不可能男との約束   作:悪役

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斬れ 斬れ

斬って前に進むことこそが剣神魂

配点(疾走)


刃の始まり

 

瞬間、立花宗茂は斬り裂かれたかのような錯覚を得た。

 

「なぁ……!」

 

思わず、立ち止まって、体を触ってしまう。

無論、無傷。

さっき感じ取ったのは、ただの錯覚である。ならば、現実の自分の体に傷などついているはずがない。つまりはただの勘違いである。

だが、得た感覚は錯覚でも、それを得る理由については錯覚ではない。

自分はさっきまで彼らの城であり、今回の勝利条件の一つでもある武蔵の攻撃をしに来た。

あれだけでかいのに剣術など通じる筈がないというのは、同感だが、自分には大罪武装、悲嘆の怠惰(リピ・カタスリプシ)がある。

これならば、流石に準バハムート級の武蔵を落とすとまでは行かないが、航行は不可能レベルの損害を与える事は出来る筈だ。

無論、武蔵の総長連合もそこは読んで行動しているはずなので、迎撃に誰かを出しているとは思ったが、この感じは

 

「剣神ですか……」

 

本多・二代ではないことは知っている。

彼女は本陣の側に出ているらしい。来るのならば、彼女と相対することになるであろうと思っていたから、多少は驚いた。

そして、彼女以外に私と真面に相対できるものは武蔵にはいないと思っていたのだが

 

「……」

 

さっきまで目印代わりにしていた気配が、さっきまでとはまるで別人かのような剣気を振りまいている。

教皇総長も言っていたが、彼を無能と扱ったことは見落としだ。

もしくは、彼の演技力が高かったのかもしれないが、これは別格だ。

この雰囲気を知っている。

三征西班牙で、私達の副長、弘中・隆包副長と似て非なる雰囲気だ。

武芸を少しでも齧った人間から副長クラスを見ると、やはり、何かが違うのだ。実力もそうだが、その纏う雰囲気が並の戦闘者や特務のレベルである我らと何かが違う。

だが、そこまで考えて自分の考えを振り払う。

 

何を馬鹿な……。

 

確かに、相手は副長だ。

違う教導院とはいえ自分よりは役職は上だし、剣神という存在は未知数なので、何をしてくるのか解らない。

そう言う意味では、不確定要素ではあるが───彼は訓練をしていないのである。

幾ら、才があったとしても、それならば恐れるに足らず。

たかだか、才ごときに負ける様な、訓練もしていなければ、矜持も持っていないのである。

自分に勝っていいのは、最低、それくらいをしている人か、誾さんだけである。

それ以外に負けたら、自分が自分を許せなくなる。

故に引く筈がない。

止めていた足を再び動かす。目指す先は、この木々を超えたこの鋭い剣気を放っている気配の元。

 

剣神・熱田の下に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直ぐに彼は見つかった。

彼はこの森の少し開けた場所で、布を巻いた剣を肩に担いで立っていた。

そして、何故かは知らないが、少し俯いていたので、前髪で目から鼻まで隠れていたのだが、表情は口を見ただけで理解できた。

笑っていた。

心底快いと、心底面白いと、心底愉快だと笑っていた。

その気持ちは、さっきまで表示枠を見て、武蔵の総長の言葉を聞いていたから男として、侍として理解できる。

そして、自分が顔を俯かせていたことに気付いたのか、笑みの形を少し変え、私と向かい合った。

 

「よう、お互い大変だな。いきなり戦争の勝敗を握る立ち位置に勝手にされて。お前の場合は、まぁ、結構期待されてのことらしいが、俺の場合は馬鹿の勝手な判断だからなぁ……勝手しやがって全く」

 

「……よく言いますよ」

 

明らかにさっきから戦る気満々であるのは、向かい合って気さくに接しながらも剣気を引っ込めていない事から丸わかりである。

しかし、だからと言って、それに付き合う義理はない。

出来れば、自分はこの提案を言うためにこの場に来たのである。

 

「非礼を承知で言わせてもらいます───降伏してください」

 

「……あん?」

 

睨まれることは承知の上での提案である。

だからこそ、構わずに続けた。

 

「はっきり言わせてもらいましょう。仮にですが、もしもこの場で貴方たちの姫を奪還して、勝利を得ても、このままでは武蔵は孤立してしまいます」

 

「……」

 

一応続けろというような視線を受けたので、そのまま続ける。

 

「そうなってしまえば、どうなりますか? 武蔵は世界から弾き出され、敵として今後扱われることになるのです。針の筵という言葉を体現するような状況になってしまうのです」

 

そうなってしまえば

 

「貴方たちはどうなってしまいます? 少なくとも今日まで過ごしてきた平和な毎日は失われるのです」

 

それがどういう事だというのか

 

「解らないというような子供ではないでしょう。変わり映えのない毎日と言えば退屈と思われるかもしれませんが」

 

それのどこがいけない事でしょうか

 

「少なくとも姫を諦めてしまえば、まだ間に合います。その後は私が出来る限りの助力を申し出ます」

 

