中央暦1639年2月7日
《クワトイネ公国 マイハーク マイハーク港》
三大文明圏から離れた場所にある大東洋という海域、そこには地球の常識で大陸と呼ぶには小さく、島と呼ぶには大きすぎる陸地があった。
ロデニウス大陸である。
その大陸にある三国のうちの一国、クワトイネ公国、国土全体を覆うように広がる肥沃な大地は、病気知らずで種をまけば勝手に野菜が育つほどに豊かだった、そのため家畜でも美味しいご飯にありつける農業立国である。
そんなクワトイネ公国最大の港であるマイハーク港は今、騒然となっていた。
「あれは、ミリシアル帝国の船か?」
そう言うのはクワトイネ公国海軍提督であるパンカーレだ。
彼の目に映るのは、一隻の軍艦。
非常に大きな軍艦で、かつてマイハーク港に寄港したムーのどの軍艦よりも大きい。
その構造は起伏に乏しく、一枚岩から切り出したように滑らかだ。所々に流線形の箱が置いてあるが恐らく何かの武装だろう。
それよりも目を引くのは、前方に備え付けられた三つの魔導砲と思わしきもの。
艦首に近い方は、二つの砲が一つの砲塔に収められ、その後ろにその二つを合わせたよりも大きな砲がある。
パンカーレの記憶にあるミリシアル帝国の軍艦はもっと多くの魔導砲を搭載していた気がするが、それが多少減ってもクワトイネ公国海軍は太刀打ちできないことは考えなくてもわかることだったので、パンカーレはそれ以上考えるのを止めた。
ただ、気になることは、その船に掲げられた旗がミリシアルのものとは違うということ。
白い背景に赤い丸、それと旗の端を繋げるように走る赤い光線の模様。
どこかで見た覚えがあった気がしたがパンカーレは中々思い出すことが出来なかった。
「提督、ただいま港に侵入した船ですが、どういたしますか?」
パンカーレの側近であるブルーアイが聞く。
「臨検でもしろと言うのか?相手は軍艦だ。乗り込もうとして殺されても文句は言えん。
あの船はとてつもなくでかいからな、この港じゃあ浅すぎて座礁してしまう。もうじき止まるだろう。その時に使者を送る」
「了解しました。使者は誰にいたしますか?」
「そうだな。いきなり私が行くわけにもいくまいし、マイハークの駐在している外交官を早速連れて行くのもダメだ」
「では、私ががいきます……」
「良いのか?死ぬかも知れぬのだぞ」
「大丈夫であります。剣の腕には自身がありますので、何かあれば自力で逃げてきましょう」
「わかった、では頼んだぞ」
ブルーアイは使者の役目を果たすため、数人の兵士とともに港から突き出た桟橋に向かった。
それを見送ったパンカーレは再び、件の軍艦を見る。
マイハーク港にたむろしていた商船や漁船はしっかりと立場を弁えているようで、軍艦が近づくと慌てて進路を開けようとしている。
ただ、今日は微風で帆を張ってもあまり速度が出ず、進路を作るのに苦戦しているようだった。
軍艦は噂に聞く魔導機関を搭載しているのか、風に関係なくするすると操船に悪戦苦闘する商船と漁船らの間を進んでいった。
「魔信はまだつながらんか」
「はい、先程から何度も試みていますが返答は何も……」
「そうか」
パンカーレや最初に件の軍艦を発見したミドリ艦長率いる船は軍艦に向けて何度も魔信での連絡を試みていたが、それは悉く繋がらなかった。
また、ミドリ艦長の船のように、手旗信号も試みた船は多くあったが、それらも全て無視されている。
パンカーレは自国が三大文明圏で侮られていることは知っている。
しかし、かつて寄港したムー艦隊も国際常識に従って、しっかりとこちらの管制に従っていた。
それを天下のミリシアルが破るとは思えない。
旗の件といい、やはりこの軍艦はミリシアルのものではないのだろう。
パンカーレは乏しい情報の中、そう結論を導き出した。
◇
マイハーク港に侵入した巨大な軍艦。
正確には全長221m、最大全幅27m、基準排水量28600tの巨体だ。
その名を常陸級原子力攻撃巡洋艦という。
常陸級原子力攻撃巡洋艦。
冷戦の雪解け後に誕生した世界最強にして最大の巡洋艦である。外見的特徴としては、ステルス性能を高めるために徹底して凹凸を減らした台形や菱形、流線形を多用した船体だろう。その徹底ぶりは砲身にまで現れており、砲身もステルス性能を意識し他にない形状となっている。さらに、20世紀初頭ならば立派に戦艦としてやっていられた巨体に、新規開発された原子炉とガスタービン、ステルス性能付与のため特別開発されたフェイズドアレイレイダー、凹凸を減らすために格納できる各種兵装等、のせいでこの艦は極めて高価なものとなっている。
