いまがかつてとつながる
配点(ひらがなぜめか……!)
熱田は現在、武蔵アリアダスト教導院前の橋上にて自由を謳歌していた。
あれからトーリの追跡及び奪還部隊の編成をしたり、リュイヌ婦人が亡命してきたり、と色々あったが、俺は大怪我をしているという理由で留美が遠慮なくボディブローをぶちかまし、実は密かにギリギリ残っていた肋骨を躊躇わず圧し折って、その隙に拘束され治療されるという恐ろしい事をされていたのだ。
「留美め………治療する為に殺すつもりか………」
あの子には矛盾という概念を教えないといけない気がする。
しかし、実はその隣で弓を組み立てていた幼馴染もいたので、実は救われた気もする。
肋骨バッキバキ状態でズドンを受ければ、リアルに死ねる。
殺人行為を持って治療に繋げるのは良くないと思うぜ………!!
「全く。どいつもこいつも少しは俺の常識ぶりを見習うべきだぜ………」
「その常識、ルビに馬鹿と付くタイプじゃないのか」
気付いてはいたが、遠慮なくツッコミを入れてくる声に振り替えると我らのヅカ政治家が呆れた顔でこちらに歩いてきていた。
「んだよ、正純。こちとら医務室ブッパしてようやく出てこれたんだから、気遣えよ。おっと、通報したら俺は今すぐお前をぶった斬るぜ………!」
「あ、すまん。見かけた瞬間に通報してしまったから、もう遅い。だけど、言われる前にしたからセーフ案件だな」
「き、貴様………!!」
その対応の速度は流石としか言いようがないが、もう少し別の事でそれを発揮するべきではないか?
武蔵病はこれだから………と思うが、見ると正純の顔は表情こそ普段のものではあるが、顔色が少し悪いようにも見えた。
また食か、とも思ったが、それ以上に正純は
ならば、正純が顔色を変える理由はこれだろう、と思うものがある。
嘆息するしかないが、これは流石に言い訳が出来ない以上、口を開くしかなかった。
「────悪かったな正純。面倒かけたな」
「………お前達の面倒は常に受けているから、どれの事を言っているか分らんぞ」
「下らねえ傷を負ってお前の方針が揺らぎかけた事、トーリが連れ去られた事だよばーか」
俺が言うのもなんだが、殊勝な言葉を、しかし正純は敢えて視線を逸らしながら、口を閉じた。
物好きな奴め、と苦笑する。
そういうのは正直、嫌いじゃないが、別にお前も人間なんだから少しは弱音を吐けばいいのに、そんな所もうちの女共から見習いやがって。
「お前の事だ。頭脳労働はテメェの仕事だと思ってんだろ? いや、そりゃ間違っちゃあいねえし、背負わせている俺が言うのもなんだが………まぁ、そんなお前からしたら荒事関連のは俺に放り投げなきゃいけないのに、あんな無様な光景見せつけられたら、ふざけんなよって感じだろ」
「流石にそこまで加害妄想は得てないがな……まぁ、うん。悪い。確かにお前が吹っ飛ばされた時は、ちょいと焦ったのは認めるよ」
俺の言葉に、誤魔化せないと悟ったのか。
溜息を吐きながら肯定する様にほら見ろ、と思うが、別にそこまで罪悪感を感じていますーーみたいな認め方をしろって言うんじゃねえっつぅの。
「ばっか。お前の役割的に、お前がそう焦るのは当然だろ。お前は俺達が仕事を完遂する事を当然と思って無茶ぶりを吹っ掛ける。で、同時に俺もお前がやれる、と思って無茶ぶりを吹っ掛ける」
戦争と政治で分野は違えど、お互い一つの分野に特化しているからこそ、他の分野については頼むのが俺達の間柄だろう。
正しく戦の副長に、政治の副会長。
お互い完全に住み分けているからこそ、互いの職分は絶対に完遂する、という意地の塊が俺らの共通点だろう、と俺は思っている。
いや、まぁ………正純に俺みたいなイカレ具合を求める気はねえがな
気狂いは俺一人でいい。
他の戦闘系の馬鹿共も、文科系の馬鹿共もそこまで行かずに、ただ騒いで、遊んで、馬鹿やって、それで世界征服を行えばいいのだ。
汚れ役は俺一人でいい。
嫌われるのも蔑まれるのも一人いれば十分である。
………あ、でも正気とかならうちの連中、十分に正気じゃねえか
・剣神 :『なぁ、ナルゼ。お前、人をネタにするなって言ったら聞くか?』
・●画 :『あんた、鳥に飛ぶなって言えんの?』
・剣神 :『だよなぁ………おい御広敷。お前は絶対に無理だろうから、とりあえずとっとと番屋行け』
・御広敷:『なんですか、その見てもいないのに確信したその言い方………!! 小生の今までを振り返っても同じ言葉を言いますか!!?』
・貧従士:『いや、振り返るとうちのクラス、大半が互いに互いを捕縛する大事件になるんじゃないですか?』
・金マル:『犯罪歴無いの、ベルりんとメーやんくらいじゃないかな?』
・あさま;『何だか知らないですけど、今、盛大に私も巻き込みましたね!?』
・約全員:『無理があるだろ!!』
うむ、世界征服が終わった後の犯罪取り締まりについては知らん。
とりあえず、智と鈴とメアリ以外は全員遠慮なく捕まりやがれ。
そんな風に、どうでもいい事を思っていると、何時の間にか正純が、急に顔を抱えてうーーん、と悩んでいる。
どうした、とは思うが、その前に、正純がうん、と一息吐き
「私の自意識過剰ならいいのだが………熱田。お前、なんか私の事を無駄に買ってないか?」
※※※
はぁ? と首を傾げるクラスメイトを見て、そりゃそうだよな、とは思うが、正直な感想だったのだから仕方がないではないか。
いや、何か、お前……普通に私に任せる、とか領分だの………
勿論、武蔵の戦い方がそれである事はよく理解しているし、そういう任せるみたいな雰囲気はそれこそ他の梅組メンバーにも貰ってはいるのだ。
だから、それ自体は特におかしな事ではないのだが………それをこいつがやると、物凄い違和感がする。
別に熱田が冷血漢で、他人を頼りにしていない、とか言うわけではないのだが………あ、でも冷血漢………
・副会長:『おい、お前ら。熱田の冷血漢エピソードとかあるか?」
・ウキー:『鍛錬中に躊躇わずに逆鱗狙いのアッパーカットを叩き込まれたぞ……! しかも指の隙間にメスを隠し持ってな………!!』
・煙草女:『文句は言わんが、躊躇わずに地摺朱雀の妹がいる箇所狙ってきたさね。ありゃ、殺る気だった』
・83 :『食べさせようとしたカレーを叩き落されましたネー』
・粘着王:『見事に踏みつぶされて四散させられたな………!! 仲間相手でも躊躇わぬ心構えよ………!!』
鬼がいる………と思うが、まぁ、それが武闘派としての役割を全うしている、という事なのだろう。
自分が当事者になった場合は逃げるが。他は知らん。
まぁ、それはともかくとして、熱田はこう、何というか………壁役………いや、それはアデーレか。
こう………そう、お目付け役みたいな感じか?
