目の前には地獄が繰り広げられていた。
1人の生徒にヴァルキューレとSRTの両校の生徒達が蹂躙されている。
「撃てー!」
全方向からの一斉掃射。しかし彼女は意に介さず。
「だ、脱出!退避!」
戦車の砲塔を掴んで、まるで木の枝かのように軽々と持ち上げた。
「フンッ」
軽く投げられた戦車は対処に当たっていた生徒達を吹っ飛ばした。
「マズいことになりましたね」
「マズいなんてレベルじゃねぇけどな」
俺達はその前線から少し離れた位置から様子を見ていた。
中心で暴れているのは特攻服を身にまとい、サラシのみを巻いた上半身はまるで鍛え上げられた肉体こそ自身の服だと言わんばかりに膨張した筋肉をした少女。
「彼女は七囚人の内の1人───栗浜アケミ。伝説のスケバンと呼ばれ、12台の警備車両、2台の戦車の損失を含む、多数の怪我人をたった一人で出した悪夢の体現者です」
財団の技術ならギリ収容出来ると思うが、一般的な収容設備しかないヴァルキューレじゃあそんな奴を収容し続けるのは無理だろうな。
「つまらないですわね」
彼女の強さに及び腰になっている様子を見て大きくため息をついた。
「あそこまでの筋肉であれば核爆弾だろうがヘイロー破壊爆弾だろうが傷1つ付かないでしょうね……」
「いや、さすがに効くだろ」
冷や汗をかきながら真剣な顔で言うアロナにツッコミを入れてしまう。
ヘイロー破壊爆弾ってのが何かは知らないが、核爆弾なんて一般科学から数世紀進んだような技術を持つ財団でさえオブジェクトに対する有効な攻撃手段として用意していることが多い。
それが効かない訳無いだろ。
もし効かないならそれはオブジェクトでしかない。
「ここは私に任せてくれないかな」
「あっ、あの方は!」
包囲網の間から現れたのはワイシャツがはち切れんばかりに膨張した筋肉を宿した大人の男性。
「……あれ先生だよな?」
「それ以外に誰がいると言うのです!」
「いや、あんなんじゃなかっただろ!」
先生は元々筋肉はそれなりにあったが、一般男性程度の体格だった。
間違っても筋肉ダルマのような姿では無かった。
「あら先生、お久しぶりですわ」
「久しぶり、アケミ」
流石先生、七囚人とも関わりがあるのか。
「早速だけど、君にプロレスを申し込むよ。もし私が勝ったらこれ以上暴れないでくれるかな?」
「あら、では私が勝った場合の見返りはありますの?」
「もちろん。私が勝ったら君が満足するまでプロレスの相手をさせて貰うよ」
なんだその賞品。そんなのOKしないだろ。
「それで構いませんわ」
構えよ。
「さあ始まりました!プロレスの時間です!実況解説を努めさせていただくのは連邦生徒会会長の船方アロナです!よろしくお願いします!そしてコメンテーターとしてこちらの方をお呼びしております!」
「無理やり座らされました。連邦生徒会所属の石井クロ博士です」
歓声が巻き起こる。
「ボルテージが高まっております!しかしそれに対してテンションが低いですねクロさん!」
「意味がわからないので」
目の前にはプロレスやボクシングなんかで使われるリングが設置され、それを囲むように集まった観客が歓声を上げている。
「というかいつの間にこんなリングが?」
ここは先程まで争っていた砂浜。
そこに気がついたらリングが出現していたのだ。
「たまたま居たレッドウィンター工務部の方々に依頼して特急で作って頂きました」
「デモ起こされるぞ」
「大丈夫ですよ。報酬として1人プリン3個を差し上げるつもりですので」
「デモ起こされるぞ!?……後でレッドウィンター工務部は連邦生徒会宛に連絡ください。仕事に合った料金を支払います」
工務部はデモを起こされて迷惑だ、何とかしてくれという苦情が連邦生徒会にまで届くことがある集団だ。
