月の残り香   作:万年赤字一般傭兵

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修正点
前話の後半の一部を今話に移しました


ローガンならそうした

 

 思い出の中であれ、しかし強烈な記憶を境として段々と現実へ意識が戻ってくる

 

「おい!おい…!起きろ!!こんな、こんな所で……」

 

「貴公、しっかりしろ…!大丈夫だ、死ぬ訳ではない!」

 

 地上までぶち抜いた大穴からは、確かに日の光が入っている筈なのに辺りは暗い。いつのまにか体に入ってくる情報は仲間の声だけになり、自分の存在すら曖昧になって来た。

 しかし、このまま消え去るのだとしても、この戦いで垣間見た高みと幸せだけはゼーリエに伝えたかった

 

 

 何とか声を振り絞って出そうとして

 

「………ぁ………」

 

 結局は、何も出なかった

 

(ゼーリエ、すまない……)

 

 

 最期の最期で最も大きな後悔を抱き、遂には仲間の声すら聞こえなくなる。

 そうして、そのまま全感覚が完全に失われた

 

 

 

 

 

(暗いな……)

 

 以前は、死んだら直ぐにこの世界へと生まれ変わったが…今のところ私がいるのは静寂に包まれた暗闇の中だ

 

(今度こそ死んだら地獄へ行くものだと思っていたが、違うのか?)

 

 地獄も転生も無いが自分が死んだ事を実感させるような感覚、そんな中でも思考だけはできた。する事も無く、暇を持て余して自然とこれからの自分に待ち受ける運命を考え始める

 

 

(……ゼーリエもローガンも地獄には来ないよな。もし私が地獄に行って彼らに会えないとしても、月を望むつもりだったが…)

 

 例え地獄に友が居ないのだとしても、同じ月を望めば確かな繋がりを感じられるからそれで良かった。

 だが私は戦うことの楽しさを知ってしまったが故に、死して尚心の中には戦いへの渇望が渦巻き始め…地獄に行っても闘争ができるかが不安になり始めて来た

 

(……いやマヌスが来るか、アイツなら間違い無く不足はないだろう)

 

(それに今回の戦いは互いの勝敗が曖昧だったからな、向こう側で白黒ハッキリさせられる良い機会じゃないか)

 

 

 ふと思いついたのは、殺意の対象でありながら戦いの喜びを教えてくれた張本人でもあるマヌス。ある種の同族嫌悪的な感情はあるが、それ故に地獄で心置きなく殺し合える素晴らしい好敵手だ

 

 そんな事を考えながら、闇の中で暇を潰していると

 

 

(これは…)

 

 いつの間にか、暗く燃え上がる炎の塊があった。深淵と人間性を燃やしながら私の前で静かに佇む炎、何かを語られずともそれはマヌスであると分かった

 

(……マヌスか…いや今更どうしようも…ん?)

 

 何をすべきか迷っている中、ふとマヌスからの感情が伝わって来た。それは戦いの中で感じた醜い食欲などでは無く、単純な疑問

 

 

 "何故、お前は人間になれたのか"

 

(何故、か…)

 

 それを皮切りとして更に情報が積まれて行く

 

 "私は人間になる為に魔法を追い求めた"

 "お前との勝負に勝てる程に魔法を極めた"

 

 "なのに何でよりにもよって、私よりも劣る残滓でしかないお前が…"

 

 確かに彼の言う通りであろう。私には、彼よりも劣っている部分どころか、自分の名前すら知らない様な明らかに欠けている部分も多々ある

 

 だけれども、最終的な勝負の結末は私の勝ちでもあった

 

 

 心を読む魔法の副作用を使って、マヌスの疑問に答え始める

 

(お前に無くて私にしか無いものもある…月光と友人だ。私には常に導いてくれる月があり、そして私の事を友人として認めてくれる友人がいた)

 

 

 月光と友人…私とマヌスを比べて勝るものは、たった二つのもの。しかしこの二つこそ、劣っている私が強大なマヌスを打ち倒す為に必要なものであったのだ

 

 そう伝えると、彼は絶望する事も逆上する事も無く、ただ諦めた。もしかすると、私の月光に惹かれて自らの全てを焼き捨てていた時点で、人間になるための努力が間違っていたことが分かっていたのかもしれない

 

 

(…………マヌス、お前は…)

 

 そんな彼の様子は、本当に私の様であった。月光に気づく事も友も無く、諦観や言い訳と共に魔族を殺し続けていた昔の私だ

 

 

 もしローガンと出会わなかったのなら、私自身もマヌスと同じ道を辿っていたのかもしれない

 

(……そう言えばローガンと友になる前、私は……)

 

 ふと思いついた仮想の未来は私に違和感を与え、私自身の人生を今一度考え直させた

 

 確かに、今の私はローガンのお陰で人間だと胸を張って言える。

 だが、ローガンと出会う前の私は果たしてどうだったのだろうか。私は潔白な存在などでは無く、多くの人々を殺すばかりか食欲すら向けていた魔族であった。

 

 けれど、そんな私の心を読んだローガンは……

 

 

 私が、マヌスへと抱いた様な殺意を感じていただろうか?

