不可能男との約束   作:悪役

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歌が 歌が聞こえるよ

祭りを呼ぶ歌が聞こえるよ

騒ぎを起こす角笛の歌が

配点(準備)



祭の前の静寂

 

 

「ハイ、それではこれから生徒会兼総長連合会議を行います」

 

少年の声がアリアダスト教導院の正面橋架、正門側の降りていく階段の上から発せられる。

そこにいるのは三年梅組のメンバーだ。

会議とか言っているが、そんなの建前である。

少年、トゥーサン・ネシンバラは溜息を吐きながら、議題を告げる。

 

「本日の議題は"葵君の告白を成功させるゾ会議"という事で。書記である僕、ネシンバラの提供でお送りいたしまーす―――何でこんな成功なんてしない無意味な事をしなきゃいけないかなぁ。あ、葵君何か言いたいことがあるのかい? そんな馬鹿みたいな顔をして。君は本当に馬鹿だなぁ」

 

「の、のっけからそれかよ! お前らは少し優しさっていう言葉を知った方が良いぞ!」

 

「優しさか……それで誰かが救えるのなら良かったね……」

 

「優しさを使っていいんなら、まずはお前を殴って告白を中止させないといけないさね。相手がトラウマを得ないように」

 

「待て待て貴様ら。そこまで言うとこの馬鹿は更に狂ってしまう。だから、私が代わりに言ってやろう。まずは金を払え。そして土下座だ。それもコクる相手にだけではなく世界に対してだ。これで万事解決だ。さぁ、金を払え」

 

ネシンバラのわざとらしい悲しそうな顔に、第六特務の直政が何時もの表情で返し、生徒会会計のシロジロ・ベルトーニが冷たく答える。

周りもうんうんと頷きだすのでトーリは嘘泣きをして「うっふん! 酷いわ! こんな全員で俺を責めるなんて……! はっ。これって、周りのみんながツンデレって仮定したら俺って今、もしかして人生で最大のモテ期が来てんじゃねぇ!? ありがとーー! お前たちーー!! 俺も愛してんぜーー!」などとほざくので皆そこは無視した。

 

「では、葵君。明日の話をしてくれ」

 

「んー。ここは俺が振られた方が意外性があってウケが取れるんじゃね?」

 

「お前もその気だったのかよ!!」

 

皆の馬鹿を見る視線に馬鹿は腕をくねくねさせることで躱す。

皆して狂人のしている事は理解できないと自分を棚に上げる事によってどうでもいいという結論を付ける事で無視した。

そしてとりあえずといった感じでトーリは点蔵を見る。

 

「なぁ点蔵。告白ってどうすればいいんだ? お前、回数をこなして自爆ばっかやってんだから反面教師に向いているだろ?」

 

「ひ、否定されている! 自分、今、色々と否定されてカースト最下層に突き落とされているで御座るな!!?」

 

「馬鹿野郎! 俺達がそんな事をするわけねーだろ! たかが最下層くらいで済ますなんてするなって先生から習ってるもんな!!」

 

「この御仁は本当に変態か最悪の二択しかないで御座るな!」

 

「いいから、いいから。話してみ」

 

むぅと仕方なさそうに呻いて、その後に少し考えた後に懐を探る。

そして出したのは手帳だ。

 

「ここはシンプルに手紙作戦なんてどうで御座るか?」

 

「成程……経験のねぇトーリが本番で全裸をぶちかまさないようにこっちで誘導しとくって事か」

 

「流石、シュウ殿。話が早いで御座る」

 

「おい待てよ二人とも。まるで俺が告白の時でさえ全裸でいるのが決まっているみたいじゃねーか。俺がそんなおかしなことをすると思ってんのか?」

 

「うむ、拙僧思うに、トーリ。貴様は一度鏡を見ろ」

 

第二特務、キヨナリ・ウルキアガが遠慮なく言うが、トーリは笑うだけだったので溜息を吐くだけであった。

そしてトーリは首を傾げて点蔵の提案について聞く。

 

