Ⅸやナヌークからも逃げられるように〜まずはカンパニーを受け流す   作:日登

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過去のやらかし

 

 

 –––––存在しないものを上書きする能力。

 

 ザイちゃんの過去を上書きするために手に入れた能力。そして、いざ本来の目的である「ザイちゃんの魂」を掬い上げたはいいが。

 

 

「え、これ肉体どうすんの?」

 

 

 6年前の俺は、魂だけを保管しながら悩みに悩んでいた。

 

 

 ––––俺の能力は、「存在しているもの」の上書きが苦手だ。

 

 能力や感情のような概念はそこに存在しないことの方が多いので簡単に上書きできるが。

 肉体のような物質を上書きしようとすると、そこに空気や地面があるだけで失敗してしまう。

 

 カンパニーの侵略から星を守るために、巡海レンジャーを呼ぶ信号弾を作った時なんて、弾丸一つ再現しただけで気絶したのだ。

 ––––空気や地面が()()()()()()場所で、人の肉体を完璧に作ろうなんてすれば、俺の命がいくらあっても足りない。

 

 あの子の人体錬成が成功するなら、真理の扉に右足だろうが左腕だろうがくれてやるが、それで失敗すれば世話ないのだ

 

 だから、環境が必要だ。

 空気も、地面も、果ては空間や時間すら存在しない場所。そんな場所が必要だ。

 どうしようか、いやそんな場所ある訳……そんな風に悩んだ末。

 

「いや、あったわ」

 

 ––––何もない空間。

 あったのだ。スターレイルの世界には、何もない空間が。

 というか、ずっとそこを探していたのに、当時の俺はどうして忘れていたのだろう。

 

 

「【虚無】の星神の中なら、何もないじゃないか!!」

 

 

 –––––虚無の神………「存在しない」を司る神様。

 

 

 何もせずプカプカ浮いているだけで周りの全てを消滅させ、あくび一つで世界を滅ぼせる超越存在。

 

 この神様の特徴は、全てが虚無。どこにでも存在していて、どこにでも存在しない、という変な特性を持つ。

 だから、普段は見えないだけで、家の中にだって存在する。家からリモートワークの要領で干渉することができた。

 

 –––––虚無の神の中なら、「存在しない」の上書きを最大限発揮出来るかも。

 

 思い立ったが吉日、昔の俺はやった。

 

 え? 俺の能力は、相手が「消えろ」ってやったら解除される、重大な欠点がなかったかって?

 

 

 –––––虚無の神は、意識すら「存在しない」。

 

 意識がないなら、俺の能力は抵抗されない。

 邪魔されないなら思う存分、やっちゃえ。どうせ、こいつがザイちゃんの魂を虚無にした元凶なのだ。

 

 もちろん簡単にはできない。さすがは神様、たとえ意識がなくとも上書きしてもすぐに虚無に戻される。

 

 ––––だから、虚無自身の力も借りた。

 だって虚無の神様の中は何も存在しない。なら、「何も存在してない空間」すら存在してないはずだろ?

 と、半ば強引な方法で虚無自身の虚数エネルギーを利用して、その場にザイちゃんの肉体を作ろうとした。

 

 

 

 –––––結果は、成功。本来産まれてくるはずの肉体で、ザイちゃんは魂まで完全に蘇生できたのだが……。

 

 

 俺はこの時の判断を、ちょっとだけ後悔している。

 

 

 

 

****〈ザイ〉視点

 

 

 ––––星神には、「運命の拡張」って概念がある。

 

 

 司る運命の解釈によって、神様も進化して、強くなったり弱くなったりするのだ。

 

 ––––コウちゃんは昔、本当に虚無ならば「存在しない」ことすら存在しないはずでしょう? って上書きをした。

 

 ––––虚無の星神は、たったそれだけで進化した。

 だって、この世に存在する全てを虚無だと認識できるようになったのだから。

 

 

 

 コウちゃん。

 

 私の大切な人。

 

 育ての親で、仲の良い3歳差のお兄ちゃんで、「結婚して!」って言ったら頷いてくれた大好きな人。

 …………私のこと、まだ子どもだと思ってるのかな? 結婚云々もどーせ大人になれば忘れる、とでも思っているのかな?

 

 

 –––––3年間、ずっと虚無の中で、私を助けようとしている所を見てきたんだよ?

 どの肉体に魂が宿るかなんて、別に誰が悪いって訳じゃないのに。

 

 

 

 

 私にできることは少ない。

 ちょっと大規模なことをしようとすると、すぐにフーちゃんやクリちゃんがぶっ飛んできて、私のことを止めようとする。

 

 

 

「ねえクリちゃん、だからハンマー振ろうとするのやめて? 私ほんとに居るだけで、なにもしないから」

 

「……………」

 

 

 私は、【虚無】を上書きして蘇生された。

 

 そして、この世の虚無は、全て虚無の神様()に繋がっている。

 

 

 –––––コウちゃんが上書きしたのは、ほんの一部。

 

 それでも、コウちゃんは「神様を上書きして」私の体を作ったのだ。

 

 

 

「………なん、で」

 

 私は、どこにでも存在する。

 

 ピアポイント。敵の本拠地にだって存在する。

 

「なん、で、喋っている……」

 

 

 あの人、すごいな。

 

 いくら私が「周りへの影響」をある程度消滅させているとはいえ、まだ声を出せるなんて。

 

 

 

 

 神様、2柱を前にして。

 

 

 

 

「なんで、【虚無】の星神に、意識があるっ!?」

 

 

 –––––私は、Ⅸの一部。

 

 

 

 私の肉体自体は、そこまで凄いものじゃないのだ。

 

 できることは、覚えたばかりの農業と、Ⅸの本体が訪れても周りへの影響を抑えられること。

 

 

 

 そして、またⅨと同化して、突っ立って居ることくらいである。

 

 

 ––––その日から1ヶ月間、ピアポイントは荒れた。

 ()と、琥珀の王が面と向かって、ただ突っ立っているだけで誰も動けなくなった。

 

 一応、餓死しないように、虚数エネルギーが流入して悪影響を及ぼさないようにお互いに調整し合ってはいたけど。

 ………これで援軍は来ないよね?

 

 

 ––––【虚無】の神様は、もともと何の意識も意思もなかった。

 

 けど「存在しない意識」は、あの能力で上書きされた。

 

 私の魂と、意識が存在できるように上書きされた。

 

 

「………存在させてくれて、ありがとう」

 

 

 

 コウちゃんと結婚したいなぁ。

 そしてニートになってグータラ生活したいなぁ。

 

 

 ………私がものぐさなのって、たぶん虚無のせいだよね?




 ちなみに、ザイちゃんは自衛目的以外では【虚無】の能力を使えません。
 使うと均衡やら存護やらがブチギレて、殺しにかかってきます。自衛に使える能力も、最低限でなければなりません。

 あと、ザイちゃんはⅨの一部ではありますが、Ⅸ本体ではありません。ただⅨを操って、その影響を抑えられるだけです。
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