 

 

 答えは、否。

 そんな私であろうと彼は私を人間だと認め、そして友としてくれたのだ

 

 

 違和感が、更に大きくなって行く

 

 

 その時に私はどう思ったのだろうか。彼の行動は何よりも素晴らしいものだったと感じたのではないか、私はそんな彼に惹かれてい相応しい友人になろうとしたのではないか

 

 ふと、目の前のマヌスが気になった。マヌスとは、即ち魔族として迫害されていた過去の私そのものだ

 

 

 過去の私とマヌス、どちらも救われるべきでは無い化け物だ。

 しかし私はローガンによって友と認められて救われ…マヌスは友を得ること無く、救われなかった。それどころか、私が殺意を持ってマヌスを追い詰めたのである

 

 奇跡的な救いを得た化け物が、救われなかった同類を貶す。その姿は私を迫害した人たちの様である。決して行動そのものは間違ってはいないが、しかし私へ深い絶望を与えた彼ら

 

 

 そこまで考えて、感じていた違和感をやっと理解した。

 

 それは、醜い自分をローガンに認められていながら、同じ様な存在のマヌスを自分の醜悪な部分として拒絶した矛盾だ

 

 

(ローガンに自分を認めてもらった時、とても嬉しかった…彼に相応しい友人になりたいとも思った……なのに)

 

(なのに、こんな事をしてしまうとは。これでは、とても胸を張って彼の友人だと言えないな……)

 

 

 私はローガンに、そして今の友人たるゼーリエにとっても相応しい存在であり続けたい。或いは、そう思っていたからこそ、愚かにも自らの汚点を一方的に否定しようとしたのかもしれない

 

 素晴らしい友人達にとって相応しい存在である為には、どうするべきか

 

 本当の答えは、既に与えられていた

 

 

(マヌス、少し良いか?)

 

 彼がそうしたように、私も受け入れなければならない。

 故に、私は過去へと向き合うべきなのだ。

 

 意を決して、マヌスへと話し掛けた

 

 

 

 

(お前は、人間になりたかったんだよな。そして、その為に深淵の魔法や人間性を研究した…ここまで合っているか?)

 

 返答は肯定

 

 

(よし…マヌス、お前は人間に成れなかったのだと言うが、私はそうは思わん。…今の今まで人間であり続けようとした心は確かに人間だった…私はそう思うんだ)

 

 

 返答は無い、沈黙

 

(もちろん理由ならある、まぁ死ぬ前の余興とでも思って聞いてくれ…。私も、昔はお前と同じ様に苦しんでいたんだ。…いや同じどころか、下手すればお前よりも悪かったかもしれない)

 

(人間になろうとひたすらに何かをしようとした。けれどもそこには何の確信も無くて、自分を納得させるための程のいい言い訳をしながら同族を殺し続けたんだ)

 

 

 沈黙が続く

 

 

(さっき、私はこう言ったよな"お前に無くて私にしか無いものもある…月光と友人だ"、と)

 

(偉そうに言ってはいたが、アレらは私が自らの手で得たものなどでは無い。 これら全ては私の親友であるローガンに教えられ、そして与えられたものなんだ。彼こそが、私を人間だと認めてくれた初めての人だった)

 

(魔法が上手くて、優しくて、カッコよくて、努力家で、多くの女性にも好かれていて…彼は本当に、本当に素晴らしい人なんだ………)

 

 

(済まない、話が逸れたな。えぇと…彼が私を人間だと認めてくれた時、それは友となる前に出会った瞬間だった)

 

(その時に、彼は醜かった私の心を人間のものだと言ってくれたんだ。そう、お前よりも酷かった私であっても人間の心はあったんだよ)

 

(彼から言わせてみれば…人間になろうとする努力を私の何万倍も頑張ったお前には絶対に人の心があるんだ、確かにお前は人間なんだ)

 

(だから、お前は胸を張って人間だと誇っていいんだよ)

 

 