「でも、俺。手紙なんて書いたことねーぜ」

 

「ふふ、愚弟。じゃあ、ここは練習としてそこのエロゲ忍者の嫌いなところとか書いたらどう?」

 

「おいおい姉ちゃん。そんな友人の嫌いなところなんてうまく言葉にできねぇだろう? そうだ! おい、シュウ、点蔵、ウッキー! お前らも同じ話題で書いてくれよう! 赤信号エロゲ仲間で渡れば怖くないだぜ!」

 

「おいおいおい、この馬鹿。俺がそんな友人の嫌いところなんて書けるわけねぇだろうが」

 

「そうで御座るよ。自分、そんな友人を貶すなんて……とてもじゃないが出来ないで御座るよ」

 

「そうだな。拙僧にもそんな真似は流石に出来んなぁ」

 

「あ、やっぱりぃ。俺達仲良しだもんなぁ」

 

トーリ→点蔵

 

・いつも顔を隠してるのは人としてどうかと思うが上手く言葉に出来ない

・ゴザル語尾はそれギャグのつもりかと思うが上手く言葉に出来ない

・たまに服から犬のような臭いがするのは本当にどうにかして欲しいが上手く言葉に出来ない

 

点蔵→ウルキアガ

 

・異端審問官の癖に拙僧というのは変だと思うが上手く言葉に出来ないで御座る

・半竜の癖に姉好きというのが痛々しくて見てられないと思うが上手く言葉に出来ないで御座る

・時々異端用の拷問器具を見てうむと頷いているのを見て正直引くと思うが上手く言葉に出来ないで御座る

 

ウルキアガ→シュウ

 

・いつものあの変な歌とは呼べない歌が本気で受けていると思って歌っているのは正直可哀想と思うが上手く言葉に出来ないな

・そのヤンキー口調は個性確立の為なのかと思うが上手く言葉に出来ないな

・巨乳巨乳言って見境なく襲うのは原始人レベルだと思うが上手く言葉に出来ないな

 

シュウ→トーリ

 

・いい加減全裸ネタには飽きてきたのだが上手く言葉にしない

・もうそろそろ人としての常識を身に着けるべきだぜと思うが上手く言葉にしない

・そもそもこいつは生きていていい存在だと本気で思っていやがんのかなと思うが上手く言葉にしない

 

ハッハッハッと笑いあう馬鹿四人衆。

それを周りは可哀想な目で見ているのだが、気付かず暫く笑いあった後。自分を批評した相手に真面目な顔で人差し指を指して叫んだ。

 

「お前、最悪だな!!」

 

「お前ら全員が駄目なんだよ!!」

 

四人のツッコミと周りのツッコミがその場を炸裂する。

ツッコミにツッコミを仕掛けるという上位ツッコミスキルを如何なく発揮する梅組。こいつらもう駄目だというツッコミを入れるべきだ。

 

「フフフ、でも愚弟。エロゲ友情のお蔭でいい練習が出来たじゃない。さぁ! ここからは愚弟。あんたのターンよ! その思いの丈を手紙に乗せまくるのよ! いい!? 乗るのよ! 英語で言えばmountよ!! いやらしいわね!」

 

「姉ちゃん姉ちゃん! どうやって手紙に乗るんだよと言う当たり前のツッコミは置いとくけど、ぶっちゃけ言うけど姉ちゃんの常識おかしくねぇ!?」

 

「フフフ、それはね愚弟。あんたの常識が私の常識に劣っているのよ。だって私は賢姉だもの! 凄いでしょう!」

 

確かに凄いな……と周りが小さく呟くが葵姉弟には届いていないし、届ける気もないので皆無言で空を見上げた。空の青さが目に染みてしまった。

凄い事とまともなのはイコールじゃないんだと一つ大人の階段を上った梅組であった。

 

