不可能男との約束   作:悪役

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過去を超えようとして


今に塗り替えられる



配点(どうして?)


人狼女王

 

 

浅間は熱田が佐々・成政と激突する姿を映像越しに見守るしか出来なかった。

 

 

シュウ君………

 

六護式仏蘭西の聖譜顕装によって制限される中、唯一制限されない思考を持って、最前線で戦う幼馴染の事を思った。

巫女として人の身体の調整も行っている自分には、少年の身体が今、どうなっているかを診れるのだ。

 

 

 

右の肋軟骨と胸骨柄が折れ、第八肋骨にも罅が入っている。

 

 

折れた骨はそのまま中に突き刺さっている事も確認されており、軽く見ても大怪我だ。

ドクターストップを入れられるのならば、今すぐ入れるべき状況だ。

止められるのならば、幾らでもしている。

でも、浅間にはあそこに今すぐ行く力も無ければ、行った所で少年を守れる力も持っていないのだ。

元より、人を守るという大義名分が無ければ、戦闘行為などしてはいけない身なのだ。

留美さんはスサノオの神社の人間だからか、戦闘が出来るらしいが…………と思っていたら、己の思考に嫌な物が混ざっている事に気付き、思わず、自己嫌悪に陥る。

 

 

 

何を馬鹿な事を…………

 

 

己と同じような立場であるからと言って───────向こうは彼を守る事が出来るだなんて嫉妬して。

そんな簡単な事ではないのに、安全圏から好き勝手思うなんて見苦しい事この上ない。

首を振って顔を叩きたい所だが、制限の中では、行動宣言を起こさないといけない。

だから、内心でその感情を押し潰しながら、シュウ君の安全を祈願する。

 

 

 

お願い…………無茶はしていいですけど……………無理はしないで……………

 

 

 

届いて、と素直に思う事を己に許す。

だって、知っているからだ。

 

 

 

 

彼は無理ばっかりして……………それが当たり前になってしまったという事を

 

 

 

 

 

 

 

最初に振りかぶった拳に対して、俺は佐々の肘の内側に足を突っ込んで、その姿勢で止める事に成功した。

 

 

 

「……………っ!」

 

 

隠しようのない舌打ちはミドルレンジ主体の奴がこうも容易く内側に入られた事からか。

苛立ちに殺意が籠るのを見て、思わず口を笑いの形に歪めながら、

 

 

 

「やるぜ───────右手に持っている刃を小物の体の中央に突き刺す」

 

 

 

自然体で握っている鉞をそのまま突き出す。

ぬるりとした空気抵抗が剣先に引っかかったような感覚が生まれるが、構わず押し切ると容易く剣は音の壁を乗り越える。

その上で歩法によって腕から先を知覚外に置き、対応不可能な攻撃に変える。

サングラス越しの視線が一瞬、こちらの右腕からの先を探すように泳いだのを見過ごさずに、敢行した。

 

 

 

狙いは先程の意趣返しに体の中央。

 

 

そちらと違い、こちらが大剣の分、受ければ致命に至る負傷だ。

対処しなければ死ぬ一撃を、躊躇わずに突き込む。

何故なら何となく勘が言うのだ。

 

 

 

「────────百合花ぁ!!」

 

 

 

この程度で死ぬような雑魚ではない、と。

 

 

上半身ではなく下半身に咲いた百合花が震脚を伴って地殻を破壊する。

局所的な地震が発生する中、俺は少し姿勢を崩す。

砕け過ぎて、地面が割れ砕き、浮き、一瞬とはいえ斜めに傾げてしまったからだ。

それでも両足があれば、何とかなっただろうが、生憎攻撃の対処に片足を上げていた。

宗茂や喜美の馬鹿程、バランス感がない自分は数瞬だけ、体を揺らす結果に陥ってしまった。

刃の軌道が少し右にずれるのを感じながら、普通の神経ならばここで一度体勢を整えるために引くというのがあるが

 

 

 

「おぉ……………!!」

 

 

六天魔軍の4番の一人は、そんな普通の神経など無いと言わんばかりに、そのまま右足から踏み込んできた。

スライドするように前進する行動は乱暴だ。

最短距離を突き進むために、ずれたとはいえ、体の中央に向かっていた刃に向かって行っているのだ。

二の腕辺りに刃の先が当たり、そのまま裂かれていくのを見ながら、内心で笑う。

 

 

 

───────やるじゃねえか………!!

 

 

最短最速の道を進むのに一切の躊躇いを抱いていない。

今回は裂くだけに止まったが、もしも必要な負傷が、腕一本であったとしても同じ事をしていた、という確信が歩調から察することが出来る。

それくらいやってくれないと困るというものだ。

例え、それが俺がいない時に得た評価であったとしても、この戦国時代において最強の一角に数えられている六天魔軍であるのならば。

そうだ。

俺がそれを奪うのだ。

今までは許したが、もうこれからは許さない。

 

 

 

俺が最強だ

 

 

故に前進してくる相手に対して、俺は

 

 

 

「踏み荒らす」

 

 

と宣言し、そして宣言通りに足を地面に叩き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

「────────あ?」

 

佐々・成政は視界がおかしくなっている事を悟った。

理由は簡単だ。

先程まで目の前にいたはずの武蔵副長の姿が消えたからだ。

拳を突き出そうとしていた体は危機感から停止し、何故そうなったかを理解しようとする知覚が答えにたどり着いた。

武蔵副長はいた。

ただし、目の前ではなく自分の上───────否、位置情報を考えれば下と言うべきか。

 

 

 

自分の体───────正確には自分が立っていた地面ごと、奴の真上にまで浮かされていたのだ。

 

 

 

「────────」

 

原理は直ぐに理解で来た。

要はシーソーみたいなもんだ。

シーソーの片方の側を思いっきり踏めば、当然、逆側が持ち上がる。

今回はそれを一回転するまで踏み込んだ結果、という事なのだろう。

俺が一度、地面を砕いている分、し易かったというのもあるのだろうが、ただ素直にやるじゃねえか、という感慨を抱くが、それだけで終わるわけにはいかない。

何故なら、武蔵副長が剣を握っている右腕に力が入るのを見たからだ。

対応が来る事を理解する。

即座にどうするかを考えるが

 

 

 

 

構いやしねえ……………!!