嘘ではない

 

「昨日までと同じとまではいかないとは思いますが、それでもここで貴方達が堪えてくれれば、まだ間に合うはずです」

 

ですから

 

「どうか、降参してください」

 

そして私は目礼をした。

解っている。

自分がしている事は筋金入りの偽善者が吐くような台詞である。対岸の火事を見て、可哀想だなと思う人と自分がしている事は何も変わらない。

自分達が当事者ではないから、こう言っているだけなのだと解っている。

それでも、だからと言って、目の前で自暴自棄な事をしようとしている武蔵を見て、見捨てる様な行いはしたくないのである。

そして、果たして通じたのか。

 

「……んー?」

 

彼はまるで困ったかの様な表情で頭を暫く掻いていた。

だけど、直ぐに彼はにっこり笑顔になった。

その事に、宗茂は理解してくれたのかと内心で笑みを得ようとしていた。

しかし、もしもこの場に梅組メンバーが一人でもいたら、間違いなく、宗茂に逃げろと面白おかしく伝えていたかもしれない。

この剣神が、こんなにっこり笑顔を浮かべる事なぞ、間違いなく裏がある場合か、余程の感動シーンでしかないのだから。

 

「まぁ、とりあえず……」

 

にっこり笑顔はそのまま。故に宗茂は一瞬、反応に遅れた。

 

「その馬鹿な事を言っている首から上を落としていけや」

 

何の躊躇いもなく、右肩に担いでいた大剣らしきものを宣言通りに首を狙って放たれた。

体が驚きで硬直する前に体に染みついている体術が体を勝手に動かす。

膝から無理矢理力を抜くことで、首への斬撃を躱す。

すると、ほんの少し時間がたつと背後から巨大なものが倒れていくような音が連続して聞こえたきた。

この状況で背後を確認するなどと言う愚行をする気にはなれないが、自分の耳に異常がなかったのならば、凡そ、四十メートル先くらいまで斬撃が疾ったような音が聞こえた。

計ってもいないので正確な距離ではないが、少なくとも三十メートルは超えていると直感が判断を下している。

その事に、表面上は戦闘の真面目な顔を作りながら、内面で汗をかく。

 

「……どういうつもりですか?」

 

「逆に言わせてもらうぜ───馬鹿じゃねえのか」

 

挑発だと心の中で思い、精神を冷めず、熱過ぎずというテンションに上げていく。

とりあえず、続きを促す。

 

「世界を敵に回す? 昨日まであった日常は戻らない? まったくもってその通りだろうな。昨日まであった日常は失われた、故に戻らない。そこらの阿呆でも解る理屈だな───百も承知の事実だぜ」

 

そう言って彼は完全にさっきまでのにっこり笑顔を捨てて、呆れ果てた顔をこっちに向けてきた。

 

「武蔵の全員がその事を理解している……なんて綺麗事は言わねーよ。これから降りる人間もいるだろうし、何でこんな馬鹿達に付いているんだと疑問を抱く人間もいるだろうよ。それでも俺達、極東人は目の前に生を諦めようとしている人間をそのままにしておくような人間ではないんだぜ」

 

そうだとも。

 

「諦めようとしている人間はケツ叩いても、無理矢理生かそうとするのが俺達だ。まぁ、俺は馬鹿どもと違って、そこまでお人好しではないから、それでも諦めたままなら、じゃあ、自殺しとけっていう人間だがな。だから、てめぇのその偽善な言葉を聞いても、今更だし、止める気は毛頭ねぇ。諦めな」

 

「馬鹿な……気持ちは解りますが、それで貴方は武蔵を戦乱の渦に巻き込むつもりですか!?」

 

「面倒なんで、説得する気はないんだが、敢えて言うなら───お前の奥さんが俺達と同じ立場になっても、その台詞を言うのかよ?」

 

「……ッ」

 

痛い所を突かれた。

立花・宗茂を知っているのならば、自分には立花・誾という妻がいることくらいは総長連合や生徒会の一員ならば誰でも知っている事だろう。

そしてその答えは内心では決まっている。

だから、自分は偽善だったのだ。

 

「そうだと言うなら、人間としては正しいぜ? 自分の命が大事? 結構だ。自己犠牲だなんて下らない事を言うよりは何百倍もマシだ。周りを巻き込むのは悪い事? 一概にそうだとは言えないが、そういう事もあるだろうな。だから、人間としては正しい───ただ男としては最低だけどな」

 

「───違う!」

 

見捨てれるはずがない。失くすつもりなんて一片も存在しない。彼女を失うくらいなら、世界なんぞどうだっていいし、打倒するくらいの気概は持っていると確信して言える。

彼女を守りたいと願って鍛えた武芸を、そんな事で迷ってしまうなどとは言えない。

だからこそ、自分は表情を歪めたのだと思う。

自分は武蔵の行動に対して、何かを言えるような立場ではないのだと。

 

「なら、キャンキャン吠えるなよ。自分に出来ねーことを他人に押し付けんなよ。はっきり言って迷惑だぜ」

 