(……色々と偉そうに言ってすまなかった、話はここまでだ。私の言葉なんぞ大した価値はないだろうが、それでも素晴らしき私の親友の言葉だけは信じて欲しい)

 

 言いたい事を全て言い切った。その瞬間、今まで私を苦しめていた自分の過去がローガンの言葉で認められいた事を初めて実感できた。

 だからだろうか、引き摺り続けていた物から解放されて、私の心が軽くなり…やっと、幸せに生きられるようになった気がする

 

 

 しかし、マヌスからの返答は何も無い。

 やはり私の言葉では何も響かなかったのだろうか

 

(こんな時に、ローガンがいれば……)

 

 先まで殺意を感じていた筈の相手なのに、今では私の様に救われて欲しいと思える。

 いっその事この場で女神様がローガンを降臨させてくれないか、とまで祈り始めた…その時

 

 

(………うわぁっ!?)

 

 突然、マヌスの炎が大きく燃え上がった。それと同時に様々な感情が伝わってくるが、余りにもの強さに読み取ることができない

 

(逆鱗に触れてしまったか…?)

 

 このまま焼き殺されるのでは無いかと思ったが、幸いにも暫くしたら炎は落ち着いてくれた。そして直ぐ様返答があった

 

 

(なに…"心が人間である事は認める"…そうか、それはよかった)

 

 どうやら話の効果はあった様だ。その事に少し安心していると、今度はマヌスの方から話しかけて来た

 

 

(……は…"ソウルを受け取れ"…!?)

 

 一気に近づいてくるマヌス、余りにも急で訳の分からない提案に激しく困惑してしまう

 

 急に興奮して近づいて来た彼を一旦制止し、詳しい説明をしてもらう事にした。

 彼の話には、アルトリウスとの話の様に知らない言葉が何回も出て来る。それ故に何度も聞き直すはめになったが、何とか理解自体はできた

 

 

 

 彼曰く…マヌスのソウルを吸収する事で私が生き返る、のだとか。それに、互いの魔力が殆ど同じ物であるから絶対に成功するため心配はいらない、らしい

 

 生き返ってゼーリエ達の元へと戻れるのであれば、その提案に乗らない理由はない

 

 

 強いていうのなら、彼のソウルを使う事が少し申し訳ないくらいだ。…そう思った瞬間に気を遣ってくれたのか、またもや説明が始まった

 

 彼の世界では、死した者がソウルと呼ばれる生命の源を残す。そして親しい者が死んだ時には、そのソウルを受け継ぐ事が習わしである。故にこの行為は正しい行い、らしい。

 また、彼は私の月光を見続けたいとも言っており…吸収されたとしても魔法を使う事で、意思を保ちながら私の中から月光を見られるため、彼自身にとっても悪い話ではない、だそうだ

 

 

 

(…あ、ああ分かった、分かったから…少しは落ち着いてくれ)

 

 興奮に任せて捲し立てる様に話してくる彼。直接伝わってくる感情に悪意は感じられないため罠ではない事が分かるが…

 

 

(………今は、ゼーリエ達の元に戻るのが最優先だな)

 

 多少の逡巡はあった、しかし大した問題では無かった。直ぐに了承の意思を伝える

 

(……分かった、お前の案を受ける。私は……ぁっ!)

 

 肯定の返事をした途端、私に向けてマヌスのソウルが入り込んだ。

 暗く燃え上がるソレだが、しかし熱さや痛みを感じる事も違和感を感じることも無かった

 

 

(…………?眩しいっ!!)

 

 それどころか彼のソウルは私の中に在るべきものの様で、気づけば既に何処にも無かった。

 そう認識した途端、光が目に入ってくる。闇に慣れていたからか眩しくて眩しくて仕方が無い

 

 

 やがて、その眩しさに呑まれ…

 

 

追う者たち

 

 

 

 何かが聞こえたかと思えば、一気に体の感覚が戻って来た

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 おはようーーーー。昨日のお話の続きを今すぐにでも聞きたいって?……顔は洗ったな、朝ご飯は食べたな、歯は磨いたな、服も着替えたな、よし…じゃあ話してあげよう。

 えーと、どこまで話したんだったか……ああ、そうそうシースとカラミットが友になってからだったな

 

 

 さて、カラミットと素晴らしい毎日を過ごしていたシースですが、ある日カラミットが他の竜達と話をしているところを見かけました。

 

 シースは、カラミットが自分以外の竜と話しているところを見た時に、なぜだか嫌な気持ちになりました。その嫌な気持ちはカラミットと話をしている時でも心に残り続けました。

 