 

 

 

年下のガキ相手に、ここで一歩引くというのは恥だ。

無論、年下とはいえ役職的には敵とはいえ上の人間。

故に馬鹿正直に正面衝突をするのではなく、甘えも慢心も許さない一手を持って、真正面から狙うのが敵であり、俺の生き方だ。

 

 

 

「百合─────」

 

 

百合の花が再び咲こうとする。

たった一つの花を持って百花繚乱を彩ろうとする術式を見ながら、真下にいる武蔵副長に超高速で突撃を使用とし────────視界が銀の形と影に覆われた。

 

 

 

 

「────────」

 

 

 

アドレナリンの大量分泌によって時間の速度が遅くなった事によって理解出来るのは、武蔵副長の刃が顔面に突き刺さろうとしているという事実であった。

どうやって、という思考はコンマ一秒以下の本能から叩き出される。

信じられねえが────────つまり、あの一瞬で手首の返しを持って、奴の視界的には真上にいて死角にいる俺の顔面に正確に投げ飛ばした、という事だろう。

 

 

 

「……………っ!」

 

 

反射で両の手で真剣白刃止めを行う。

勢いを殺げず、そのまま進もうとするも、百合花の強化で人外の域の出力を出せるので額に一ミリ突き刺さる所で止まり────────

 

 

 

即座に、真下のガキが足を振り上げようとしているのを見て取った。

 

 

どう考えても俺が今、持っている刃の柄尻を蹴り上げて、そのままぶっ刺そうという流れに────────頭の血管が千切れるような怒りを受け入れ

 

 

 

舐めんじゃねえぞクソガキが……………!!

 

 

 

口では言えない叫びの代わりに放つのは先程言いかけた術式(はな)の名前。

佐々・成政と言う名も、人間も、六天魔軍の4番もP.A.Odaの名も伊達ではないという事を、この舐めくさったガキに叩き付けてやる、という怒りによって今こそ咲く。

 

 

 

「──────花ぁぁぁあ!!!」

 

 

結果、熱田と佐々が乗っていた岩塊の両方が砕ける、という破壊の力が生まれた。

 

 

 

 

 

 

落ちてくる岩塊を拳で叩き壊しつつ、煙で晴れない周りを見つつ、その隙に口の中に溜まった血液を吐き出した。

飲んでもいいのだが、自分の血液を好きで飲みたくなる程、喉は乾いていない。

暴れまくったせいで、折れた骨が色々突き刺さりつつあるようだが、別にこの程度、何とでもなる。

たかが痛い程度で折れる人間なんて、一般人を除いたら役職就きでは見た事が無いし、なるつもりもない。

煙邪魔だな、と思っていると唐突に強風が吹いて視界を晴らしてくれた。

 

 

 

すると、ほんの10メートル程先に、額から少量の血液を流している佐々・成政がいた。

 

 

額と左腕の擦過を除いたら無傷な姿に特に驚きはしない。

何故なら、あの野郎は、真剣白刃止めをして動く事も難しい中、何をするかと思ったら────────そのまま持っている鉞をこちらに投げ飛ばしてきたのだ。

両手で剣の平を持った態勢からそのまま投げてきたというのに、人の膂力からはみ出した力はそのまま俺の振り上げた足に激突し、結果として先に足場が崩れ落ちたのだ。

それでも蹴り返しはしたのだが、向こうもあれだけ時間が出来れば楽に躱せた、という事だろう。

 

 

「……………」

 

一瞬だけ、武蔵の方を見るが、もう直ぐ退却が終わるという所までは行っているようだ。

殿に馬鹿とアデーレはともかく、留美がいるのを見る限り、また俺に気を遣いやがって、と思っていると

 

 

 

「余裕のつもりかテメェ」

 

 

と、こちらが武蔵の方を見ている事に気付いたのか、佐々がサングラスを上げながら、何時でもこちらに襲い掛かれる、という姿勢になっているのを見つつ

 

 

 

「たりめぇだろ。俺の余裕を崩してぇんなら後、30億くらい掛け算して来い」

 

「たったこれっぽっちで俺に勝てると思ってんのか? あ?」

 

 

額についた傷をわざわざ親指で示して挑発する敵に付き合いいいな…………と思いつつ

 

 

 

 

「それこそ馬鹿め────────この世に勝てねえ敵な(・・・・・・・・・・)んていねえ(・・・・・)

 

 

 

いいか、と前置きを置きつつ

 

 

 

「相性の差、種族の違い、才能の優劣、武器の質───────どいつもこいつも下らねえ言い訳だ。相性が悪かったから勝てなかった? 種族による能力差から手も足も出なかった? 敵がとんでもねえ天才だった? とんでもねえ神格武装や大罪武装が相手だったから? クッソ下らねえ────────んなの、勝てる自分に仕上げていなかったテメェの怠慢だろうが」

 

 

ふん、と一息を間を置きながら、結論を吐く為の酸素を得て、吐き出す。

 

 

 

「遠距離相手に手も足も出ねえなら、全てに対処しながら近づける自分になりゃいい。種族特徴なんかで勝てねえなら、そんなもんを覆す力か技術を得りゃいい。才能で劣るなら数をこなして積めばいい。武器なんかを言い訳にするなら阿呆だ──────あらゆる劣勢、あらゆる状態、状況で勝ってこそ────────最強ってもんだろうが」

 

 

 

「────────」

 

 

何やら沈黙してこちらの言葉を聞き届けやがったが、まぁ、別に同意なんてされようが、されまいがどうでもいい。

誰かに否定された程度で止まる疾走をしてきたわけではないし、今更止まるつもりもないのだから、と思っていると

 

 

 

「言いてぇ事は理解した」

 

 

ガツン、と両の拳を体の前でぶつけて、分かりやすいくらいやる気満々である事をアピールしながら───────しかし、佐々・成政の眼には一切おふざけの色も無ければ、哀れな者を見る目も無く、だが

 

 

 

 

「ただ──────その理屈はテメェにも帰ってくる事だ」

 

 

 

はん、と思わず、返してしまう。

んなの────────全く当然の理屈だ。

俺だけが強いなんてくそ詰まんないし、俺一人だけがまるで運命に守られているかのように一人独走しているなんてそれこそ神様にちやほやされている玩具だ。

その通り、俺は負ける可能性があるどこにでもいるちっぽけなただの弱い人間だ。

 