「……」

 

「で、だ。長々と語っちまったが、どうすんだ? ヤんのか? ヤんねえのか?」

 

迷った。

本当に迷った。

自分のもしかしたら一%にも満たないかもしれないが、あったかもしれない可能性の武蔵を否定して(たたかって)もいいのかと。

だけど

 

「───戦います」

 

自身の大罪武装を構え直す。

構えは基本の正眼の構えを少し、崩し深くしたもの。悲嘆の怠惰は大剣にカテゴリされるため、普通の剣みたいにまともに構えるには骨が折れるのである。

故に構えるのは何時もこうである。

力を入れ過ぎず、かといって入れていないというわけではなく、そして何時でも自分の瞬発力を発揮できるようにした構え。

そこまで思い、ふと気づいた。

そういえば先程の一撃で、彼の剣を覆っていた布は斬り千切られた。

ならば、どんな剣なのかが解る。戦う相手の剣がどういうのかが解れば、やり易いし、見て理解できるとは思えないが、名有りの剣ならば能力が推測できるかもしれないからだ。

そして見た瞬間───唖然とした。

その剣の銘を理解した───からではない。

全く理解できなかった───からではない。

ただ、見覚えがあったから愕然としたのだ。

知っている。そのフォルムを。だが、その全部が全部似ているというわけではなかった。

どこか生物的な形をしているのは、自分の知っている通りであった。だが、そこに少しばかり機械的な物をつけられており、まるで機械と生物を合体させたかのような奇妙なアンバランスな大剣。

刃は太く、まるで斬馬刀のような印象を与える。

そう───まるで大罪武装のような。

 

「馬鹿な……!」

 

そんなはずはないと声高らかに叫びたいが、違うともいえない。

何せ、今のこの戦闘の理由が隠されていた大罪武装という事なのである。もう一つくらいあってもおかしくはないと言えばおかしくはないのだが……。

 

それにしてはおかしい!

 

既存の大罪武装は生物的な所だけであって、あんな機械的なイメージは湧かない。

なのに、何故かこれだけ異形なのか?

そしたらこちらの疑問を察したのか、ああ、と前置きを置いて剣神は語った。

 

「残念ながら、これは人間の大罪を象徴している大罪武装なんていう大層な武器じゃねえよ。まぁ、似てはいるし、クラスも大罪武装級ではあるが」

 

「では……」

 

わざわざ大罪武装に例えたのだ。

それならば、アレもこっちと同じ歴史には残っていない武装。未知なる兵器という事である。

 

「まぁ、強いて言うなら───これは俺の(・・)大罪ってとこかね。勿論、名前もない。無銘でも何でもいいぜ?」

 

「……」

 

聞き逃せない台詞。

だが、この場では意味がない台詞。ならば、それを追及している場合でもないし、別段、深く知りたいとは思わない。

今することは戦意を磨く事だけである。

その態度に、ようやく剣神は自分の笑顔を浮かべた。

すなわち、野性味のある闘争心たっぷりの顔を。

 

「そうだよ、そうさ。俺達は今、結構格好良い所に立っているんだぜ? なのに、つまんねえ説教させやがってよぉ」

 

今は戦場

 

「そして俺達は意志とは関係ないが、今、世界の一部を背負っているんだぜ?」

 

それならば

 

「テンション上げないわけねーだろうよ、男ならよぉ!」

 

キメテやろうじゃねーか、なぁ。

 

「世界を決めれる闘争を出来るんだぜ? ここで格好つけなきゃ男が廃るってもんだぜ!」

 

「……言いたいことはありますが、男が廃るという意見には同意です!」

 

よく言った。

ならば

 

「武蔵アリアダスト教導院副長・剣神・熱田・シュウ」

 

「アルカラ・デ・エナレス教導院第一特務・神速・立花・宗茂」

 

「いざ!」

 

「尋常に!」

 

そして最後は揃えて吠える。

 

「勝負しましょう!」

 

「勝負しようぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初手はお互い突撃。

違いは、宗茂は加速術式を使い、熱田はただ純粋な身体能力で突撃。

しかし

 

これは……!

 

速い。

言葉で表すなら、普通の身体能力以上、加速術式以下という所だろう。

術式なしで、これならば十分に合格点である。

恐らく、爪先から足の付け根までの力を全部利用した理想的な疾走。更には術式を使えない代わりに、その体にある内燃排気を全て自分の身体に利用している故の恩恵だろう。

不謹慎とはいえ心躍る。

だけど、一番の怖い所はその身体能力より、攻撃力。

問題はその一撃にこちらが耐えられるかという事だが、その事に関しては正しく神のみぞ知るという所である。故にぶつける。

真っ向勝負である。

如何に、こちらのスピードが速くても、相手が強敵である以上、剣をぶつけ合う事は避けられないのである。

あんまり刃と刃でぶつけ合うのは刃こぼれを生じさせるので、注意しなければいけない事なのだが、そうも言っていられないのが、戦いである。

故にやるのならば、全力で相手の刃ごと断ち切る全力の切断。

 