「ねぇ、ソーチョー。ぶっちゃけて言うと話逸れてるとナイちゃん思うんだけど」

 

「あ? あーー本当だ! 危ねぇ危ねぇ……周りの外道どものインパクトにやられて危うく本来の目的を忘れるとこ……あーー! 駄目駄目駄目ぇーーーーー! そんな! 俺の股間を乱暴に扱っちゃらめーーーーーー!!」

 

全員の蹴撃が見事に股間に命中したので皆でふぅと気分悪くなり、当たった足をトーリに擦り付けて元の場所に戻る。

トーリが涙目でこちらを睨んでくるが無視の一択。

だがそこでお……! と叫んで立ち上がったので男性陣はおお……! と感心したように息を吐いた。

 

「と、とりあえず、これで準備は整ったってわけだな……! 準備までに幾つもの試練を超えちまったぜ……!」

 

「これで葵君も心配ないね。君はきっと隠された力を解放したはずだ……! さぁ! 声高らかに叫ぶんだよ! 例えで言うなら「唸れ俺の必殺……! マキシマムカンチョー!!」とかね!」

 

「フフフ。オタクが何か言っているけど無視しなさい愚弟。今はただアンタの心の中にある彼女の良い所を書いてみなさい」

 

「よーし! 俺やってみるよ姉ちゃん! 上手く言葉には出来ないと思うけど、上を目指すことは止めないぜ……!」

 

などと色々と馬鹿な事をやって結論はとりあえずホライゾン枠の乳を揉むという結論になった。

うむと周りの皆は何時もの自分達だなと思って、何も思わない事でその異常事態を解決せずに解決させた。ようは現実逃避である。

すると、階段の上から足音が聞こえたので、皆振り返った。

第五特務のネイト・ミトツダイラと酒井学長であった。

三河に降りるという事で、梅組は挨拶をし、そして何故こんな場所で集まって話しているのかという事になり、その目的をトーリは酒井学長に話した。

その目的を聞いて苦笑するのは当たり前の反応だろうと周りは思う。そして最後に酒井学長が告げる。

 

「まぁ、頑張れトーリ。俺はもう年だからお前さんらに何かをしてやる事は出来ないが、外野なりの応援はさせてもらうさ。それにいい加減、律義にお前を待っている馬鹿を何とかしてやれ」

 

その言葉に周りや、密かにその騒ぎを茶道部の和室から見ていた浅間も首を傾げた。

だけど、一人。

言われたトーリだけは頭を掻いて振り向く。その振り向いた視線の先はさっきまで熱田・シュウがいた場所なのだが

 

「っていないで御座る!?」

 

そこには誰もいなかった。

周りを見回すがやはりどこにもいない。目を逸らした隙にと言えば楽に思えるかもしれないが、ここには常識などは最低ランクの人間が集まっているかもしれないが、戦闘スキルでは各々得意分野は違うとはいえ全員トップクラスである。

それなのに逃げられたことに誰も気づくことが出来なかったのである。

その事に酒井学長は頭を掻いて喋る。

 

「逃げ足が速いなぁ」

 

「学長先生。俺の親友はああ見えて実は照れ屋なんだよ~。可愛い所、あんだろ?」

 

それに何故かトーリが親指を立てて我が事のように喜ぶ。

それに苦笑しながら、酒井学長は先に去った。

ちなみにその後、ネイトは葵姉弟の陰謀によって酷い事になるのだが、そこはあの姉弟に関わったのが間違いだったという事だろう。

 

 

 

 

 

 

関所への道上を中年のおじさんと男子の制服を着た学生が歩いていた。

一人は酒井忠次。

そしてもう一人はアリアダスト教導院副会長の本田正純である。

二人とも三河に向かっているのである。だが、その間にこっちに来るのが空の貨車などで疑問に思いながらの行動である。

まるで形見分けだと正純は思った。嫌な例えだとは分かっているが、それでもここまで異常だとそう思ってしまう。

その間に上空をK.P.A.Italia所属の教皇総長インノケンティウスが所有するガレー船栄光丸(レーニョ・ユニート)が通り自然と大罪武装(ロイズモイ・オブロ)の話になってしまった。