信頼も信用も一度見定めてから、どうにかするタイプではないか、と思っている。
だから、実力不足だったり、何かしら不適格と思ったなら、身内であっても容赦なく役不足だ、と告げるキャラだ。
実際、英国で輸送艦が落ちる様な事態になった際、墜落地点にいる子供の救出にミトツダイラが救いの提案を出した時、真っ向からミトツダイラ一人では不可能だ、と告げていた。
危険という観点では自分が対処するから、と甘やかしているようだが、その上で生きるのに必要だったり、助けるのに不足であった場合、熱田はそこで身内だからで容赦するような男ではないのだ。
なのに………自意識過剰であるのならば、私が恥を得るだけでいいのだが………私に関しては、お前ならいいか、でもう任せているような節がある。
別にそれが奇妙だ、とか不審だ、とか言うわけではないのだが………私が、こいつに対して何か合格点を出すような基準を突破した覚えがないから、気にはなる、というだけだ。
そんな風に思っていると、熱田は先程の浮かべた表情のまま
「んなの───やれる奴だ、と思ったからいいかって思っただけに決まってんだろ」
※※※
何故か硬直する正純を見ながら、とりあえず周りに盗聴している気配がないかを伺う。
気配なし、表示枠無し、外道会話無し、同人コンビ無し、金キチ商人無し、全裸………そもそもいなかったな。
ともあれ、誰にも見られて聞かれていないならいっか、と思う。
他の奴らなら絶対にこんな会話しねえが、正純はここ最近、武蔵に入った奴だから言わなきゃ分かんねえ部分もあるだろう。
「あのな……お前、結構自己評価低いみてえだが──お前じゃなかったら英国が味方に付く事は無かったからな」
「馬鹿、それは言い過ぎだろ。私だけで全てが解決するなら政治家一人いれば、世界は平和になるぞ」
変な所でしっかりしやがって………と思いながら、まぁ、そこで自惚れられるよりはマシか、と思い
「じゃ、言い直す。お前がいたからどうにか英国は味方に付いた。他の誰かでもどうにかなったかもしれねえが………あの時、あの場所で、お前レベルの能力を発揮できたのはお前だけだ」
「それは………そうかもしれんが………」
「ただの偶然ってか? じゃあ俺もここで副長してんのは偶然だぜ? テメェとそう変わんねえよ」
俺が武蔵に来たのも、ただ守りたい人間がもう武蔵にしかいない、と馬鹿みたいに思いこんでいたからだ。
馬鹿な餓鬼がこの世で最も馬鹿らしい場所に辿り着いたっていうのは必然そうに見えるが、そうなるともう偶然と言うべきか、必然と言うべきか分からなくなるってもんである。
「馬鹿が何時も言ってるだろうが。お前は出来るから、出来ねえあの馬鹿に任せられてるんだろうが。俺とお前も同じだろ。俺は政治に関しては完全完璧な無能だ。だから、テメェに放り投げる。テメェは逆に戦闘関係に関しては門外漢。だから、俺に放り投げる。違うか」
「……jud.それはその通りだな」
「ま、だからお前が今回の件に関して文句を言っても仕方がねえんだぜ? お前、バトル以外無能なんだから唯一の取り柄くらいしっかりしろってな」
「悪いが、お前の自虐ネタにまでは付き合う気はないんだ。今の私はシリアスだからな」
一瞬、今、何を言っているんだこのヅカは、と思ったが、数秒後に正純が何を言いたいのかを悟り、思わず、通神を開く。
・剣神:『ああ! お前、自虐とギャグでかけたのか今の!!』
・副会長;『一々、
・●画 :『あんたら、もしかして漫才コンビでも組んだの?』
・金マル:『売れないから辞めた方がいいんじゃないかな、とナイちゃん思うけど、単独でも売れないから一緒かな』
・未熟者:『ズバズバっとぶちかますねナイト君! いい切れ味だ………!!』
・あさま:『………というか、シュウ君。どうして、正純と今、喋っているんですか。今、治療中ですよね?』
やべ、と思い、即座に表示枠を畳む。
しかし、連絡手段を例え封じても巫女二人に対して姿を隠すというのは少なくとも武蔵上では不可能に等しい。
何せ方や術式万能ズドン巫女に、俺限定特攻スキル持ちのズバン巫女だからな………!!