「おお……!」

 

咆哮さえも加速の力にして突撃をする。

そしてそのまま袈裟切りを放つ。

そこを狙われた。

相手も大剣でリーチはほぼ同じなのに、刃はまるで滑らかに滑り、突きの形で自分の体と刃の間に差し込まれ、そして無理矢理な力を持って、まるで剣に乗せられて転がるかのように、背後に吹っ飛ばされる。

 

「くぅ……!」

 

解ってはいたが、力ではこちらに不利。

純粋な力では熱田の力には拮抗しえない。だが、刃が断たれていないだけ、遥かにマシである。

無論、あちらもこれは姫の感情の一部であるが故に全力を出せないという事情があるのだから、力を出し切っていないのかもしれないが、それでも僥倖には違いない。

そのまま、吹っ飛ばされている体を肩から回す事によって空中で一回転することで着地。

後ろで斬撃音。

恐らく飛ぶ斬撃が来ている事を察して、振り返らず、そのまま前に疾走。

横に不用意に回避しては殺られる。そのまま前に加速し、そして木に到達。

そのまま助走を利用して木登りをする。だが、普通の木登りとは違って、加速に物を言わせて、駆け上がっているのである。

それにバランス感には自信があったので、加速があるのならば、これくらいのレベルは簡単と言えば簡単であった。

そしてそのまま木を駆け昇り、そして頂上辺りに着いて、右足を思いっきり踏み切り、後ろに跳んだ。

それと同時に斬撃が木にまで届き、砕いているのが見えたが、先に下でこちらを迎撃しようとしている剣神を見る、

 

「おおぉ……!」

 

まるで発条に乗って飛んできたかのような跳ね上がりだが、地面に罅割れるほどの破砕音を聞いたら、どんな脚力をしているんだと叫びたくなる。

咄嗟に迎撃。

剣神相手に防御としての攻撃では返せないというは体感している。この相手には攻撃としての攻撃ではなくては、対処できない。

そして真っ向から迎撃のタイミングは合ったとはいえ、相手の突進力に押し負けるのは自明の理なので、そのままわざと弾かれた。

先程と同じ体の運用で着地する。

今回は自分が相手の背後を取った。なら、こちらが圧倒的に有利だ。相手は十メートル先に着地しようとしている。

なら、この距離ならば、加速術式を使えばあっという間だ。

だから行った。

自分の蹴った足の力にも比例して、加速は伸びる。

だが、その加速が入りきる前に、相手が着地した瞬間に───相手の姿が消えた。

 

「───」

 

驚愕は今まで作り上げてきた鋼の精神で押し止める。

表示枠を通して見てはいたが、体験して理解できた。これは、体験しなければ、理解できないものである。

恐らく、ガリレオ副長も同じことを思ったのだろう。

見えているのに見えない。

視界には映っているのだ。視界の右端に映ってはいる。だが、それを捉えられない。

否、知覚できない。

故にどう対処するべきなのかが解らない。前にはいると見えているのに、知覚出来ていないので前にはいないと思わされるのだ。

これを回避するには、この技を解明しなければ避けれないと宗茂は直感で理解したが、それを理解する暇がない。

故に彼は違うものを信じた。

 

「結べ───悲嘆の怠惰」

 

悲嘆の怠惰の通常駆動。

能力は蜻蛉切りとまったく同じ。刃に映す名を介した対象の割断。その能力を使用するために前方の空間を刃に映した。

前方を映したのは、勘でありそして理解であった。

そう、目の前の少年との会話で理解した事だ。

 

彼は正面突破を選ぶ人間です……!

 

勝つために卑怯な手段を容認する人ではあるが、彼は単純に前から突っ込むような人物だと思うという勝手な一方通行の理解。

だからこその勘である。

効果は実証された。

甲高い音と共に、何かにぶつかるような音がした。

決まった、と内心で思った。ならば、即座に応急処置をしないといけないだろう。蜻蛉切りも悲嘆の怠惰も、そこら辺をセーブするようなものはない。

だが、直ぐに治療すれば生き残れるだろうし、それくらいの時間はあると思う。相手の剣について、まだまだ知りたかったが、こんなものだろうと思い、前を見ると

 

「あったぁ……結構イテェ……」

 

倒れてはいるがコキコキと肩を鳴らせて余裕そうな態度をしている剣神がいた。

 

「……まさか結果が嘘を吐くとは」

 

自分でも意味が解らない言葉を吐きながら彼を見る。

見たところ、傷とかがないのはよく解る。そして彼の周りを見ると地面の砂が抉られている。

 

……成程。

 

どうやら、咄嗟の判断で地面の砂を斬る事によって、砂の壁を作る事により、こちらの割断能力を弱めたという事か。

だが、それでも傷がついていないのはおかしい。

幾ら、名の隠す努力をしても、それが岩とかの壁ならばともかく砂ならば全部を隠せるわけではないだろう。

減衰はしても、力は発揮されるはずだ。

その疑問を察したのか、彼は平気そうに起き上って、こちらを見る。

 

