環太平洋連邦召喚   作:ちんすこー

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3.大国の準備

中央暦1639年1月24日

《神聖ミリシアル帝国 首都ルーンポリス アルビオン城》

 

世界最強の列強、神聖ミリシアル帝国、その首都に一際目立つように聳えるのはアルビオン城。

その中に設置されている見事な会議室。長机には、ミリシアル帝国の頭脳たちが座っているが誰も声を発さない。ただ奇妙な静寂が場を覆っていた。

 

そんな静寂の中、時たま聞こえるのは紙をめくる音。音のなるのは、上座に座る老人からだった。

ルキウス・エルダート・ホロウレイン・ド・ミリシアル。通称ミリシアル8世

姓にミリシアルを冠していることからわかる通り、彼こそがこの神聖ミリシアル帝国の皇帝その人である。

 

「ふむ、なるほど」

 

息を吐くと共にこぼれた一言が、ミリシアル8世が渡された報告書を読み終わったことを伝える。

ミリシアル8世は端だけが止められた分厚い報告書の端を几帳面にそろえ、そっと机の上に置くと言葉を続けた。

 

「現状は確認できた。ミリシアルの中枢を担う諸君に聞きたい、これからどのように対応するのかね?」

 

それは、一つの魔信から始まった。

パーパルディア皇国エストシラントから発せられた悲鳴のような魔信は、第三文明圏の隣にある第一文明圏、つまり神聖ミリシアル帝国にまで届いた。

 

曰く、古の魔法帝国が復活したと。

 

古の魔法帝国、正式名称をラヴァーナル帝国。

人の上位種族ともいわれる光翼族によってのみ構成される国家。

遥か古代に存在し、圧倒的な魔法技術を持ち、世界をその手の内に収めんとした傲慢たる国家。

挙句には神をも殺さんとし、神の怒りにより落とされた隕石から逃れるため大陸ごと未来へと転移した。

その技術力は、現在世界で一番の技術を自認するミリシアル帝国をして、到達できていない。

と言うよりも、ミリシアル帝国の技術そのものが、魔法帝国の遺跡から発掘される技術の模倣にすぎず、オリジナルにはとても敵うものではなかった。

 

そんな存在が復活したのだ。大混乱が起きるのは間違いなかった。

ミリシアル帝国では国民の混乱を事前に収めるために徹底した情報統制が行われたが、同じ第一文明圏でも精々近世レベルの文明しか持たない国では、すでに口伝いに情報が広がっており、さらに第一文明圏の列強国であるエモール王国は過去のトラウマ*1を刺激されたのかミリシアル帝国に通達もなしに大規模な動員を始めており、国民に情報が拡散されるまでは時間の問題だった。

そうなってしまっては、円滑な国家運営など叶う訳もないので、現在ミリシアル帝国中枢では急いで会議を行っていた。

 

「まず、私が」

 

そう言うのは国防省長官アグラ。

 

「魔法帝国の復活についてとのことですが、国防省は速やかに第1国防条項*2のガイドラインに従いまして総動員の開始と、世界連合会議の開催、そして世界連合軍総司令部の設置を要請します。また、世界連合軍の橋頭保となりえるパーパルディア皇国防衛のため、ただちに陸軍戦力40万の派兵し遅滞戦を行い、さらに第0から第4までの魔導艦隊を動員し、壊滅したパーパルディア皇国海軍のかわりに制海権を死守します。また、可能であれば古代兵器の早期使用も視野に入れています」

「それだけなのか?」

 

アグラの発言にミリシアル8世が疑問をかけた。

 

「とてもそれだけの戦力で魔法帝国相手に遅滞戦だろうと、できるとは思えんが……」

「はい、国防省でも同様の結論に達していますが、何分パーパルディアには近代的なインフラがなく……」

「つまり、補給が足りず、大軍を編成できないと?」

「その通りです。同様の理由で高度な整備能力を要求する航空戦力も投入できません」

「それは、また……」

 

実に4000年もの時を過ごし、賢帝ともいわれるミリシアル8世はそれだけで、パーパルディア防衛が如何に困難か理解した。

インフラが無ければ近代装備で充足した部隊も瞬く間に銃剣での応戦を強要される。航空戦力が無ければ陸上戦力は敵航空戦力に耕されるだけの肉案山子になる。

しかも、相手は同格どころか圧倒的格上なのだ。

 

