連邦生徒会の関わる総合病院にある特殊病棟。
そこに俺達はやって来ていた。
「ここには臓器及び五感や四肢などが麻痺及び機能低下を起こした重傷者が集まっています」
廊下を歩きながらアロナが説明を進める。
「この場にいるほぼ全員がとある判決文を読んだ結果にこのようになったんです」
「それがこれか」
それは俺がこちらの世界に来るより前から纏められていたオブジェクトに関する報告書の内の一つ。
その中の判決文の一例として挙げられている部分を確認すると以下のように記述されていた。
被告人の左心房は、原告の保持する循環器系臓器との同一性保持権を侵害しており、その存在が原告の生存権を脅かしていることは明白であります。また、被告人の右上腕および小腸の一部においても同一性保持権を意図的に侵害しており、これを放置されれば今後侵害箇所は増加していくものと見られます。以上のことを踏まえ、被告人の保持する違法箇所を即刻没収ののち、然るべき判決を下すものとします。
「これを報告した方は4日後に左心房、左上腕、小腸が機能低下や麻痺が発生しました。現在は心臓補助装置と点滴による栄養補給で生きています」
「これまでに死者は?」
「確認されていません」
「不幸中の幸いってところだな」
財団では収容前だが、死亡した事案を確認していた。
それの発生が無いってのは発見や動きが早かったんだろう。
「なるほど、電波塔も見つけているか」
読み進めて概要を理解した。
「はい、電波塔の破壊は不可能だった上に多くの人への被害が懸念された為に1次調査の後、様々な兵器による破壊も試みましたが失敗に終わりました」
「あそこはそういうところだからな」
どうするか……。無力化の方法は分かっている。
まぁ俺がすぐにでも行って解決するのが正しいか。
「そこのふたり!」
突然の声に振り返る。
そこは今通り過ぎた病室の開かれた扉の中からだった。
エルナと顔を見合せてから声の主のもとへ行くとそこには見覚えのある人がいた。
「アンタは確か……」
「レッドウィンター工務部副部長です」
「先日は助かりました」
「いえ、プリンを1人3個に加えて充分なお金も貰えたのでこれからもよろしくお願いします」
そうだ。工務部副部長だ。
先日の先生VS栗浜アケミのプロレスの時にリングを作ってもらった。
その時に請求書を連邦生徒会に提出に来たのが彼女と部長だった。
「もしかして貴方も被害者になったんですか」
「はい。私の場合は両足と左目、それと胃です。さっき検査も終わってベッドに来たんです」
前に会った時より少し弱々しく感じる。
やっぱりすぐに準備して無力化させるしかないな。
「それでお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい、部長を助けてください」
そこから話を聞いた。
どうやら彼女が感染者になったことで部長である安守ミノリがオブジェクトを認知。
軽い隠蔽のみだった影響で調査を始めた安守に電波塔を知られ、突入すると彼女に伝えて去って行ったらしい。
「わかった。すぐに対応する」
「よろしくお願いします」
そして俺たちは病院を飛び出して、急いで電波塔へと向かった。
「ここだな」
私は副部長が突如として病床に伏したこと。
加えて同じような人が何人もいることを知り、調査を行うとすぐに全容が把握出来た。
混乱を避ける為だろうが、連邦生徒会による情報の隠蔽が行われていたが、人の口に戸は掛けられ無いと言うように噂話のように広まっていた。
身体の同一性保持権の侵害などと言う法に一切則っていない馬鹿げた判決文だけで瀕死にされる。
今更だ。産まれた時にでも裁判すればいいだろうに今になってというのはふざけている。
これは許されざる暴挙だ。
それの抗議を行うために我々レッドウィンター工務部は判決文を送っている場所があるらしい電波塔へ登った。
頂上には鉄蓋で封じられていたが無視して開け、建物から外に出るとそこは街になっている。
人々は活力無く歩いていおり、気味の悪さを感じるほどだ。
そんな街中を少し歩くと裁判所らしき場所に到着した。
「レッドウィンター工務部!デモを始めるぞ!」
懐からプラカードと拡声器を取り出すと部員と共に叫び始める。
「下の世界に不当な判決を出すのをやめろー!被害者に対して賠償金と謝罪をしろー!」
「何をしている」
始めた途端、裁判所の中から警備員らしき人物が出てきた。
「お前達の不当に行った裁判へのデモだ」
「身柄を確保する」