 

 

だが────────それでも俺に勝ってい(・・・・・・・・・・)いのはあの馬鹿だけだ(・・・・・・・・・・)

 

 

 

この矜持だけは誰だろうと折らせない──────それが例え、己であっても。

故に、佐々・成政の言葉を敵として受け止めつつ、しかし言動ではそんな事は起きない、というような態度で

 

 

 

「証明してみろよ」

 

 

俺の挑発に佐々・成政は再び百合花、という術式を表示させるのを見届けて、俺は再び、馬鹿共が何とか橋に逃げきろうとしているのを見届け、後、一分くらいか、と思う。

 

 

 

こいつを一分以内に泣かせないと、と

 

 

 

 

 

 

留美は総長と従士のアデーレさんと一緒に武蔵に戻る算段を考えていた。

 

 

「アデーレさんの運搬が大変そうですね」

 

『あーー。すいません、自分の機動殻、固いのはいいんですが、重くて遅いんで、最悪は乗り捨てするんですが…………』

 

機動殻で謝ろうとして姿勢を正すのを見て、いえいえ、と会釈する。

頑丈なだけ、と言うがそれで十分に武蔵の防御に役に立っているのならば、それは大戦果である。

一つ取り柄があるのならば、それは長所だ、とその旨を告げると

 

 

・貧従士:『うぉぉぉぉぉぉぉ!! 自分、メアリさんと同レベルの神様を見つけましたよ!? ど、どうですか皆さん! 自分、偶には調子に乗っていいですか!?』

 

・ウキー:『それ、完全な盾としての利点にされてないか?』

 

・●画 :『じゃあ、アデーレ。今度は貧乳である事の長所を告げられたら?』

 

・御広敷:『金欠の長所ってなんでしょうか。小生には中々見つけれないですが』

 

・貧従士:『う、うぉぉぉぉ……………!! 調子に乗って本当にすいませんでした……………!!』

 

 

私にも見えているのですが、目の前でも一切構わずにやるのは流石だ。

この状況でも一切、折れてもいなければ揺れてもいないと確認も出来るので一石二鳥ですね、と留美は少し小さく笑いながら、あの人のクラスメイトの底力を嬉しく思った。

 

 

 

 

IZUOMOの地殻のメインフレームを投げつけられた後でも、それでも前を見ているんですから…………

 

 

 

人の力では、否、並大抵の異族の力を持っても不可能としか思えない化け物の所業が起きた、つい数分前を思い出すと流石に刀を握る手に力が籠ってしまう。

該当する相手は現状を考えれば一つしかない。

 

 

 

 

六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)の期待の新人であり、今もまだ謎の副長だ。

 

 

 

あれ程の行動を…………ただ、怪力でどうにかしているというのならば軽く見ても妖精女王やシュウさんクラスである事だろう。

普通に考えれば、絶望に陥ってもいいのだろうけど、梅組の皆さんは大丈夫そうですし────────私は条理を覆した怪物なんて常に見ている。

だから、どんな相手でも膝を折る事だけはないだろう────────無限地獄を超える地獄なんて熱田神社にいる人間なら誰もが認めない。

だが、そのお陰で視界が霧に満ちて、視界が悪くなるのは嫌ですね……………と思っていると

 

 

 

 

・金マル:『ソウチョーー。今、ミトっつぁんとナイちゃんでそっち向かっているから無駄に動かないでねーー』

 

 

 

第三特務からの通信に、それならば、とは思うが

 

 

 

……………第五特務さんは宜しいのでしょうか?

 

 

留美がそう思うのは彼女に関しては間接的に近いが────────八年前にシュウさんが彼女を助けた現場を知っているからだ。

そういう意味ではそこら辺については梅組に近い情報は持っている所は持っていますね、と思いつつ、しかし確かに総長はともかくとしてアデーレさんを連れていくには丁度いい役割か、とは思う。

その間に総長がさんこ節を歌いだしたのは驚いたが、何とか護衛は出来ましたかと思っていると

 

 

 

「そちらにいるんですの?」

 

 

と、いう声が霧の中、背後から響く。

口調と声色、更にはシルエットから第五特務さんですね……………と思っていると即座に総長に鎖が巻かれるのを振り向きながら見届けて

 

 

 

……………あれ?

 

 

 

シュウさんと違い、梅組のメンバーとの付き合いは別に深くはない。

敢えて言うならば非常に個性的且つ性格の特徴を知っているくらいだ。

毎回、色々と一番派手な事をしますし。

その中で第五特務さんの人柄、というか特徴は武蔵総長を王として仰いでいるという事だったはずだ。

 

 

 

それがこんな風に無造作に鎖を巻きますでしょうか……………

 

 

 

うーーーん、とは思うが、でも普段よく鎖で振り回したりする光景も見ているから意外と普通ですかね?

アデーレさんも特に何かいわ────────

 

 

 

 

「あれ!? 第五特務! ────────その裏切りの乳はなんですか!!?」

 

 

 

 

何やら聞いた事が無い極東語を聞いた気がするが、しかしその叫びに思わずもう一度シルエットを見る。

まず、見たのは個性的な膨大というか巨大なロールの髪だ。

これに関しては間違いなく第五特務の個性であるはず。

次に見るのは、叫び通りに胸の方を見ると

 

 

 

「あ……………」

 

 

でかい。

というかよく見れば、背丈も普通に第五特務よりも大きい。

そう認識すると同時に

 

 

 

「我が王。そちらですの?」

 

 

という疑問視が自分達の背面から(・・・・)聞こえた瞬間、確信を得た。

 

 

「っ…………!」

 

 

即座に刃に手を伸ばし、一歩踏み込もうとし

 

 

 

「あら。鋭い」

 

 

視界一杯の銀色を認識したと同時に、やられた、という思いを自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉ!! なんだこのオパイは!? 馬鹿なネイト! オメェ、どうやってこの乳を今まで隠していたんだYO! 制服と騎士服の胸の部分は実は四次元か!? 四次元オパイか!? 揉み損ね……………!!」

 

「ひ、酷い誤解を貰いましたが、まずそれ別人! 母! うちの母ですのよーーー!!?」

 

