による追加攻撃。

 

 一匹、スウォームが爆発する。

 

 そのダメージで、またスウォームが爆発する。

 

 その間に、再び運命の反響を使う。

 

 共食いは終わらない。

 

 

 

「………と、まあこんなもん」

 

「ブラボー! 普通に強えじゃねえか」

 

「さっすがー」

 

 

 スウォームの殲滅時間、10秒。

 

 ちなみにこの戦法、スウォームの数が増えるほど有利になってくる。

 

 

 

 ………まあカンパニー社員が「消えろ」と念じるだけで、使えなくなる戦法なんだけどね!?

 

 

 

 




 ちなみに、「崩壊」の名のつく世界では基本的に死者蘇生はできません。
 これは主人公のコウちゃんも例外ではなく。

 あくまで「産まれる以前の魂だった」こと。
 虚無から取り戻す過程で普通は自分も虚無に染まるが、主人公が転生者……一度虚無に染まってから転生したスタレ世界の奇跡で虚無への耐性がバカみたいに高かったこと。
 不可能だからこそ「可能性が存在しない」という現実を上書きできたこと。

 様々な奇跡が重なって、虚無からの完全救出が成せたわけで、そう簡単には人を蘇えらせれません。
 仮に人を生き返らせようとしたら……その人の生きた歳月の100倍の時間、飲まず食わずで集中しないといけないでしょう。
 
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