「ああ……まぁ、卑怯なのは承知なんだけど加護って奴でな。ちょっとばかり頑丈なわけなんだよ。まぁ、流石に神格武装級か、大罪武装級なら傷は負うんだが……」

 

「それは砂による威力の減衰をする事で耐えられるダメージにしたって事ですか……」

 

判断能力も侮れないし、新しく知った能力も無茶苦茶だ。

どうやら防御系の加護。堅いというよりは頑丈と言ってもいいくらいの堅さ。まともに神格武装級か大罪武装級を受けたのなら斬れそうだが、通常の武器ではダメージも通せないという事か。

えげつないという事はこの事か。

だが、この場においては加護に付いては置いといていいだろう。自分の武器は大罪武装。なら、防御の加護があろうと無意味なのだから。

だが、それとは別で疑問はある。

 

「聞き間違いでしょうか? 貴方は戦闘訓練を受けていないという話だったと思いますが?」

 

ここまでの動きを見て、これで戦闘訓練を受けていないという話なら、全世界の努力をしている人間に謝って貰わなければいけないレベルだ。

そして、それは違うだろう。

踏み込みや剣の握り、咄嗟の判断力。短い戦闘ではあったが、それくらいは読み取れている。

絶対に誰かからか手ほどきを受けている人間の動きであるし───とてもじゃないが十年間サボっているような体つきではない事は出会った時から見て取れた。

その事に関しては、彼は誤魔化すかのような笑いを表情に出して

 

「ああ……確かに俺は授業をさぼってはいたが───誰も訓練をしていないだなんて一言も言っていないぜ?」

 

いけしゃあしゃあと答えた。

だが、それならば納得だ。

十年間、親友を待ち続けた事は見事と言うしかないが、かといって待ち続けるだけでは力になれないと理解していたのだろう。

ならば

 

「誰が貴方を指導したんですか?」

 

「どこぞのメイドさん達」

 

 

 

 

 

 

 

 

そのやり取りを表示枠で見ていた酒井は苦笑と共に隣にいる"武蔵"に視線を向けた。

視線を向けられた侍女の方はと言うと、やはり相変わらずの無表情であった。

 

「……口止めされてたの?」

 

「Jud.口止めもされていましたし、酒井様は口が軽い方なので、言ったら言いふらすと予測できましたので───以上」

 

信用無いなぁ、と苦笑の色を深めながら事情を聴く酒井。

 

「十年前に、予測を含めて言うならトーリ様とシュウ様が約束をした直後ですね。突然、私達に土下座をして修行を頼むと申されました───以上」

 

「だからこの前、確証がない事は言わないって言ってたわけか……」

 

「Jud.私達の誰かが手を空いている時に、誰かがシュウ様の修業をする。毎回毎回誰にも知られないようにするのに工夫をしていました───以上」

 

「面倒じゃなかったかい?」

 

「いいえ」

 

その事に関してだけは武蔵を含め、全自動人形が拒否を現した。

 

「皆様に頼られるだけで私達、自動人形はそれだけで是と答えます。それなのに頭を地面に擦られてでも頼まれたシュウ様に対して何もしないのは侍る事を忘れたただの女どころか、自動人形の風上にも置けません───以上」

 

故に

 

「だからこそ、鋼鉄の指を持ってシュウ様を指導し、鋼鉄の足を持ってシュウ様を先導し、鋼鉄の思考を持ってシュウ様を谷底に落としました───以上」

 

それは

 

「我ら自動人形は求められたのならば、その倍を持ってお答えするのが常」

 

と"武蔵"が言い、そして共通記憶と表示枠両方から

 

『故に手加減はなく』

 

"奥多摩"が答え

 

『故に躊躇いもなく』

 

"武蔵野"が答え

 

『故に惜しみもなく』

 

"浅草"が答え

 

『故に全力を持って』

 

"品川"が答え

 

『故に強さを持って』

 

"村山"が答え

 

『故に平等さを持って』

 

"多摩"が答え

 

『故に万全を持って』

 

"青梅"が答え

 

『故に充足を与えるのが』

 

"高尾"が答え

 

「我ら武蔵の侍女としての行いと理解しています───以上」

 

"武蔵"が以上を告げる。

その返事に酒井は苦笑の色を深めながら、だったら、と前置きを置きながら表示枠に映っている熱田の姿を見る。

 

「格好つけが大得意の馬鹿が見栄を張れないってことはないだろうなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連続で吠える声が二つ聞こえる。

そしてその吠える声に違う音が響く。

それは甲高い音。金属と金属がぶつかり合った時に響くような金属音。

それは自分と立花宗茂が作っている剣戟音。

この空間は今だけはただの斬撃空間になっている。入ってきたものに相応の力がなければそのまま粉微塵になってしまう一つの地獄の姿だ。

しかし、そんな中で自分の表情が歪んでいくのを自覚した。

 

「は……!」

 