 

何だと! とトーリはネイトのツッコミに鎖に巻かれた身を捻ると確かにネイトではなかった。

いや、髪の量とかは超似通っていたんだけど、まず胸が違う。

 

 

デケェ

 

 

最初に言っておくが、背丈も結構大きく感じるけど、やっぱり胸だ。

ネイトと全然違う。

浅間や姉ちゃんや金マル、直政ですら打ち勝てない巨大さだ。

 

 

 

こんな乳があるとは……………!! 後で親友に報告せね…………あ、いや、ダメか。あいつ、根本的には浅間しか見てねえしなぁーー。あ、でもさっき、めっちゃ吹き飛ばされた神納に対してもメッチャ複雑そうな顔していたっけ。でも、どうなんだろ? あいつかなーーーーり一筋馬鹿だけどなぁ…………あ、でも一筋だから同じジャンルの奴に弱いんじゃね? じゃあ親友はこの巨乳相手には巫女要素がねえから無意味? あいつすげぇな……………!! 尊敬したぜ……………!!

 

 

 

「……………何か急にくねくねしたと思ったら、真顔になって黙って、最後にはガッツポーズして敬礼しているんですけど…………ネイト。こんなおかしい子を王様にして大丈夫ですの?」

 

「お母様! それは武蔵にいる皆に効きますの!」

 

・約全員:『巻き込むなよ!!』

 

 

おいこらぁ!! と俺は叫ぶのだが、鎖に巻かれた体はくねるくらいしか出来ず、あ、これ、確かにネイトの怪力にそっくりだわぁ、と思うが、つまり俺単独で抜けるのはMURI。

 

 

 

 

六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)副長…………そうですね。聞こえがいい名だと人狼女王でいいですわね。此度、ルイ・エクシヴの声に応えましたの」

 

 

ネイトが絶句の表情をするのを見て、あれ? ママンの事なのに知らねえのかよって思ったが、まぁそれはいい。

問題は次の

 

 

 

「ネイト────────武蔵総長兼生徒会長、貰っていきますわね?」

 

 

 

という言葉だ。

ネイトは今度こそ顔が真っ青になるくらい絶句しているが、とりあえず俺としては

 

 

 

「おいおい!! 同級生の母ちゃんに攫われるって中々ねぇよ俺! 現実ってエロゲを凌駕するもんだったっけ!!?」

 

 

 

 

 

 

人狼女王は何やら終始テンションが高い武蔵総長兼生徒会長を少し揺らして黙らせながら、自分の娘の方を見る。

久しぶりに肉眼で見た我が娘は可愛らしい事に、母を前に身を固くして、まるでお気に入りの玩具を奪われるのを怖がる子供だ。

八年前と何も変わらない。

ならば、この子は障害でも何でもない────────ただの子供だ。

故に、自分は娘から視線を切って、別の場所────────先ほど、巫女服の少女を吹き飛ばした方角を見る。

 

 

 

「総長連合でも無いのに上手く躱しましたわね」

 

「……………賛辞は素直に受け止めます」

 

 

一瞬間があったが、ばれていると気付いたのだろう。

巫女服に刀を腰に差した少女は霧の間から出現した。

多少の傷や汚れは目立つが大きな怪我はない。

咄嗟にこっちの攻撃を、刀を抜くよりも鞘ごと抜いて防ごうとした閃きと反射によるものだ。

人間の枠で見るならば見事な力だろう。

そしてその少女も確かに態度こそ固いが……………しかしこちらを見る瞳には娘のような震えや惑いは無く、抗うという意思の炎が見える。

ならば、こっちは敵だ。

他にも黒魔女も上にいるが、上を見上げて喋るのは難しいのでそこは許して貰おう。

従士の機動殻も直ぐ傍にいるが、弱いわけでは無いが、相性が悪い。

だから、今はこの少女を敵として喋らせて貰いましょう、と思う。

 

 

 

「人狼女王程の強者が人質ですか?」

 

「人質になるか、ならないかはそちらの王様次第ですわ」

 

 

こちらの言葉を理解したのだろう。ネイトは息を飲み、巫女の少女は険しい目つきになった。

巫女はともかくネイトは一々驚いて可愛らしい。

人狼とは食人の家系である、という事は別に隠している事でもないのに、それだけこの変な王様が大事なのかしら……………大事……………下半身だけ脱いでいる少年が大事……………

 

 

 

「……………ネイト。もしかして武蔵で洗脳されていたりしているんじゃ……………?」

 

「な、なんですのその唐突な癖に微妙に的確な疑問……………!」

 

「ネイト────────こんな下半身裸で前向きに犯罪している人を大事にしている、と言われてうちの娘は立派になって……………って言えると思いますの?」

 

 

 

 

・約全員:『……………確かに』

 

・銀狼 :『ちょ、ちょっと皆! 一体、どっちの味方ですの!?』

 

・あさま:『いや、ミト。よく考えれば、全裸に慣れているのがおかしいんですけど、そこら辺、うちは総スルーしている弊害で、全裸に寛容的になっていると言うか……………』

 

・〇べ屋:『トーリ君通報した人間が、むしろ哀れまれる不思議環境になっているもんねーー。お陰でトーリ君、指名手配してもなぁーーんも価値ないんだよねーー」

 

・俺  :『お、おいこらオゲちゃん! 無価値の人間だって懸命に生きているんだぞ!? スマイル0円! 握手0円! 土下座0円! 全裸0円! こんなにサーヴィス精神旺盛な無価値な人間が他にいるか!?』

 

・副会長:『おい、葵。馬鹿なのは分かったから、もうそこのミトツダイラの母に食われたらどうだ』

 

 

 

 

娘が俯いているようだが、現実を見れるようになったのならば何よりだ。

何やら表示枠でギャアギャア叫んでいる、武蔵総長をまた揺さぶって黙らせていると

 

 

 

「ならばこちらは武力行使させて貰います」

 

 

と、再び巫女の方が構え始めたので、その戦意の継続は見事ですわ、と思いつつ

 

 

 

「この少年の為に命を賭けますの?」

 

「いえ、命を捧げたい人は別にいるので、そこまでは……………」

 

 