「安息の地が無い場所で俺の命のサーヴィスデイが来るとは………!!」
「それは大変だな。とりあえず、誰にも迷惑かけない所でぶっ飛ばされてくれよな? 後片付けが面倒だし」
「……さてはお前、人間性を欠如したな?」
「怪獣大決戦をした馬鹿が目の前にいるようだが?」
こいつ、マジで言いおる。
戦闘能力欠片も無い癖に、俺に対してここまで強気でいけるのはマジでいい女だわ。
最も、巫女と巨乳とロングヘアー属性が無い為に好みにはならないがな………!!
ともあれ
「じゃ。俺は逃げる。後、飯は食え」
「金がない。後、待て──お前、お前が私の事を認めている理由を言ってないだろ」
ちぃ………! やっぱりばれたか……!
自分が密かに他人を利用して己の価値観による評価を隠していたのは、やはりばれていたらしい。
慣れない事をするべきじゃない、というべきか、単に正純が口を使う、という分野においては俺みたいな木っ端では打ち勝てないのか。
両方だな、と思いつつ、さて、どう言うべきやら。
言うにしても直接的に言うのは癪に障る、と思いながら、適切っぽい言葉を選んでみた。
「正純。お前、今までの人生で何冊本を読んできた?」
「はぁ?」
唐突な質問に、隠しもしない疑問の顔を苦笑する。
意味が分からない、と思っているようだが、それでも律義に返そうと口を開ける辺り、お前、本当に人の言葉を聞く役だよなぁ、と内心で笑いながら、正純の解答を聞く。
「そんなもの覚えているわけないだろ」
「だろうな。ちなみに、俺も今まで自分がどれだけ素振りしてきたか、とかこれっぽっちも覚えていない」
俺の解答に、続きがない事を理解した正純は益々怪訝そうに顔を歪めるが、そういうもんなんだよ。
お前が、呼吸するかのように本を読んでいるから、じゃ、大丈夫だろって適当に思っただけなんだから。
人間の三大欲求に当たり前のように読書、という項目が追加されているんじゃねえか、オメェって思えたから、じゃ、こいつは政治活動に関してもそうなんだろう、ってな。
俺が三度の飯よりも剣を振るう方が性分に合っているように。
三河で正純はそれを証明したしな。
本当──まるで初めて触る玩具に夢中になる子供みたいに楽しそうに笑っていた癖に
正直──それが少し羨ましい、と思ったのは秘密だ。
何故なら正純の政治は砂糖菓子のように甘ーい綺麗事を政治、という現実に通る形に押し込めるものだ。
事、武蔵という馬鹿な王が率いる国にとっては恐ろしい程に合致する生き方だ。
反して俺の喜びは決して形に成ってはいけない無間地獄だ。
邪神の理として弾劾されるべき生き方だ。
だから、俺は決して喜んで本能のままに生きる事だけはしてはならず………全てを不可能男に預けて、ただ刃と化す。
そういうものでいい、と思う。
そういうものなのだ、と思う。
そう、別に羨ましい、と思いはしても、そうしたい、と思うわけではない。
他の馬鹿共が綺麗な生き方をする中、俺は他の奴らが目につかない所で汚れ仕事をする方が性に合っているし、気が楽だ。
だから、誰にも追いつけない速度で疾走を求めるのだ。
敵も──味方も決して追いつけない速度で。
「んじゃ、そろそろ俺は逃げる。いいか、正純。もしも更にばらしたら、斬るからな──その貧相な体を隠している服だけを。交渉中でもやるぞ!」
「さ、最低か………!」
親指を下に向けてくるので、負けじと中指を立てて、HAHAHA笑いを返す。
笑った分だけ俺の勝ちだな………と思いつつ、宣言通りに逃げようとして
「────お?」
正純の目の前に表示枠が浮かんだのを、ハモッて同音を口から零すのであった。
※※※
浅間は喜美と一緒にトーリ君を助けに行こうとするホライゾンの説得を敢行慣行している最中であった。
まさか大罪武装全部を持って救出しに行こうとするとは……!!
