不可能男との約束   作:悪役

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誰も彼もが道に迷い

誰も彼もが謎と答えを得る

配点(千差万別)


各々の獲得

誾は宗茂が寝ている医務室に来ていた。

アルマダ前の最後の髭剃りの為に今回は対剣神用に完全に強化と研ぎを入れた二枚刃の本気具合で剃りに来たのだ。

 

立花・誾、参ります……!

 

その意気と共に刃を構え、剃ろうとすると宗茂は前回のようにそのタイミングで体を動かす。

そしたら顎の部分を剃ろうとしたのに頸動脈を危うくカットしそうになってドキドキである。

 

これが恋……!

 

これから宗茂様の頸動脈を見る度にこんな不整脈を起こしてしまうのだろうか。

確かにこんなに無防備に急所を晒されたらドキドキするかもしれない。思わず慣れた動きでそこに吸い込まれるように斬撃を放ってしまいそうだからだ。

しかし、実戦においてそんな分かりやすい隙を見せて最も危険な場所を晒す馬鹿はいない。

役職者じゃなくてもそういう時は何かがある、という判断を下すべき隙か。こちらが流れを引き寄せたという場合のみだ。

そう分かっているのに私の判断をこうまで狂わせるとは……!

 

「流石は宗茂様……! 寝ていても武人の生き方を損なわない人です……!」

 

自分と彼が過ごしたあの一時に間違いはなかったと、深く頷く。

そこまで考えて納得の感情から苦笑の響きに顔の表情を動かす。

 

「全く……随分と開き直ってしまいました」

 

穏やかに眠る宗茂の表情を見ながら余裕を得たというのか、単に覚悟が決まったのか。

随分と気分が楽になったものである。

宗茂が負けた時は意気消沈となって情けない姿を晒し、その度に辛気臭い面で医務室に来ていた小娘が口も開き直るとは。

時間が解決した、という事だろうか。

自分が思っているよりも前向きであったのかもしれない。

まぁ、少なくとも夫の寝顔を見ながら顔を歪ませ続けるよりかはいいだろう。

だからネガっている時の自分は酷いものであった。

寝ている宗茂様の顔を見ながら突然に背筋が震えて

 

このままでは私と宗茂様は"ずれて"しまうのではないのだろうか……

 

などと弱気を通り越して薄ら寒い被害妄想を浮かべてしまった。

同じ時間を共有していないと意思が通う事がないなどと思うとは不覚を通り越して自身への怒りに値する。

でも、だからこそその不安を思った瞬間に思い付いたのだ。

 

実はこれがあの剣神の歩法の肝なのではないかと。

 

知覚から消え去るという事は五感を含め、人の認識力から全てずれれば人は消えるのではないかと思ったのだ。

そこまで解れば歩法破りを編み出すのは難しい事ではない。

己に合わせてずれているのならその基準となる己を乱せばいい。

少し呼吸を止めればその時点で肉体のどこかが必ず乱れるものだ。

本当ならば試験として歩法を試しで使ってみたかったのだが無理であった。

歩法を使うというのは相手の癖や挙動、その他全てを理解しなければ歩法は成立しない。

宗茂様が起きていられたら自分は彼相手に歩法をかけれただろう。

かもしれない、とは言わない。

そのレベルまでお互い鍛錬を積んできた、という事実を解っているからだ。

だからこそ武蔵副長のレベルが理解できた。

初の交戦相手の、それもあれ程の数に対して歩法をかけるなぞ最早人間業を超越している。

 

正しく神業だ。

 

しかし

 

「───だからどうしたというのです」

 

その強さに敬意は持てども弱気は持たずが立花……否、武士の流儀だ。

極東最大にして最古の英雄の代理神とはいえスサノオ本人ではないし、付け入る隙は幾らでもある。

隙がないのならこちらから作る。

作れなかったのならばこじ開ける。

怪物に挑むのだ。それくらいの覚悟が無ければ打倒出来ない。

相手もそれを望んでいる。

何故なら彼は己が最強になると謳っている。

かかって来い、とも叫んだ。

その叫びに刃を持って挑まずどうする。

 

……意外ですね。

 

そこまで考え、自分の思考に言葉通りの意外さを感じる。

武蔵に乗り込んだあの時はあれ程恨みを吐き出したというのに、今はそこまでの恨みを持っていない。

何故だろうか、と自問する。

すると内心の己が答えを返した。

 

……何故なら彼の技には誇りを感じるからです。

 

傲慢という意味のプライドではない。

この技を得るために自身は間違いなく揺るがぬ努力と意思を持って日々を過ごしたという誇り。

剣神の剣からはそれを感じる。

きっと剣神だからではない。

剣神は剣と同化する事によって多少の体捌きや剣術を術者である剣が教えると聞くがそれだけではあのレベルには到達しないだろうし、受けた自分が勝手にそう思ったのだ。

 

この剣には正しさはないかもしれない。

でも、同時にそれがどうした、という迷いの無さを感じる、と。

 

国を左右する戦いなのに不謹慎かもしれないがそんな相手と戦えるのは武人として誉だ。

 

ならば恨みのみで戦うのはお互いにとっても侮辱なはずです。

 

「西国無双の理を持って暴風の刃を全力で手折りに参りましょう」

 