思わず無言で真顔になる少女が、ちょっと待って下さいっとハンドサインをするので女王としての余裕でOKすると表示枠で何やらまた会話が行われる。

 

 

 

・留美 :『す、すみません皆さん……………役職的には大事な人なのについ私情を優先して……………』

 

・ウキー:『いや、完全同意だろ』

 

・●画 :『総長の為に死ねる人って武蔵にいたっけ?』

 

・労働者:『分かってしまってもどうにもならない事なら言わなくていい』

 

・副会長:『おいおい待て待てお前ら。確かに葵はどうしようもなくウザくて馬鹿で全裸だが、一応、仮にも人間であるからな。だから命としての観点で見れば、やはり、重いもので、つまり、葵自身はどうでもいいが、一人の人間としての命だけは尊重しなくてはいけないだろ? ────────建前上ではな』

 

・貧従士:『ふ、副会長! メッチャ本音出てます! 出てますって! ほら! 頑張って下さい────────自分は無理ですが!』

 

・約全員:『意味ねえじゃねえか!!』

 

 

 

 

巫女さんは何やら難しい顔で顎に手指を掛けながら、とりあえず、と言った感じで頷きつつ

 

 

 

「とりあえず────────命は大事ですからやはり、そこは守ろうという事で…………」

 

「……………何か浅くありませんの?」

 

 

何だか、ドンドン心配になる方向性だが、まぁ、動画とかを見ている限り、常にそんな感じなのだからそういうものなのだろう。

それに

 

 

 

余りそれで騙されてはきっといけないのですわ……………

 

 

 

そういう戦い方(・・・)なのだ武蔵は。

まだフィーリングでしかないが、狼の嗅覚がそうであると告げている。

それでも最大の獲物の一人はこの少年なのだと。

ただ

 

 

 

 

「本当ならもう一人、連れて帰りたかったのですけど……………」

 

 

 

別に聞かれても気にしない独り言だったが、巫女の少女は一瞬、無表情になりつつ

 

 

「誰の事ですか?」

 

「分かっているのでしょう? 熱田神社の巫女さん」

 

 

言外に誰の事かを告げると、少女の顔は武蔵総長の時と比べれば一段と険しくなっているのに、この子も可愛いですわね、と思う。

私と一緒、というのは流石に失礼かとは思うが、さっきからこの少女から誰かと一緒になりたい、という匂いがするのだ。

それも誰か、と疑問することが無粋な事だろうと思っていると

 

 

 

「……………8年前の事ならば、引き分けのようなものだったと思いますが?」

 

 

 

やっぱり、知ってましたのね、と苦笑しながら、告げられた内容に過去を想起する。

自分の人生、人に比べれば長いが……………あ、いえ、長いと言ってもちょっと。ほーーーーーーーーーーーーーんのちょっとの事ですのよ? 

まぁ、人生を過ごしたが、夫の事は永久不変の1位の思い出ではあるが、その次か次辺りに強烈さを味わわされた記憶は正しく8年前の少年の行いくらいだろう。

 

 

 

 

何せ、顔を血だらけにしながらも、ネイトを背負ってこちらを見る、あの眼光の鋭さ────────それだけの負傷を帯びてなお、俺に勝ったと思うなよ(・・・・・・・・・・)、と叫ぶその目

 

 

 

正しく刃のような少年の記憶を思い出して興奮して

 

 

 

 

「ええ───────だから、あの子も食べたくて」

 

 

 

と、告げ────────数秒の間が開いた後

 

 

 

 

「あら」

 

 

 

周囲一帯から鋼の音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

人狼女王の言葉に反応したのは武蔵では無かった。

厳密に分けるのならば、武蔵勢ではあるのだろう。

武蔵に乗艦している人間という意味では確かに彼らは武蔵勢であった。

 

 

 

しかし、その意思は違った。

 

 

彼らは確かに武蔵の総長連合と生徒会の意思も組み、力も貸す。

仮にも己が住んでいる船なのだ。

そこで恩を感じない程、恩知らずではない。

だが────────武蔵を守る事と、現総長連合と生徒会に与する事は別だ。

彼らが武蔵を守る以外で刃を振るう理由はただ一つ

 

 

 

 

────────己の神を傷つけ、侮辱され、そして窮地に立たされた時

 

 

 

故に今、熱田神社の一員は躊躇う事無く人狼女王という世界において最大の一つに、恐怖を忘却して突撃した。

 

 

 

 

 

人狼女王は周りから鉄の臭いと音が鳴り響くのを見て、微笑を深めた。

 

 

 

……………素晴らしいですわ……………

 

 

音の響きに一切の恐怖の音色が無い───────全てがこちらを斬ってやるという殺意の合唱だ。

人狼女王という名も力も感じ取っているだろうに、知った事か、と無遠慮に示している。

実に踏み荒らし甲斐がある。

そう思っているとまずは空から来た。

白髪をした少年が、空から己の二律空間から大量の刃を取り出しているのだ。

3桁に及ぶ武装だが、それがただ落ちてくるならば何も怖くない。

となると仕込みがあるのだ、という思考に答えるように、上空の少年────────熱田神社ではハクと呼ばれる少年がポツリと言葉を漏らす。

 

 

 

 

「術式、"荒嵐"起動────────」

 

 

 

所属する神社の神髄のような名と共に────────全ての武装が正しく嵐のように胎動した。

雨のように勢いよく落ちてくる物もあれば、物理法則では有り得ない、横から飛んでくる武器もあれば、見当違いな方向に飛んだと思っていた物がカーブを描いてこちらに飛んでくるのは人狼女王の知覚で認識する。

成程、と思う。

 

 

 

これは正しく嵐の術式だ。

 

 

 

武器というより風と化した刃が嵐の表現となり、敵対者を刻み付ける、という術式なのだろう。

さて、神道の術式である以上、奉納などもあるはずだが、流石にそこまで思考に逸れるのは失礼だろう、と思い、四方八方から来る嵐の刃に対して己は

 

 

 

 

吠えた

 

 

 

 

 

 

「るぅ……………おぉ……………!」

 

 

人のそれではなく、獣の獣声が空間を打撃する。

人の形をしている存在から、人の枠を遥かに超えた肺活量と存在としての格の強さによる叫びだ。

魔的さすら含んだ咆哮が空間に響き、打撃し────────最初に最も近づいて行った刃の先から崩れていった。

 

 

 

「っ………!」

 

 

3桁の数もある以上、どの武器も最上級というわけにはいかない。

無論、無銘とはいえ、どれも悪い武器では無かったのだが……………相手が人狼女王の咆哮相手ではむべなるかな。

人造の嵐はこの世唯一の人狼女王に全て打ち破られた。

 

 

 

────────故に次の槍が打開を果たそうと疾走する。

 

 

 

留美は即座に聴覚保護の術式なども行って、人狼女王の咆哮を防ぎながら、刃を片手に突撃していた。

ハクさんによる数による攻撃が通らなかった。ならば、次は

 

 

 

神格武装"荒桜"による攻撃ならば如何です……………!?

