月の残り香   作:万年赤字一般傭兵

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アニメが余りにも美しすぎたので、記念に




伴に贈る暗月
あなたに捧げる月光(前)


 

 

「早速、ゼーリエに会いに行くとするよ。…愚かな事だな、君の言葉を聞かねば貴重な友人を置いて行ってしまったのかもしれないのだから」

 

 暫くは月光に照らされた空に見惚れていたが…

 今いる友人の事を思い出し、遂に降下を開始した

 

 降り注ぐ月光と共にゆっくりと草原に近づき

 

 着地まで、後少し

 

 

 

「………?」

 

 飛行魔法の出力が、足りない

 

「……一体、これは?」

 

 

 

 

 

「…まさか、これが魔力切れなのか……?」

 

 地面に叩きつけられ、初めて体験する酷い倦怠感に襲われた。これこそがゼーリエの言っていた魔力切れなのだと感覚で理解する。加えて私だけでなく、周りの結晶の魔力すら尽きかけていた…何もかも彼女の言う通りだったようだ

 

 魔族のものを解析し、何とか開発した飛行魔法。

 私達の魔法である結晶をベースとした為…生成した細かい結晶に魔力を込めて周囲に展開し、自由な方向への高密度な魔力の放出によって空を飛び回る事を可能にする、という形になった魔法。

オリジナルを超える推力と操作性を確保できた傑作

 

 

 しかし彼女曰く…

 

『大量の魔力による、結晶の持続的な生成と充填の維持。性能自体は魔族のそれに勝るが…操作難度も魔力の消費も凄まじいな。殆どの魔法使いは維持どころか、使う事すらできないだろう』

 

 私達では気にもしなかった事だが、実用的では無いらしい

 

 

 普段ならばこの身に宿る魔力で簡単に維持できていたのだろう。しかし月光を出す魔法(ムーンライト)の後では、流石に無理があったようだ。生まれて初めて味わう魔力切れで指一本すら動かせない

 

(ああ、でも月が綺麗だ…)

 

 そのまま朝まで地面に縫い付けられる事になったが…それだけ月に集中できた。先よりも遠くから望む月は、また違った趣がある

 

 

 

無防備な中、魔族や魔物に襲われなかった事は幸運か

或いは、月が守ってくれたのか

 

 

 

 

 

「魔力切れか。おい、生きているな」

 

 月がその身を隠し空で碧と青が混じり始めた頃、見覚えのある金色が視界に入った。心地よい風に撫でられて美しくなびく長髪、子供のような体、長い耳…ゼーリエだ。

朝ならばいつもは自分が見下ろしていたのに、今は逆に見下ろされている

 

「…ゼーリエか、随分と早起きだな」

 

「隣が空いていて妙に寒かったからな。お前が魔法を掛けなければもっと早く起きていた…で、これはどう言う事だ?」

 

 そう言って、見せてきたのは最後に書いた日記のページ。ドライな所がある彼女なら気にしていないと思っていたが…違ったようだ。普段は表情を崩さない彼女の今の顔を見て、急に罪悪感が湧いてきた。

 

置いて行かれる辛さも、友を失う悲しさも分かっていたはずなのに

 

 

「遺書だ…すまない。弁解のしようもないな」

 

 魔力切れで未だに満足には動けない、何をされようと受け入れようと覚悟を決めて

 

「もう、死ぬ気はないのか?」

 

 返ってきたのは、落ち着いた言葉

 

「…?」

 

「生きるつもりはあるかと聞いている。どうなんだ」

 

 いつもの彼女ならば…魔法の一つや二つでも飛んでくるものだと思っていたが、不機嫌な顔に似合わず冷静な問いかけをされて少し驚いてしまった

 

「ああ、勿論だ。ローガン…私の親友に思い知らされたからな、もう死ぬ気は無い」

 

「なら良い…回復するまで待ってやる、そしたら…」

 

「その、ゼーリエ。良いのか?」

 

「何がだ」

 

「心配、させてしまっただろう?何か…」

 

 いつのまにか戻っていた普段通りの無表情に、あっさりと出された許し。機嫌を損ねれば一週間は口を利かないような彼女の、明らかにおかしな様子に安堵より不安が勝る

 

 

「いらん。お前が生きるのなら、それで良い」

 