最終的には、連邦海軍の保有する第1から第15まである通常艦隊に2隻ずつ、つまり30隻配備されており、あまりの調達価格から艦隊の配備数までもを3の倍数で統一したがる*1連邦海軍としては異例の配備の仕方だった。
連邦海軍の主要敵である枢軸海軍、連邦重大特事発生直前ではアメリカ連合国も含まれるが、これらの合計軍艦数は凡そ2000隻を超え、これは連邦海軍の二倍に値した。
空母戦力では圧倒的優位を確保しているものの、対空能力の上昇が著しい2000年代では、継戦能力の低下が叫ばれており、空母の代わりに枢軸艦隊を撃滅可能な軍艦が望まれた。
本艦は有り余る発電力を駆使し世界最大の戦闘システムを搭載し、同時に100機以上の航空機を補足でき、内20機を同時追尾可能で、艦船相手でも同時に対艦ミサイルで10隻へのシステマティックな攻撃が可能だった。ただ、これは単艦の場合であり、他艦船と統合運用した場合その能力は跳ね上がる。
さらに2020年には原子炉を搭載していることから、全艦にレールガンが搭載された。
最近ではレールガンの異常に短い砲身寿命の問題から、新規にコイルガンの開発が進んでおり、完了すれば本艦に搭載される予定である。
要目
全長 221m 全幅 27m
基準排水量 28600t
搭載機間 艦船用第3世代原子炉2基
艦船用高出力ガスタービン2基
最大速力 38ノット
ミサイル垂直発射装置 160セル
最大搭載機数 ヘリコプター3機
垂直離陸期2機
武装 55口径18センチ両用砲2連装1基
70口径15センチ電磁加速砲1基
他、ミサイル多数
まさに、怪物。
連邦が呼称するところの新世界でなら、向かう所敵なしの性能だった。
本艦の排水量からわかる通り、喫水ではとても水深の浅いマイハーク港に停泊できず、その手前で止まることとなった。
停止し、錨を落としたことを確認したブルーアイは大きな不安を抱きながら、小舟に乗り本艦に向かった。
だが、それとほぼ同時に本艦からは搭載されていた輸送ヘリが飛び出し、桟橋向かって飛び立った。これを見たブルーアイは驚き、急いでヘリの向かう桟橋に向かうのだった。
◇
「では、貴方がたは転移国家で、国交を結ぶためにやって来た、ということでよろしいでしょうか?」
マイハーク港の近くに設置された海軍司令部。
その一室にある会議室で、環太平洋連邦とクワトイネ公国との初めての会談が行われていた。
連邦側は、外交官3人と軽武装な護衛が2人。クワトイネ側は官民の交渉役は揃えられず、全てパンカーレやブルーアイのような海軍将校で固められている。
そして、先程パンカーレの発した言葉はクワトイネ側の疑問を集約したものだった。
「はい、その通りです。全く現実味のないこととは思いますが」
パンカーレの問いかけにことも無さげに応えるのは朝田外交官。
「そうですな、現実味がありません。このような国家が転移していたという話は神話の中にしかありませんからな。ですが、貴国の船を見てみれば、あのような鋼鉄で出来た巨船を建造できるのは私の知っている中でも二国のみ、その二国はすでに大国として世界に認められてますから、そのような荒唐無稽な事を言うとは思えません。ですから、私は信じましょう」
「ありがとうございます。では、信じてもらえたところで、我が国の紹介をいたします」
朝田がそう言うと、横にいた外交官の一人がクワトイネ側の面々に紙を配った。
パンカーレはその配られた紙の白さに驚き、さらにその均一さに驚愕し、そこに印刷されている綺麗に色づいた絵を見て仰天した。
そして、紙に書かれた内容を読もうとして、頭を捻る。
「朝田殿、すまないが我々はこのような文字を知らない」
「すみません。皆さまがスラスラと日本語、我々の公用語を話していたものですから、てっきり字も読めるものとばかり。少し不便をおかけしますが、ここでは口頭で説明させていただきます」
まずこちらをご覧ください。そう言われ、パンカーレは朝田の指さした絵を見た。