「そのため、投入される40万の兵力の内、12万は工兵大隊で編成されパーパルディアでのインフラ整備を急ぎます。

パーパルディアでの最低限のインフラ整備の完了が予想されるのが1ヶ月後であり、そこから逐次戦力を増強し、最終的には300万の陸上戦力、2万機の航空戦力を投入します。海軍戦力は3年以内に次世代艦となるオリハルコン級を6隻戦力化し新型空母も10隻整備、それを支えるための凡そ400隻の艦船を整備する予定です。オリハルコン級ですが、こちらは……」

「ここからは私が説明します」

 

アグラの発言に割って入ったのは技術研究開発局局長のペルーア*3である。彼は不満そうな顔をするアグラを一瞥して発言を再開した。

 

「オリハルコン級には誘導魔光弾を搭載予定であり、また魔法帝国のコア魔法*4に対抗するため、対空誘導魔光弾の開発予定であります」

 

この発言には出席者たちは「おぉ~」と感嘆の声を上げた。

今まで対抗不可能と考えていた魔法帝国に対抗できるかもしれない光明が見えたためである。

しかし、老練を極めたミリシアル8世は大きな疑問を感じた。

 

「まて、今まで長年の歳月をかけたのにも関わらず実用化できなかった代物だぞ、魔法帝国が復活したからと、そう易々と実用化できるのか?」

「はい、こちらにつきましては、海上要塞パルカオンに搭載されている誘導魔光弾の分解解析の許可いただきたい所存でございます。

もし、実物がありましたら今までの研究成果を合わせて速やかな実用化行いましょう」

 

ミリシアル帝国が保有する古代兵器の一つである海上要塞パルカオンは、今まで一隻しか発見されておらず、大変貴重なものである。

もちろん、それに搭載されている各種兵装も非常に数が限られ貴重なのだ。そのため、今まで一度も武装の分解が許可されたことは無い。

 

しかし、現在は魔法帝国の復活という巨大な脅威があり、そうもいっていられなかった。

 

「わかった。では許可しよう」

「ご英断ありがとうございます」

 

ペルーアの話が終わりると、次に情報局局長のアルネウスが挙手した。

 

「発言失礼します。

我々は今、パーパルディア皇国に隣接して出現した大地を魔法帝国としていますが、果たしてそれは正しいのでしょうか?」

 

アルネウスの言葉に場の面々は頭を捻り疑問符を浮かべた後、アルネウスを見て察する。

見てみれば、目元は真っ黒と言える隈があり、平常時でも細い体はさらに細く見える。出席した軍人は小突いたら折れそうだな、と関係ないことを考えた。

 

そう言えば、ミリシアル8世に提出する報告書をまとめたのは情報局で、情報の最大の提供者は外務省だった。きっとアルネウスはその取次と纏める激務に疲れているのだろう、と。出席者は正常性バイアスを介して理解した。

 

「どう言うことかね?」

 

だが、いくら妄言のような発言でも、内容が内容だ。ミリシアル8世はその真意を問うた。

 

「はい、魔法帝国とするのなら、あまりにも攻撃性に欠いています。また、魔法帝国があったとされる地はラティストア大陸、つまり大陸なのです。とても、第三文明圏つまりフィルアデス大陸と繋がっていたとは思えません」

「確かに理にかなっている考えだ。しかし、魔写で取られた天の浮舟*5や、ルーンポリスのような摩天楼をどう説明するのか」

 

パーパルディア皇国が魔法帝国復活を魔信で発した後すぐ、ミリシアル在皇国大使は大使館を飛び出し、皇国政府に真意を問いただした。

そこで、皇国政府は答えることなく、ミリシアル在皇国大使館に対二次偵察作戦への協力を要請した。天の浮舟や摩天楼を捉えた魔写はその際、ミリシアル在皇国大使館が貸し出した魔写で撮られたものだった。

 

「そちらについては何とも言えませんが、光翼族も確認できないないのです。もしかしたらムーのように転移した別の国家かも知れません。現段階で魔法帝国と決めつけるのは早計かと思います」

「確かにそうかも知れぬ。けれどもムーのあれは神話であるし、魔法帝国であるか、ないかと言えば間違いなく前者の方が確率が高い。先ほどラティストア大陸とフィルアデス大陸は接続していない、ということで証明しようとしていたが、魔法帝国と言えどいきなりの未来への転移魔法だ。失敗したのだろう。

とするならば今が好機、強大な魔法帝国が混乱から立ち直る前に準備を完了するのだ。

皆の者、帝国のため、世界のための奮闘を望む!」

 

そう言って、ミリシアル8世は立ち上がり会議室を後にした。

 

ここに神聖ミリシアル帝国の方針は決定した。

 

