最初に顔を合わせた時、なんとなく変な奴だと思っていた。
剣を交えながら言葉を投げ合えば、なんとなくではなくかなり変だと改めた。
力の差を認めて、剣を収めた後で濁流のように浴びせられかけた価値観と目的に、畏怖しながらも興味を持った。
気紛れに、その理想に手を貸してやっても良いと応えたら手を取られて、
だからこそ、この想いを悟られてはならない。現在の
———何よりも誰よりも、あの月の光を受けて煌めくプラチナブロンドと、燦光する
故にチルッチ・サンダーウィッチは、臓腑を捩り切って骨を軋ませるその感情を、誰にも知られぬようひた隠したまま、独りで朽ち果てることを選んだ。
それが少しだけ変わったのは、
チルッチは最初、アメミトの容姿から彼女が新たな
アメミトはチルッチの非礼を咎める事はせず、寛大とも驕慢とも取れる口振りで赦した。そして、自分たちの藍染配下としての態度を明言すると、チルッチに説いた。
彼女達が目指す、
可能なのか、とは思った。だが、彼女達は必ず実現してみせると眼で語っていた。だからチルッチは、それを面白そうだと思った。例えそれが、彼女達の努力虚しく叶わなくとも、その過程はきっと良いものであるから。
だからチルッチは、アメミト達と連むようになった。連んで、遊んで、その馬鹿さ加減に呆れて、それが腹の底から愉快だったのだ。
愉快の下に隠れた慕情に、見て見ぬ振りをして。
さてある日、チルッチは何の気無しに
アメミトと出逢ってから今までを追想しながら歩いていると、ふと通路の向こうに人影が三つ見えた。それがよく知る顔ぶれであると気付いたチルッチは、会話が聞こえる距離まで近付いた辺りで柱の影にそっと身を隠す。なんとなく、話に割り込むのは良くないか、と気を遣ったからだ。
これが関わり合いの薄い
(ある意味タイミング良すぎたわね)
声には出さず、チルッチは嘆息する。
とはいえ野次馬根性は抑えきれず、会話を聴こうと耳を側立たせた。どうやら藍染の指示で、ハリベルとミラ・ローズが外に行くらしい。アメミトはその見送りのようだった。
「ほら、ティア。ぐずってないで早く行きな。藍染はともかく東仙が五月蝿いだろう?」
「ゔぅ〜〜〜……やだぁ……アメミトと一緒がいい〜〜〜〜」
「やだって言われてもなぁ……」
「ハリベル様ー。そんな子供みたいに駄々捏ねてないで、ほら、行きますよ」
「やーーーーだーーーーー!!!」
「だから、やだじゃないって。一旦手を離せ。力強いな」
母親と離れたくない幼児さながら、アメミトにしがみついて離さないハリベルの腰を掴んで、ミラ・ローズが強引に引き剥がそうとしている。だが、流石に力の差がある為になかなか手を離さないどころか一歩も足が動かない。
「ほらティア。フランチェスカも困ってるだろう。ちゃんとやる事やって帰ってきたら、ご褒美あげるから」
困ったように笑うアメミトは、ハリベルの背中に手を回して子供をあやすように叩いた。それを遠巻きに見ていたチルッチは、なかなか絵面が酷いな、と苦笑いを浮かべる。ハリベルのタッパがアメミトと比較して五センチ以上あるのが余計に視覚的にキツかった。
「……ほんとうか?」
「ホントホント。だから行っておいで」
「……ん。頑張る」
立襟の下で鼻を啜って、涙で潤んだ目元を擦って、ハリベルはスゴスゴと背中から哀愁を溢れ返らせミラ・ローズを伴い重い足取りで課された任を全うすべくその場を去った。
行ってらっしゃい、と右手をひらひら振って見送ったアメミトは、二人の姿が暗闇の向こうへ消えたのを確認すると、その燦光する
「やあ、チルッチ。暇ならちょっと話さない?」
気付かれていたのか、とチルッチはギョッと息を飲んだ。バツが悪そうに柱の影から出たチルッチは、アメミトに招かれるままその隣までそっと近付く。
「ハリベルどうしちゃったの、アレ」
突然のことに話題の用意など出来ていなかったので、チルッチは脳直で疑問に思ったことを聞いてみた。アメミトはクスクスと笑うと、しようのない子だろう、と揶揄する。
