「この穴ですね」
青い髪を長く伸ばした白い服の少女は興味深そうに穴を覗く。
「はい。ここ、アビドス砂漠にて発見された深穴です。アビドス高校の生徒により発見され、空薬莢を落としても反響が帰って来なかったので奇妙に思い、連邦生徒会へ報告があがりました」
幅は直径約1m。
周囲に目立った印は無い。そのせいでまるで落とし穴のようになっていた。
万が一、ここに落ちればひとたまりもないだろう。
誰がこんなものを掘ったのかと彼女は思案する。
いや、誰がという問いには誰もいないという可能性の方が高いかと思考に一旦の解をつけた。
「調査の結果は?」
「深度調査のために音波測定を行った結果、反響なし。底が無いという結果になりました。また、側面からの調査を行うために掘削を行いましたが穴部分は側面からは観測できませんでした」
「観測できない?」
「はい。地上から観測できる穴の座標と全く同じ場所の掘削を行っても、そこには他と変わらず砂があるのみでした」
その奇妙な穴をどうするべきかとなる。
ミレニアムに依頼してもっと詳細に調べてもらうべきか。
そんなことをしていると。
「ん?なにか音が?」
改めて穴に対して耳を傾ける。
すると穴からはドン、ドガなどの何かがぶつかる音が近づいてくる。
「離れてください!なにか来ます!」
顔を穴から離すとポーンと何か出てきた。
「人!?」
それは人間だった。
「おっとっと」
5m程まで飛んだ人の落下地点に移動し、キャッチした。
「!?今すぐ医療班へ報告!重傷者な為、緊急搬送────ドクターヘリを頼みます!」
「は、はい!」
その出てきた人はロボットや獣人ではなく、キヴォトスにおいて先生しかいない人間の男性。
しかしそれよりも目につくのは血。彼は体中を血まみれにしてシャツや白衣を赤く染めて、ぐったりしていた。
「大丈夫ですか!しっかり!」
自身の白い服が赤に染まることも厭わずに体を揺らすが意識は無く、指先1つさえもピクリとも反応が無い。
彼の口元に顔を近づけると息はしていて安定している。胸に耳を当てると脈拍も安定。
それで1番恐ろしい事態では無いと安心する。
同行していた人は焦りながらも電話していた。
「この方は一体……」
少女は自身の手の中の男を見てポツリと呟いた。
目を覚ます。
「……知らない天井だ」
即座に状況を理解し人生実績の1つを達成した。
今まで寝る前とは別の場所で目覚めることは何度かあったけど、いつも言いそびれてたからな。
「おはようございます」
そんな馬鹿なことで少しの達成感を味わっていると仕切りのカーテンをシャーと開いて看護服を着た女性が入ってきた。
「体調はいかがですか?」
「大丈夫。……怪我は痛いけど」
服をめくると絆創膏や湿布、そして包帯も巻かれ、中々に大怪我をしたのだと実感する。
「それでここは?」
改めて看護師と思しき女性を見る。
ニコニコと人あたりの良い笑顔を浮かべている彼女はその雰囲気からは看護師の別名である白衣の天使という言葉にバッチリ当てはまる。
まぁ雰囲気以外からも天使感はある。例えば腰辺りから見えている純白の翼、そして頭部に浮かぶ光輪。
なんだあれ……。
「ここはサンクトゥムタワーの保健室です。そして私は保健室室長です。よろしくお願いしますね♪」
「あ、あぁ……」
サンクトゥムタワー?なんだそれは。
いや、そうだあの時……。ということはここは。
「俺を見つけたのは貴方がいる組織で?」
「はい、そうだと伺っていますよ♪」
「少し大事な話がしたいので、できれば俺が話が出来る中でのそちらの1番位の高い方を呼んで貰えたりとかは」
「そうですね……お待ちいただくことになるかもしれませんが」
「ここに居ても良いなら何時間でも待つんで」
「分かりました。話を通して来ますね♪」
ここが別世界線。そしてアレから出てきた俺を見つけたのがここということはここが財団と似た組織の可能性がある。
出来れば似た理念で居て欲しいのだが……。
数時間後。
「お連れしました」
保健室室長がまたやってきた。その後ろには青髪の女性。
「来るのが遅くなり、申し訳ありません。連邦生徒会会長の船方アロナと申します」
「いえいえ。この度はお助け頂き感謝します」
頭を下げて挨拶を行う。
会長ってもしや組織のトップなのでは?そりゃ来るまで何時間も掛かるわな。
「それでお話というのは」
この数時間の間に頭の中で整理はついた。
そして仮説もある。
「まずお聞きしたいのは貴方達の組織の名称と行動理念について。怪しいと思われるかもしれませんが俺としても慎重にならざるを得なく」
「……分かりました」
少しの沈黙のあと了承した。
こっちとしても下手に情報を出したりすれば帰った時の処分が怖い。
「私たちの組織の名前は連邦生徒会です。この学園都市キヴォトスにおいてのほぼ全ての行政を執り行っています」
つまり政府組織って訳か。キヴォトス……ギリシャ語で方舟か。大層な名前の都市だな。
あんまり国とかの行政機関って異常存在を上手く管理してるイメージ無いんだが……。どうなんだ?