連邦生徒会の前でデモを起こされたらたまったものじゃない。
「さあ御託は置いといて早速参りましょう!」
「もうなんでもいいんで進めて」
何言っても無駄だ。諦めよう。
BGMが流れ始める。
「青コーナー!生徒の為にキヴォトスを走り回り、生徒達の為に鍛え上げたその肉体はまさに重戦車!さあ生徒たちの為にその力を見せてください!せーんせーい!」
口上を言って先生を呼ぶと青い霧の中から現れた先生は観客の生徒達へと手を振り、歓声の中、リングへ上がった。
そして少しして歓声が弱まると別のBGMが流れ始める。
「赤コーナー!その肉体は銃弾だろうが砲弾だろうがビクともしない鋼の肉体!キヴォトスにおいて彼女に対抗出来る力があるのでしょうか!筋肉のヴィーナス!くりはまー!アケミーーー!」
先生よりは少ないがそれでも会場中で歓声が湧く。
赤い霧の中から堂々とした佇まいで現れリングへ現れる。
リングの前に着くと少し屈んでジャンプ。
そしてそのままリングロープを飛び越えてのリングイン
「早速のパフォーマンスです!」
それを見て今度は先生入場時くらいの歓声が湧いた。
「おふたりから一言頂きましょう!」
まず栗浜アケミへとマイクが渡される。
「先生、楽しませてくださいね」
その一言だけ言って先生へマイクを投げる。
「もちろん。本気で相手させて貰うよ」
先生も短く返してマイクをリングの傍に居たスタッフへ渡した。
「バチバチの両者!早速始めましょう!用意!……」
カーン!とゴングの良い音が鳴り響いた。
「おーっと早速両者掴み掛かりました!両者共に手を合わせ!純粋な力比べだー!」
「拮抗していますね」
もうここまで来たら普通に実況してやるよ。
「両者、完全に膠着状態!筋肉と筋肉の、真っ向からの押し合いです!」
リング中央で、先生と栗浜アケミは両手を完全に絡ませたまま、まるで彫像のように微動だにしない。
観客席からは「どっちだ!」「押せ先生!」「アケミさんもっとやれー!」と、完全にプロレス観戦モードに入っている生徒たちの声が飛び交う。
「先生、予想以上にやりますわね?ではこれならどうでしょう」
アケミが少し口角を上げながら、わずかに力を込める。
「先生の腕が、ジリジリと後ろに押し込まれ始めました!やはり!七囚人相手では先生でも厳しいか!」
「うおっ……!」
「まだまだ本気を出してよろしいのですのよ?」
「いや……本気だよ、今のところ」
先生が苦笑しながら答えると同時に、急に腰を落として体勢を低くし、体重を乗せた。
ズンッ!
「おおっと!今度は栗浜アケミの体がわずかに後退!」
「っ……!」
「まだまだいけるでしょ?」
「……ふふっ。いいですわ。とてもいい」
その瞬間、二人の間に火花が散った――ように見えたのは錯覚だろうか。
「さあここからが本番です! 両者、一気に動き出しました!」
アケミがまず仕掛ける。
先生の右腕を捻り上げながら体を回り込み、背後を取ろうとする、リアネイキッドチョークを狙った動きだ。
だが先生は素早く体を反転させ、栗浜アケミの腕を逆に捻り返す。
それは相手との力の差関係無く、体の構造的に受け入れるしかない技だ。
「先生柔術もいけるのか!?」
「流石は先生!柔よく剛を制すという言葉を体現したしようです!」
そのまま二人は倒れ込み、激しい寝技の応酬が始まる。
アケミが上を取ろうとすれば先生がブリッジで返す。先生がマウントを取ればアケミは強烈な膝蹴りで突き放す。
「これ……本当に生徒と先生のやり合いか?」
「プロレスらしいじゃないですか」
「いや、そうだけどさ」
観客席の生徒たちはもう完全に「どっちが勝つか」ではなく「どっちがカッコいいか」で盛り上がっている節すらあった。
そして――
ガシッ!