 

 

己の刃は過保護なあの人が熱田神社によって作られた神格武装の一刀を授けてくれたものだ。

その質はそれこそ最上級の業物に入るかもしれない一刀。

それこそ本来、シュウさんが振るっていてもおかしくない刀なのだ。

ちなみに渡した理由が

 

 

 

「刀、蔵においてどうするんだよ」

 

 

と、悔しいが普通に納得する理由なのだが、それで貰ってもいい理由にならないです、と告げると

 

 

 

「んーーーー───────貰ってくれね?」

 

 

小首を傾げて言われて、はい、貰います、と即答した私は悪くないと思います。

ともあれ、数による攻撃は無駄であった。

ならば、今度は単純な質による攻撃を当てるしかない。

そう思い、今もまだ飛び散る刃やその欠片を無理矢理進もうとし

 

 

 

「─────女が余り、肌を傷付けるのはよくありませんわよ?」

 

 

 

「────────」

 

目の前に莫大な量の髪と花の香りがするのを知覚する。

追加で気付くのは、その上で己の刀が柄尻から抑えられているという事だ。

優しさすら感じるのにどれ程力を込めても抜く事が出来ない。

 

 

 

「貴女の術式は極東で居合、抜刀術という物から発生する技。とても完成度の高い技が無ければ成立しない術式と思いましたわ────────ですが、こうして始まりを阻害すれば」

 

 

その通り。

荒疾風は安定性が高く、妨害されても高速を保てる術式だが、出掛かりが他の術式よりも弱いと言える。

言えるが…………

 

 

 

こんな簡単に……!?

 

 

まるで動画のコマが飛んだような感覚しか感じれなかった。

自分とてその弱点は理解しているが、それを踏まえて鍛錬をしてきているのだ。

相手が異族であるなんて事で封じられる程、自分に甘さを与えるわけがない。

 

 

 

だって、私はあの人の巫女なのだから

 

 

 

それなのにそれを容易く超えていかれた。

 

 

 

「っ……………」

 

 

流石に、それに対して何も思わないわけにはいかず、精神的に隙を作ってしまった、と気付いた時には

 

 

 

「く………ん……………」

 

 

何故か匂いをかがれていた。

首筋辺りに顔を近づけられ、隠さずに匂いをかがれるのは流石に中々無い体験だが、ここまで至近に迫れると居合すら出来ない。

引くか、それでも攻めるかを考えていると

 

 

 

「芳醇な匂い────────あの子と重なりたい、という願いのような匂い────」

 

 

ぞくり、と背筋が震える。

何故なら、その時の人狼女王の表情を見たからだ。

それは言葉通りにいいもの……………いい匂いをかいだ、という笑みと

 

 

 

 

────────なら、私を利用すれば釣れる(・・・・・・・・・・)のではないか(・・・・・・)、という狼の狡猾さを目に隠していた

 

 

 

「────────」

 

唇を噛む。

許せない、という怒りを、今、包み隠さず表現する事を許してしまう。

人狼女王にではない。

 

 

 

 

敵に対して、私は人質の価値があると思われた自分に対してだ

 

 

 

ふざけるな、と思う。

女の身で刀を持って、前に出ているのは、いざという時、仲間やシュウさんに助けて貰えるからか? 

 

 

 

────────断じて違う。

 

 

 

刀を持つのは敵に対して抗うため。

体を鍛えたのはあの人の隣で戦う為だ。

決して、誰かに庇われるような残念ヒロインになりたくて刀を握っているのではないのだ。

 

 

 

 

浅間さんだって……………!!

 

 

その辺りをよく理解した上で、守りたい者を守っていた。

自分が前に出ているとはいえ、他人が前に出ていないことを何か思うには、巫女という職業とその能力を知らないわけでは無かった。

事、術式能力という意味ならば、浅間さんがどれ程優秀な人なのかは嫌という程、これまでで理解していた。

直接的に守れているのは私かもしれないが、間接的に且つ、多くを守っているのは間違いなく浅間さんだ。

後顧の憂いを、という意味ならばあの人は確かにシュウさんをこの上なく守っている。

 

 

 

なのに、自分だけがただ彼の足を引っ張るわけには────────

 

 

 

「いかないんです……………!」

 

 

覚悟の声を吐き出しつつ、引くのでもなく抜くのでもなく抗う一手を行おうとして

 

 

 

『留美さん……………!!』

 

 

浮かび上がった表示枠と同時に、人狼女王の背後から青色の機動殻が槍を高速で突き刺そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

プレッシャーですよ……………!!

 

 

 

今までの短い人生で最大の試練となるのは間違いなく今日、この瞬間だ。

何せ、今、異族においての物理系頂点となる相手に、背後から奇襲を仕掛けるのだ。

それも囮ではなく、攻撃のメインだ。

 

 

 

書記も無茶言います……………!