暴食

淫蕩

強欲

悲嘆

憤怒

嫌気

虚栄

驕り

それらをモチーフにされて作られた武装。そしてそれらを持つ人間を八大竜王と呼んでいる。

今の栄光丸に乗っているはずの教皇総長が正しくその八大竜王の一人である。

武器関係に関してはあんまり詳しくはないが、それでも大罪武装の一つ一つが都市破壊級の武装だと聞いている。勿論、全部が全部破壊だけをする武装ではないのだが。

そして酒井学長が言う。

大罪武装に纏わる噂を知っているかと。

 

曰く、大罪武装は人間を部品にしているものだとか。

 

正純もその話は実は聞いたことがあるが、それは根も葉もない噂話だと思っている。

確かに人間の大罪をモチーフにして作ったのだから、部品には人間が必要だろうとつなげる事は出来るとは思っている。

でも、だからと言って、飛躍し過ぎだろうと思う。

でもまぁ、そういう風に勘ぐる気持ちと言うのも解る。大罪武装の製造方法が解っていないからである。

作った人は松平元信というのは解っているのだが、彼はその製造方法を明かしていないのである。

だからこそ不安が現れる。

松平元信は今、武蔵が向かっている三河の君主である。とは言っても極東は暫定支配を受けている。だからこそ、せっかく作った大罪武装を各国に渡すことで恭順を示している。

それなのに、そんな所の人間がどうしてあれ程の武装を作れたのかと言う疑問がある。

それは大罪武装を知っている人間なら誰でも抱く疑問であり―――脅威でもある。

大罪武装の威力を知っているからこそ知る脅威だ。こんなものをもしも大量生産されたらどうしようという当たり前の脅威である。

そこまで考え……ふと思考が勝手に暴走している事に気付いて止める。

 

……そんな事を今、考えても答えは出ないだろうに。

 

情報がなさ過ぎる。

そして次に酒井学長からの一言。

 

……こっち側に来て見なよって。

 

過去を平気で語れる人間になりなよって……。

無理だとは答えられない。だけど、今の自分では難しいだろうとは思う。周りの人間相手にも一歩下がって、躊躇している人間だ。

そんな人間が簡単に語れるはずがない。

それで政治家志望と言うのは自分でも呆れてしまうのだが。

その思いを解ってくれたのか、酒井学長は苦笑するだけだった。その事に今の自分は有難いと思い、ふと口が滑った。

 

「今日は調べ事があるので、そちらに専念したいと思います」

 

「へぇ、何を」

 

「"後悔通り"です。それを調べると、皆の事が解るからと言われて……」

 

そこまで言った瞬間、変化を見た。

酒井学長が笑ったのだ。

その笑いにえ……と思うが、驚きで口が動かない。

そんな自分に酒井は語り掛ける。

 

「いいねぇ―――まだまだ迷っているけど、逆に考えればそれはこっちに来れる可能性を示しているという事だよね。良い事だ。トーリやシュウ達、三河と様々な場所が違う理由で祝いという騒ぎを起こそうとしているねぇ。トーリは後悔を抱えたまま、だけど進むことを決意し、シュウはそんな馬鹿を見てきっと戦いを選ぶんだろうねぇ……」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

いきなりの展開に付いて行けない。

そんな自分を酒井学長はただ笑っている。

見下しているわけでもない。

憐れんでいるわけでもない。

ただ笑っているのだ。

だからか、口は勝手に動いた。

 

「い、一体何を言っているんですか……? 葵が決意? 熱田が戦う? 一体何を……」

 

「だから俺は言っているんだよ、正純君。君が俺達の側に来てくれることを願っているって」

 