己にしか聞こえない宣言を耳に入れ、誾は何時の間にか宗茂の世話を終わらせていた自分に気付き、苦笑を入れて部屋から出る準備をする。

そうして部屋を出ようとするがその前に再び彼の方に向き直る。

やはり、そこには彼の寝顔。

寝息に変化は無く、符も効いているので寝たふりという事はない。

こういう時はお約束では私が部屋を出た後に宗茂様が起きるというパターンがあるのかもしれないが、まぁ、やはりそういう事はない。

もしくは寝ている彼に対してキスの一つでもして向かう、というシーンなのかもしれない。

王道パターンだ。

しかし

 

「───私達の王道ではないですね」

 

そんな他人に同情や可憐さを醸し出すような為の付き合いではないし、浅い関係ではないと信じてる。

だから自分は特別な事なぞせずに

 

「では宗茂様───凱旋してきます」

 

それだけを言い残して彼が寝ている部屋から去っていく。

 

 

 

 

 

点蔵は走っていた。

先程まで靄がかかっていた内面は綺麗さっぱり晴れ模様を描いている。

同時に思う事はある───これは間違いなく忍者としてはあってはいけない行為ではあると。

忍という言葉から反した行動である事は自覚している。

武蔵に余計な責を作る結末になるかもしれないというのも理解している。

だが、もう動かない理由がないのだ。

何故ならさっき馬鹿に教えて貰ったのだ。

 

「オメェ、何だそれ? 右肩甲骨の後ろにやけに目立つ傷が残っているぜ? 杜撰な処置でも受けたのかよ?」

 

その傷を自分は知っている。

その傷は英国に来た時、傷有り殿を庇った時に負った傷であり、そしてそれはその本人に処置をされた傷のはずだ。

風呂に入った時にそれを指摘され、彼女に治療された。

それが完全な形で残っていると言う。

点蔵は覚えている。

祭の最中、ついテンションが上がったせいか。それとも本心だったのか。

自分はつい彼女に聞いてみたのだ。

 

好いている人はいるで御座るか、と。

 

自分は照れてつい自分には関係ないけど、という態度を取ってしまったがその時の彼女はただ透明な笑みで

 

「そのような人がいたら、その人にとって一生消える事が無い傷跡を残せるような女でありたいですね」

 

と。

そう言ったのだ。

その言葉を自分は覚えている。

これから先、ずっとこの言葉を記憶出来るかどうかは謎だが、それでも今、この時は覚えている。

なら動かない理由がない。

行かなければ。

否。

 

行こう

 

そう思ったのだ。

義務で行くのではなく、己の魂がそこに行きたいと叫んでいるのだ。

忍者でも第一特務でも武蔵アリアダスト教導院所属の学生ではなく点蔵・クロスユナイトとして行きたがっているのだ。

自儘な本心を、しかし抑えるつもりはない。

そう思い、行くための準備を、速度を自然と上げようとしていた所で

 

「よう、点蔵。何時になくマジ走りしてるけどマジパシリ最中か?」

 

 

 

横で走っていた点蔵がいきなりびーん、と背筋を伸ばすように硬直したのを見てあん? と思った。

何やらトーリと点蔵と麻呂王がはしゃいでいるからと思ってきたら件の人物の一人が青春っぽく駆けていこうとしていたのでちょいと気配と甘歩法を使って横に並んで隣を走っていただけなのだ。

まだまだ鍛え方が足りんようだ。

その証拠に驚いた表情を帽子に乗せながら

 

「シュ、シュウ殿!? い、何時からそこに!?」

 

「ああ、お前がやけに青臭い雰囲気を発しながら意味の分からんくねり具合を見せて気持ち悪くなった所辺りからだ。何やらネシンバラ臭の匂いもしたからお前、人として大丈夫か?」

 

「ひ、人という分類に入るのか分からん人外に心配されたで御座る……!」

 

何という失礼な忍者だ。

というかテメェも一度も顔を見せなかったなんちゃって人類だろうが。

むかついたので

 

「点蔵。オメェ、アルマダ終わったら訓練な」

 

「ちょ、直接的で御座るな……!」

 

何をお前殺害予告されたみたいなリアクションを取ってんだよ。

うちの神社の連中なら全員テンション上げて「今日のヒャッハー! 来ましたぞーーー!」、「保険に入ったか野郎&女共! ───じゃあ逝くぞ!」とか言って笑いながら斬りに来るというのに。

留美ですら「はい、不束者ですがよろしくお願いします」と非常に綺麗な微笑でこちらを斬断しようとするのだから。

いや、時たま台詞回しや微笑を狙っているのか天然なのか区別がつかないからマジで困る。

特に振ってしまったこちらとしては凄く困る。

そしてそれらをにやにや笑顔で馬鹿四天王が見てくるのでむかついて斬りに行くと奴らも必死になるので鍛錬が捗る。

 

……意外にうちの神社、いいサイクル出来てんな……

 

梅組の馬鹿共にも適用できるだろうか?