「いい加減、私とバラバラで仕事させられるのが嫌になったようだ。気持ちはわからないでもないが、こればっかりは藍染に手を貸す約束になっている都合上、致し方無いんだがね」
「あー、そういう……」
普段から距離近いし、なんなら一際スキンシップも多い二人だ。ハリベルはアメミトへの好意を隠しもしていないし、逆もまた、大っぴらではないものの彼女以外の
そんなんだから、職務上仕方がないとはいえ離れ離れになる時間を無理矢理作らされれば、それがそれなりにストレスになってしまったと。
とはいえ、なんやかんや
「まあ、そんな甘えたなところも可愛げというものだけどね」
「はいはい、惚気惚気」
アメミトの右手がプラチナブロンドの髪を払う。揺れる金糸と白い指先に目が向くのを堪えて、チルッチはそういえば、とふと少し前から気になっていたことを問いただしてみようかと思いついた。
「て、いうかなんだけどさあ。前から思ってたんだけど、なんでアンタら組ませてもらえないワケ?アンタは強さはともかく立場上ハリベルの
「ああ、それは簡単な話。藍染からすれば、私とティアは互いが互いへの人質だからだよ」
「……は?」
思わず呆けた声が出た。目を丸くするチルッチに、アメミトは苦笑する。
「私が外に出る時はティアが
「……藍染様はそこまでして、アンタらを囲い込みたいワケ?」
「私達というよりも、私を、だろうな。あの男のことだ。ティアのことは私を手元に置くための都合の良い枷だとしか思っていないだろう。あの陰険オールバックが欲しいのは原初の
シニカルに鼻で笑うアメミトは、スッと暗闇に覆われた天井を見上げる。どうせ、この井戸端会議も藍染に聞き耳を立てられていることだろう。だが、別にそれでも構わない。聞かれたところで、アメミト達が藍染に対して忠誠心の欠片も持ち合わせていないことなど、周知の事実だ。
「藍染としては、私には
「いずれにしたって、アンタがハリベルと連んでるのが余程気に入らないのね」
「他者よりも優れる強い者が、自分よりも劣る弱い者に傅いて熱の籠った眼を向けて、愛の言葉を囁きながら手の甲に口付けるのが気色悪く映るんだろう。アイツの眼には。だが、それがアイツの世界の限界だ」
「アタシは別に気色悪いとは思わないけど、知らない人が見たらびっくりしてひっくり返るでしょうね」
チルッチは肩を竦めた。少なくともチルッチを含め、アメミトとハリベルと懇意にしている者は二人の関係を気味悪く思うことはないだろうが、そうでない者は少なからず驚きはするだろう。
アメミトが口元に右手を添えて噴き出した。
「それはそう。何がひどいって、私とティアは
「そういえばまだ付き合ってないんだった。この二人……」
ケラケラと笑うアメミトの横顔を盗み見て、チルッチは溜息を吐く。
わかっていたことだ。チルッチは胸の奥に針が突き刺さったかのような小さな痛みを、意識的に見ないフリをする。入り込む隙間なんて、最初から無いのだ。あの日、
「強い者、優れている者が上に立つべし、という考え自体はまあ正しいんだがなあ。如何せん、そこに理念と信念、目指す世界の形が無いとハリボテと変わらんだろうに……そもそもアイツなんで天に立つだのなんだの抜かして……いやそもそも
柱に凭れかかり、アメミトはうっかり一人思考の海に身を投げ始めた。チルッチはそれに気付いて、アメミトの意識を現実に引き戻そうと目の前で柏手を打つ。
乾いた破裂音が目の前で鳴り響いて、アメミトは驚きの余り二、三センチ跳び上がるとすまない、とチルッチに軽く頭を下げた。
「何はどうあれ、ティアのアレは単なるキチゲ解放だから、そんなに気にしないでくれ。後で私がとことん甘やかしてやれば、いつものティアに戻ることだし」
「アンタ、ハリベルをなんだと思ってるのよ……」
「私の可愛い人喰い鮫」
「普通なら絶対並ばない単語同士が並ぶことってあるんだ……」
お腹空いたし、いい時間だし戻るわ。
そう言ってキリの良いところで会話を終わらせて、チルッチは
アメミトの燦光する
この世界線、チルッチ→アメミトの感情はファンブックで端の方にちっちゃく仄めかされる程度だと思う