笑いの表情に。

これでいい。

剣神はこうでなくてはいけない。常人ならば恐怖するか、尻込みするような闘争の中で笑いながら戦うのが剣神だ。

だから、これでいいのだ。

闘争は俺の領分。

トーリは夢を突き進むのが領分。

お互いの役割に不満何てこれっぽっちも存在しないし、異議もない。

そもそも、自分の役割に不満何て抱いている時点でこの戦いに参加なんてしない方がいい。

それに自分の人生は一度なのだ。ならば、納得できない事をしていたら勿体ないだけではないか。なら、馬鹿な妄想なんてせずに疾走する。

そして勝利を掴む。

馬鹿は理由はどうあれ闘争を望んだのだ。なら、俺は馬鹿の剣らしく、馬鹿らしく勝利をもぎ取るのが俺の役割ってもんだ。

故に、と目の前の強敵を前に獰猛な笑顔を浮かべつつ、相手に聞かせるつもりはない小さな声で自分の信念を告げる。

 

「今こそ疾走して駆け抜けよう」

 

自身に刻み込んだ言葉を敢えて口に出す事で誓いとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお……」

 

表示枠を見つめている学生達が驚嘆に声を上げた。

 

「俺達の副長が……」

 

今まで無能を装っていた副長が、その隠していた力を遠慮なく振り絞って戦っている。

特務クラスの反応も様々だった。

遅いのよと告げる魔女がいた。

長い間待ち続けていました……と呟く騎士がいた。

ようやくで御座るかと溜息を吐く忍者がいた。

誰もが、副長の戦っている姿に期待をしていた。

故に皆が思った。

 

「戦える」

 

「そうだ。俺達は戦えるさ」

 

何せ無能であった副長があんな風に戦えるのだ。

ならば、自分達みたいに訓練を受けている人間が戦えないはずがない。

それは隠れて訓練していたから戦えた? ならばこそ、隠さずに訓練していた自分達が戦えないなんて言う道理はないではないか。

故に誰もが隠れていた英雄に向かって叫んだ。

 

「勝て……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、両者は悟った。

次が最後の攻防であると。

既に、攻撃回数はお互い三桁をとうの昔にこえている。

だが、同じ三桁でも、その差は歴然であった。

加速術式を使っているから、仕方がないとはいえ立花・宗茂は速過ぎたと誰もが言うだろう。

現に、厳密な攻撃回数を言うならば、熱田・シュウは百二十近い斬撃に対して、立花・宗茂は四百近い斬撃を繰り出している。

熱田は連続攻撃という攻撃だけならば、宗茂に遥かに劣っていた。

しかし、それだけで熱田が負けているというわけではなかった。

連続という分野では確かに負けてはいるが、攻撃という分野では遥かに宗茂を圧倒していた。

近距離では重過ぎる斬撃を出し、中距離になると飛ぶ斬撃を連続で放つ。時には謎の消える技を使って、奇襲をする。

何もかもを使っての勝負であった。

故にお互い隠してはいるが、肩で息をするレベルまで疲れている。

まだ続けられるかと問われたら二人とも応と答えていただろうが、続けられると勝てるかでは違うと二人とも当然のごとく悟っていた。

故に余力が残っている今。

それがこの勝負を決する時だと、二人とも合図も無しにお互い理解しあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗茂の前で熱田の斬撃が疾る。

だが、その斬撃は遠い。

少なくとも、加速術式使いの宗茂の前では五メートルは近くて、躱す距離としたら充分であった。

しかし、疾った方向は自分ではなく

 

「むっ……!」

 

傍に立つ木々であった。

当然、ただの木など熱田の斬撃に耐えられるはずがなく、そのままばっさり斬られる。

それも斬撃は質の悪い事に飛んでしまうので、結果としてあっという間に自分の横にある木を通り越して、後ろまで斬られる。

すると、そこで当然重力という力が当てられ、しかも、斬られ方が横からの斬撃の所為か、梃子の原理により、そのまま即席の自然ハンマーと化した。

木である以上、間隔は当然空いているのだが、その安全地帯に辿り着いたら自分はそのまま突っ立っているか、横に動くくらいしかできない。

そんなのは狙い撃ちの的と同じだ。躱すのに横しか動かないと解っているのに、読めないはずがない。なら、縦も同様。通常駆動も立ち止まっているので同義。

故に取るべき進路は前方。

また新しい加速の表示枠を割りながら、前進する。

 

「ぐ……ぅ……!」

 

脚の筋肉が嫌な感じに鼓動する。

既に本多・忠勝との戦いで足は一度限界を超えているのである。応急処置をしたとはいえ本調子には遠い。

既に加速は一万七千倍以上を超えている。

冷却もしてくれてはいるのだが、それでも両足はかなりの熱を発している。

だけど、前に出る。

 

「おぉ……!」

 

何度目かの叫び声。

それと共に悲嘆の怠惰で突く。

残像を切り裂くレベルのスピードでの刺突は、しかし手応えを返さなかった。

 

「……!」

 

いない。

今度は知覚できないではない。

不味いと内心で本能が警鐘をガンガン鳴らすが、鳴らしたところでどこから来るのか教えてくれないのならうるさいだけである。

苦し紛れに周りを見ようとし、ふと足場を見ると───影が。

そこで背後の木が倒れた音を聞きながら上を見る。

そこには剣を上段に構えている剣神が獰猛な笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。

 

「だが……遅い!」

 

もう一、二秒遅かったらやられていたかもしれなかったが、今ならば対応の方法は大量にある。

一番、安全な方法は躱す事。

そうすればまた仕切り直しになって、戦いが続くだけになるのだろうけど、間違いがない

 

それでは意味がありません!