都市破壊級の武装を複数持って気軽に動き回られたら他国の人はびっくりでしょうねーー、と思うが、ホライゾンの感情なのだから仕方がない。
文句は三河でボンッした松平元信さんに、という感じである。
「ホライゾン! ホライゾン! そんなに愚弟を助けたいの!? 愛!? 愛なのね!? 愛がホライゾンを動かすのね………!?」
「────は? ………ああ、jud.jud.愛ですね。知ってますとも──誰に?」
「流石だわホライゾン! 安い女じゃないって証明ね!!」
親指を立て合う狂人に、思わず、悲劇が……と思うが、大体こんなものである。
・あさま:『やっぱり、ホライゾンは最高難易度じゃないとダメですよね………』
・〇べ屋:『何に対してダメなのかな、それ』
・ウキー:『しかし、ホライゾンが厳かに愛が呼んでいるとか言ってみろ──脳の病気だ』
・御広敷:『ちょっと。ウキー君。小生思うに流石に直接的かと──せめて狂った辺りで手を打っといた方が良くありませんか?』
・あずま;『それ、どこにフォローしているの?』
未だ、表示枠を持っていないとはいえ恐れ知らずが多すぎではないか、うち。
まぁ、でもそんな人間がいなければ、そもそも世界征服も世界平和も出来ないですかね、と思うと何かしっかりとバランスが取れているようないないような。
暴走し過ぎる人が多いからですしね……
代表格は全員である。
改めて考えると恐ろしい面子である、と思うが、今はそれよりもホライゾンだ。
悲嘆の怠惰と拒絶の強欲は確かに強力な武装でもあるのだが……決して無敵の武装ではない。
ホライゾン自身に戦う為の力や知識が無い以上、当てたり防御に使うにはそれ相応の訓練などが必要な筈。
ましてや特務クラスの相手と戦うのは難しい。
で、なければどっかの馬鹿な幼馴染がいっつもボロボロになるわけがないのである。
しかし……そう言葉で説明するのは簡単だが、納得と感情は別の物であるというのも理解しているので、どう説得したものか、と思っていると
「おーーい、何の騒ぎだこれ」
発せられた声に思わず振り返るとそこには
「シュウ君?」
本来なら治療室に叩き込まれている筈の彼が呑気に歩いていた。
「……シュウ君、怪我」
つい、本気で不機嫌な声を出してしまうが、言われた本人は気にすんなって感じで手を振るだけである。
成程、つまり先程、私や留美さんが本気で怒って治療室に叩き込んだ出来事は柳に風、暖簾に腕押しですか、へぇ……
「智、智。すっげぇ凄んでる凄んでる。可愛い顔が勿体ねえ勿体ねえ」
「──誰のせいですかっ」
そんなわざとらしい言葉で誤魔化せられるほどちょろい女になるつもりはない。
無いったら無いです。
だから、そこの馬鹿姉、愉快にわーーらーーうーーなーーー。
まぁまぁ、とシュウ君が手を振って間を作り
「で、結局、これどういう状況……」
なんだよ、と本来続ける所を視線でホライゾンが持っている荷物や大罪武装などを見、その上で私や喜美を見て理解したのか。
成程、と小さく吐息を吐き、ホライゾンの方に振り向いた。
「おいおいホライゾン。何だテメェ、遂に愛の到来か? 愛に目覚めて思春期特有の"ああ、私がトーリ様を救わないと……!!"とか"ヒロインは黙って私に守られてください!"とかいう感じか? そうなのか? そうなんだな? ───時々思うけど、テメェとネイトはよく見るに堪えねえ全裸をヒロイン枠に収めれたな」
「シュウ君! シュウ君! 途中まで挑発だったのに、最後は完全な本心になってます!! そんな誰もが心の片隅で思った事を直接的な! ──そういうのに満足する人もいるんですよ!!」
・約全員:『否定しろよ!!』
浅間は一度踊る事で無視の形を作った。
しかし、それはそれとして、という事でホライゾンがとっても強烈な半目でシュウ君を見て
「──それもそうですね」
「あれ!? そこで肯定しちゃダメな気がするんですがホライゾン!!」
「くくく、馬鹿ね浅間! ホライゾンだって男を選ぶ権利があるのよ!? それなのに、そんな勝手に肯定否定の空気だからって頷くなんてあるわけないじゃない!! あぁぁぁぁぁ!! さては浅間! うちの愚弟のヒロイン力の高さにホライゾンが屈服すると思っていたわね!? 残念ね! ホライゾンの難易度はULTRA EASYなあんたとは逆よ! いえーーい!! VeryHardよ!VeryHard!! VeryHardプレイ! 何それ!? あんたマニアックさの次期開拓者!? やるじゃない……!!」
筋が出来るくらい拳を握って振り上げると狂人が逃げていったので良しとする。
「よくよく考えれば確かに全裸の見るに堪えない男が一人消えただけなのですが……トーリ様が居なくなると……」
「い、居なくなると……?」
思わず周りの女子衆と一緒に前のめりになるが、半目で見てくるシュウ君の視線は無視していると
「──座る椅子が足りなくて」
「お、置物判定……!!」
余りの難易度の高さに何故か他人である私がくらりと来るが流石にここで私が倒れるのは筋違いである。
まぁ、でも、これはこれでホライゾンの照れ隠し……そう、照れ隠しであって……くれ、ますかねぇ……
・あさま:『ㇹ、ホライゾンも女の子なんですから照れ、とか恥とかそういうのがありますよね!?』
・●画 :『頷いたらその時点で負けね』
・〇べ屋:『信じた方が馬鹿を見る案件だよねぇ』
厳しい……!! そこまでギャグに厳しくなくても……! と思うが、言葉ではどうにも出来ない気がする。
故に一旦、その問題からは無視し、現実のホライゾンの方に対処する。
「ホライゾンなりに何かをしたい、というのは分かりますが……もう既に適任とされた人が救出に向かっているのはホライゾンも知ってますよね? 点蔵君にメアリに二代にミト──トーリ君を助けようとは皆がもうしているんです」
「知っておりますとも。しかし、その上でホライゾンの大罪武装があればより確実になると思います──昨今では全く当たらない悲嘆の怠惰ですが、まぁ、囮くらいにはなるでしょう」
「いや、それ当たらないんなら囮にならないのでは……?」
思わずガチで返すと、何やら背後で膝を着く音が。
「む、宗茂様!? 膝を着かれて如何為さりました!?」
いかん。二次被害が。
慌ててどうにかしようと考え
「ひ、悲嘆の怠惰ではほら! 効果範囲が広いからその勢いでトーリ君ごと皆、ゲログチャア! する可能性があるじゃないですか!」
・ウキー:『見事に全員虐殺したな貴様』
余計な表示枠を手刀で叩き割りながら営業用のスマイルを絶やさないのは修練の結果です……!! と内心で自己肯定する。
そんな笑顔に対して、見事な半目を作っている幼馴染とホライゾンが
「見事に味方を全て虐殺して解決しましたね浅間様」
「こりゃあの中に恨みを持っている奴が混ざってるな……」
「一番点蔵様、二番トーリ様、大穴でミトツダイラ様で如何でしょうか」
「ドロッドロ……!! ドロドロだぜ……!! おいおい、普段の二人の会話が怪しくなってきたぞドラマチック! 智! 後でお話があるからちょっと揉ませろよ!!」
「し、失礼な! 何を勝手に友情歪ませているんですか!? ミト相手にそんな事するわけないじゃないですか!」
・煙草女:『点蔵とトーリの事はいいのかい?』
余裕が無いんでそこら辺は自己責任で。
殺しても死なないタイプなので多分、大丈夫でしょう。
そう思っていると、一つ苦笑を入れたシュウ君はやれやれ、と呟きながら
「ま、とりあえず──馬鹿娘は一旦、落ち着け」
擬音で言うとバッチン!! という音が偉く甲高く聞こえた。
思わず、黒板を引っ掻いた時の嫌な音を聞いたような感じで体が飛び上がるのを感じ取り、慌てて音の発生源を見ると……シュウ君は手をこう、デコビンを打ち放ったような感じにしており、そしてホライゾンは凄い勢いで頭を前後に揺らし過ぎて残像が出来ていた。
ああ、つまり──シュウ君がデコビンをホライゾンに思いっ切り叩き込んだんですね……
しみじみと思い───いや、思っている場合じゃないですよ?