いや無理か。何故なら全員が何か想像を狂った方向に破る達人だからだ。

成り立つサイクルは外道な事だけだ。

結論。

あのサイクルを生み出す事が出来るのは留美だけという事にしておこう。精神衛生上それがいい。

だからまぁ、少し気分転換にさっきまでちょちょいとやっていた事を共有し合おうと思い

 

「おい、点蔵。実はついさっきむかついたからちょっと頭が幸の村製作所を襲撃した時の動画があるんだがちょっと見てみろよ? 愉快だぜ?」

 

「……ま、まぁグロシーンがないなら」

 

決まったので表示枠で録画したのを少し画面広げて見せてみる。

動画は少し薄暗く、如何にも工房という感じな場所を移しながら時折ドギャーーン、とかドッカーーンとか効果音を響かせながら

 

『ば、馬鹿な! 第三次防衛ライン突破! 最終人身御供粉砕! 我らの秘蔵同人が丸ばれです!!』

 

『ち、ちっくしょう! 我らむさくるしい男共の防壁を一顧だにせずに潰すとは鬼か……! しかもさっき纏めて吹っ飛ばされたシーンを"女が腐る"部門に撮られたぞ! ネタにされた……!───って風見社長!? どこに行かれるつもりですか!?』

 

『どこにだって!? 決まっているじゃないか! 最終防衛ラインにはママが僕の為に作ってくれた手作り弁当があるんだよ!? 守りに行かないと僕の今日のママ愛成分が欠乏しちゃうじゃないか! どうだい!? ママ! 愛娘よ! パパ、無駄に格好よく頑張るよ!』

 

動画にいきなりアップで白衣と眼鏡をかけた大人の男性が無駄に胸を張りながら誇らしげに叫んでいるが、そこに隅にいる男性があっ、と前置きで呟いて

 

『社長! 残念ながら奥さんのお弁当は剣神の嗅覚によって狙われてお陀仏です! ざまぁみろって言っていいですか!?』

 

『げ、下種ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』

 

一瞬、凄い表情が写ったのではないかと思った瞬間に画面が暗くなった。

そこから先は撮れていないのだ。

 

「どうだ? 点蔵。現場から持ち出した証拠だけど中々迫力あるだろ?」

 

「自分……今、事件に巻き込まれて御座らんか……?」

 

またまた失礼な事を言うな。

それに現場は最早、誰が襲ったか分からんくらい荒れているから異族か悪戯怪異が何かしたと思うんじゃないだろうか。

絶対的な証拠は今、手元にあるし。

身内にばれなければ恐らくばれない。多分。

ちなみに動機は私怨である。

何せ会議から帰ってきてベッドにダイブした瞬間にいきなりベッドを突き破って股間を突こうとする謎の何かに攻撃されたのだ。

咄嗟にベッドから転げ落ちて事無きを得たが何かと思ったらカンチョーの形をした物体が恐らく加速術式でベッド下から発射されたものだろう。

場所的に身内の犯行かと思ったが、留美に聞くと製作所の人間が来たという事で犯人はこいつらだ。だから制裁した。

 

つまり正義的な行動だなっ

 

うんうん、と自分の考えに頷きながら

 

「で、点蔵───どこに行くつもりなんだよ?」

 

 

 

参ったで御座るなぁ、と点蔵は思う。

まさか決心した次の瞬間に武蔵のラスボスと対峙するとは。

ただどこに行くべきかを聞かれただけという楽観はまずないと思う。

何せすっごいいい笑顔を造ってこっちを見ている。

それにこういった事に関してはこの副長は恐ろしいレベルの嗅覚を持っている。

 

そういった部分がやけに昔からトーリ殿に似ていたで御座るなぁ……

 

だからまぁ、気付かれているので御座ろうなと思う。

ならば隠すのは逆効果だろうと思い

 

「Jud.───自分に傷を残してくれた人に会いに」

 

さよか、とシュウ殿は答え

 

「だけど否定されたから鬱ってたんだろ? ───行った所でまた無意味だったらどうするんだ?」

 

痛い所を突くで御座るなぁ……と若干現実を見させられたが

 

「大丈夫で御座るよ」

 

根拠はあるのだ。

そしてそれは既に語った事だ。

 

「自分は傷を残されたで御座る。その事実だけで十分で御座る」

 

「ふぅん……傷が残されて十分で行くって超絶ストーカー理論にしか聞こえないがぶった斬っていいか?」

 

「そ、それは罪の指摘ではなくただの斬る言い訳で御座るよ……!」

 

まぁまぁ、と落ち着かされるが目が真剣であった事は誤魔化せない。

趣味が人斬りの人間は恐ろし過ぎる。

そしてもっと恐ろしいのはそれに付き合って練度が上がってしまう自分達であった。

嫌でも効果的である事に気付いた時の特務組の絶望感を梅組は知っているだろうか。いや生徒会組もつき合わされて同じ絶望をしていたか。

被害に遭っていないのはトーリ殿とホライゾン殿と浅間殿と正純殿くらいだろうか。

トーリ殿と浅間殿は依怙贔屓。

ホライゾン殿にはキャラで勝てないからだろう。

正純殿に関しては副長として副会長の仕事に専念させたいのだろう。何だかんだで同クラスの役職者である正純殿には期待しているので御座ろう。

 

まぁ、それでもこの御仁の修練に比べたらマシな方なので御座ろうが……

 

教導での授業は各戦種によって当然内容は異なるし、量も人の努力と才能次第だろうがその中で十年間付き合っていた友人が一人ずば抜けている。

この事実に才能だからなどと人を見ぬ意見を言うような付き合いの浅さは自分らには無かった。

全くもってこの御仁のトーリ殿への友情には感服するしかない。

だが、今は相手の事ではなく自分の事であるからその事実だけを忘れずに胸に残しつつ

 

