我慢できないので続きです
深淵を覗く時
◇月○日
どんな言葉よりも、どんな約束よりも強く繋がりを証明したあの日。もはや私達の友情を引き裂けるものなど何も無く、私もゼーリエも絶好調だ
絶好調だったが…あの後、北の大地からはすぐに離れた。月は綺麗だったものの、目的を果たしたからか体の発する危険信号も最高潮に達してしまったのだ。逃げ帰る様に、飛行魔法すら使って南へと向かった
それからは、未だに彼女との旅を続けている。取り敢えずは魔法蒐集の旅としているが、実のところ具体的な目標は無い。目的の為に旅をしているのか、旅をする為に旅をしているのか分からないが、彼女と道を同じくするのなら何の問題も無いと感じられた
☆月×日
何となく魔法を求めて旅を続ける日々。
かつては国を巡ってローガンの魔法を広めるついでに、学院などで研究された魔法を求めていた。しかし、もはや足を踏み入れなかった国など無い
故に最近は一部の地域でのみ使われる、言わば民間魔法と呼ぶべきものを蒐集しているが…これはこれで面白い
様々な狩を生業とする一族が編み出した"血の種類を判別する魔法"。戦場漁りの集団が腐臭の中に見出した"死体を見つける魔法"。代々受け継がれてきた、鉱山の採掘を担う坑夫たちの汗が滲む"地面に潜る魔法"。空に神秘を見出した魔法使い達の執念である"星を見分ける魔法"……
限定的な効果のものが殆どではあるが、その地の風習を体現する様な魔法は習得までの過程も面白い。それに、覚えておけば何処かで役に立つかもしれない
◇月◻︎日
今日は路銀の確保の為にゼーリエと魔物を討伐した。湖を占拠していた複数の頭を持つ蛇であり、ヤマタノオロチを思い出させる様な姿形だった。
魔物など、私達を模倣しようとも弱かったのだから、これ自体は大した出来事でも無い。
特筆すべきは、報酬に紛れていた本
その本とは魔法使いの日記である。謎の言語で書いてあったが、ゼーリエの"日記を読む魔法"で解読ができ…中には私達の好奇心を唆る情報が載っていた
黄金の国 ウーラシール
秘匿されし魔法使いの国、その存在と在処だ
今までの長き旅において、こんな国は噂に聞いた事も地図で見た事も無かったが…明日からこの国を探す事になった。
こうなった理由。それは、知らない魔法使いの国ならば未知の魔法がある、という期待。しかし所詮は日記に書いてあった不確実な情報が由来だ
理由を考えるに…最近は旅の目的が曖昧であった。きっと、何でもいいから旅を続ける理由が欲しかったのだと思う
「おい!おい…!起きろ!!こんな、こんな所で……」
「貴公、しっかりしろ…!大丈夫だ、死ぬ訳ではない!」
仲間の、私を現世に引き留めようと必死に呼びかける声が聞こえる…薄れゆく意識の中、まるで走馬灯の様にここでの出来事が頭に思い浮かんだ
「これは…!」
「悍ましいな、だが寧ろいい傾向だろう。ただの与太話で済まないという事だ」
日記に記述がある"黒い森"に入った。ウーラシールは、ここの奥深くにあるらしいが…国と同じく、この森も私たちの知る地図には載っていない。しかし、この薄暗い地が地図に載らない理由は、かの国が御伽話の代物でない事はすぐに分かった
(…こんな魔力、どんな化け物が)
一つ前提がある。それは私の魔力が桁外れなものである事…長き旅の中、街一つでさえ私を上回る事はなかった。故にゼーリエさえ除けば、殊に魔法において私が脅威を感じる事はありえない
「ゼーリエ、探知はどうだ?」
「…無理だな。ここまで濃いと何処も変わらん」
「そうか。私から離れるなよ、展開した結晶の範囲外は守り切れないからな」
「元より、離れるつもりはない」
あり得ないのに…この森は恐ろしい。
マッピングどころか、魔力探知すら無効化する程の計り知れない魔力が覆っている。魔族どころか魔物一匹すらいない。即ち、それ相応の化け物がいるか途轍もない実力の魔法使いがいるという事だ…高まっていく緊張と共に秘匿を破られる事なき魔法の国も現実味を帯びてくる
僅かな魔力の動きすら見逃さないように神経を張り詰めながら暫く進むと、本が獣道に落ちていた