こっちの言い分を無視するかのように酒井学長は笑って告げる。

まるで、何か幸いなことを喜んでいるようだと思うのは私の気のせいなのだろうかと思い、そして最後に酒井学長は告げた。

 

「俺はもう老いて何もできないけど……正純君達が馬鹿を何とかしくれたらと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

多摩の表層部右舷側商店街で浅間、直政、鈴、アデーレが買い物袋を抱えて歩いていた。

 

「はい。これで明日の打ち上げ用のは確保できましたか?」

 

「人数分とはいえ……ちょっと買いすぎたんじゃないかねぇ」

 

「ガ、ガっちゃんや、ゴッちゃんが、……い、いてくれてると、良かった、けど」

 

私の確認の問いに苦情を言うマサと苦笑するような感情でたどたどしく答えてくれる鈴さん二人に苦笑する。

今は明日の打ち上げ用の食料や何やらを買っている最中なのです。

明日がどうなるかは知らないですけど、でも、きっと最後にはどんちゃん騒ぎになると思うのはただの前向きですかねと思いながら浅間は自分が抱えている袋を見て、ちゃんとみんなの分があるかを再確認をする。

その行為を見て、アデーレとマサがひそひそと何かを話している。

 

「見てみるといいさね………あの年でもうかーちゃん気質全開だよ」

 

「本当ですね~……周りの狂人に色々と辛い目に合っているから精神年齢を上げることによって耐性を上げているつもりなんですかね?」

 

やかましい。

特にアデーレ。上げているつもりっていうのはどういう事です?

私は認めるのは不本意ですけど、周りよりは精神年齢は高いですし、保身のために言っておきますけど狂ってなどいませんよーう。

そう言いたいのだけど、こういう会話にツッコんだら駄目だというのは長い付き合いからわかっている。

だから、ここは無視の一択だと思い、わざと、まだ無視を続け―――

 

「そんなかーちゃんアサマチがどうしてあんなリアルヤンキーに恋しちゃったかねぇ……」

 

足の力を誤ってMAXにしてしまい、左右の力の配分がおかしくなってしまい、こけてしまった。

そのリアクションにアデーレがおお……! とわざとらしく驚いているのを聞くが気にしちゃいけない。

即座に立ち上がって弓を構えてマサに振り替える。

 

「マ、マサ!? い、いいいいいいいたたたたたたたいいい何言っているんですか!?」

 

「ヒップホップ調で弓を構えられてもこっちが冷や汗をかくだけさね……」

 

とか言いつつ表情を変えてないくせに……!

これがトーリ君や喜美、シュウ君とかなら何の遠慮もなく射っているのだが、マサはそこら辺、まだ狂気度が低いからちょっと打ちにくい。

仕方ないので今度シュウ君を射つことでチャラにしようと思い、弓を収めた。

修羅場の雰囲気を察したのか、密かに鈴さんを連れて離れていたアデーレが戻ってきた。

ちゃっかりしてますね……と思わず半目で見てしまうが、アデーレはまぁまぁと言いながら会話を繋げる。

 

「やっぱり浅間さん。副長の事が気にかかっていたんですねー」

 

「……アデーレまで……私ってそんな解りやすいですか?」

 

「だってあんた。シュウの馬鹿に対しては本気で射っているじゃないさね」

 

「私の基準はそこですかっ」

 

というかどうしてそんな事を読み取れるんでしょうか? 修行不足ですか?

そう思ってきっと睨みが周りはにやにやするだけ。

戦況は不利ですねーと他人事のように考えてしまうのは現実から逃れたいからでしょうかと思っていると助け舟が現れてくれた。

鈴さんである。

 

「で、でも……シュ、シュウ君……いつも……や、優しいよ……?」

 

覚束ない声で、でも確かに告げる。

その声に私はおろかアデーレやマサですら毒気を抜かれたかのように苦笑する。

鈴さんもその事に付いては気付いているのだろうけど、彼女は彼女で何時もの前髪で目を隠しながらの笑みを見せながら続ける。

 

「何時、も……皆で、歩くとき……わた、私を、気遣って、ゆ、ゆっくり歩いて、くれるよ……? そ、れはトーリ君も……皆も、けど」

 

やられたという感じで三人で笑う。

こんな風に言われたら何だかこっちが申し訳なくなってしまう。その評価に私達まで入っているのが逆にくすぐったく感じてしまう。

 

……よくぞ梅組にいてくれました……!