「ちょ、ちょっとシュウ君?」
「何だ? 甘やかし上手の智?」
滅茶苦茶レアな笑みでこちらを見る辺り、うっわ説教モードと気付く。
普段説教される方の立場だからアレだけど、こう見えて安全とか危険とかの意識に関してはうちではピカ一なのである。
人差し指を立ててまで言う辺り、案外、そういうのが似合うんじゃないか、と思うが、その頃には笑みを呆れの色に変え
「あのな、智。この馬鹿娘は大罪武装使える以外はほぼ女版トーリ(ギャグに厳しい)ぐらいの存在なんだから、甘やかすな甘やかすな。そこの狂人はこういうのに一切役に立たないのは分かっているが、智は甘やかし過ぎなんだよ。出来ねえ事を無理させてやらせんなやらせんな」
シュウ君からド正論を聞いていると何かすっごい恥ずかしくなるのはこれは心が狭い証拠だろうか……とは思うが、言っている事は頷ける事ばかりだ。
思わず、はい……と項垂れるしかないが、その間に残像作って揺れていたホライゾンが脳が揺れた衝撃で膝を着きながらも、しかし半目でシュウ君の方を見る。
「……何を為さるのですか熱田様。危うくアップデートでも無いのに自動スリープ入る所だったではないですか」
「やかましい。文句言うなら少しは自分がやれる事リストを整理整頓しておけ。テメェに出来んのは精々、馬鹿の手綱を引く事と青雷亭で愉快飯作るのと通し道歌歌うのとギャグに厳しいのと……後は精々、大罪武装を最大出力で撃てるくれえだろ。他の事は知らねえが、バトル関連で一人で何かやるのはトーリに武器持たせるようなもんだわい」
「大罪武装は一軍匹敵の武装です。多少、照準が甘くても撃つだけで牽制になると思いますが?」
「当たらねえ悲嘆と基本、防御の強欲で何の牽制になんだよ」
ガタリ、と何か人体が地面に倒れ伏す音と
「む、宗茂様! しっかり! 武蔵の方針を考えれば当たらない事はむしろ正しい事だと考え直しましょう!」
そんな声が聞こえた気がするが、とりあえずスルーで。
向こうの夫婦もこれを切っ掛けに芸風を磨いて頂ければ、と。
磨いた後は知りません。
それに……ギャグっぽくなったが、シュウ君の言っている事は確かに正しい。
拒絶の強欲の効果もその通りであり……その上で悲嘆の怠惰は確かに一軍匹敵の強力な武装だが……逆に言えば強力過ぎるのだ。
真面に当てれば、それこそネイトの母のような半分不死っている系レベルじゃないとほぼ即死だ。
頑丈さが売りのシュウ君でも真面に当たれば終わりの威力だろう。
真面に当たる姿が思い浮かばないが。
つまり、使い方によっては大量虐殺に使える兵器にもなってしまうのだ。
大罪武装が彼女の感情である事は重々承知ではあるが、だからこそ兵器のように振り回して欲しくない……というのは綺麗事かとは思うのだけど。
シュウ君ももしかしたらそういう気持ちでホライゾンに告げているのだろうか、と疑問を胸に秘めていると
「出来ねえ事を無理に焦ってやろうとすんな。お前はどっかの馬鹿みたいに後ろで踏ん反り返って成果を待つ感じでいいんだよ」
そんな風に告げ──一瞬、本当に刹那の間だけ、彼は両膝を着いているホライゾンの頭に手を置いた。
あ………
その事に、途轍もない懐かしさを感じる。
そうだ、そうだった。
ホライゾンが帰ってきた事による郷愁さは今まで何度も体験していたが、そういえば
子供の頃、ホライゾンがまだ生きている頃、シュウ君の反抗期……はある意味、現在進行形ではあるが。
それとは違う、他人を受け入れる事が出来なかった時期をトーリ君との大喧嘩で乗り越えた後の、幼年期の黄金期と言える頃。
シュウ君とホライゾンの関係は、こんな風に優しい否定をする関係だったのだ。
トーリ君のように境界線上に立つパートナーのような関係ではない。
勿論、男女のそれとは違うし、友達、ともまた違う距離感。
その関係性は自分の身近には居ないが、言葉にするなら──
「もう愚剣にホライゾン?」
まるでこちらの思考を読んだかのように楽しそうに笑う喜美が二人に呼びかける。
全く同じタイミングで振り返り、首を傾げる者だから、思わず私は小さく吹き出し、喜美は更に笑みを深めながら、しかし告げたい事を告げた。
「そうして見たら、まるで兄妹ね」
全く同時に全く同じ嫌そうな表情と半目を浮かべた二人は、同時に互いを指差し、
「こんな偏屈な妹はいらん」
「こんな不器用な兄は知りません」
遠慮なく笑う喜美のせいで、つい私も遠慮なくちょっと笑ってしまった。
ホライゾンはともかくシュウ君はわざとか。
この流れは……昔、喜美が同じ事を言った時に二人が返した言葉とほぼ同じだ。
ああ……
まるで、今までずっと皆が一緒にいたのだ、という錯覚を覚えてしまいそうである。
ホライゾンが居なくなり、それ以降は皆、変化したり気落ちしたり、逆にそのままであろうとしたりと様々な道を辿った。
少しずつ大人になっていった、というと気障なような、当たり前のようだが……そんな中でトーリ君とシュウ君は変わらないままでいた。
どちらも昔から変わらない。
やる事も出来る事も全く正反対なのに、結果は同じ結末に持っていく二人だ。