特徴的な表紙に、微かな魔力
「魔導書?ゼーリエ、飛び……」
宝箱に入っている訳でも無く、裸で落ちている。ゼーリエに軽口を叩きながら怪しさ満点なそれを判別しようと、極限まで探知の精度を高めた時
「……なぜ…?」
「っ!シース、下が」
突然、極限まで膨れ上がった魔力。
それは、余りにも慣れすぎていたもので…
回避などできず、闇の中から飛び出した巨大な手に包まれた
手に包まれたかと思えば、違う場所にいた。
見渡せば木の根らしきものが周りを覆っている。何故かは知らないが巨大な木の洞に連れて来られた様だ
(連絡は…ダメか、探知も相変わらずだな)
ゼーリエがいない事に僅かな安心を感じるものの…状況は最悪である。周囲に展開していた結晶は全て消えており再展開には大量の魔力が必要、更にはこの不吉な場にて仲間と断絶され、現在地の詳細すら分からないのだ。洞は別の場所まで通じている様で、結界などに閉じ込められている訳ではないが挽回の手段など思い浮かばない
そう思いながら悩んでいると、
「……また、か」
目の前に白い影。幻影魔法の類だが、それ自体は問題ではない。問題は、それから放たれる魔力が…あの手から感じたもの、私のものと同じだという事
そいつはこちらを一瞥し、ついて来いと言わんばかりに先へ続く空洞へと進んでいった
「どうする事も出来ない、か。ならば…」
目の前に出てきた謎の幻影、誘われているとしか思えなかったものの…ここに居続けようと、結局はどうしようも無い。ゼーリエの助けも今だけは期待できないため、好奇心に任せてついていく事にした
洞を抜ければ煌びやかな光が目を刺し、見渡せば周りを森によって囲まれた開けた浅い沼が広がっている。先程までとは違い、何処か安心する様な明るさがあり黒い森は白い森と言った方が良いだろう
「で、魔物か」
違う点は、もう一つ。
獅子の顔、山羊の角、蠍の尾…果てには翼まで持つ、四足の白い魔物がいる事だ。見上げる程大きいコイツは、さながらキマイラと言ったところ
大量の水を跳ねさせながら空より舞い降りてきたキマイラは、暫く私と睨み合い…制限された魔力にも恐れず、招かれざる客を前に翼を広げて突進
その驕りと敵意に溢れた顔に
「
左手から放たれる複数の光条が、突き刺さった
手応えは無い、戦闘開始。
直撃したにも関わらず目の前の魔物はピンピンしており、私の魔力に気づいたからか先の油断は見えない
この地における脅威はコイツではない。真の脅威である腕の主を考えれば魔力の温存が必要、故に呪いや結晶の生成といった消費が激しい魔法は使えないが…ひしひしと伝わってくるこの強さ。殺すのなら全力で当たらないとダメだろう
探知を許さない膨大な魔力、浅い沼、明るい森、展開できない結晶。
目の前の敵に対する、効率的な対処を考えに考え。
口から放たれる雷の球をかわしながら、左手と右手に魔力を込め始めた
両手に魔力を流している間、当然ながら敵は待ってくれない。
放たれた魔法の雷が体を掠めて沼へ着弾する度に、轟音と共に泥と余波の電撃が飛び散り綺麗な森と空気は黒く染まり始める。時に急接近から放たれる尾の一撃は地を抉り、その毒で地面を溶かしていった。
木の裏に隠れようとも、鼻と耳を動かして場所を特定した後に攻撃を仕掛けて来て休む暇は与えられない
(コイツ、魔法使いとの戦いに慣れているな)
ロスを最小限にするために、ゆっくり魔力を流しながら攻撃をかわし続けるが…この魔物、想像以上に強い。そこらの魔族どころか竜よりも強い
硬さ、素早さ、魔力、パワー…まず単純な基礎能力が高いが、それ以上に中距離を維持するヒットアンドアウェイの動きが滑らかすぎる。
雷のブレスと急接近による強烈な近接攻撃を繰り返し、一方的に魔法で狩られる遠距離と隠し種を撃ち込みやすい近距離における戦闘を早めに切り上げる戦い方は、数値で測れぬ歴戦の強さの表れだ
だが、準備は整った
ローリングで突進をいなし、振り向いた隙に
「
左手から放たれる光、先とは違って収束したあとに弾け…森が爆音を伴う閃光に覆われたのと同時に、右手で魔法を発動した
