連邦生徒会長と財団博士とSCP   作:ペクロテ

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ど燗酒

「……さぶっ」

 

季節は冬。

 

時間は夜。

 

冷え込んだ寒さは、さっきまで暖房の効いた部屋で温まっていた体にはこたえる。

 

さてと、早く帰ろう。

 

グゥー

 

……と思ったが腹も減ったし何か食べて帰るか。

 

しかしどこで食うかな。

 

時間は10時を回った頃。

 

閉店時間だったり、あと少しすればラストオーダーな店も多いだろう。

 

どこか落ち着いて食事できる店の方がいいな……。

 

ん?あの後ろ姿はもしかして。

 

おでん屋台の暖簾越しに見えたスーツの後ろ姿。

 

それに気がついておでん屋に入る。

 

「先生、こんばんは」

 

「あっ、博士じゃないですか。奇遇ですね」

 

そこに居たのはやはり先生。

 

酒の飲み過ぎか、顔が少し赤くなっている。

 

それに少し熱を感じる。

 

「おとなり、良いですか?」

 

「どうぞどうぞ」

 

先生の隣に座る。

 

「大将、卵と大根、あとはんぺんお願い」

 

そういうとロボット型の大将は「はいよ」と短く言うとサッとよそって出してくれた。

 

この世界は奇妙なことばかりだ。

 

生徒はヘイローがあるのはもちろん、獣の耳が生えていたり、エルフ耳、それから尻尾や角や翼というファンタジーなものが生えていることも多い。

 

それに対して街中の住人である大人達は二足歩行して普通に会話のできるロボットと獣。

 

俺の居た世界にいても存在だけでオブジェクトとして収容されかねない奴らばかり。

 

そんな世界で唯一、俺以外で人間の外見としておかしい所が無いのが先生。

 

アロナがキヴォトスの外から呼び寄せたらしい。

 

ある意味でこのキヴォトスにおいて俺と同等かそれ以上にイレギュラーな存在だ。

 

……まぁ基本彼の行動理念は善悪関係なく、生徒のしたいことをさせてあげるというものらしい。

 

イケメンで人当たりもよく、困っている時に助けてくれ、肯定してくれる男性。

 

思春期の女子にとってこれ以上に無いくらいの劇物だろう。

 

実際本気で先生の事が好きな生徒も沢山いるらしい。

 

そういった話が無い俺にとっちゃ羨ましいことこの上ない。

 

「何飲みます?」

 

「あー、そうですね……」

 

俺は考える。

 

どうやらお酒は日本酒、ビール、ノンアル、チューハイがあるらしい。

 

「私のオススメは熱燗ですよ」

 

「熱燗ですか……実は飲んだこと無くて」

 

「そうなんですか?じゃあ飲んでみましょう!大将!熱燗!いや、せっかくですしや燗で」

 

「……ん?待ってください」

 

「どうかしました?」

 

「なんて言いました?」

 

「や燗ですけど」

 

「ちなみに大将、何度まで加熱したやつで?」

 

そういうと店長は「100°C」と短く言いながら、手元の装置を操作する。

 

予想通りだよチキショー。

 

「……まさか?」

 

「まさかも何も、俺の世界だとオブジェクトに指定されてるモンですよ」

 

どこにでもオブジェクトがあるなこの世界。

 

「ちなみに大将、それをどこで?」

 

「ミレニアムのエンジニア部だ」

 

「あー……」

 

大将の言葉に先生はなんとも言えない声を出した。

 

「どんな人達なんですか?」

 

「いやぁ……まぁ、悪い子達じゃないんだけど……少し安全性を無視した機能の付いた機械とか作る子達なんですよ」

 

「例えば?」

 

「爆発機能付けたり、自爆機能付けたり、起爆機能付けたり」

 

「全部一緒じゃないですか」

 

つまるところ芸術は爆発だとかロマンだとか考えてる奴らなのね。

 

「でも悪意のある子達じゃないんですよ?」

 

「本当ですか?すいません大将、その装置見せて貰えます?」

 