「だから、まぁ……自分、どこまで行けるかは分からないで御座るが行こうかと」

 

「それで武蔵を余計に痛めつける結果になってもか?」

 

またもや痛いところを突いてくるで御座るなぁ。

だけど、副長としては当然の質問であり、確かめなければいけない事だろう。

普段を見ているととてもじゃないが責任感云々を持っているようには思えないがやはり……うん……いやきっと……持って……持っていたのだろう。多分。

とりあえずどう答えるべきかと考えつつも、よくある返し方だが気になったので聞いてみた。

 

「シュウ殿なら───」

 

「行くぜ?」

 

即答であった。

何一つ迷いがない所か脊髄反射を超えた速度のように思えて思わず絶句する。

これが考えていないで出た言葉ならこの速さも頷けるのかもしれないがそうではない事を彼の口元は笑っていても目が笑っていない所から簡単に悟る事が出来る。

本気だ。

本気の目とそれを隠すような笑みを浮かべながら気楽な散歩の足取りで歩きながら語りかけてくる。

 

「そりゃもう一目散に行くとも。結果が英国だろうが世界だろうが敵に回しても。あいつに嫌われようが憎まれようが。何なら───」

 

お前らが相手でも(・・・・・・・・)

 

と言われたように感じた言葉は微笑の形をした口からは発されなかった。

色んな意味で背筋を震わせるような言葉を聞きつつ、敢えて点蔵は聞き取れなかった部分を問い直すことはせずに、本気で御座ろうなぁ、と思う。

 

……それだけの想いを抱いていて何故告白をしないので御座るか……!

 

相手が誰かなんて最早言うまでもないので語らないがその度胸で玉砕すればいいではないか。おっと本音が出てしまったで御座る。

普通に男らしい癖にやはり土壇場ではヘタレなので御座ろうか。

いや、他人の事は言えないが。

 

「で、お前はどうなんだよ? 点蔵」

 

「あ、Ju,Jud.まぁ、そこら辺は一応考えているで御座るよ?」

 

さよか、とシュウ殿はそれだけ聞いて、そのままんじゃ、と踵を返した。

は? と余りにもあっさりし過ぎてこちらが面食らう。

普通ここは自分のその考えを聞いた後、アウトかセーフかを判断する所ではないだろうか。

そのセオリーを無視して彼は普通にそのままどこかに去ろうとする。

足取りにわざとらしさは欠片もない。

本気で去っていくつもりだ。

 

「シュ、シュウ殿?」

 

「あ? 何だ点蔵? 俺はそろそろ日課の覗きに行くつもりなんだがお前も来んのかよ? 覗き場所は内緒だぜ?」

 

違う意味で行かせない方がいいかと思ったが、そこはきっと浅間殿が何とかするだろう。

何とか出来なくても制裁が来るのは確実だ。

いやそうではなくて

 

「じ、自分を止めに来たのでは無かったので御座るか?」

 

「はぁ? 何で馬鹿を止めにわざわざ俺が時間を使わなきゃいけねえんだよ。大体、俺、お前が何をするつもりとか知らねーしー」

 

白々し過ぎる……!

 

明らかに解っているのを前提の会話だっただろうに。

道理で嫌にぼやけた言葉で聞いてくると思ったら様式ではなくこういうオチに持ってくる為か。

いや、それにしても無理があるだろうとは思うが、何か最近、同じような事をロンドン塔で考えたで御座るなぁ。

だが、副長はこちらの反応に苦笑しながら

 

「大体、お前も俺のキャラぐらい付き合いで察しているだろうに。俺は止める側でも話す側でも問う側でも答える側でもねえよ───俺は"やる"側だろ」

 

シュウ殿の台詞回しに思わず自分は心の底から成程、と頷きかけた。

やる側。

確かにこれ程シュウ殿の人生を一言で纏めたのはないかもしれん。

やると決めた事をやるを地で行っている御仁だ。

だけどその台詞に続きがあった。

 

「点蔵。お前はどうよ? お前は"どの"側だ?」

 

「───」

 

聞かれて自分も考える。

自分はどう言った側にいたいのか。

短い時間だがそれを真剣に考え───微かな笑いと共に

 

「それを言って来いよ───お前の大事な人に聞かせてやれ」

 

はっ、と思わず顔を上げた時には既に彼の顔はこちらを見ておらず背を向けていた。

自分の答えを敢えて聞かずに去っていく背中に不覚にも尊敬の念を覚えそうになるのを堪え、だが副長の態度に忝いという念を

 

「───Jud.!」

 

審判の言葉で返した。

そうして点蔵は再び走り出した。

今度はもう止まる事はないだろう、と思いながら。

 

 

 

 

 

その背を熱田が見る事はない。

後ろをテンション高く去っていく点蔵の気配を癖で追いながら熱田は無心に徹する。

何も見るモノも思うモノもない。

そういう柄でもないし、考えるのも面倒だ。

 

「ちっ……本当にあの女王はいやらしい言葉回ししやがって……」

 