すんすん、びちゃびちゃ。
頭上で鼻を鳴らす音と足音が聞こえる
…………………
ばさっ、ばさっ
羽ばたきの音が聞こえたかと思えば遠ざかっていく
「………プハーッ!!」
音が形をなしているのかと思えた程に緊張した時間。しかし、それは過ぎ去り策が成功した事を意味していた…身体中泥まみれだが
「成功してよかった…」
あの時、右手で放った魔法は"
本来、魔物は魔力による探知を得意とし、匂いや姿を隠そうとも私の抑えきれない魔力ではすぐに見つかってしまうのだが…ここならば話は別
悍ましき魔力が私達を包み込むため、多少の魔力など見つけられやしない。制限が下手といえど、魔法を使わずにじっとしていれば発見される事は無いと踏み…見事にやり過ごせた訳だ。
空の彼方に見える白い後ろ姿を眺めながら沼を抜け、幻影を追って森の中を進み始めた。木々に囲まれた森ならば、あの魔物に見つかることもないだろう
「ここは…一体、何処なのだろうな」
進み続ける中、一つの仮説が浮かぶ。この森は黒い森と同一でありながら、また違う…一種の別世界なのではないか、そんな仮説が
ゼーリエとの旅では、互いに逸れた時の最終手段として魔力だけでなく光などを用いたサインを出す事を決めていた。先程の閃光、魔力は探知できずともあそこまで強い光であれば彼女にも見えたはず。それなのに返答の合図は今の所感知できていない。
身を包む魔力の同一性から、全く別の場所では無いというのにそれはおかしな事だ。故に、ここは先の森と断絶されている全くの別空間だと考えられよう
この仮説が合っているのなら…最悪、としか言えない。勝てる気がしない元凶の存在に加え、妙に強い魔物が空を飛び回っている。それだけでも勘弁してほしいのに、ここから抜け出せる望みも仲間と合流できる望みも完全に絶たれた可能性が出てきたからだ
「…あの腕の主、それしか無いか」
唯一帰れる方法を挙げるとすれば例の魔力を帯びた主…この幻影を生み出したものを見つけ出し、元の世界へ渡る魔法を解析する事だ。……正直、来たことを後悔してきた。ネガティブな思考に支配されながらも、しかし友と別れたくはないので歩みは止めない
暫く進めば、開けた場所にて人工物らしきものが見えてきた。
少し崩れた石造りのゲートや塔、人を模した石像。…もしかするとウーラシールのものかもしれない。興味深い発見のお陰で、ここに来たことが少しはマシに思えた
「…何だ、これは」
暫くの間、休憩も兼ねて建物や像を眺めていると、その中に一際目立つものがあった。
目?がついたキノコの像だ。見た目は石と思えない様な質感、何とも不思議であったから興味を惹かれ暫く観察していると
「…あら珍しい。別の場所から来たのかしら?」
何処かから聞こえてきた声。
周囲を見渡しても、その主の姿は見えない
「…………ん?」
「それに…竜?人?魔物?混ざっているわね。先の存在でありながら昔の存在でもある、貴方の様な人は初めて見たわ」
いや、よく聞けば近くから聞こえる
「……は?」
「ああ、ごめんなさい。挨拶を忘れていたわね」
それは、動いていて
「はじめまして、私はエリザベス。不思議でしょうね、キノコですもの……ふふふふ」
驚くべき事に……
「し、しゃ、喋ったぁぁ!!??」
声の主とは、目の前のキノコであった
薄暗い闇が澱む、黒い森の中。辺りを漂う空気が歪んでいるのは魔力だけのせいではない
「…いい度胸だ。私と彼を引き離すとは…全くもって、いい度胸だ」
恐らくは、その心に怨嗟の炎を宿した一人のエルフのせいでもあろう
「随分な規模の結界だな、内部と外部を完全に断絶し何者の侵入を許さぬ強固な術式…驕り高ぶるのも無理はあるまい」
世に並び立つものは無い程の頑強な結界。それを前にしようと彼女は決して怯まず…
「だが無意味だ。こんなもの、すぐに抜けられる…貴様を見つけ出し、驕りに気づく間も無く魔物の餌にしてやろう」
怒り、そして僅かな不安と共に解析を始めた
ここまで読んで頂き、ありがとうございました
フロム増し増しですけど、これでも良いですかね