その変わらなさこそが私達をここに連れてきてくれたのだ、と思うと面映ゆいものがある。
今はトーリ君はミトのお母さんに連れ去られてしまっているが、それこそ自分や彼が言ったように連れ帰るのに適した面々が向かっているのだ。
なら、残った私達は大丈夫、と信じる事こそが仕事なのだろう、と思おう。
そう思っていると、何時の間にかシュウ君からは正純が向かってきている事を悟り、笑みを浮かべ
……あ
その隣に満面の笑みを浮かべている留美さんを見た。
※※※
ぞっとする感覚に熱田は後ろを振り返ってみるとそこにはとんでもなく綺麗な笑みを浮かべている留美がいた。
・剣神 :『あがががががが! 死が! 死が立っている! 誰だ殺し屋雇った政治家はぁ!!!』
・副会長:『面倒だから結論だけ述べるが、さっきそこでお前を探している神納と出会ってな。お前を探していたから後は合理的にここに居るぞ、と誘っただけだ』
・●画 :『いい仕事するじゃない正純……! ちょっと動画撮っといて! 新キャラのネタは貴重よ!』
・金マル:『ガっちゃんガっちゃん。同意だけど、流石に新キャラ扱いは不味いと思うから、せめて隠しキャラ辺りで手を打たないかな?』
・あずま:『手を打った意味、あるのそれ?』
・〇べ屋;『あぁーー!! その情報、こっちにも売って売ってーー!! 強請りのネタは幾つあっても足りないんだよーーー!!』
誰から斬ればいいのか、本気で考えるが、無言でこちらに向かってくるうちの巫女を前にすれば光速でゴミ箱に捨ててしまう。
「あーー留美? えーーと、そう、もう体調は万全でな」
「jud.足は要らない、という事ですね?」
「は、はや! 結論速いぞ! まだ速い! もう少し俺の言葉を信じるチャンスをくれないか!?」
「jud.──再生臓器は不要、という事ですね?」
・約全員:『ド的確な対応……』
・貧従士:『無駄に対話した方が馬鹿を見るってやっぱり知っていられるんですねぇ……』
・未熟者:『ちゃんと死なない程度且つ動けなくする線引きしている辺り、本気が伝わってくるなぁ……』
・賢姉 :『ほらどうしたの愚剣! 言ってやりなさいよ! "ああ、足も内臓も全て捧げるくらい耐えられないエロスがあったんだ……! 右手の重要さに比べれば、それ以外は最早、無価値だったんだ……!"って! 人妻にコーフンしたツケがここに返ってきた……!!』
・剣神 :『くっそーー!! お前ら楽しみやがってーー!! だが、待ってろよ! 俺の逆転劇はここからだぞ!!』
・約全員:『へーーーーぇーーー』
信じられるのは自分だけか……! と孤軍奮闘の決意を胸の内で燃やし、その炎を言葉とする。
「留美──怪我を押し」
「はい、斬ります」
逆転劇に繋がる事なく会話すら斬られた。
余りの素早さに思わず絶句していると、何やら勝手に周りが盛り上げ始める。
「見てみなさい浅間……何事にもはやい男の結末よ……」
「いやぁ……ここまで見事だとシュウ君のダメダメ振りが強調されますね」
「何で熱田様は芸風すらトーリ様に合わせようとするのでしょうか。愛ですか」
己、外野……!!
特にホライゾン、テメェ、言ってはいけない事を全て言いやがって。
誰が愛だ。誰が。
こっちはふつーに生きてるのに勝手にキャラ被っていないのに被っているような風になるあの馬鹿が駄目なんだよ。
そう思っていると目の前の少女からの威圧が万倍くらい跳ね上がった。
「シュウさん。何を余計な事を考えているんですか?」
「お、おいおい。幾ら何でも証拠のない問答じゃ俺からでも異議が生まれるぞ!」
「一体、何年付き合っていると思うんですか。その嫌々そうに、でも小さく笑っているのは大抵、武蔵総長の無茶ぶりに付き合っている時の"俺、わくわくが止まんねえぞ"顔です」
「変な通称を付けんな……!」
外野も"ああ、分かる分かる"みたいに首を縦に振んなこんちくしょう。
しっかしどうしたものか、と思う。
だって、俺は"俺"を変えれない
死ぬまでこうだし、死んでもこうだ。
馬鹿は死ななきゃ治らないよりも馬鹿は死んでも治らない派である自分としては正直、留美に幾ら言葉を重ねたとしてもそれは"嘘"なのだ。
昔、それで智や鈴に似たような事を問い詰められて、だから"嘘"になるくらいなら謝ったのだ。
だから、今回もそうするべきかな、と思って吐息を吐いていると何故か吐息が重なった。
誰と重なったかと言うと目の前で怒っていたうちの巫女である。
「──と、言っても、本当に斬られても、どうせ止まらないんですよねシュウさんは」
「え! マジ!? 俺の事を理解してくれる!?」
「チョロイとか思ったらマジキスしますよ」
「ああああああああ!! 難易度EXの最強巫女ーーー!!!」
プライドねえな……という周りのツッコミはどうでもいい。
うちの巫女は言った事はやる事はやる。
絶対にやる。
この前、冗談交じりに一緒に風呂に入るか、と告げたらその日の夜に実行してきた。
無論、水着とかタオルとかそんな隠す余地が無い状態で現れた。
一瞬で窓から脱出して逃げ出したが、結論を言えば全裸で番屋が動いた。
差別か……!