 

 

しかし、やれる人間が今、ここにいるのが自分しかいないのも事実だ。

だから、まぁ、やるしかない。

腕についている機構を利用した簡易杭打ち(パイルバンク)

これで倒せるとは思えないが、少なくとも何らかの対応はするはず。

そうなれば、また新たな攻撃か、最低でも留美さんなどは逃げれるはずだ、と思い

 

 

 

「ぁ……………!」

 

 

打ち抜いた。

未だ背後を向いている相手に攻撃をするのは従士としては考え物だが、相手の格を考えれば、こうしなければいけない、と思って

 

 

 

「───────あれ?」

 

 

手ごたえが完全に失ったのをアデーレは悟った。

今、自分は機動殻を扱っている。

動作の全ては確かに機械任せ、というものではある。

だが、そうであっても己の延長線上になるようになるくらいは積んできた。

その経験から今、感じるのは

 

 

 

 

まるで突き込んでいた右腕自体が……………

 

 

 

 

と、思いながら、現実に意識を戻すと

 

 

 

 

「見事────────躊躇いの無い一撃でしたわ」

 

 

 

人狼女王がこちらに顔だけ振り返っているの────────と、片腕だけがこちらに挨拶するように上げているの────────と

 

 

 

「あ……………え……………?」

 

 

その片手にまるで握手するかのように奔獣の右腕が槍ごと引き(・・・・・・・・・・・)ちぎられて(・・・・・)ぷらーんと吊り下がっ(・・・・・・・・・・)ているのを確認してし(・・・・・・・・・・)まった(・・・)

 

 

 

 

「────────」

 

 

流石にここまで非常識だと逆に冷静になってしまう。

理屈としてはつまり、非常に簡単な事なのだろう────────勢いよく刺し込まれた奔獣の槍に対して人狼女王は槍ごと力づくでこちらの腕を引き千切ったのだ。

 

 

 

…………いやーー、それってどれだけの力があれば出来るんですかねぇ…………

 

 

半ば現実逃避しそうになる、思考を現実に繋ぎ止めるのがこれ程重労働だとは思わなかった。

とりあえず結論は攻撃は失敗────────だが、最低限は務めを果たした。

今の一瞬に留美さんは離脱したし、確かに人狼女王は対応したのだ。

腕一本で軽く済んだのだ、という言い訳で驚愕で現実から逃げようとする思考を封じ込め────────次の仕込みが発動する。

 

 

 

 

「結べ! ────────蜻蛉切!!」

 

 

 

 

 

 

二代は硝子が割れるような音を聞いた。

 

 

 

 

は……………?

 

 

 

視界に入る敵、人狼女王に傷はない。

ただ、変化は起きていた。

右腕は未だ、従士殿の機動殻を握っていたし、右肩には馬鹿を担いでいた。

ただ、左腕には先ほどまで無かった物体が出来ていた。

 

 

 

 

それは最早、宗教的な意味が感じれなくなるような巨大な十字架であった。

 

 

 

先程までは銀の板群だったものが密集して作られた武装。

一瞬にして完成された十字架は人間が片腕で扱うには余りにも異形だが、人狼女王が扱うには余りにも相応しい銀装備。

神格武装なのだろう、という勘が、先程の割れる音に対してをまさか、と思いつつ、しかし口に出す。

 

 

 

「蜻蛉切の割断を砕いたので御座るか!?」

 

「Tes.────────バッティングセンターで練習したんですのよ? 景品取るついでに」

 

 

簡単に言うが、蜻蛉切の発動は一瞬の線による発動のはずだ。

それに対して、これ程の混戦状態に奇襲に次ぐ奇襲の筈なのに、介入してくるのだ。

怪物としか言えない。

だが、ならば

 

 

 

「ミトツダイラ殿!!」

 

 

 

声に反応する前から動いているクラスメイトの動きに、時間稼ぎにはなったのだ、と納得する。

聊か普段のミトツダイラ殿の動きに比べれば、鎖の動きは遅いが、元が母親であるのならば多少は致し方無い。

そう、こちらは別に人狼女王を打ち倒すのが目的ではない。

うちの馬鹿さえ取り戻せれば、後は逃げるが勝ち。

どうやら馬鹿は気絶しているようだが、取り戻せれば問題は無い。

そう思い、己は再び割断を結ぼうとして

 

 

 

「え……………」

 

 

完全に人狼女王が消えた。

 

 

 

「っ……………!!」

 

 

目で追ったのは勘だ。

高速域での動きに慣れているが故の、高速の身ならば、どこに移動するかを予測した結果────────人狼女王はミトツダイラ殿の隣にいた。

 

 

 

速い……………!!

 

 

翔翼で相当テンションが上がっている自分くらいの速さではないか、と思うが、今はそんな思考をしている場合ではない。

こちらの策は総て、読まれて乗り越えられたのだ。

ならば次は────────攻撃が来る。

 

 

 

くすり、と狼の笑みが小さく響く。

 

 

 

「己を示しなさいな銀十字(アルジェントクロウ)

 

 

 

コッキング音と共に、銀の十字は天子を貼り付ける姿から敵を打撃するショートレンジ砲の姿に切り替わる。

その場にいる全員が息を飲む。

 

アデーレは鈍重な動きしか出来ない機動殻故に、ショック態勢に入った。

 

二代は出来る限り離れるために翔翼と蜻蛉切をガードの形にする。

 

留美とハクは術式、武装による個人で出来るだけの防御と回避体制を作る。

 

ただ、一人、ミトツダイラだけが総長を助けようとした姿勢から一切の防御も回避も間に合わず

 

 

 

「さぁ、ネイト────────躾の時間ですのよ?」

 

 

 

半径15メートル以内の空間が打撃された。

 

 

 

 

 

 

 

 

人狼女王は中々綺麗になった空間を見て、成果を上げた銀十字を撫でながら────────傍らで突っ伏している己の娘の首にあるチョーカーを手掛かりに指一本で引っ張り上げた。

ついでに邪魔な銀鎖のオベリスクも蹴り飛ばしたが、その時、上空にいた黒魔女が吹き飛ばされていたが、まぁ、誤差、誤差の範囲である。

ともあれ件の娘は

 

 

「ぁ……………う……………」

 

 

銀十字の広域攻撃をほとんど受け身も取れずにそのまま大地に激突したせいで脳震盪になっているが、半分とはいえ娘も狼。

この程度で死ぬほど軟ではない。

少ししたら直ぐに治るが────────肉体はともかく心はその眼を見れば一目瞭然だ。

己を勝てない相手と見て、命乞いする負け犬の眼でこちらを見ている。

 

 

 

 

「8年前から何も変わっていませんのねネイト──────己より弱い相手には勇ましく、強い相手には震えて」

 

 

 

こちらの言葉に、流石に思う所があったのか、娘は少し反抗的な目で見てきたが、私が笑みを向けるとすぐに怯えた顔になる。

何て可愛らしい。

別に敵意や殺意なんて混じらせていない、純粋な笑みだったのに、それだけでこんなに震えて。

 

