月の残り香   作:万年赤字一般傭兵

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私は、アルトリウスさんにコレを使って欲しかった


月光の誓約

 

 

 ゼーリエとの合流、それからは一瞬であった。

 奇妙な人型の魔物達は闘技場から出ることさえ許されない。彼らは瞬きする間に黒い光に貫かれ、炎に飲まれ、凍らされ、砕かれ、潰される、蟻が龍に踏み潰される様な一方的な戦い、見慣れた光景。今までは何とも思わなかったが、しかし戦いの楽しさを知った今では彼女の魔法が違って見えた

 

 

 そんな調子で彼女の魔法に見惚れてると、残ったのは…黒ずんだ死体の山に、深い眠りについたアルトリウスと折れた大剣を貧弱な構えで持つ魔族、そして太陽と共に空から見下ろすエルフだけだ

 

 

 

 

「うるさい外野は消えたな。なら、早速…」

 

「この状況を説明してもらおうか、シース?」

 

 金の髪を優雅に揺らし、威厳ある風格と共に空に浮かぶゼーリエ。いつも通りの細められた吊り長の目に、感情が現れない仮面の様な無表情ではあるが、プレゼントを目の前にした子供の様な興奮混じりでトーンが少し高い声から考えるに…中々に上機嫌の様だ

 

 上機嫌なのは、良い事なのだが……

 

 

「すまない、後にしてくれ…動けん」

 

「は…?…お前、その傷…!!」

 

 限界間近の魔力に、背中と右腕にクレバスの如く刻み込まれた切傷。かろうじて持っていた体は緊張の途切れと共に制御が失われ、動かそうにも筋肉は打ち捨てられた鎧の様に錆びついている様に動かない

 

 だから、せっかく来てくれた彼女には悪いが…

 

 

「目的地を示す魔法。私と…この騎士を運んでくれ」

「ソイツもか…?いや、その前に傷を」

 

 エリザベスの元まで運んでもらう。

 ゼーリエの声は少し高かった音から一転して不機嫌が混ざる低めな音へと変わるが、弱く顰められた眉と僅かに揺らぐ瞳は私への心配を示していた

 

「この騎士は…まぁ色々あってな。……取り敢えず、ここに癒し手がいるんだ、私だけだと動けないから運んで欲しい」

 

 

「…………死ぬなよ。あと、しっかり説明してもらうからな」

 

 

 少しの逡巡と共に深められていく眉と傾く口角、一目で不機嫌だと分かる様子を見せながらも、しかし彼女の行動は早かった

 

「ああ、頼……っ!?」

 

 

 返答が終わる前に魔法によって私とアルトリウスの体が浮き高速で移動を始め、森の木々が視界を流れていき緑色が線を引いていく

 

 余りにも急であった、思わず抗議したくなるが…滅多に見る事がない彼女の必死な顔が目に入り、何も言えなかった

 

 

 

 

 

 

「あら、また旅人ですか。貴女は……」

 

 

「…?……!!何だ、このキノコは!?」

「待て、ゼーリエ!魔法を抑えろ…!魔物では無い。この、キノコの御婦人こそが……」

 

「あらシース様も、もしやご友……

 !その騎士は、いやそれよりも怪我を…!」

 

「おい、まさか…この、キノコが…」

 

「"癒し手"だ。…大丈夫、幻覚でも無いし騙されている訳でも無い」

 

 

 

 

 

「毒などは無い様ですね…まずは、貴方様から…」

「私はゼーリエにやってもらうから大丈夫だ。エリザベス殿にはアルトリウスの治療をしてもらって良いか?」

 

「分かりました。でしたら、この瓶を温めて湧いてくる液体を傷口に掛けてください」

 

 

 多少のトラブルこそあったものの、何とか治療は出来そうだ。キノコの何処から出したかは良く見えなかったが、彼女から緑色の瓶を二本差し出された。

 折れた大剣を立て掛け、石像に囲まれた場所で引火に気をつけながら焚き火を付ける。言われた通りに瓶を温めると…不思議な事に瓶が琥珀色の液体に満たされ始め、光り輝き始めた

 

 

「……」

 

 

 焚き火の近くに腰を下ろし、キノコに見下ろされるアルトリウスを横目にしながら、ゼーリエから右腕と背中に薬らしき液体を掛けて貰う。鎧の下にある肉に染み込む薬の熱さを感じながら、しかしそれ以上に熱い好奇の視線を彼女から感じる気がする