種族特徴は仕方がないとしても性格に関しては悪趣味だ。

女王という位なら仕方がないか───なんて絶対に思ってやるか。

女王の言葉にも誰が頷いてやるものか。

あの時に言った言葉は全て嘘偽りがない。

何より

 

「誰かを守るとか救うとかいうのは苦手分野なんだよ……たった一人で手一杯だぜ……」

 

誰にも聞かれない言葉を吐きながら溜息を吐こうとしてそれを意識的に留めて熱田は行く。

行くという在り方こそが自分なのだから。

 

 

 

 

 

浅間は我慢をするのは得意な在り方な方だと思っていた。

巫女としての職務的なものも勿論あるが、それ以上にクラスの外道達との付き合いには必ず我慢スキルが必須項目だからだ。

そのスキルを持ってないとネタにされる事が多いからだ。

ちなみに正座を長時間座るのも得意だ。

巫女として、いやさ一人の人間として欲などに負けないように生きるべし、と志して生きているのである。

それを周りが婉曲して人をズドン巫女とか欲深巫女とかエロ巫女とか失礼な。

エロゲをやっているのはトーリ君の術式的な面倒を見る為の毒見役ですし、ズドンをするのは某幼馴染が暴走をするのを止めるための治安維持の為の行いですし、幾ら欲を抑えているとはいえ節制ばかりしては心と体に悪いと思って偶にお酒やアイスを飲食するだけです。

おお、自分、物凄くちゃんとした巫女じゃないですかと自画自賛してしまいそうだ。

偶に父さんがエロゲをしていたり、お酒を飲んでいる所を見られると「智! 思春期だね!? パパも頑張るよ!」と結論が謎なのだが気にしない。

でも父さん、もう少し年齢を考えて。

そんな風に現実逃避をする中、視界には

 

「ふふ……お茶で構いませんよね?」

 

と、綺麗な笑顔でこちらに笑顔を浮かべる人物。

神納・留美さんがいた。

 

 

 

 

 

「い、いえ……お、お構いなく……!」

 

どうしよう。私、接待されるのに慣れていない。

何時もは接待というかお世話する側だったので逆になるパターンは中々無い。

というかそういう格式ばった行いをするほど遠慮というのが身内にはないのだ。

しかい、今回の相手にはそうもいくまい。

相手は何せ熱田神社の巫女である留美さんだ。

他社の巫女さんに粗相などしてはいけない。

これは浅間神社の巫女としてしっかりしなければならない問題である。

そうしてガッチガチになっている私の心境が目にとって見えたのか留美さんは苦笑と共に

 

「今回はプライベートなのでそんなに固くならなくてもいいんですよ? クラスは違いますが同じ教導院で同じ歳なので。普通に接していただけないと私の方が固くなりそうですし」

 

この人上手い……!?

 

そして同い年……!? と言葉の使い方と空気の読み方と雰囲気から年上だと錯覚していた自分は見事に全てにノックダウンされた。

これが新型巫女型決戦兵器……! って、いやいやと周りの皆の新言語に毒されてますよぅ。

でも、確かに留美さんの言う通りだろう。

分かりやすく考えればシュウ君が遊びに来たと思っているのにあっちは仕事だ仕事という雰囲気で堅い雰囲気で接してきたら場が違うというものだろう。

 

ま、まぁ……確かに自分は仕事で来たわけではないですしね……

 

私的な理由で熱田神社に来たのだ。

だから留美さんも私的な立場で迎えてくれたというのに勝手に現実逃避をしてガッチガチになったこっちに非がある。

だから出されたお茶を出来る限り自然体でいただきます、と告げ、飲む。

美味しい、と素直に思い、喉を潤し、飲み終わった瞬間に思わずほっとする。

 

「本当ならお菓子も出したかったんですけど……丁度この前、碧ちゃんと女子会している時に切らしてしまって……あ、そういえばこの前シュウさんが隠し持っていたエロゲを処分した時についていた特典で"母の味……"というお菓子がついていたので持ってきましょうか?」

 

「そ、それは色んな意味で危険なんで……!」

 

そうですか……と本気で残念そうに呟いているのを見ると危険だ。

この人、悪意とか外道とかじゃなくて善意で何かをしてしまうタイプだ。

というかどうしてそのタイトルを見て不穏な気配を感じ取れないのだろうか。

 

「あ、あのー……その……その呼称に何かえっと……ほ、ほら? 思う所ありません?」

 

「え? え、ええ……確かにその、変な名前ですけど……シュウさんが得たものですから大丈夫だと思いまして」

 

思わず息を呑む。

今の言葉の裏の意味をはっきり読み取ってしまったからだ。

 

……こ、この人、シュウ君への信頼度MAX過ぎて何があっても大丈夫状態……!?

 

恋は盲目と言う状態かと言われたらそれは違う。

何故なら留美さんはしっかりと名称に関して奇妙という真っ当な感性を保持している。

ただ留美さんは真っ当な感性を保持したまま、シュウ君によるものならば結果を受け入れるという状態なのだ。

愛の深度による完全なる信頼行為。

最早、頬すら染められないレベルだ。

 

一体シュウ君はこの人に何をしたんですか……!?