 

周りが外道だらけのクラスの唯一の清涼剤!

よくぞあれだけのヨゴレを見ていても、ヨゴレずに済んだものですと本気で慄く。ある意味奇跡のような存在ですね鈴さんは。

 

……あれ? この言い方だと……自分はヨゴレてしまったと認めているような……?

 

……何も無かった事にしましょうと勝手に決めた。

 

「ま、鈴の言う通りさね。そういう意味ならアサマチの男の趣味もそう悪くないという事さね」

 

「鈴さんの言う事は素直に聞きますね……」

 

「アサマチ。良い言葉を教えてやろう―――人徳っていう言葉をね」

 

殴った方が人徳を理解させられるんじゃと思ったけど、鈴さんが目の前でこっちを見ているのでこの場は耐える事にした。

 

「それにしても……副長。あの後、どこ行ったんでしょうねー」

 

「あ、そういえばそうですね。シュウ君。あの後、どこに向かったんでしょうね?」

 

「さぁて……あの馬鹿はかなりの神出鬼没だからねぇ……時々ああいう風に消えるからある意味点蔵よりも忍んでいるんじゃないさね。ああなった馬鹿を捉えられるのは―――鈴。どうだったさね?」

 

「え……?」

 

この場面で呼ばれるとは思っていなかったのか、鈴さんは本気で何? という顔で首を傾げている。

その仕草に可愛いなぁーと思うのは当たり前だと自分で自分を擁護する。

鈴さんは目が悪く、そういう意味で言えば私達の事は見えていないのだが、その代わりというかのように吊柵型補聴器音鳴りさんによる補聴をされているとはいえかなり優れた聴覚を持っている。

その優れた聴覚なら、シュウ君がいなくなった時に鈴さんは『見えて』いたんじゃないかとマサは言ったのだろう。

ふんふんという感じでアデーレと一緒にちょっと期待しながら鈴さんは少し縮こまるように荷物を抱え、少し迷い、そして告げた。

 

「………歌」

 

「……え?」

 

「シュウ君……歌の、方に、行ったの……何時も、お墓の、方から、聞こえ、る……童話の、歌」

 

鈴さんの言っている意味を理解して私達は固まってしまう。

その様子を鈴さんは見ながら、それでも続けた。

 

「……ホライゾン、が……よく、歌って、た、歌……」

 

 

 

 

 

 

石畳の階段を俺は鼻歌付きで登る。

結構、段数が多い階段かもしれないけどこれくらいでは疲れにもならない。

この程度はあの焼肉センコーの授業を受けていたら大体の人間がそう思うだろうと熱田はそう思っている。

まぁ、俺はさぼっているんだけどと内心で苦笑する。

別にその事で罪悪感は覚えないし、周りからも色々と言われているが別にそれに付いてもあっそうで済ますくらいの心の余裕を持っているのがヤンキーである。

いや、別にヤンキーであることに誇りなどは持ってはいないのだが。

それはともかく、さっきから耳に響く懐かしく、つい顔の表情を緩めてしまいそうな歌が聞こえてくる。

通し道歌。

童謡の歌であり、こういう風によく聞くような歌ではないのかもしれないけど、それでも極東のメジャーな童話である。

そして過去の記憶にも刻まれている歌である。

その事に苦笑しつつ―――階段を上りきる。

 

そこには銀髪の髪をした儚げな少女がいた。

 