「…そうか」

 

 読み取れない顔のまま放たれる、私の不安を張り倒すようなバッサリとした言葉。これ以上は藪蛇だと感じ、話を終える。空は綺麗に輝き爽やかな風が流れているというのに雰囲気は、少し重かった

 

 

 

 

 

 ○月×日

 

 ゼーリエから突き返されるように日記を返された。理由はないが、書かないと落ち着かないため書き始める事に。一日しか日を空けていないのに、久しぶりに日記を書く気がする

 

 

 あの後、別の旅に出る事にした。ここに来て間も無い頃に殺してしまったあの人たちの弔いに向かうのだ。彼の夢はとっくに叶っているのだと知って、幸せに生きるのなら…過去の罪は消えずとも、生きている間にしっかり向き合う必要があると思ったから

 

 

 何故か、続けて彼女と共に旅をする事になったが。

正直気まずかったので、一度落ち着きたかったものの…あのページを開きながら大切な友人だと思っている事を、とても強い語気で言われた

 

 振るべき首の方向など一つしかなかったのだ

 

 

 

 ○月◇日

 

 旅は順調だが…ゼーリエの様子がおかしい。

 朝は早く起きるし、私より先に寝ないし、料理や髪のセットといった身の回りの事を自分でやるようになったのだ

 

 そして何よりも、常に私から目を離そうとしない。

 時に魔法で、時に魔道具で…

 こうして日記を書いている今でさえ、視線を感じる

 

 ずっと見られている事への違和感はある。

 しかしそれ以上に、いつもの傲岸不遜な彼女とは思えない様子には心配の念が上回る

 

 

 

 ×月◇日

 

 不味い。心配のあまりゼーリエに心を読む魔法を使ったが、それが指し示したのは…異常としか言えない私への執着、分離する事への強い恐怖、そして二度と離してなるものかという束縛の欲求

 

 勿論、改めてすぐに謝った。加えて持っていた魔導書を全て差し出したものの軽くあしらわれてしまう、ダメだった

 

 このような感情は…友人として適切では無い、不健全。あってはならないもの。今の状況が続けば、やがて私達は友人ではいられなくなってしまうだろう

 

 故に、解決しなければならない。原因を探らなければ

 

 

 ×月<日

 

 そっと、バレない様に心を読む魔法を使う事…約1週間。少しずつではあるが、ゼーリエの感情と行動の理由が分かってきた気がする

 

 心に強く残っていたのはあの日の日記帳、大きすぎる寝袋、そして孤独…彼女が恐れている事は、私との離別だ。しかし一方で別の感情もある、嫉妬。それもローガンへの。

 これらを総合して考えるに…二番目の友である為に私の後追いを引き止められる存在ではない事による不安と親友であるローガンへの羨望、そして孤独を恐れ、何処にも行かないように取った手段こそが常時の監視と言ったところだろう。普段の様子の変化は、友人としてローガンを超えるためかもしれない

 

 やはり、良い感情では無い。気が知れた友人であるならばそんな恐れは不必要、それに彼女らしくも無い…何とかしてこの不安を払拭する必要がある

 

 しかし一方で解決の糸口が見えた、証明だ。私の罪には謝罪だけでは足りない、証明が必要なのだ。彼女と私を結びつける…繋がりの証明と、決して置いては行かないという証明

 

 

 

 

 ×月☆日

 

 あれから考え続けて…

 私が示せる繋がりの証明は月しかないという結論に。

 死して尚続くローガンとの強い繋がりを示す同じ月。これ以上の縁を私は知らないし想像もできない

 

 しかし、その価値観が成り立ったのは彼が"寿命が短い人間"として私の心を理解したから、数十年も無かった私の"前の記憶"を今と区別できたからだ

 

 ゼーリエは私の心を読めるが、エルフとしての長き生故に"今世"と"前世"の区別がつかない。ただ月を見れども、そのつながりを理解はできない

 

 

 

 だから、私と彼女の間にある繋がりを月で示すには工夫が必要だ

 

 

 そこで考えついた。

 彼女の大好きな、魔法だ。

 月光を放つ魔法(ムーンライト)を使って示そう

 

 

 

 ×月=日

 

 この開発は過去最高の難易度だ…アイディアをまとめる為に、万一にも折れないように、計画を書く

 