 

ああ、もしかして今のシュウ君では望み薄かもしれないけど昔のシュウ君が何かイケメン行為でもかましてしまったのだろうか。また現実逃避か自分。

落ち着くのだ自分。

確かにここに来た理由は彼の事だけど彼女との事ではない。

彼女との事ではないけど……

 

「その……」

 

事ではないはずなのに思わずふと過ぎった弱みから、浅間・智の性格の檻から放たれた言葉から口から洩れた。

 

「留美さんは───何でシュウ君を好きになったんですか?」

 

 

 

 

 

「───」

 

返事は直ぐには返って来なかった。

当然だ。

今のは遊びに来たの範疇に入る言葉ではない。

完全に他人のプライベートな領域に立ち入る言葉だ。

ここで怒られても文句を言えない内容であり、ふと冷静になればやってしまったという思いはあるがもう引き返せない。

肝心な事を聞けていないがもうその時はその時だと開き直るしかない。

自業自得という言葉で帰るしかない。

そう思っていたのだが、少し空いた間の後に来たのは怒りの声ではなく

 

「……ふふ」

 

ちょっとした苦笑であった。

流石に予想外な反応に困ったような表情を作ってしまったが、留美さんもそれに気付きすみません、と前置き

 

「実は似たような会話を先程話した女子会でも聞かれまして……あんまり語るような事でもないのに話題にばっかり上がっちゃって……はしたないですね」

 

「い、いえ! そんな! それではしたなかったらうちのクラスメイトは汚いに……!」

 

いや実際汚いクラスメイトなのだが汚さの方向性が各自違う。

お金とか同人とか胸とか生命礼賛とかカレーとか。

意外と汚さにバリエーションがある事に気付いたが、気付いてもどうしようもないので黙殺。

こちらの言葉にまた上品に笑う仕草が凄く似合っていて何故かこっちが恥ずかしくなる。

そして少し笑いの余韻を味わいながら留美さんはその表情のまま話を続けてくれる。

 

「でも残念だけど……私は何か特別な事があった、言われたとかそういうのでシュウさんを好きになったわけじゃないの。確かにそう言うのにも憧れがないと言えば嘘になりますけど……」

 

おおぅ……凄い話を聞いている気がする。

つい前のめりになってしまいそうになる体を必死に抑えている。

留美さんもちょっとテンションが上がっているのか少しだけ頬を赤く染めながら

 

「まぁ、個人的な結論ですけど、自分でも納得している答えを述べるなら……長い間巫女としても一個人としても接して思ったんですよ───ああ、この人となら日々を幸いに過ごせるのではって」

 

「───」

 

うわぁ……

 

本当に凄い話だ。

そしてある意味で現実的な話だ。

つまり、この人は特別な事から彼を見ているのではなくあくまでも普段の自分の視点で接した中でシュウ君と一緒だといいな、と思ったという事だ。

草子とかと違ってロマンはないかもしれないが、逆に強固な想いなのではと思う。

何故ならそれは特別下の中で起きた感情ではなく日々の日常で培った積み重ねだ。

どのような事が起きても砕けない。

何故なら日常という何でも起きる毎日で積み重ねたものなのだから。

 

いいなぁ……

 

思わずついそんな事を思い───慌てて内心で首を振った。

いかんいかん、自分から聞いた事とはいえ自分まで流されてどうする。

大体、他人様の事にこんな嫉妬なんて……いえ嫉妬じゃありませんよーう。そうこれは単にシュウ君が誰も彼もにいい顔をしているからちょっとこれはどうかと思うっという事で……

 

超絶私面倒臭い……!

 

ああ、私、どう見ても面倒で人気が低くなるような行為ばかりしているキャラになっていますよ。

そういった意味では常に単刀直入な喜美やナルゼやウルキアガ君やシュウ君やホライゾンが羨ましい。

単刀直入に意味が分からん個性が発揮するがそこは綺麗に無視させて貰う。

今日は自分の弱点やら欠点やらを自覚する日のようだ。

そうして頭の中でモヤモヤしているとこちらを見かねたのか

 

「それで……今日はどのような要件で?」

 

気遣いの一言を受けてようやく頭を冷やせた。

そこでとりあえず小さく息を吸って吐き、頭を切り替え、姿勢を整える。

こちらの雰囲気を察したのか、留美さんは目を真剣の意味で細め、あちらも姿勢を整えていた。

その態度に申し訳ないと思う。

彼女はプライベートと言った。

確かにプライベートでここに来たつもりであった。

ただしそのプライベートはプライベートと言うには余りにも失礼で重いモノで

 

「単刀直入に言います───シュウ君の家族は今、何をしているんですか?」

 

間違いなく人の隠し事に土足で踏み入る行為であった。

 

 

 

 

「───」

 

ピタリ、と一瞬、留美さんの雰囲気ですら止まったのをはっきりと浅間は感じてしまった。

直ぐに立て直して笑顔を浮かべようとしていたのは流石だが、その態度を予想していた自分からしたら申し訳ないが流石に察しが着いた。

その事に留美さんも気付いたらしく、はぁ、と自分の未熟を恥じるように息を漏らした後、真剣な表情のまま

 

「何故……今になって?」

 

当然の質問だ。

何せ今までずるずるとモヤモヤした状況のままを良しとしていたのにここに来ての直球だ。

騙したような形で問うたようなものだ。

答えるのは義務だ。

 

「やはり会議の時の妖精女王の言葉もそうですが……それ以前に。祭りの時のシュウ君の言葉を改めて思い出すと違和感を感じて……」

 