それは恐らく地図、パンカーレの常識では国家の重要な情報である地図を他国の相手に易々と見せるのはどうかともおもったが、それ以上にその地図の正確性*2に驚いた。
そして思うのは、目の前の外交官の所属するという国は小さな島の集合体なのだと。
だが、その考えは次の朝田の発言で吹き飛ばされた。
「こちらは我が国の国土の地図です。正式名称を環太平洋連邦といい。国土面積は1850万㎢であり」
「1850万㎢!!」
パンカーレは思わず叫ぶ、先程まで小さな小島と思っていたものはどうやら巨大な陸地だったようだ。
クワトイネ公国のだいたいの面積は190万㎢、それの凡そ10倍だった。
パンカーレが自身の横に座るブルーアイの様子を見ればどうやら彼も驚いているようで、目を見開いていた。
「ああ、すまない。思わず叫んでしまった。どうか気にせず続けてくれ」
「はい、では続けさせていただきます。総人口は10億2千万人で。首都は東京特別市、国家元首は天皇陛下となります」
「じ、人口も凄まじいのだな……」
「ありがとうございます。次のページを開いてください。こちらは我々の国土と現在判明しているこちらの世界の地理を纏めた地図になります」
そこには見慣れたロデニウス大陸があり、それと比較すると改めて連邦の大きさがよくわかった。
ロデニウス大陸の東にも横に長く続く列島*3があり、ロウリアよりもさらに南のあたりにはロデニウス大陸の倍はある大陸*4があった。クワトイネの北数百キロにもまた大きな島*5があった。
また、目につくのは恐らくフィルアデス大陸と接続している連邦領、ここには5大列強の一角であるパーパルディア皇国がある。パーパルディア皇国と言えば、傲慢ちきなことで有名で、パンカーレも気になって朝田に聞いた。
「朝田殿、この地図のここなのだが、フィルアデス大陸と接続した貴国の領土だが、何か軍事的な事件は起きたか?」
朝田は突然の話に少し戸惑うがすぐに切り替えて答えた。
「そうですね。私が知っている限りでは何回か領空侵犯されたということくらいでしょうか」
「そうか、ならよいのだが」
パンカーレの歯切れの悪い様子に訝しんだ朝田が問う。
「パンカーレ提督、何か問題があるのでしょうか?」
「貴国と接続した国。パーパルディア皇国というのだが、この国はこの世界の列強の一角で非常に傲慢であるのだ。それに、その周りにある第三文明圏の国々も総じてその様子がある。もし、交渉するようなことがあれば気を付けていただきたい」
「そうなのですね、もしそうなれがぜひクワトイネ公国にも手伝っていただきたいですね」
「いや、それは難しい。我が国は文明圏外と言われる国で、文明国とはとても対等に交渉できないのだ。貴国も範囲で言えば文明圏外となるし、貴国の出現でパーパルディア皇国は港が潰され怒り心頭だろう」
朝田はパンカーレから聞いたこの情報だけで、この世界の外交の困難さを理解した。
そして、今自分と話しているクワトイネ公国がこの世界ではかなり常識的な存在であるとも半ば確信した。だから、何としてもこの世界で最初の国交相手としてクワトイネと国交を結ぶ必要があると自身に発破をかける。
「そうなのですね。わかりました。ですが、私は連邦とクワトイネが熱い信頼の下、国交を結べると信じています」
「私も貴国とはぜひ友好の契りを交わしたいと思っています。そして、この会談がその第一歩になるとも信じています」
パンカーレのその言葉は全く持って真実だった。
連邦の言う情報が真実だとすれば、今クワトイネの直面している国家存亡の危機を救えるやもしれないからだ。だからパンカーレは何としても連邦と友好を結びたかった。
「ふむ、そろそろ時間ですな」
外から聞こえる鐘の音にパンカーレはそろそろ夕食時だと知る。
「連邦の皆さまよろしければ夕食をご一緒しませんか?」
「それはいいですね」
「ええ、私どもでは条約といったことは交渉出来ませんので、中央政府の交渉役が来るまで、ゆっくりじっくりと我が国のことをお教えいたしましょう」
「よろしくお願いします」
こうして、連邦とクワトイネとの交流は友好に進んでいった。
原作のミドリ艦長の船と日本の接触ですけど、自分てきにはどうしても違和感がありましたので変更させていただきました。
やはり、知らない国の軍艦に臨検するのはおかしいと思うんです。だって、船はその所属する国の国土と同じ扱いですから。