 

ただ、だらだらと戦うのでは意味がない。

決着を着けなくてはいけない。それもお互いが納得いく決着を。

その為にも

 

「参ります……!」

 

「応とも。てめぇがそれくらいする事くらい信じてたぜ?」

 

それは光栄です、と心の中で呟きながら、足場を強く踏んで空中に出る。

全身を加速砲弾として体当たりの斬撃。

それが今の自分の最大の一撃である。

だが

 

「加速できんのは何もてめぇの技だけじゃねーンだよ!!」

 

すると、彼は剣を直ぐに振るった。

また飛ぶ斬撃かと思ったが、構わない。あの斬撃は確かに脅威だが、攻撃力自体はどちらかというと直接攻撃の方が高い。

自分と悲嘆の怠惰なら耐えられる、と理屈で納得して気にせず突撃をしようとする。

だが

 

「行くぜ……! ブーストでかっ飛ばすぜ!」

 

『ガッテンショウチ!』

 

瞬間、彼が柄にあるスイッチを押したら巨大な刃の峰の方が開いた。

そしてそこから何か漏れる輝きがあった。

 

「流体光ですか……?」

 

何をする気だと思っていたら───その流体光が爆発した。

比喩である。

ただ、その漏れていた流体光が目に見えて大きくなり、そのまま加速するためのブースターになっただけなのだから。

唐突な爆発的な加速に自身の速度が打ち負けた。

初めての敗北であった。

勝敗としてではなく、加速としての。今まで一度たりとも、その分野だけで言うならば、本多・忠勝にも、本多・二代にも負けなかった速度での敗北。

大きく見れば負けではないのかもしれないが、これは敗北だ。

何せ今度は力ではなく、加速によって自分は弾かれたのだから。

 

「……!」

 

漏れそうになる苦痛と悔しさを唇を血が出るくらい強く噛む事で抑える。

まだだ。まだ自分は負けていない。

自分は今、空中で地面に頭を向けて、無重力状態みたいに浮いているが、それは弾かれた時の加速により浮いているだけ、直にそのまま落ちる。

今迄みたいに空中での姿勢制御も、ここまでになったら直しようがない。

そして、敵である剣神は既に着地して、こちらを見ている。

あの体勢ならば、そのままこちらに足を向けて、斬るのに何の支障もないし、いざという時は彼が言う第一形態がある。

なら、こちらを斬るのにミスをするなど剣神が許すはずがない。

負けるのか? 負けていいのか? ここで自分が負けたらどうなる?

いや、そもそも負けていい勝負などない。負ければすべて終わりとまでは言わないし、敗北が時には経験になるという事も理解している。

だからと言って、今ここで負けていい理由にはならない。

そうだ。自分には帰る所に待ってくれる人がいる。故に敗北なんて認められない、許さない。

故に───ここで両足を断ち切る。

 

「あぁ……!」

 

咆哮というよりは叫び声をあげて、大気(・・)を蹴った。

大気というのは何も触れるはずがないと誰もが思うが、それは間違った答えだ。

大気には窒素もあるし、酸素もある。目に見えないレベルでの塵やごみがあるし、埃もある。

それらにも抵抗というのもある。

だが、無論それらを足場として使うのならば、今よりも倍以上の加速を行わなければ足場として成り立つはずがない。

そして、立花・宗茂が使っている加速術式は神道の禊を利用した加速術とは違って、術者への負担を取り除いてくれない。

代わりに、神道の物よりもスピードだけならば、圧倒するのだが。

だからこそ、両足から破壊の断裂と粉砕が起きた音と痛みが発生したのは当たり前の結果。

だが、その代償として彼は頭を下に、しかし地平を水平に飛んで加速するという偉業と言ってもいいレベルの動きを作った。

正しく神業。

故に、ただの一度の奇跡であるし、それ以降に動けなくなるというのも当然の報いでもあった。

だが、行った。

一直線に、剣神に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あり得ない軌道を取ってきた立花・宗茂を前に感じたのは驚嘆でも、死の予感でもなく、あったのは煮えたぎるような怒りであった。

 

この馬鹿野郎……!

 

だが、しかし、その意気ごみは良しと認めてしまうのは男だからだろうか。

躱すか?