本物の全裸の時はお前ら梃子でも動かない癖に。
ともあれ、これで納得してくれたか、と安心していると何やら留美はピン、と人差し指を立てて、今から何か提案しますよ的なポーズを取って
「仕方が無いので、これから先、ずっと───傍にいます。それを覚悟して無茶してくださいね」
心臓破りの一撃に、周りと一緒に俺は停止した。
※※※
浅間は何かとんでもない敗北感を得て、先程の言葉を脳内でリフレインした。
これから先、ずっと───傍にいます
いや、ほら、うん、家族っていうのですよね?
こう、家族との絆的な意味でずっと傍にいるから過保護による過干渉を覚悟してくださいねっていう、そういう……いえ……そんな勝手な解釈は留美さんに失礼ですよね……。
自分で勝手に妄想を閉じながら、少し俯いてしまう。
留美さんがどういう気持ちで今の言葉を言ったかなんて分からない方がどうかしている。
本人も一切隠していないし、今もまた届いて欲しい、という気持ちから伝えているのだ。
私のような臆病な人とは違う、と思うと敗北感を抱く事すら烏滸がましい。
そうして、自分の痛みに蓋を閉めていると
……え?
ちらり、と今、留美さんがこちらに視線を向けた。
今、このタイミングで自分に視線を向ける理由が無いのに、何故、自分を見たのか、と思う。
同じように振り向きを気付いたホライゾンは首を傾げているし、喜美は何か愉快そうに笑っているので無視する。
何が、と思うと留美さんはまた固まっているシュウ君に笑みを浮かべ
「安心してください。これでも男の人を支える勉学はしています──ええ、私とキャラが被っている程度の人には負けないくらいには十分です」
「───」
───何か頭で亀裂が入る音が聞こえた気がする。
擬音で言うとカッチーン、とかムカッ、とかそういう系の擬音が脳内に響いた感じ。
あからさまな挑発の言葉は、浅間をして中々にない経験だ。
梅組のメンバーも煽ってきたり挑発は良くしてくるが、これは大分違う。
キャラとかギャグとかではなく──女としては私の方が遥かに上で、こちらはポンコツだからなんて堂々と言われるとは思ってもいなかった。
ああ、うん、これが俗に言う──喧嘩を売られたっていう奴ですね
「………」
自分が今、勝手に息を深く吸っている事を理解するが、止める気には一切なれない。
自分、今、めっちゃ暴走していますよ? と思考の片隅で囁くが、聞く気が起きない。
というか、むしろ逆にこう思いもする───売ってきたのは向こうだ、と。
私は喧嘩なんて好きじゃないし、嫌ったり憎んだりするのは怖い、とは思っているが──こうまで挑発されてええ、そうですね、と頷ける程、自分に自信を持てていないわけではない。
だから、私も自然と笑みを浮かべながら、敢えて留美さんを無視してシュウ君の方に近付き
「あ、シュウ君──そういえば治療した後、ご飯を食べる約束がありましたね?」
※※※
シュウは今、地獄も真っ青の修羅場に立たされた事を理解した。
───なんだとぅ!?
色んな戦いを経験しているが、これ程、恐怖と絶望しかない戦場は経験した事が無かった。
智も留美もとっても綺麗な微笑みを浮かべ、それだけ見れば眼福なのだが──どちらもちょっと眉が動いている事を知っている。
二人と付き合いが長い自分ですら滅多に見ないキレ具合であった。
・剣神 :『お、おいナルゼ! 今こそお前の出羽亀根性が試される所だぞ!? この空気を変える為に現場に来いよ!』
・●画 :『あっれぇーーー? 頼む立場のヘタレ&サイテー男が何か頼む態度じゃない言葉で頼んできているんだけど、これは見捨てて下さいお願いしますの副長版かしらーー』
・金マル:『うんうん、ここで他の女に頼る様な情けないヘタレ男じゃないもんねーーシュウやんは』
・賢姉 :『くくく、現場にいる賢姉にとっては最高よ! 何これおいちい! 賢姉フィーバータイムよ! フィーバー! ゲージ解放、必殺技打ち放題のエクストラステージよ! ほら、愚剣! 今こそ疾走するのよ! どっちかの胸に対して! お前が選ぶ巨乳はそっちか! こっちか!? はーーい! 熱田神社でおっぱいタイム始まりまぁーーーーーす!!!』
・剣神 :『テメェらぁ……!!』
事、害悪になる事なら無敵に近い最悪集団の煽りに青筋を立てるが、二人の笑みの圧は止まる事を知らない。
その中心にいる俺は死しか感じれないのだが、ここで退いたらそれこそ死ぬ。
硬直した体を息をする事によってスイッチを入れ、何とか笑みを浮かべ、まずは智と話す。
「あーーえーー智? 個人的にはとんでもなく嬉しい誘いなんだが、そ、そんな約束してたっけ?」
「ええ──同じ物ばかり食べて飽きて来たのだから何時でも新鮮な私の料理が食べたいって」
何故だぁ……!?