 

「ゼーリエ?どうしたんだ…?」

 

「…傷口が、驚くべき事に塞がり始めている。ここまで速く効く薬など聞いた事も見た事も無いが……こんな物を持っていたあの"キノコ"は何者だ?」

 

「もう…!?……私も詳しい事は分からない。後で、色々と聞くか?」

 

 彼女の返答を聞き、その後は痛みが引くまで安静にしながら魔力の回復に努める。先の戦いの喧騒から一転して、優しい木漏り日が刺す中でパチパチと弾ける薪の音だけが響く此処はとても平穏に満ちており、信頼できる友がいる事も相まって、十分に休めそうだ

 

(滅多に驚かない彼女が驚愕する程の薬…エリザベスについてももう少し聞くべきか)

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろ良いだろう?何があったか聞かせろ」

「そうだな。私は、あの手に掴まれてから…」

 

 傷が塞がり、痛みも引いてきた。肩を回したり背筋を伸ばしたりして十分に体が動くことを確認してからゆっくりとあの時までの出来事を話し始める

 

 獅子の顔に、山羊の角、蠍の如き尾を持った魔物との対決。

 

 エリザベスと名乗るキノコとの出会い。

 

 ウーラシールは存在こそするが、もう滅びている事。

 

 帰るために、そしてエリザベスからの願いで"マヌス"と呼ばれる魔物を討伐しに向かっていた事。

 

 アルトリウスと呼ばれる高名な騎士との対決と勝利

 

 

「…で、怪我を負って今に至る、と言うところだ」

 

「色々と気になる点はあるが…大事な事は、お前の傷がアルトリウスとやらに付けられた事だ。何故、奴を生かしている?私としては殺しておくべきだと思うが」

 

 終始真剣な表情で静かに聞いていた彼女だったが怪我についての話になった途端、僅かに顔を歪め、放たれた言葉には隠し切れない殺意が秘めてあった。

 放たれた気迫によって、焚き火の暖かさが消えた様に感じる

 

 

「まぁ待て、彼は敵では無い。私と同じくマヌスの討伐をせんと向かっていた騎士だ。戦いになったのは…魔法によって暴走していたからであって、決して本人の意思では無い」

「それに、マヌスを倒すのであれば前衛として彼の力は全幅の信頼を置くに値する。味方に出来るのなら、するに越した事はない…そうだろう?」

 

 ドライな様で、何処か感情的な所があるゼーリエには受け入れ難いかもしれないが、傷をつけられた張本人の私が言うのだから流石に納得して欲しい。

 口角を微かに下げて暫く悩んでいる彼女を前にしながら、少しの緊張と共に返答を待ち

 

「……まぁ、お前がそう言うのなら、私からこれ以上は言わないでおこう」

 

「しかし、最後に一つだけ聞くぞ。今、お前は人の姿になる魔法を使っていない様だが…まさか、奴に魔族としての姿を見られてはいないだろうな?」

 

 

 

「………………あっ」

「……うぅ…ここは?」

 

 己のとんでもないミスを実感した瞬間、上半身を起こしたアルトリウスと目が合う。

 こちらから見えずとも、彼の瞳には角が付いた鎧が映っている事など明白であった

 

 

人の姿に…(ヒューマ)「貴公」」

 

 咄嗟に姿を誤魔化そうとするが、もう遅かった。私の背を簡単に越えるほどの長身の鎧が、音も無く一瞬にして私の目の前から見下ろしている

 

「…あぁ……」

 

 …彼ほどの騎士ならば魔族を前にした時の対処法など一つしかないだろう。魔力は未だに回復しておらず、ゼーリエが魔法を構えているが恐らくは間に合わない、死は最早逃れられないものだと分かりながら、それでも何とか生き延びようと魔法を使おうとして

 

「先の戦いでは、詫びのしようもない…本当に、本当に申し訳なかった!」

「貴公が私を殺そうとするのであれば、それは当然のこと。しかし、この地に巣食う深淵の主を打ち倒すまでは、どうか待ってはくれないか!!」

 

(…??…?)