 

 

「いいんですの? ネイト? 貴女、騎士になるのでしょう? それなのに守るべき人を前にただ怯えて」

 

 

 

眼だけでまた反抗するが、やはり手足や口は動かない。

つまり、そういう事だ。

駄目ですのね、と思い、ならば8年前もっとするはずだった事をしようかと思って、腕に力を込めようとして

 

 

 

「────────あら」

 

 

人狼女王は知覚した。

今度こそ本気で微笑を作る。

さっき、娘に8年前から変わっていないと言ったが、むしろその台詞は娘ではなく、彼に対しての方が適切だった。

 

 

 

何も変わっていない。

 

 

相も変わらず守りたがりで救いたがり。

その癖、表ではそんなのは苦手だから他の人に任せる、なんて態度で────────全く変わらない。

つまり、これからの結末も、だ。

 

 

 

「良かったですわねネイト────────貴方の王子様が間に合ってくれましたわ」

 

 

そう言って、私は娘を軽く放り投げる。

そして躊躇わずに────────銀十字の砲身を娘に向けた。

 

 

 

 

 

 

あ……………

 

 

母が自分に対して躊躇わずに銀十字を向けるのを揺れる脳で認識した。

銀十字はあくまで打撃を砲にしたショートレンジ砲だが、それでもこの至近距離で銀十字を撃たれたら如何に半人狼であるとはいえ、致命的だ。

流石に命の危険に母への恐怖心とか、何かより死にたくないという一心から体を動かそうとするが、揺れる脳で、空中に投げられている最中では身動きの一つも出来ない、

 

 

 

死ぬ

 

 

その冷たい言葉に、ぞっとする中、ネイトが見たのは今も母の肩で気絶している総長の姿であった。

 

 

 

 

……………申し訳ありません……………我が王……………

 

 

 

非力で無能な王がそれでも戦場に出てくるのは、周りがどうにかしてくれるだろう、と信頼しているからだ。

そしてそれを誰よりも速く、そして確実に行う者が王の第一の騎士である自分の役割なのに、結果は酷く無様な終わり。

情けないなんてものではない。

これでは確かに口先だけの馬鹿な娘ではないか。

そう考えると己が今、こうして死ぬよりも王を守れずに無駄死にする恥で3度くらい軽く死ねる。

 

 

 

 

悔しい

 

 

悔しくて、情けなくて────────もう王と一緒にいる事が出来ない。

その事に、瞳から涙をこぼし

 

 

 

 

「────────え?」

 

 

 

突如横から押された。

勢いは強い。

それこそ1秒後には銀十字の攻撃範囲から逃れるか、最低でも致命の範囲からは逃げれる強さだ。

一体何が、という思いは────────しかし、数秒後には絶望に変わった。

 

 

 

 

「あ……………あ……………ぁ……………」

 

 

 

視界が8年前とダブる。

そこにいるのはどこにでもいる人間の子供の頃の姿であり────────今は武蔵において常に強がる少年の姿であった。

少年の瞳には一切、迷いがない。

己に勢いを渡した以上、彼は銀十字の攻撃から逃れる術は無いというのに少年の瞳はこれからの不安よりも、己の安堵が確定した未来にホッとしていた。

 

 

 

待って……………ダメ……………どうして……………!!?

 

 

 

一度に複数の疑問が浮かんでは目の前の少年に叩き付けてしまうが、当然、口に出す時間も無ければ余裕も無い。

だけど、一番強い意志は、どうしてであった。

 

 

 

どうして、貴方は何時も助けてくれるの?

 

 

8年前から私は貴方の事をどう扱っていいのか分からず、それこそ腫れ物のように扱っていた。

それこそ8年前の事件の後、私は貴方に対して酷い八つ当たりもしたではないか。

だから、貴方も外道行為には躊躇わずに巻き込んでいたが、それ以外では無理に踏み込まず、近寄らずにいたではないか。

昨日だってそう。私は貴方を拒絶したではないか。

助け合う事はあっても、命を賭ける程の価値を私は証明しなかったはずだ────────それこそ8年前の時と変わらず。

なのに

 

 

 

どうして……………!?

 

 

 

何時も貴方は私を守っ────────違う。

本当の疑問はそうではない。

 

 

 

 

本当のどうしては────────何時までも、私は貴方に守られて、だ。

 

 

 

 

もう守られないような自分になりたくなかったから、あの後、己は荒んで、道を外れたはずだ。

 

今度は守れる自分になりたかったから、私は王の騎士となると誓ったはずだ。

 

 

 

なのに、結果は変わらず。

己の弱さに今度こそ死ぬような惨めさを感じながら────────体は必死に少年に対してどうして、と叫んだ。

するとこちらの意思を読み取ったのか。

少年はこちらを吹き飛ばした後、手に持つ刃を銀十字に対して振りかざしながら────────しかし、一切、そんな事を感じない、普段の強気とやる気の笑みを、苦笑に変えて

 

 

 

 

ばーーか、と仕方なさそうに呟いた。

 

 

 

 

その笑みを最後に、ネイトの意識は轟音と衝撃に合わせ────────意識は閉じられた。

 

 

 

 

 

 

 

銀十字の砲撃が解き放たれ、対象となったモノが轟音と共に音速突破で弾かれる。

水蒸気爆発を引き摺りながら、一切、衝撃に抗う事が出来ないまま、それは数十メートル先まで吹き飛び、衝撃緩和に武蔵と熱田神社による障壁を複数壊し────────最後には壁に激突した。

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされたモノは煙と霧に抱かれ────────動きはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




1、19000越え……………馬鹿か自分……………


いやぁ……………敵側のチームって楽しいですねぇ!! 主人公側はやり過ぎると主人公チート乙になるから気を付けなければいけないが、敵側はもう好き放題やっていいって素晴らしい!! 楽しかったです今回!!


まぁ、余り長々と語るより本編更新を優先します。


感想・評価など宜しくお願い致します!!


PS
今週、ちょいと旅行するので、もしかしたら感想の返信とか遅れるかもしれませんが、申し訳ありません。
でも、感想あれば本当に燃える悪役なので出来れば一杯来てくれたらとても嬉しいです!!
では!!
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