楽勝だ。自分の足でも十分だし、いざという時は第一形態で無理矢理躱せばいい。そして、その後に倒れて恐らく動かなくなっている宗茂に止めを刺す。

実に教科書通りの終わり方だ。

だが

 

……俺はそんないい子ちゃんになった覚えはねぇわな。

 

やるならド派手に。

それが俺らしさというモノだろう。

だから

 

「正面突破ぁ……!」

 

足を一歩宗茂の方に踏み込む。

利き足の右足。そして、それを起点にその一歩にあり得ないくらいの力を込める。

それに伴って、地面に罅割れていくのが目に見えるが気にしない。

そして最後に

 

「お……!」

 

地面を爆破するつもりで走るというよりは飛ぶ。

そして、互いの加速により一秒とも言えない時間で激突。

お互いの激突の火花が一瞬太陽のように煌めくが、気にせず、そのまま指にあるスイッチを押す。

光が花と咲き、押し込む力が増大する。

位置関係上、自分はブーストの流体光を諸に受ける事になっているが、それは加護で問題にはならない。

宗茂は驚愕する前に、ブーストの力も借りて、刹那と言ってもいい時間で、彼を空に跳ねあげる。

 

そこが決着の場所だぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁ……!」

 

弾かれた衝撃で体と肺が軋む。

最後の加速も敗れた。このまま自分はただ重力に負けて、落ちて敗北するだけ。足は既に使い物にならなくなっている。

だが

 

……まだ負けては……いない……!

 

しつこいと言われることは承知だ。

実際、もうほとんど負けているようなものであるし、ここからの逆転は難しいを通り越して終わっているレベルだろう。

だからこそ、相手も油断が生じているかもしれない。

 

そこを狙って、空中から通常駆動を……!

 

腕はまだ動く。

まだいける。

私は勝って、誾さんに向かって、ただいまと言わなければいけないのだ。

ここで誾さんを悲しませるのは男として、そして夫として出来る筈がない。夫婦というのはお互いがいてこその夫婦なのだ。

それを私の敗北で

 

失わせたりは……絶対に……!

 

無理矢理に体を動かす。

五体は既に鉛のような重さを持っているが、空中であったのが幸いか、何とか空中で体を地面に向けれた。

だから、目の前に見えてしまった。

剣神が空に向かって疾走してくる姿を。

 

「……」

 

不覚にも見とれてしまった。

彼はブースターで空を駆け上がってきている。

故に、彼の背後は流体光の軌跡が残っており、まるで空への階段を上ってきているような錯覚を覚えてしまった。

だから、彼がそのまま宗茂を追い抜いてしまったのを見逃してしまったのもある意味仕方がない事。

そして彼はそのまま自分の上を取って、剣を叩きつけたのを躱せられなかった事も当然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を全員が沈黙して見ていた。

誰かは驚きを。

誰かは喜びを。

誰かは信じられないという呟きを。

だが、最後には武蔵の最大の喜びの叫びとK.P.A.Italiaと三征西班牙からは悔しさの呻きが響いた。

その光景を、一人、終始笑顔のまま見ていたトーリは勝利した自分の親友を見て、ただ一言呟いた。

 

「さっすが、俺の親友。頼りになるぜ」

 

その顔には何時もの笑顔と共に、何か誇らしげなものを自慢するような感情も込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と……」

 

熱田は勝利した後、立花・宗茂が使っている悲嘆の怠惰を奪って、そのまま本陣の方に走ろうとしていた。

立花・宗茂は空中から落ちた場所で横たわっている。

最後の一撃は刃ではなく、峰で叩いたのでどちらかというと打撲になっているが、それを除けば足以外重傷はないようだし、血も出ていないようなのでほっとくことにした。

脚はどうなるか解らないが、リハビリをすればもしかしたら治るかもしれないという楽観視をするしかなかった。

流石にそこまで診断をする事は素人である自分には出来ない事だし、剣神の影響故に治療術式も使えない。

だから、宗茂の根気を信じるしかないのである。

それに、余りここにいると彼の嫁が来るかもしれないし、トーリの馬鹿の方もどうせまだ問題だらけだろうし、どうにかしてやらなきゃいけないだろう。

頼れる親友っていうポジションも大変なもんだと溜息を吐きながら森を出ようとしたところ

 

「……止めを、刺さないんですか?」

 

そんな声が聞こえた。

自分達の会話が聞かれているかどうかを確認しながら振り向かずに答える。

 

「残念ながら……どっかの馬鹿との約束の一つでね。出来る限り傷つけず、そして殺さないというので殺しは無しの方向なんだよ」

 

「……貴方はずっと十年間、何もしない彼をよく信じれましたね……」

 

「まさか」

 

そんなわけがない。

何もしていなかったのならば、それを信じられるはずがない。トーリが何もしていなかったら、俺は十年間も律義に待つはずがない。

では、何故? と当然の疑問が返されたので、他の連中には聞かれていない様子だったので俺はそれに正直に答えた。

 

「だって、あの馬鹿───相変わらず馬鹿だったんだぜ?」

 

「……」

 

最後に聞こえたのは苦笑だろうか。

それを最後に何も言われなかったので、俺はそのまま駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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