「…は?」

 

 大音声の謝罪と共に下げられた頭を前にして、思わず硬直してしまった

 

(え?…えぇ?コレは、一体……)

 

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

 頭を下げる長身の騎士に、魔法を発動直前で構えているエルフと魔族。焚き火を囲む様にして展開されている、何とも不思議なシーンが暫くの間動かないまま続く

 

「………貴公?どうしたのだ?」

「あ、あぁ、すまない。いや……」

 

 

「アルトリウス殿、貴方は私を見て何も思わないのか?」

 

 沈黙と停滞を破ったのはアルトリウスだ。その途端、緊迫した雰囲気が一転して弛緩した様に感じ私も何とか返答する事ができた。ゼーリエを目線で静止しながら、口が開くままに最大の疑問を投げかける

 

 

「何を…?……強いて言うのであれば、魔術を使う様には見えなかった、という印象だろうか……」

 

「ああ、決して悪い意味ではない。兜に角こそ付いているが…その鎧、貴公はアストラの上級騎士であろう?かの騎士達が、貴公が扱っていた程の魔術を使うとは聞いていなかったのだ」

 

 

 アストラの上級騎士、"アストラ"という名前自体聞いた事が無く何の事を指しているかは分からないが、どうやら悪い意味では無さそうだ。心の中で思わず胸を撫で下ろす。

 

「…ああ、私は少し特殊な生まれでな…その騎士達とは、また別の類だと思って頂きたい」

「それと、私達には貴公を殺すつもりなどない。寧ろ、その魔物マヌスを共に討伐して欲しいのだ」

 

「何と…それは…いや、貴公らの寛大さに感謝する。許されるのであれば、私も貴公らに協力させてくれ」

 

「勿論だ……だとすれば、お互いに自己紹介といこう。味方であるのなら、互いの名前は知っておくべきだろう?」

(よし…!何とか、上手くいった!)

 

 消えていたと思っていた焚き火は落ち着いた音を立てながら燃えており、爽やかな風が私達の周りを静かに流れていく。

 とんでもないヘマをしながらも、それに対する咎めは無く、それどころか当初の思惑通りに協力を取り付けられた。上手く進んだこの状況に、心の中にて撫で下ろした手でガッツポーズを取ってしまう

 

 

「では、私から行こう。私の名はアルトリウス、大王グウィンに使える四騎士が一人だ。此度は深淵の主であるマヌスを討伐しに、この地へと来訪した」

 

 

(大王グウィン、四騎士…?)

「…私の名はシース。何処に属する事もない放浪の魔法使いだ。私はウーラシールにあると言う魔法を求めて来たのだが…マヌスによってこの地に囚われてしまった」

 

「そして、今は…そこにいるエリザベス殿からの願いをうけ、加えて帰る方法を探す為にも、そのマヌスを探している所だ」

 

「私が最後だな。私はゼーリエ、このシースの一番の相棒だ。…連れて行かれた相棒を追って此処まで来た。私達を引き離そうとしたマヌスとやらは勿論殺す」

 

 

「…シースという名、ゼーリエ殿の耳、そして特殊な生まれ、魔術……まさか…」

 

「どうか、なされたか?」

「…ああすまない。改めて、私達の目的は一致している様だな。となれば、コレからの計画を立てよう」

 

 謎の間こそあったものの、やはり互いの目的に反する部分は無いようだ。最初は舐めて掛かろうとしていた敵の強大さを前に、最早油断は出来ない。彼との協力を更に確実なものにする為に、慎重な話し合いを始める

 

 

 

「アルトリウス殿はマヌスの具体的な居場所は知っているか?おおよそ、闘技場付近に張られた結界の中にいると踏んでいるのだが…」

 

「私が挑んだ時から変わらなければ、マヌスは…ウーラシール市街、その最奥にある大穴に潜んでいる筈だ。今の私達に襲いかかっていない所を見るに、理由は分からないが同じ場所にいるだろう」

 

「成程…どちらにせよ当てはない、なれば先ずはその大穴を目指そう」

 

「それならば、私が案内しよう。一度は向かった場所だ、道はわかる」

 

 

 

「マヌスに挑むには深淵に抗う術が必要となる。私も元々は持っていたのだが…暴走の中で失ってしまった。そこでだ、対抗策として貴公が私の深淵を祓った時の魔術を使ってもらいたいのだが…その魔術はどのくらい使えそうだ?」

 

「連続で使うとすれば、最大で10分が限界だ。正直言って、余裕を持って使えるものではない…ゼーリエ、この魔法はお前にも使えそうか?」

 

「どれ……また乱暴な魔法を作ったものだな。出来ない事はないが、戦闘中には無理だ」

 

「そうか…なら、マヌスと戦う時には……」

 

 

 

「次は念の為の退路を……そういえば、ゼーリエはどうやってここまで来たんだ?」

 