 シースは何が嫌だったのか考え始めました。

 

 自分の友達はカラミットだけだけど、カラミットには沢山お友達がいる。それでも楽しく話せていたから、カラミットにとって、自分は他の竜達がどうでも良くなるぐらいに大事な友達だ。

 

 なのに、カラミットは他の竜達と一緒に楽しそうなお話しをしていた。

 

 そこまで考えてシースは何が嫌だったのか分かりました。

 カラミットに自分以外の友達がいる事がとっても嫌だったのです。

 シースは、カラミットが自分を虐めてくる他の竜達と同じ様に思っていると考え始め、そんなのは嫌だと思いました

 

 だから、シースはカラミットにとって自分が唯一無二の友達になる方法を沢山考えて…

 

 

 邪魔者を、消す事にしました。

 

 

 カラミットが自分以外の友達を作れないように、他の竜達をひたすらに殺して、殺して、殺して…遂にカラミットに見つかってしまいました。

 

 カラミットは親友であるシースがこんな事をしてしまったから、とっても悲しみました。悲しくて、悲しくて仕方がありませんでした。カラミットは今からでも遅く無いとシースを止めようとしましたが、遅すぎました

 

 カラミットが気づいた時には、シースは取り返しがつかない程に沢山の竜を殺していたのです。更に悪い事に、シースは今まで虐められていたせいで竜を殺す楽しみに狂ってしまいました。

 そして竜の中で一番偉くて強かったカラミットは、他の竜達からシースを殺すように頼まれてしまい…その竜達を守る為に決心をしました。

 

 だから、お互いの事を一番の親友だと思っていた二匹の竜は殺し合いをするしか無かったのです

 

 二匹の戦いは壮絶でした。

 あらゆる魔法を使えるカラミットとシースが繰り広げた魔法の応酬は大地を全て溶かし、空を割り、割れた空からは何千もの雷と全ての命を奪い去る光が降り注ぎました。魔法の余波は留まるところを知らず、遂には一つであった世界が壊れ、幾つにも別たれました

 

 

 どんな戦いでも、やがては終わりを迎えます。

 壮絶な戦いの結末は…とても悲しい結末でした。

 

 戦いの末に、確かにカラミットはシースに勝ちました。沢山泣きながら、それでも他の竜達を守る為に親友を殺しました。

 けれども、ふと後ろを振り返った時、カラミットが守ろうとした竜は全て死に絶えてしまいました。

 

 

 そう、二匹が争う理由なんかとっくに無くなっていたのです。カラミットはシースを殺さなくても良かったのです。

 とても悲しい結末に、カラミットは大いに絶望して何処かに飛び去りました。

 

 

 …ん?この後どうなったかだって?まぁ落ち着いて、コレから話す

 

 さて、残っていたカラミットすら居なくなり、シースの死体とカラミットの剥がれた鱗だけが残る荒れ果てた世界には誰も居なくなってしまいました。

 

 そこへ、女神様がやって来ました。

 女神様は割れた空を覆い、大地を水で満たして癒し、そして世界を元通りの緑で包みました。次に女神様はあらゆる物に命を与え、植物や動物、そして人間を生み出しました

 

 けれどね、女神様が与えた命はシースの死体とカラミットの鱗にも宿ったのです。鱗からは魔法を使えない竜が生まれ、シースからは鱗を持たない竜である魔族が生まれました。

 

 

 生まれて来た竜達は硬い鱗を持っていますが、自慢に思っていた魔法を使えません。ですから竜達には魔法が通じにくく、また失った自慢の魔法を求めて自分の巣に魔力を帯びたものを集めようと人に襲いかかるのです。

 

 一方で魔族は角を残しながらも人間に近い姿を持ち、かつての古き竜達がそうであったように高度な魔法を使えます。けれども魔族は同族を殺し尽くしたシースの末裔でもあるので、自分と同じような姿をする人を殺したくてたまらないのです。

 

 白竜シースの狂乱によって古い竜達は滅び…そして女神様によって今の世界が、そして私達にとっての脅威ができたのです。

 

 

 はい、コレでお終い…要するに魔族と竜は強いから気をつけろという事だ。…ん?何か不思議か?

 なになに……図鑑で見た毒極竜には鱗も角もなかったから、この話は間違っている……

 

 全くもって、その通りだよ…----は賢いな。

 所詮、おとぎ話はおとぎ話なんだ

 

 

 さて、今日も花畑の世話をしに行こうか

 

 

 

 





ここまで読んでいただき、ありがとうございます

主人公が友に支えられて辛い過去を受け入れるシーン
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