「あいよ」

 

そう言ってこちらへコンと置いた。

 

見た目は電気式酒燗器。側面下部には温度調節用のダイヤルがあり、その横には設定温度を示すパネルもある。

 

現在の設定温度は100°C。

 

確認したところ自爆スイッチらしきものは確認できない。

 

「大将、もしかしてこれ以上に加熱したものを出したりとかは?」

 

「危ないんで100までにしてるよ」

 

つまり出来ると。

 

「まぁそれが正解ですね」

 

温め終わったらしく徳利やおちょこ等を出して注がれたものが俺の前に出された。

 

「これは簡単に言えば通常ありえない温度まで加熱出来る電気式酒燗器です」

 

「100°C以上にもですか?」

 

「ですね。それで飲む人はただただ凄く美味しいと感じるだけなんですけど、ある程度飲むと、体温が上昇していき、高すぎると周囲に火災を引き起こしたり、溶かしたりします」

 

「……本当に大丈夫?」

 

「まぁ100度程度なら対象に触れない限りは安全なんで」

 

注がれた100度の酒を飲む。

 

物は知っていたが、初めて飲んだ。たしかにこれは中々に美味い。

 

おちょこ等はもちろん、箸や屋台なんかも耐熱処理されており、100度程度じゃビクともしなさそうだ。

 

「なら飲みましょう!人に触らないように気をつければ大丈夫ですよね」

 

「まぁそうですね。そこだけ気をつけて飲みましょう」

 

そして改めて乾杯をして飲み始めた。

 

 

「最近アロナはどんな様子ですか?」

 

やはりここの2人の話す内容としてはまず共通の知り合いであるアロナについて。

 

「相変わらずですね。他人の数倍の仕事を他人と同じ仕事時間で終わらせて、その大変さや疲れをお首にも出さない。そのうえで他の人の分の仕事までやろうとするんだから手に負えませんよ」

 

超人と呼ばれててもあくまで人だ。

 

どうしても休ませるときには前のやる気を無くさせた、あの石を持たせるべきかとも考えたりしている。

 

アレなら俺には効果は無いがアロナには抜群だ。

 

「でも博士が来て楽になったと思いますよ」

 

「それはどうでしょうね」

 

苦笑が漏れる。

 

「オブジェクト関連にはアロナも同行してくるんで俺が日常業務のサポートしててもプラスマイナスで0になってる気がしますし」

 

俺は半人前だ。

 

幼い頃にオブジェクトとして確保され、高校生になった頃には忠誠度や技能を見込まれて職員となり、大学を卒業して博士に昇進になった。

 

しかし、俺よりも能力が高い人達ばかりの財団では自尊心はボロボロになるのは当たり前だった。

 

「でもアロナも言ってましたけど記憶力がズバ抜けているらしいじゃないですか。それで助かってるって言ってましたよ」

 

「……まぁ記憶力には自信ありますけど」

 

俺は記憶力、特に文章に対する記憶力が高い。

 

それは財団での検査なんかでも分かっている。

 

「私としてはとても羨ましいです。ホントこの頃、物忘れが多くなって」

 

「俺と同じくらいの歳でしょ先生。大丈夫なんですか?ちゃんと寝れてます?」

 

「この頃は12時には寝れてるから大丈夫ですよ」

 

アハハと笑いながら酒を飲む。

 

「それで何時に起きてるんですか?」

 

「5時くらいですね」

 

「せめて7時間は寝てくださいよ」

 

「やらないといけないことが多くて……」

 

彼の忙しさは少しは分かっている。

 

というより、連邦生徒会からも仕事を出しているが、それに加えて生徒の困り事にも積極的に首を出している為に仕事が2倍3倍と無限に増えていく。

 

そうして彼の中での優先順位は生徒の困り事が最優先なので連邦生徒会からの仕事は後回しされた結果、期限に遅れたりする。

 

そんな愚痴を七神から聞いた事がある。

 

「そんなことを言って、博士も寝てます?目の下のくまも酷いですよ」

 

「これは落ちなくなったシミみたいなものなので。こっちに来てからは7時間は寝れはしてますね」

 

くまは睡眠不足もあるが、その他にも様々な原因が重なった結果のものだ。

 

その原因の大半が取り除かれたんだ。これから薄まっていく……のか?

