これって超次元サッカーなのかよ…… 作:チョコミント
DEEP FIGHT……
「大輝ー! 今日もサッカーやるでしょー?」
「あったりまえだろ! 今日こそ止めてやるから覚悟しとけよ!」
あの頃は隣に居たはずなのに。自分だって一生懸命練習してきた筈なのに。なのに、何故こんなにも彼との距離は遠くなってしまったのか。
「……諦めろ、テン。お前じゃ俺には勝てねぇ」
「はぁ……はぁ……」
十本の勝負を行い、結果は10:0。天馬が息を切らしながら膝をついているのを、青峰は残念そうな顔で見下ろしていた。
「この調子じゃ、次の試合も期待出来そうにねぇな」
「……っ、まだ、分からないだろ」
「馬鹿か? あと一週間でこの差が埋まると思ってんのかよ」
「最後まで何が起こるかなんて、誰にも分からない! 俺は絶対に、諦めないぞ!」
「……そーかよ」
ぶっきらぼうに、しかし何処か安心した様子で青峰は荷物を纏めてその場を去っていく。
「……待って!」
「んだよ、まだ何かあんのか?」
「この間の試合、何で遅刻してきたの? 何か理由があるの?」
「……別に、ただ寝坊しただけだ」
「寝坊……練習しすぎて疲れてたとか?」
「んな疲れる程、練習なんてするわけねーだろ。別に遅刻しようが勝ちゃ文句ねぇだろうが。ま、俺がいなくても何とかなった相手ではあったけど」
悪びれる様子も無い青峰を見て、天馬は悲しい気持ちになった。サッカーに真摯に向き合っていた昔の青峰はもういない。昔の彼なら、こんな相手を軽視するような発言はしなかったのに。
「……次の試合は、遅刻するなよ」
「態々勝率下げるようなこと、なんで言うかねぇ……」
「勝率なんてどうでもいい! 全力の大輝に勝たなきゃ、意味なんか無い!」
「全力出すかどうかはお前らの頑張り次第ってとこだが……まぁ、昔のよしみだ。最初から出てやるよ」
「約束だぞ」
「わーったよ。じゃあな」
青峰の背中を見送る天馬の顔は険しかった。今のままでは絶対に勝てない。青峰を超えるスピードを身につけなくては。
夕日が沈もうとしている中、天馬は河川敷の道を走り出した。
◇
「今日も青峰の奴、練習来てないのか?」
「あぁ。まぁ別に構わないさ。点を取りつづけるならな」
放課後の帝光中。続々と部員がコートに集まる中、三年生右サイドバック茶村の問いに三年生センターバック赤羽が答える。
帝光中サッカー部は強豪故に部員の数が多い。なので一軍、二軍、三軍とそれぞれにコートが用意されている。そして練習の最後にゲームをする時はそれぞれの主力選手が一軍のコートに招かれるのだ。
「皆必死に練習してるのに、あいつ……!」
「怒ってもしょうがないって。実際あいつすげーし」
「でもよ黒須!」
青峰の特別扱いに対して怒りを露わにするのは三年生右サイドハーフ白井。そんな彼を宥めるのは同じく三年生左サイドハーフ黒須だ。彼らコンビによるサイドの攻撃力は折り紙付きだった。
「死に物狂いでレギュラー勝ち取って、やることはあいつにパスしてスペース空けるだけ。こんなことあるかよ!」
「……まぁ、勝てるのは良いんだけどさ。ぶっちゃけ俺らは退屈だわな」
「ていうか、今のサッカー自体つまらないんだし別に良くないです? 勝敗指示来た時なんて最早俺ら演劇部っすよ」
二人の会話に入ってきた二年生ボランチ橙山。彼の言葉に熱くなっていた白井も俯いて黙ってしまう。勝敗指示に従って八百長に加担しているのは間違いないのだから。サッカーに不誠実なのは皆同じなのだ。
「次の相手は革命派の雷門なんだろ。橙山がそう思うなら次の試合負けてやればいい」
「でも次は指示来てないんだろ? なら本気でやりたいじゃん。黄地は手抜くつもり?」
「……正直、俺は迷っているよ。フィフスの八百長がこのまま続くくらいなら、いっそ革命派に乗るべきなんじゃないかって」
「待て黄地。フィフスに逆らった学校の末路はお前も知っているだろう。相手はそれだけ強大なんだぞ」
「緑台さん……それでも俺は、本当のサッカーがやりたい気持ちの方が強いです」
「分かっている。だが罰を受けるのは俺達だけじゃない。頑張る二、三軍の為にも、今は堪えるべきだ」
二年生ボランチの黄地と三年生センターバック緑台の会話はキャプテン赤羽の集合の掛け声によって切り上げられる。
それぞれペアを組んで基礎練習が始まり、桃川はため息をつきながらそれをこなしていた。
「ため息などついてどうした、桃川」