「違和感?」

 

はい、と答える。

あの時は少々テンパっていたせいで気付かなかったが、よくよく考えれば極東語がおかしい。

 

彼は家族の事を元気にしている(・・)よ、と答えた。

 

おかしくないようには聞こえる。

聞こえるが……彼の口調ではまるで今、直ぐ傍にいてそれを見ているみたいな言葉の使い方であった。

間違いなく武蔵には彼の家族は乗船していないのに。

それにおかしな所と言うのなら実はそれ以前から感じている部分は多々ある。

 

例えば三河異変による地脈炉による三河消失。

 

あの時、三河にある熱田神社の主社も巻き込まれ、武蔵に合流したのだがその中にも彼の家族の名前はなかった。

勿論、可能性は低いが他の国に向かったという可能性は一応ある。

そして他にも

 

「八俣ノ鉞……なんて名前がこの前ようやく付けられましたが……神格武装クラスのあの剣を熱田神社が所持しているのはおかしくはないんですが……その割にはスサノオ、もしくは草薙に由来する名が付けられていないというのもおかしいな、って思っていたんです……」

 

スサノオなら幾らでもあるというわけではないがスサノオが所持していた十握剣など彼が握るに相応しい名だ。

そうでなくとも名を持たない剣を持つ理由が普通は無い。

彼も神道だ。

名の重要性を理解していないはずがない。

それにだ。

 

「シュウ君は誰にでもなのかは知りませんが……少なくとも私の経験上では冗談は言っても嘘を言うのが苦手なんですよ……だから代わりに本当の事を言わない癖を作っているんです。特に私達が心配する事は」

 

小等部から中等部は正にそれであった。

余りの酷さに一度本気で怒ったがそれでも頑としてその生活を貫いた。

岩とか金剛(ダイヤ)なんて物で例えれる頑固さじゃない。

一度くらい弱音を吐けばいいのに……そこだけがある意味トーリ君とは似ているようで似通っていない。

冗談では幾らでも言ってもそこに本気の要素を込めて言葉に出したことだけは一度もない。

究極クラスの馬鹿の石頭である。

厄介な事にそれが彼のやりたい事なのだ。

血反吐吐いても誰かに嘲笑されてもやりたいと決めたことなのである。

それでは誰も無理をするな、と言えなくなってしまう。

その旨を留美さんにも告げると彼女は苦笑を顔に刻み

 

「質問を変えます。何故、聞きに来ようと思ったんですか?」

 

聞かれるかなぁ、と思っていた問いだったので驚きはないけどやっぱり言わないと駄目ですよね、と内心でやっぱり何を言われても大丈夫なようにちょっと覚悟をして

 

「いや……その……多分、シュウ君も近い内に自分の失敗に気付くと思って……それだといきなり言われて身構える形になってしまいそうだから……ほ、ほら……シュウ君って思い立ったら即行動みたいな所があるじゃないですか? だからせめて心構えだけでも」

 

と思いまして、と続けようとしたが口が開かなかった。

自分の内面で起きた出来事で口を閉じたわけではない。

口を閉じた理由は外部の出来事だ。

それは目の前の少女の表情が酷い言葉を聞いたという風に笑ってしまっていたからだ。

いっそ沈痛そうな顔をしてくれたら咄嗟に自分が粗相をしたのかと思うのだが彼女の笑みは取り繕った形で出た笑みの形ではないと直感的に理解出来てしまっている。

自分が"失敗"したのではない。いや、もしかしたら失敗なのかもしれないが……自分の言葉が彼女の"失敗"に触れてしまったのかもしれない。

だから思わず口を閉じてどうすればいいかという疑問に襲われるがその前に

 

「……酷い人ですね」

 

一瞬、自分の事よりもどこかできっと何か馬鹿をしているだろう幼馴染の顔を思い浮かべてしまった。

責任転嫁のようにも思えるが真実は彼女の表情の奥にしかない。

それを見透かせる程、私と彼女の仲は深くなかった。

でも私は達とは言われなかったが私と彼、二人に言われた気がした。

そんな疑問もやはり彼女の口が勝手に答えを音にした。

 

「きっと言ってくれるだろう、って思っている貴女も……きっと待ってくれているだろうって思いっているあの人も……本当に……酷い人……」

 

「───」

 

そんな事はない、と言えるわけがなかった。

シュウ君が貴方の事を信頼しているのは確かな事です───なんて恐らく彼女にも分かっているであろう慰めにもならない言葉なんて欠片も意味がないだろう。

彼女は信頼も欲していたのは確かだろうけど……本当に欲しかったのは信頼だけではない事くらいよく理解できる。

 

立ち位置は違えど同じ立場の人間として余計に。

 

でも彼女の場合は私みたいに不明瞭から来る曖昧さがない気がする。

それはつまり彼女は自分よりも早くに一歩、先に彼へと近付こうとして───途端にとてつもない嫌な気分に襲われそうになって慌てて首を横に振るう。

何度私はこの人に失礼な事をすればいいのだろうか。

思っている間にふと正面を見ると彼女は何時の間にか立ち上がって襖を開けていた。

襖から漏れるそとの光に照らされている様が余りにも似合いで、性別とか関係なく見惚れてしまった。

見惚れたが……その眩しい物を見てまるで自分の泣き顔を誤魔化すような仕草にも見えてしまい、罪悪感を覚えてしまう。

そして何時の間にか顔を逸らしていた自分に余りにも小さい苦笑の音を留美さんは漏らしながら

 