 

 

 

西暦2025年1月30日

《環太平洋連邦 北朝鮮州州都平壌市》

 

朝鮮半島随一の工業都市、平壌。

半島の付け根にある膨大な鉱物資源と、満州で大量に採掘される石油と石炭を用いて、重工業が盛んとなった。

その工業力に裏打ちされた経済力は強大で一時期は丙種特別市認定寸前となったが、近年はエレクトロニクス産業で急激に追い上げを続ける漢城*6乙種特別市に押され気味である。しかし、レアアースを近場で採掘できる強みを生かし発展している平壌のマテリアル産業に漢城のエレクトロニクス産業は依存している為、依然としてその影響力は強い。

ただ、やはり全盛期に比べれば相対的に産業分野が衰えたのは事実で、近年ではイルクーツクに設置されていた大陸総軍司令部が移転したため、軍事面で注目を集めている。

 

そんな、平壌市の郊外にある鉄柵と鉄条網に囲われ、厳重な警備に守られている建築物がある。

大陸総軍司令部だ。

 

大陸総軍、第1陸上総軍と第2航空総軍からなる大軍で、かつては環太平洋連邦最大規模の軍集団として、ドイツ第三帝国に恐れられた存在。

最盛期の所属人員は500万を超え、最前線となるシベリア共和国とドイツ・シベリエン国家弁務官区の国境には5万両の戦車が並べられ、空では2万機の航空機が飛び回り、ドイツ東方軍を以てして、対抗不可能と言わせしめた大陸総軍。

 

だが、それも昔。

1999年にドイツ・シベリエン国家弁務官区が崩壊、シベリアの各地が文字通り世紀末世界となり、主敵を失った大陸総軍は急激な縮小に迫られた。

さらに、2000年代初頭についにドイツとの冷戦雪解けが行われると、軍事費削減の煽りを受けさらに縮小。

そして、時代はなおも大陸総軍を苦しめ続けた。

2010年に終戦時に枢軸内で揉めに揉めた結果、絶対中立とされたアメリカ連合国がドイツと接近し、軍事同盟を結ぶと環太平洋連邦の主要敵はシベリアから一転し、アメリカ大陸に出現。それにより、環太平洋連邦の軍事リソースは北米大陸に注ぎ込まれ、反対に位置する大陸総軍は極限まで縮小された。

 

すでに満身創痍と言える大陸総軍。

2025年の初詣で参謀が総出でこれ以上の縮小を防ぐよう神頼みに神社いったが、残念なことに神は大陸総軍を見限ったらしい。

2025年1月22日、連邦重大特事が発生。

大陸総軍総人員39万人の内21万人を失った。しかも、その中身は、シベリア共和国や中華民国に派兵していた前線部隊に集中しており精鋭が根こそぎ消滅したことになる。これは連邦軍の教本によれば戦闘力を失う壊滅や、殲滅的打撃を通り越し遥かその先をいっていた。

 

この報告を聞いた大陸総軍司令官の広常 三至朗(ひろつね さんしろう)陸軍大将は余りのストレスに泡を吹いて倒れ、軍病院に担ぎ込まれた。

一時は持病の高血圧とストレスとのダブルパンチで心筋梗塞を発症し、死と生の狭間を彷徨ったが昨日、軍関係者に開示された連邦重大特事対策大綱の中身を見て、すっかり元気を取り戻し、今日軍務に復帰した。

 

「いや~、初詣行ってみるものだね」

「はい、真に神はいるのだとわかりました」

「岡久准将だめだよそんなことを言ったら。まるで神がいないと思っていたみたいな言い草じゃないか。お天道様は心の中で何と思ってても何かしてこないが、言いてしまったらだめだ」

 

広常大将のくだらない話に付き合わされるのは、岡久 淳(おかひさ じゅん)陸軍准将。

岡久准将は知っている。

広常大将は報告を聞いた時に暴れ狂い、「神は死んだ」と叫びながら司令部中の神棚を破壊して回り、見かねた参謀たちにPDSTを患った兵士に使う麻酔薬を撃ち込まれて大人しくなったと、しかもそのあと麻酔と持病の高血圧とストレスのトリプルパンチで心筋梗塞を発症し死にかけたと。

ただ、兵部省にも面子はあるためその部分は巧妙に隠されて発表された。

 

だが、そう思ってても口にも顔にも出さない。それが相応しい参謀の形であるからだ。

というのは建前で減点方式の官僚組織で出世するためには、上司に心よく思ってもらう方が都合がいいからである。岡久准将にとっては甚だ不本意なことにその上司でお天道様みたいな存在が広常大将である。