ペアの灰原が桃川にボールを投げながら聞く。ボールをインサイド、アウトサイドとトラップしながら桃川は答えた。
「皆、革命かフィフスかってバラバラになってる。このまま行って勝てるのかなってさ」
「そうだな。無論、シードの俺はフィフスセクターの肩を持たねばならんが」
「……意外だね。好きでシードになったわけじゃないってこと? 誇りに思ってたんじゃなかった?」
「あぁ、誇りに思っているとも。シードになりたいと願うも、なれなかった連中もいる。俺の誇りはその競争に勝ち残ったことであって、決してフィフスセクター至上主義というわけではない」
「じゃあ、嫌々やってるってこと?」
「嫌々というよりは、仕事感覚だな。好きでもないし、嫌いでもない。……一応、ここだけの話にしておいてくれ」
「分かってるよ。でもそっか、何かイメージ変わったよ。堅物だけど、堅いだけじゃないんだね」
「褒めているのかそれは」
一年生二人が仲を深めていると、ベンチのある屋根の下に欠伸をしながら歩いてくる人物がいた。青峰だ。頭に月桂冠を着けた男も一緒にいる。基礎練習を終えた赤羽が二人に声をかける。
「来たのか。青峰、紫電」
「この人が来ないと俺の雑誌捨てるって言うから……」
「部室にこんなの忘れるお前が悪いんだよ」
「あれ、紫電先輩何持ってるんです?」
二年生ゴールキーパー紫電は持っていた雑誌を後ろに隠してしまう。
「桃川にはまだ早い本かな」
「気になるなぁ……」
「キャプテン」
「どうした」
「次の試合、俺最初から出るんで」
青峰のその言葉に、その場に居たメンバー全員の動きが止まる。遅刻魔の彼が珍しくやる気を出している。一体どういう風の吹き回しだろうかと。
「それは構わないが、珍しいな」
「別に。物好きなバカがいるみてーだから、ちょっとな」
「青峰が動くとは、そいつはかなりやるのか?」
「今のところは何とも言えねぇけどな」
灰原の問いに靴紐を結びながら答えた。今のところは、という所に青峰がその人物に特別な感情を抱いていることが窺える。
「雷門の化身使いって確か四人だったよな。結構楽しめそうだ」
「紫電。この前油断して点を取られたことを忘れたのか」
「あれは初見殺しでしょ。ブロックすり抜けるとかちょっとさぁ……」
「それでも化身を使えば止められただろう」
「そんなホイホイ手札を切るほど馬鹿じゃないんです俺は」
「……っし。紫電サン、シュート練すんぞ」
「あいよ」
紫電は赤羽の追及を躱しながらヘラヘラと笑う。準備が終わった青峰はそんな紫電を連れてゴール前に歩いていく。自分を楽しませてくれる相手を探してサッカー部にやってきた紫電と青峰は気が合う所があるらしく、度々二人で練習をしていた。現状、中学に入ってからの青峰の必殺シュートを止めたキーパーは紫電だけである。
「……?」
「ん? どうした青峰?」
「……何でもねぇ」
「……はい。対象を捕捉しましたわ」
木陰から一人の少女が、帝光の練習風景を観察していたことに気づいたのは青峰だけだった。
◇
天馬達が生きる時代より二百年後の未来。世界はセカンドステージチルドレンと呼ばれる恐るべき子供達によって支配されようとしていた。
その脅威に対抗する為、意思決定議会エルドラドはある計画を始動させる。それはサッカーの抹消。
セカンドステージチルドレンの遺伝子は優秀なサッカープレイヤーから生まれた。つまり、そのサッカープレイヤーという概念さえ消してしまえば彼らが誕生することはない。エルドラドは歴史改変を行うルートエージェントを各時代に送り出し、着々とサッカー抹消の準備を進めていた。
「青峰大輝……ですか」
「そうだ。円堂守や松風天馬に並ぶ程、サッカーの繁栄に貢献した人物と言っていい」
ルートエージェントの中でもA級管理者コード『ベータ』の名を冠する少女に、エルドラド議長トウドウが青峰のデータを渡す。彼女の任務は青峰のインタラプト修正を行うことだ。
「用心して臨むのだ。奴の能力は我々の想定を遥かに超えている可能性がある」
「問題ありませんわ」
ベータが持つのは絶対的な自信。他のエージェントを差し置き管理者の座を手にしたという事実がよりそれを高めている。
とはいえ、記録映像を見た限りではその世代で圧倒的な実力を持っている青峰に油断など出来ない。まずは情報を集めなければ。
「ふふっ、楽しませてくださいね。青峰大輝さん」
一旦fifaで青峰作って無双してきます