アケミが先生の首をがっちり捉えた。
「これで……終わりですわ!」
そのまま首を極めにかかる。スリーパーホールドの完成形。
先生の顔がみるみる赤くなっていく。
「先生!ヤバいです!ガッシリと絞め技を喰らってしまいました!」
「さすがにあそこまで固められると厳しいですね」
「まだ……いける……!」
先生が必死にアケミの腕に指を食い込ませ、なんとかこじ開けようとする。
だがアケミの腕はまるで鉄の鎖のようにビクともしない。
「ふふふ……どうです?先生。ここでギブアップしていただければ……私が満足するまで可愛がって差し上げますわよ?」
「…………悪いね、アケミ」
先生が小さく笑う。
「私は……生徒に負けるわけにはいかないんだ」
その瞬間――
先生の全身から、尋常じゃない力が迸ったように感じる。
「――!?」
それは勘違いではないようで、アケミの腕が、初めて明確に浮いた。
先生は一気に体を捻り、アケミのスリーパーを強引に外すと、そのまま彼女の体を担ぎ上げた!
「うわああああ!? ファイアーマンズキャリー!?先生が持ち上げました!!!」
観客が一気に爆発する。
そのまま先生はアケミを肩に担いだままリングを一周。
そして――
ドゴォォン!!
「リング中央に、強烈なサモアンドロップ!栗浜アケミ!立てるのか!」
リングが揺れるどころか、砂浜の地面が波打つレベルの衝撃。
「うっ……ぐぅ……!」
アケミが初めて苦悶の声を漏らす。
「おおっと!先生がコーナートップへと登りました!まさかこれは!」
「やるのか?マジでやるのか?」
それを見て起き上がろうとする。しかし上手く動けない栗浜アケミ。
「先生がそのまま……飛び込んだー!」
ドシャァァァン!
空気を揺らすような衝撃音が鳴り響く。
「ダイビングボディープレス!炸裂うぅぅぅ!!!」
「これは決まったか?」
「先生そのまま押さえつける!栗浜アケミ動けない!」
「スリー!ツー!ワン!」
カンカンカン!
「勝者先生!勝者!先生!」
空間を切り裂くように大きな歓声が巻き起こる。
「熱い戦いでしたね。どうでしたかクロさん」
「短いながらも白熱する戦いで目が離せませんでした」
結局途中からは普通に盛り上がってしまった。
歓声の中、先生は栗浜アケミを起こしてあげる。
するとそのまま先生の手を取ってすくりと立ち上がった。
「負けましたわ。容赦なくて驚いてしまいましたもの」
「生徒たちのためだからね。それにアケミも本当はもっと動けたんじゃない?」
「ノーコメントとさせて頂きますわ」
疲労の見える先生に対して、栗浜アケミは息も切れず、微笑み返した。
これが七囚人か。
「ともかく、私の勝ちだから言うことを聞いてくれるね?」
「ええ、もちろんですわ。先生との約束を破るのは栗浜家に泥を塗る事になりますもの」
七囚人になってること自体は泥を塗ることにはならんのかい。
「良かった。またプロレスなら付き合ってあげるよ」
「あら、そんなことを言ってよろしいんですの?毎日お呼びしますけれど」
「もちろん良いよ!」
「………冗談ですわ」
栗浜アケミはノータイムで快諾する先生に面を喰らってしまった。
「ということでこの砂浜の決戦の実況解説を務めましたのは船方アロナと!」
「石井クロ博士でした」
「ありがとうございましたー!」
そうして突如始まったプロレス大会は大団円のうちに終わったのだった。
なんだったんだ。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-357-jp-j
今回は『マッチョが売りの少女』でした。
ブルアカのマッチョといえば?そうですね栗浜アケミですね。
そしてプロレスをさせるなら相手は筋力検査Sクラスの人が相手じゃないと話にならない。そうですねゲーム部先生ですね。
正直プロレスはほぼ知らないので技などを調べて書きました。
プロレス好きが見たらおかしいだろと言われるかもですがこれはジョークSCPなので大目に見てください。