少女は無表情ではあったが、顔自体は整った顔であり、その小さな口から通し道歌が流れている。

何故かしゃがんで排水溝の方に向いているが、そこは気にしない。

もしかしたら、排水溝の中に悟りでもあったのかもしれねぇなと思い、一歩一歩近付いて行く。

そこでようやく気付いたのか、少女がこっちに振り返り―――即座に目を逸らされた。

 

「おい、てめぇ………俺だと解ったから露骨に目を逸らしやがっただろ?」

 

「いえいえそんな事はありません―――目だけではなく体も逸らしました」

 

「上方修正かよっ」

 

「ともあれ、P-01sに一体何のご用でしょうか熱田様?」

 

「あん? 決まっているだろうが……今日こそお前に俺のソウルビートを認めさせるために決まってるだろうが……!」

 

「Jud.非常に理解しやすい目的でした―――では、P-01sは先に帰りますので」

 

「待てやおい。いいか? 歌って言うのはなぁ聞き手がいる時に歌えば普段より上手く歌えるっていうロマンが溢れるモンなんだよ。つまりな。俺が言いてえのは黙って俺の歌をきけぇおらぁ!!」

 

「Jud.では、歌詞は聞きましたので帰っていいですね」

 

「こ、こら! お前は今のを歌詞にすんのかよ! はっきり言うがてめぇおかしいぜ!!」

 

「Jud.では、返答させてもらいます。鏡を見たらどうですか?」

 

お、己……! と思わず憤ってしまいそうになるのを内心で待て待てと自分に抑制を聞かせる。

OK.落ち着け俺。

そうだ俺。解ってるだろ? こいつは悪意なしで毒舌家の女だってことは。なら、こういう風に返されることも想定内だろ? じゃあ、大丈夫だ。俺はまだまだいけるぜ。

 

「おやおや。では、その程度の事も出来ずに私に挑みにかかってきたという事ですね―――ふっ、ちょろ甘ですね」

 

「こんちくしょう!」

 

挑発だというのは解っているが、これに応えなければ逆に聞いてやらないと言われている気がする。

そうだ。逆にこの挑発に答えてやればこいつは俺の歌を聞かざるを得ない状況に持っていけるのではと思考する。

論理的な結論だぜと思う。

ならば実践しろと体に命ずる。リズムや音などはどうするという当たり前の疑問にはこう答える。

そんなもんはそれこそ俺のソウルで刻めと。

だから歌う準備として息を大きく吸い、腹筋に力を籠め、そして。

 

「待みゃ!!」

 

思いっきり舌を噛んだ。

 

 

 

 

 

目の前でいきなり倒れて蹲る人型をP-01sは冷めた目で見ていた。

この人型とは何回も何故か出くわす。

しかも、その度に歌というには余りにも酷いものを………いえ、アレを歌と言ったら歌に失礼だと思いますし、努力をしている歌手達に失礼ですと思い、歌ではなく呪歌と自動人形的に判断しました。

そう。

自分は自動人形である。

人間とは違い、血も通っていなければ肉もない。頭脳に当たる頭部も中身は人工物の集まりでしかない。

故に感情も持ち合わせていない。

だからこの人が何故自分のところに来るのか理解できない。

いや、それならば自分が働いている青雷亭によく来る何故か何時も去り際に手を握ってくる客もそうなのだが。

だから、店主と相談してある種の判断を持ってその人の字名を「湿った手の男(ウェットマン)」と名付けたのですが。

おや、私とした事が、考えが逸れてますねと思い、だから問うた。

 

「ともあれ……一体何のご用でしょうか。もし青雷亭のパンが欲しいと事ならば店に行ってお金を出せば買えます―――この常識、理解できましたか?」

 

「てめぇは悪意を話すごとに言わなきゃ話せねぇのかよ!」

 

「いえ、それは言いがかりというものです。自動人形であるP-01sには感情がないので悪意などありません。つまり、私が言っているのは全て事実です」

 

「こ、こいつ……諦めって言葉を知らねぇな……!」

 

「では用はないんですね?」

 