浮かべた笑みが一瞬で真顔に変じるのを悟るが、留美の方から進化した圧を感じる俺の気持ちを察して欲しい。
うっわ、こんな風に他人を挑発する智も留美も初めて……!
嬉しいのだが、この嬉しさは死に直結している。
そう、こういう時こそ二人の要求を叶えつつ、二人の矛を収める究極の方法を──
───ねえな!!
そんな上手い話があったら、今頃戦争とか殺し合いはねえな、と冷静に頷き、最早、逃亡するしかないか……
「─まだ話は終わってませんよシュウさん」
「そうです──まさか天下の武蔵副長がここで逃げ出すなんてしないですよねシュウ君」
「あ、はい! そう! そうだよな! いやぁ、というか逃げだすって何だ二人とも! そんな女二人から逃げ出すようなチキンな男がまさか熱田・シュウなんてあるわけねえだろ!?」
ですよね、と全く二人同時に笑いかけてくるものだから冷や汗が流れっ放しである。
もしかして人狼女王に連れていかれた馬鹿の方が安全な場所にいるのではないだろうか。
バトルでは絶対一敗男だが、こういう時にはどうやって勝てばいいんだ? 土下座か? 土下座で勝てるのか? いや、無理だろ。
「ふふ、智さん。シュウさんはそんな約束に覚えがないみたいですよ? 余り自分勝手な欲望で私達の神様を連れ回さないで頂きたいのですが」
「いえいえ、そんな巫女だからといって人のスケジュールを完全把握して拘束する程、留美さんは心が狭い人ではないと知っていますので」
楽しそうに笑う女二人に、このままでは二人の間に亀裂が生まれる可能性を危惧し、熱田は命を賭けるつもりで間に割り込むしかなかった。
「あーー! うん、そうそうえーーと、ほら、智と留美。その、確かに今日、智とご飯を食べに行く予定があったんだが、ほら、ちょいとトーリだったり何だったりでそーいう事するの不謹慎っぽい空気になったからな。お陰でちょーっとそういうのを忘れていただけなんだうんうん! だから、な! そう、後でトーリをぶっ飛ばすくらいで手を打たないか二人とも!!」
・ウキー:『どうしようもなくなったからトーリに全てを押し付けただけではないか』
やかましい表示枠をぶち砕いて、な! と再び強調すると何故か真顔でこちらをじーっと見てくる二人。
何故……と冷や汗がだらだら流れるが、ここで目を逸らしたり逃げたりしたらそれこそ終わりである。
負けないぜ……! と拳を握って震えていると、ようやく二人揃ってそうですね、と頷いたから俺は勝ちを確信した。
勝った! トーリの人生、完!!
持つべきものは犠牲に出来る友人だ……! と拳を握って有難みを感じ取り──次の二人の言葉にKOされた。
「所でシュウ
※※※
喜美は膝を着いて倒れる馬鹿を見ながら、マジ笑いしつつ友人──ではない方を褒め称えた。
「いい女ね、神納・留美」
さっき、あからさまに浅間は今の状況に対して退こうとした。
自分の感情に蓋を閉め、"私は何もしていないから"という理由で負けようとした。
それはきっと間違いではないし、駆け引き、という意味ならば確かに浅間の一人負けだ。
神納・留美はそれに気づいたのだろう。
本来、留美の立場からしたらそれに勝ち誇る理由はあっても手を差し伸べる義理は無い。
そのまま放っておいてもいい事なのに、彼女は敢えて浅間を挑発して、舞台に上がらせた。
何もしなかった、という理由を持っていた浅間を、挑発されたから、という理由で舞台に引っ張り上げたのだ。
見方によっては同情しているかのようにも見えるやり方だが、強気な態度で愚剣に迫っている本人を見る限り、アレはキャラなのだろう。
言い訳の余地なく、完膚なきまでに真っ向から勝負して奪い去る、という
「全く……」
それに比べたら、愚剣はちょいとどちらに対しても疎かである。
大方、愚剣の事だから浅間に関してはタイミングを外してしまった、という感じ。
多分、愚弟に気を遣ってしまったせいで、踏み出していいものかを考えてしまったのだろう。
無い頭を使うからそうなるのよ。
そして、神納・留美に対しては遠慮……というよりは強く出れていない。
まるで負い目か何かがあるような……いやあの馬鹿なら正しく負い目だろう、と信じる事が出来る。
つまり、ほぼどちらも自業自得である。
不器用が必死に器用になろうとしてより不細工な不器用を得てしまっただけである。
どうしようもない──と評価するのは簡単だが、そこまで二の足を踏む原因の一つに愚弟がいるのもまた事実である以上、賢い姉としてはそれだけで終わらせたら"いい女"にはなれない。
無論、わざとらしく支援するのは上から目線のお節介な詰まらない行為であるから絶対にしないが。
はてさて、どうなるやら、と喜美はくく、と笑いながら、土下座している愚剣を見る。
そんな所まで愚弟をリスペクトしなくていいのに、と笑い───苦笑する
愉快な話だ。
大事な愚弟が人妻に攫われているヒロイン状態だというのに……弟はどうせ笑っているんじゃないかって思う自分がいるのだから。
まるで、ここにいる愚剣が困ったように笑っているから、愚弟の方もそうなっているのだろう、という風に。
唐突に久しぶりにホライゾン更新。
まさかカクヨムで無料でホライゾンやら新作を更新するとは誰が思うでしょうか……。
でも、それに反して未だこちらは3巻の中巻という。
本当に二次創作泣かせですな!!
次回はトーリと人狼女王視点での話になるかと。
あ、ちなみに救出メンバーがナイトではなく二代になっています。
こちらでは蜻蛉切壊れなかったので。