「貴方の質問に答える資格を持っていないので残念ですが先程の問いには答えられませんでしたが……恥の上塗りついでにあの人に対して二つ程嫌がらせをさせて貰いましょうか」

 

「嫌がらせ……?」

 

「そう。嫌がらせ」

 

何を……? とこちらが口を漏らす前に彼女はくしゃり、と絵画の絵の女性の表情が突然に崩れて生まれたような笑顔を浮かべて

 

「私は貴女が苦手です。だって───嫌わせてくれないんですから」

 

「───」

 

苦手。

嫌わせてくれない。

 

浅間・智の短い人生では余り言われた言葉ではなく───そして間違いなく人生でトップクラスの大打撃の言葉だった。

大打撃の言葉を放つ存在は強いて言うなら喜美がいるがやはり彼女とも決定的に違う。

何故なら喜美はこんな口調で、こんな眼で、こんな事を絶対に言わない。

 

 

こんな心底悔しそうな(・・・・・・・・・・)感情(コトバ)を私は聞いたことが無い。

 

 

いやまぁ、アデーレ辺りにはよく言われているようなという普段の思考が一瞬、過ぎったが流石に空気を読んでないのでアデーレの記憶からは脳から退場して貰った。

余りにも扱いが悪い気がするが今はそっちに構ってられない。

何故なら彼女は嫌がらせを二つする、と言った。

私に対してではなく"あの人"に対して、と。

そして彼女はそれを私に聞かせている。

どういう理由と理屈と感情があって私に言葉を放っているのかは分からない。

だけど彼女は意思を止めるつもりは見えない。

ならば聞くべきだ。

いっそ血を吐くような表情で言った方が気が楽になるのではないかと思う笑顔で話しているのだ。

聞くべきだ、その答えを内心に抱いた時を狙ったかのようにして、留美さんは口を開く。

 

「もう一つは───あの人がここに……武蔵に来ると決めた日」

 

その時

 

「最初は全く来る気なんて無かったんですけど……だけどとある人がとある人物の名前を出した途端にあの人泣いて(・・・)こう言ったんですよ?」

 

泣いての部分で思わず浅間の体が固まってるのを無視して彼女は何故か楽しそうな口調で

 

「"俺にもまだ守りたいと思える人がいた"って……」

 

「───」

 

守るとかそういうのは苦手。

 

そういう言葉が口癖の彼。

何せ調理実習の時に包丁で野菜を斬ろうとしたらよくあるネタのまな板を切るどころかキッチンを軽くぶった斬ってしまった事がある。

思わずアデーレやミトが無意識に両腕で胸を守ろうとする光景であった。

ちなみに慌てたシュウ君は何故か真っ先に野菜をくっ付けようと無駄の努力をしようとして

 

「……あれ? 野菜、くっ付いたぞ……?」

 

「ま、まさか……! 熱田君、君は遂に戻し斬りの境地に辿り着いたんだね……! 唸るよ僕の右手……!」

 

流石にキッチンは戻らなかったが。

これって俺のせいか!? と叫びながらとりあえずオリオトライ先生に吹っ飛ばされたあの光景を覚えてしまったのは良い事か悪い事か。

だが、それくらい彼の力は確かに破壊の方向性に突出している。

無論、破壊も方向性によってはそれは正しい方向にも使えるものだ。

土木関係なぞ正しくそれだ。

 

だけど彼は剣神で副長で、そして最強を目指している。

 

だからこそ余計に守るのは苦手。

そういうのはネイト辺りに任せると苦笑交じりに漏らしているのが常の彼であり、常の彼の生き方であった。

その彼が自分が定めた生き方を否定してでも守りたい、という人がいる。

守らなければならないという義務感ではなく守りたいという意思と願望から。

 

 

それが彼を知っている人からしたらどれだけ良かった、と言える事か。

 

 

その事を間違いなく理解している人は先程までの痛みを感じる笑顔を何時の間にか外して真剣の表情を張り付けて真正面に座り───お辞儀をした。

お辞儀には願いが付いてきた。

 

 

「どうか───シュウさんの事をよろしくお願いします」

 

浅間はそれに応える事が出来なかった。

何故なら私はその"とある人物の名前"を聞いていないからだ。

彼はまだ私に何も言ってくれてないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よ、ようやく書き終えました……

いやぁ~~巫女二人を書くのが余りにも楽しすぎて本来終えるはずだった文字数を軽くオーバーしちゃいましたよ、あはは。

ともあれ次回からアルマダの始まりまで……! ───と言いたい所ですがその前に外伝の作業に入らせて貰います。
この前、ハーメルンにも相方が投稿したのですが自分とクロの合作……と言ってもほとんどクロ主導ですが南海に咲く桜と剣舞の方もどうかお願いします!

奴のあとがきに言っていることは大抵嘘だ。何でも自分に罪を擦り付け様としているのだ。実に卑怯なやり方でしか鬱憤を解放出来ないいやらしい作者なのだ……!

やろう、ぶっ壊してやる!

では感想・評価よろしくお願いします!

ひゃっはーー! FGO面白いですーー!
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