 彼女は魔法の中でも、論理的解明がなされた魔法を特に好む。故に、かつての月光を放つ魔法(ムーンライト)、これを再現できるように論理立てて魔導書という形の贈り物にする…という計画

 

 遠くにいる親友の元へ捧げた、私の最高傑作。

 同時に、私が知る中で最も感覚的な魔法でもある。故にこそ、これを論理立て彼女に贈る事は、彼との友誼とは違う意味になれど強い繋がりの証明となる

 

 

 

 ×月⭐︎日

 

 ついに、遂に完成した。

 ゼーリエの為の月光、友としての関係を続ける為の贈り物

 

 何度も何度も月光を放つ魔法(ムーンライト)を使った。持ち得る魔法で理論を完璧にしようと、彼の様に自身の想いを最大限込めようと試みた。

 そして…ソウル系統の魔法に結晶の魔法を組み合わせる事で再現可能になったのだ!

 

 

 きっと、かつての物と遜色ない、美しい輝きになる

 

 

 

 

「よし…早速、やるか」

 

 月と焚き火の明かりを頼りにしながら日記を書き終えた。すぐ横に置いてある例の魔導書を見ると、それだけで笑みが浮かびそうだ。何故ならば、今日こそがゼーリエに月光を放つ魔法(ムーンライト)を捧げる日…今までの贖罪をできると思えば当然だろう

 

 今だに彼女は寝ていない。一度寝たフリをした事があったが…看破されて安眠できる魔法(ピース オブ シン)をかけられてしまい、結局は先に寝てしまった。それ以降、後に寝る事は諦めていた

 

 だが、それも今日までだ

 

 

「ゼーリエ、少し良いか?」

 

「…なんだ?」

 

 月は丁度、私たちの真上にある。私が日記を書き終えるまで、小さな体を大きすぎる寝袋に収めながら待つ彼女はかなり眠そうだ。

 

「お前の為に、魔法を作り上げた。見てくれるか?」

 

「……待て。私の、ために…?」

 

 

 魔導書を取り出せば、いつもなら寝袋から飛び出し眠たげな目をパッチリ開いて駆け寄って来る…最近なら軽くあしらう筈なのだが

 

「そうだ。以前、私はお前を勝手に置いて行ってしまった、一人になる恐怖を与えてしまった…謝って済むことではない」

 

「だから、これは詫びのつもりだけではない。…お前の心配と恐怖を無くすための贈り物だ」

 

 またもや、見た事ない様子だ。確かに眠気は覚めているようだが…物凄く喜んでいる、という訳では無い。予想とは違った今の様子に、何故か嵐の前の静かさを感じてしまい少し怖くなる

 

 それから、彼女はゆっくりとこちらに近づき静かに魔導書を読み始めた。発見の嬉しさだとか期待外れの落胆も無く、知っている限りでは最も真剣な顔で目を通している…私もその気迫に呑まれてしまい

 

 

 

 

 

 

 焚き火は消えており、月は少し欠けていた。冬の到来を警告するような冷たい風が吹いている中でゼーリエが魔導書を閉じ、顔を上げて月を望む。

徹夜にも関わらず、顔には疲労の一つも無い。

 

黄金の髪は月光を吸い込み、より一層輝いていて。

静かに月を望む姿は、何処か儚げで。

月の美しさを、その身に宿した様な姿に…

 

 見惚れてしまった

 

 

 そうして気を取られていると、彼女は何も言わずに左手を構えた。魔力が左手に収束、結晶に覆われていき月光と混ざり始める

 

 やがて、高密度な魔力が結晶を励起させ…

 素晴らしき月光が

 

 

 

 放たれない

 

 

「は…何で、理論は…?」

 

「ふむ、やはり駄目か」

 

 

 訳が、分からない。私の魔法が、最高傑作が…

 彼女への証明が、失敗してしまった

 

「ゼーリエ…私、私は…!」

 

 そんな私へ、彼女は…

 

「そう焦るな。お前の想い、確かに受け取った」

「ここまで想っていたとはな…正直言って嬉しいよ」

 

 今まで見た事がない、一番の笑みを返した

 

 

 

 





アニメの完成度が高すぎた為に創作意欲が湧いたので、先走って書きました。

投稿は原作の履修度に依存するから不定期です
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