 

この世界にもオブジェクトがあるなら原因達が復活してきそうなんだよな。

 

「───ッ!」

 

おちょこに残っていた酒を流し込んだ。

 

どうしようもないことを考えてても仕方ない。

 

「おっ!いい飲みっぷり!さぁもっと楽しいこと話しましょう!」

 

「おっと、どうもどうも」

 

先生が徳利を手に取って空になったおちょこに注いでくれる。

 

「それじゃあ博士はロボットアニメ等は興味ありますか?」

 

─────────

 

 

 

そうしてそこからは先生の趣味や好きなことや、俺がこれからやってみたい事なんかを話して盛り上がった。

 

「おや、やっぱりお二人のでしたか」

 

そう言ってひょっこりと顔を出したのは不知火カヤ。

 

「よう不知火」

 

「カヤちゃんだー。こんにちはー」

 

「先生は中々に出来上がってますね……。比べて博士はいつも通りといった感じですか」

 

「酒には強いんでね」

 

遺伝的にアルコールへの耐性が高いのも財団での検査でわかっている。

 

幼い頃にはここまで調べる必要あるのかと思っていたが、今ではそれでも足りないくらいだとも感じる程だ。

 

「というかなんでこんな時間に居るんだ?子供は寝る時間だぞ」

 

「残業して食事したらこの時間になっていただけです」

 

「あー、お疲れ」

 

「そちらこそ」

 

不知火はハァとため息をつき下へ目をやる。

 

「これはもしや、先生のものでは?」

 

そう言って不知火は先生の足元から革製の財布を取る。

 

「あー、それ私のだー。ありがとうカヤちゃん」

 

「はいはいどういたしまして」

 

先生が手を差し出したのでカヤがそのまま先生に渡そうとする。

 

「ストッ───」

 

そこで頭に過ぎる。

 

先生もオブジェクトで加熱した100°Cのいわゆるや燗を飲んでいた。

 

つまるところ先生の体温は100度。

 

ジュッ

 

「あ゛っ゛っ゛っ゛つ゛!゛!゛!゛!゛!゛」

 

先生の指先が触れた瞬間、いつも糸目のように細く閉じられた目を大きく見開いて叫んだ。

 

「不知火!大丈夫か!」

 

「ごめんカヤ!た、大将!氷水用意して!」

 

先生はどうやら酔いが一瞬でさめたらしい。

 

「本当にごめんカヤ」

 

「い、いえ。指先だけで一瞬だけだったので大丈夫です」

 

すぐに用意された水に指先を付ける。

 

「にしてもなんでそんなに熱いんですか」

 

「オブジェクトの影響だ。専門家の俺がいたのに対策できてなかったな」

 

「それを言うなら私も酔っているとはいえ迂闊だったよ」

 

「もういいです。次からは気をつけてください」

 

「そうするよ」

 

「そのつもりだ」

 

これはまさに油断の生んだ事故だ。

 

「大将、悪いがこれからは55°Cの飛び切り燗までにしてくれ」

 

「わかった、そうしよう」

 

 

ということで今回のオブジェクトによる唯一の被害者である不知火カヤの指先の火傷は次の日に保健室室長に見てもらい、薬を出してもらうと数日で完治した。

 

さらに数日後、同じおでん屋に行ったという知り合いによると、しっかり大将も約束を守ってくれているらしく、飛び切り燗までしか出さないようになったらしい。




http://scp-jp.wikidot.com/scp-1538-jp
今回のSCPは『ど燗酒』でした。
先生と博士が親交を深める話として『ねこですよろしくおねがいします』の時にちょろっと言っていた、飲みながら話そうということを書く為にこのSCPにしました。
それとこのSCPオブジェクトの製造元としてエンジニア部に東弊重工の代わりになって貰いました。
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