 

「しかし、広常大将。予定の戦力の配備が完了するのは半年後です。それに、空軍戦力を受け入れるための飛行場が限られていますので、その整備を急ぐ必要があります。第一陣が来るのも1ヶ月後で、それまでの間は現有戦力でやりくりするしかありません」

「ふむ、そうだね。だけど陸上兵力14万人、航空戦力800機じゃあこの広大な領域の完全な防衛は難しいね」

「はい、現在は偵察ドローンと国境警備隊との協力のおかげで監視できていますが、全域から同時多発的に侵入された場合はとても対処できません」

「少なくとも前みたいな領空侵犯は何としても防ぎたいけど……」

「最初の一回以外は全てスクランブルに成功しています。今までのペースであれば対処可能です」

 

連邦重大特事が発生してから凡そ3時間後、広西州州都南寧市に向かってやって来た未確認飛行物体に対するスクランブルは失敗。

しかし、その後は全ての領空侵犯に適切に対応し、戦闘機での撃退に成功している。

広西州や広東州など南方での領空侵犯は完全になくなっているが、浙江州などの中央での領空侵犯は一日に数回の頻度で発生していた。

また、スクランブル対応した際に、未確認飛行物体が創作物によく出て来るドラゴン、詳しい者曰く腕が無いのでワイバーンのような生物で、その上に人が乗っていることが確認出来、さらに何か国旗などのマークをしていることが判明し、草原の先に文明があることがわかった。

現在、大陸総軍が確認できているだけでも、6種類のマークを確認していて、それなりに発達した文明があると予想された。

 

「ちなみにだけど、うちらの西に出現したらしい島々はどうするのかな。流石に大陸総軍が対応するわけじゃないよね」

「伝えていませんでしたね。そうです。担当はあくまで海軍になりました。もし戦闘が発生しても日本総軍*7が対応するようです」

「それなら安心だね」

 

連邦重大特事が発生した際、環太平洋連邦の殆どの領域は地層ごと転移したが、一部では多少のズレが発生していて深海ケーブルが寸断されていた。その確認のため海軍海洋情報部が出動し、その際に発見されたのが、それらの島々である。

元々は日本海や東シナ海に出現した島は現地文明らしく、現在接触を急いでいる。

 

「失礼します」

 

扉を三回ノックし入って来たのは松木(まつき) (つむぎ)空軍中佐。

彼女の手には膨らんでいないファイルがあった。

 

「昨日、中央政府より下令がありました。新世界*8への偵察に関して、作戦立案が完了しました。ご確認と作戦開始の命令を」

「あれ、立案を命じたの今日じゃなかったけ?」

「はい、そうです。1100に命じられました」

「今、午後の6時だよ。早くない」

「……」

 

広常大将の問いに、松木中佐は答えられず押し黙った。

そこに、岡久准将が助け舟を出す。

 

「まあ、一旦確認しましょう広常大将」

「それもそうだな」

 

広常大将は松木中佐からファイルを受け取り、立案報告書を取り出し、その薄さに驚いた。

表紙にはでかでかと“新世界偵察作戦”と簡潔にタイトルがあり、その下に早速目的が書かれていた。

それを流し読み、めくると現状が簡単に纏められていて、情報が足りないや人員が足りない、時間が足りないなどと言い訳染みたこと遠回しに書かれている。

さらにめくると肝心の作戦内容と概要が書かれ、使用機材と申し訳程度に地図がある。

それを広常大将の隣から眺めていた岡久准将が言う。

 

「つまりは、作戦に沿って行動するが、新世界では何があるか分からないから、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するということでよいのだな?松木中佐」

「はい、現在出揃っている情報ではこれが限界でした」

「それって、行き当たりばったりってことだよね?」

「「……」」

 

広常大将の言葉に場は静まり返った。

*1
かつて魔法帝国に滅ぼされたインフィドラグーンの流れを汲む国家であるため

*2
オリジナル要素。魔法帝国が復活したら、世界を率いて戦うとかほざいてるからそれを予想したガイドラインくらいはあるよね。と思って追加した。

*3
オリキャラ。原作に技術開発局局長はまだ登場していないため。

*4
一応解説。魔法版核兵器、しっかりミサイルに搭載してくる。

*5
一応解説。魔法版ジェット機のこと。

*6
ソウル

*7
第2陸上総軍と第1航空総軍、さらにその他多数の即応群からなる戦略単位

*8
転移してきた世界の呼称

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