その言葉に待て待てと肩に手を置かれる。

ようやく本題に入るのかと思い、少しだけ無駄な時間を過ごしましたと思いますが、一応相手は人なので少しは聞いてあげないと自動人形としておかしいと思い、彼と目線を合わす。

 

「ではどうぞ」

 

「ああ。お前って好きな奴っていんの?」

 

自動人形の聴覚回路が故障したかと思いました。

だからこそ、混乱を見せないように焦らずに答えた。

 

「―――は? 何言っているんですか? 馬鹿なのですか?」

 

「へっ。てめぇの悪意なんぞもう慣れてきたんだ……その程度で俺は揺るがないぜ……!」

 

「ほほう。器が小さいですね。P-01sはまだ一割も力を出していないというのに」

 

「え……? マジで……? それはそれで逆にお前の性格は闇色しかないんじゃねぇ……?」

 

変なものを見る目で見てきたのでその眼をお仕置きしました。

目の前で「目が! 目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」などと目を抑えて転がっている変な人間がいるが問題ないと判断します。

他人を変なものを見る目で見てはいけないと店主さまからも教えられてますと心の中で理論武装する。

そういった人間は憐れんだ目で見てやるんだよと店主さまは教えてくれましたので。

だから、目の前で転がっている人類を憐れんだ目で見ていたのだが、意外と直ぐに復活して立ち上がったので、これには素直に驚いた。

ともあれ、一応話題を戻すことにした。

 

「一体どういう事ですか? 自動人形に好きな人間がいるかなどと。自動人形には感情はありません。だから、好意はおろか嫌悪、憎悪なども理解できません」

 

「教科書の答えだろ、それ」

 

「Jud.ですが、それはつまり、当たり前の答えという事です。貴方は人形相手に愛しているなどと狂った事を言う人間なのですか?」

 

だとしたならば、速攻でこの場から離れないといけないと判断した。

だけど、予想は微妙に外れた。

 

「いや、違うぜ。そんなアホみたいな解答をするのは世界最高級の馬鹿だけだろうが」

 

「……?」

 

言っている意味が理解できない。

遂に頭がおかしくなりましたかと思うが、それは今更ですしと判断できるので意味がないと判断した。

そして思考をしようにもこの話を自動人形である自分では恐らく理解は出来ないと判断して本人に聞こうとしたら―――何時の間にか階段を降りようとしていた。

 

「……!」

 

全く気付かなかった。

確かに多少意識が逸れていたことは認めるが、目を逸らした覚えはない。

だから、一、二歩なら納得できるのだが、階段までは自分の場所からは自分の足で大股で五、六歩といった所だ。

だからこういう風になるには、自分が考え始めた瞬間に移動をしとかないとこうはいかないと自動人形の計算能力が答えを導く。

その結果から自分の機能が故障してない事を理解する。

だから、逆に現実が自分の計算能力を超えた事で処理が落ちてしまい、呆然としてしまう。

そんな我を失っている中、少年の声が聞こえる。

階段を一歩降り始める音と共に声が聞こえる。

 

「別に理解し無くていいんだよ。むしろ理解しちゃ困る―――パーティっていうのはサプライズだから面白れぇもんなんだからなぁ」

 

階段を二つ、三つと降りていく音でようやく現実に復帰する。

擬音ではっという音が付きそうな感じで振り返る。

既に少年の体は半分見えなくなっている。

それでも声は聞こえてくる。

 

「良かった良かった。これで好きじゃないから振られるならともかく実は好きな人が他にもいましたで振られたら流石にフォロー出来なかったからなぁ……明日は面白い日になりそうだ。」

 

二つ、三つ。

最早、頭しか見えない。

 

「本当に楽しみだ―――不可能が世界を動かすことが出来るのか。どうあれ、明日はきっと―――」

 

一つ。

 

「お祭り日和であることを―――馬鹿みたいに祈っとくか」

 

そして彼の姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

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