「ここを囲う結界に何とか穴を開けて入った感じだな、その後はお前の月光を見て急いで駆けつけた」

 

「そうか…と、なると退路の確保は出来ているか」

 

「残念だが穴は一時的なものだ。加えて、あの結界は二重構造でな、外を囲うものは何とか突破出来たが…」

「内側のものは、今まで見た事がない類のものだった。解析を進めようとも、巻き戻される様に解析の経過が消えていく…アレは最早、神の所業と言ってもいい」

 

「成る程な…結局、マヌスを見つけ出し、抜け出す術を見つける事は変わらないか」

「それにしてもゼーリエ、お前らしくないな。結界の二重構造に引っかかるとは、助けに来てくれた事は嬉しいが…万が一のことがあったら、どうするつもり…」

 

「愚問だな。お前の、一番の相棒である私が、危険を恐れて見捨てる訳ないだろう?」

 

「そ、そうか……」

 

 

 

 

「よし、こんな所だな…貴公ら、他に疑問点などはあるか?」

 

 作戦会議が終わり、特に問題もないまま計画は立てられた。後は実行する準備だけである

 

「私からは、特に無いな。ゼーリエはどうだ?」

 

「……なぁ、アルトリウス…とか言ったか。お前は騎士だと聞いているが、剣や盾はどうした?まさか、これがお前の剣だとは言うまいな?」

 

「なっ……これ、は」

 

 

 準備だけである筈なのだが、ここに来て最大の問題点がゼーリエから指摘された

 

 そう、私がへし折ってしまったアルトリウスの大剣だ

 

「王から授かった、この剣が……」

 

「…その、すまない。仕方が無かったんだ」

 

 半ばから先を無くした大剣を呆然とした様子で見つめる彼に、謝罪以上の何も言えず佇む私。私たち二人だけでは解決策など当然思い浮かばなかっただろう。

 

 しかし

 

「おい、その剣を私に貸せ」

「「おお!もしやゼーリエ(殿)なら直せるのか!」」

 

 ここには彼女が、ゼーリエがいる。

 機知に富む彼女は何かしらの解決策を持っている様で、私達の沈みかけた心は期待と共に浮かび始めた

 

 

「まずは、これを試してみよう」

 

 早速、彼女が折れた大剣に対して魔法を使い始める。光が剣を包み込み、やがて落ち着いた時

 

 

 

 特に変化は無かった

 

「ゼーリエ殿…?」

 

 隣に立つアルトリウスと同じ様に、困惑してしまう

 

「ゼーリエ…これは一体?」

 

「折れた剣を直す魔法を使ってみた。まあ、無理だったが。加えて解析もしてみたが、コレは尋常な術で作られた物ではないな…」

「私たちの知識では到底理解ができない物だ。お前は呪いで無理矢理変化させたが、私の使える魔法では何も出来ない」

 

 そうして困惑している私に、彼女は

 

「だから、コレはお前が直せ」

 

 驚くべき提案をして来た

 

 

 

 

 ゼーリエからの提案。それは、私が結晶を使って刀身を新しく造り上げることだ

 

 彼女曰く、

 

「概念的な修復は無理だが…鍛冶屋がそうする様に、物理的な修復は可能だろう」

 

「とは言えだ、現状そんな道具も環境も技術も無く、結局は魔法に頼るしか無い」

 

「そこで、お前の出番だ。その結晶で出来た左手と同じ様に、魔法で生み出した結晶で剣身を作れば元通りとはならずとも、使える剣が出来るだろう?」

 

「加えて、今回の計画ではお前の魔法をアルトリウスに掛ける必要がある。結晶を使って剣自体を魔法の触媒にしてしまえば、距離が離れようとも十分な出力を確保する事が可能だ」

 

「それと…ここまで言っておいて無責任だとは思うが、コレは私には出来ない。当然、魔力の消費が激しすぎるのもあるが、それ以上にお前が作り出す結晶以上に固い魔法の産物を私は知らん。だから、お前にしか頼めないんだ」

 

「どうだ、やってくれるか?」

 

 

 との事らしい。

 私にはとても思い付かない様な案であるが、現状はコレしか解決策が無く、アルトリウスの許可も得られたため早速イメージの構築を始める

 

(結晶で、剣をつくる…頑丈さは、切れ味は、大きさは、重さは…………)

 