「あと一つだけ。超常的な物体、現象、空間が現れたりしたら連邦生徒会はどうするんですか?」
「基本はそれが発見された自治区の学校へ管理を委任しますが管理を頼まれた場合はこちらでも管理、もしくは無力化を行います」
つまり一般に異常存在を公表しているのか。本当に大丈夫なのか?
「貴方の現れた穴も我々が管理することになりましたよ」
「なるほど……」
嘘は……無いな。
少し腰に銃を携帯しているのは気になるが話すしか無いか。
銃社会なのか、はたまたそういう組織だから特別携帯をしているのか。
「助けて頂いた上に質問ばかりして申し訳ありません。俺はこの世界とは別の世界にある異常存在の確保、収容、保護を理念とするSCP財団にて博士をしている者です。申し訳ないですが名前は諸事情によりお伝え出来ず。財団では博士、もしくはSCP-14196と呼ばれていましたのでお好きなように」
「ではまずあの穴について何かご存知でしょうか」
「……」
少し説明するか悩んだが今のところ危険な思想や対立するような理由もないし暫定的にこの世界での財団と仮定して話していいだろう。
「あれは俺の世界だとSCP-1437とナンバリング付けされたオブジェクトです。異常性としては穴の先が別の世界へ繋がっているというものです。落ちると基本的には死ぬ、もしくは瀕死に近い状態となります」
「ではどう対処すれば?」
「ここの運営方針と財団の運営方針には違いがあるので決定的なことは言えませんが我々は周囲を封鎖して警備員を配置、一般人などが侵入を試みた場合は尋問の後に記憶を消して解放。内部から現れた物は検査の後に保管されます」
基本的な収容プロトコルについて説明する。彼女達が悪意を持って穴へ爆弾を突っ込もうが財団なら対処出来るだろう。
まぁ繋がる先が俺のいた世界とは限らないが。
「何故一般人の接触を避けるのですか?」
「財団は異常存在を一般から秘匿し、安全に暮らせる世界を目指しているので知られると困るので」
「では尋問は?」
「その侵入者が異常存在を悪用する組織のエージェントである可能性がある為です」
「……分かりました。できる限りのカモフラージュを行った上で同じように対処を行いましょう。本日はありがとうございました」
「いえ、忙しいところ時間を割いて頂きありがとうございました」
そして彼女は去って行った。後ろでずっとニコニコしていた保健室室長は入れ替わりで「検査の時間ですよ♪」と言って入ってきた。
それから数日で穴のあった場所には砂漠地質調査拠点という名目で覆うように建物が建設された。
第1話、お読み頂きありがとうございました!
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1437
↑これが今回登場したSCPです。
本家では生物はこのSCPから出てきた時点で死んでいるのですがそこはカノンによる弱体化という免罪符で落下中の壁にぶつかることによる大怪我にさせて頂きました。
連邦生徒会長の名字についてですがキヴォトス=方舟で漢字を入れ替えて舟方、そこから現実にも存在してるらしい船方になりました。
アロナはアロナなので名前はアロナです(?)
保健室室長は今のところブルアカ本家には出てない(はず)なのでオリジナルのキャラ設定をしています。