 残された剣の身を触りながら、コレに負けない程の頑強さをイメージ。私の体を容易く切り裂いた痛みと戦いの中で感じた気迫から、何もかも切り裂く様な刃をイメージ。

 重さを測る魔法を使って、元々の重さを推測しながら構築する結晶の密度と量をイメージ

 

 何度も何度も頭の中を引っ掻きまわし、想像の試行錯誤をしながら徐々に完成形を構築して行く

 

 

 時間を忘れる程に悩みに、悩み…

 

 イメージが、出来た

 

 

「………結晶で剣を作る魔法(ムーンライトソード)

 

 右手で柄を持ち、空に掲げながら左手を大剣の根元に添える。太陽の光を浴びながら鈍く光る大剣を、ゆっくりと想像した通りに結晶を構築しながら左手で撫で、その軌跡に碧色の刀身と微かな光の糸を残して行く

 

「…………………」

 

 

「…………………」

 

 

「…………………よし」

 

 

 最後に剣先を構築し終え、出来上がった大剣が碧色の月光を放ち始めた。どうやら、仕上がりは完璧な様だ

 

「……アルトリウス殿、これを」

 

「…何と、美しい……」

「…ああ、早速振ってみよう」

 

 

 アルトリウスが左腕を振るう毎に、木の影にて碧の軌跡が円を描き、放たれるは剣が本来持つ荒々しさでは無く、美しい幻想的な光だ

 

 剣舞は暫く続き、木を何十本か真っ二つにした後に残心を持って終わった

 

「…どうだ?アルトリウス殿」

 

「まさか、これ程までの業物に生まれ変わるとは……この剣は、大王グウィンからの名誉に匹敵する程の出来だ」

「貴公、誠に感謝する。貴公は私を救ってくれたばかりか、無くした筈の名誉すら守ってくれたのだから…」

 

「最早、どの様に言い表せば良いか分からないが…どうか、私からの感謝を受け入れてはくれないか?」

 

 

 正直、彼の言う名誉だとか騎士としての価値観は分からない。けれども、彼の誠意が伴う言葉に込められた大きなものは、私への完全な信頼であるとわかる。

 だとすれば…私もまた、誠意を見せるべきだろう

 

「…ああ、その言葉、確かに受け取った。だが、私からも言わせてくれ。私には、貴公への恨みなど一切無い」

 

「私は、貴公を優れた騎士としてマヌスを倒す大事な仲間だと思っている…だから、これ以上の気負いはしないで欲しい」

 

 

 目的こそ合致してはいたが、しかし彼の心は私への罪悪感によって占められていた。強大な敵に立ち向かう仲間として、その様な事は考えないで欲しい。だからこそ、今この場を使って私の心を、私からの信頼も打ち明けた

 

 

「貴公、貴公…!!ああ、確かに私も受け取った」

「なれば、この剣こそが貴公と交わした言葉と誓約の証だ。…貴公、この剣の名は何だ?」

 

「名前か……」

 

 若干の気負いが含まれていた彼の声は、一転して何の影もない声となり、策とも言えぬ私の希望が叶った事を如実に表した。

 真に信頼し合える仲間が出来た嬉しさを、取り敢えずは心の中にしまいこみ、最後に問いかけられた質問についてじっくりと考え始める

 

(この剣に込めたのは結晶に、月光……結晶の剣、月光の結晶…?何かピンとこないな)

 

 

 貧弱なネーミングセンスを必死に働かせて、悩んだ末に出た答えは

 

 

月光…そうだ、それで良い……これは月光の大剣だ」

 

 

 月光の大剣

 

 何とも安直である名前であると思う、しかし思いついた瞬間なぜかコレしか無いと思ったのだ

 

「良い名前だな。ならば…私は、月光の誓約に基づき騎士アルトリウスとして貴公に命を預ける事を誓おう」

 

 

 そう言って彼が月光の大剣を掲げると、真上から降り注ぐ日の光にも負けない優しくとも確かな光を放ちはじめた

 

 

 木漏れ日刺す静かな森の中、一人の騎士が光り輝く剣を掲げて誓いを立てる。

 それは、正しく英雄譚の序章であり

 

 

 祓えない闇など無いことを雄弁に語っていた

 

 

 

 

 


 

 月光の大剣

 

 亡国ウーラシールにて、騎士アルトリウスが手にした大剣。

 彼は深淵に飲まれ、名誉の証である大剣を折られながらも、しかし高潔な精神を決して忘れず、深淵の中にこそ美しき月光を見出したのだ

 





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