「ふざけるな!お前達は身体の同一性保持権などという訳の分からないもののみならず私たちから言論の自由さえ奪うつもりか!」
しかし相手は全く意に介さずに私を確保してきた。
「やめろ!何をする!」
掴んできた手を振り払おうとしてみるが全く効いていないようだった。
そのまま私たちは捕まり、牢に入れられた。
さぁここからどうされるかな。
ブルルルルル
ポケットから振動がして取り出す。
没収されていなかったスマホが着信を受け取っていた。
知らない電話番号だな。
とりあえず出てみるか。
「こちら、レッドウィンター工務部」
「俺だ!」
電話越しに聞こえてきたのは男性の声。しかも聞き覚えがある。
「博士か。どうかしたか?」
「どうしたじゃねぇよ!今どこにいる!」
「電波塔の上の世界の檻の中だ」
「はァ!?」
足音が聞こえる。
「看守が来たらしい。切るぞ」
「まt──」
スマホをポケットに入れる。
「今からお前たちの裁判を行う。着いてこい」
やってきた看守は檻を開けて告げてきた。
他の人達は私にどうしたらいいかと目配せで伺ってくる。
「……行くぞ」
「被告人前へ」
法廷に着くと裁判官に促され、証言台に私は立つ。
私以外の人は傍聴席に案内されていた。
代表の私からという訳か。
「裁判を始めます」
そういうと木槌を叩く。
「判決文を読み上げます」
早速か。無茶苦茶だな。
「被告人の声帯は、原告の保持する発声器官との同一性保持権を侵害しており、その存在が原告の生存権を脅かしていることは明白であります。また、被告人の右足および肺の一部においても同一性保持権を意図的に侵害しており、これを放置されれば今後侵害箇所は増加していくものと見られます。以上のことを踏まえ、被告人の保持する違法箇所を即刻没収ののち、然るべき判決を下すものとします。以上です。何か意見は有りますか?」
「以上……か」
原告側の席を見ると私がいた。
コイツが私にこんな馬鹿げた裁判を起こしたヤツか。
「お前はそんなに生きたいか?」
「……あぁ」
やっぱりだ。コイツらには生きるという活力が無い。
権利だけを主張して、実際には生きていない無能そのものだ。
なら反論してやる。
「私にはやるべきことがある。私だけではなく、この世界のために。危険を侵し、命をかけて、不当な権力者たちから、何も知らないヒトたちを守らなければならない」
お前たちが生存権を主張するだけならこちらはそれ以上の意思で生存権を主張してやる。
「生きる権利は誰でも持っている、しかし、生きる目的を持つものは少ない。私は命が惜しいなどと思ったことは一度もないが、目的を果たすまで、絶対に死ねない」
彼女らは静かに、しかし驚いたような顔でそれをずっと聞いていた。
話終わって数秒。彼女らにとって予想外なことが起きたのだとわかった。
そこでふと気がついた。
「上告する」
その直後、目の前で衝撃の光景が広がった。
私たち以外のこの世界の奴らが銃で撃たれたように倒れた。
彼女達にもヘイローはあるはずが致命傷になったかのように血を出している。
「お前たちが撃ったのか?」
傍聴席にいた仲間へ振り返ると首を振って否定される。
どういうことだ?
私は不思議に思いながらも原告席で倒れている私の偽物に触れる。
すると触れた部分から霧のように消え始めた。
消える直前、私の偽物はこちらを見た。
「あんたはどこに行くんだ」
「…………」
答えを数瞬の間に思考していると、そのまま霧になって消えた。
「なんの騒ぎだ」
そんな声と共に銃を構えた警備員がやってきた。
「構えろ!」
即座に反撃の為に銃を取り出す。
しかし次の瞬間ドォォンという衝撃音が外からなったと思ったら次々に爆発が起きていることがわかった。
警備員達は外へ向かって行った。
「撤退するぞ!入ってきた建物まで走れ!」
裁判所から出ると爆発が起きる中で人は逃げ惑っていた。
「急げ巻き込まれる!」
入口のあった建物へ入る。
入るとまだ崩壊してなかったようで入口もすぐに見つけた。
「早く入れ!急げ急げ!」
これはこの世界自体が崩壊しているんだろう。
急がないと巻き込まれる。
ドォォォン!!!!
強い爆発音の後、建物自体が崩壊を始めた。
全員が入った後に私も入り蓋をする。
完全に閉めるとさっきまで感じていた爆発の衝撃や振動は蓋と共に消えた。
階段を降りていくとすぐに地上にたどり着いた。
「工務部!」
目をやるとそこには車から降りてきたところの連邦生徒会長と博士がいた。
「さっきは勝手に切って悪かったな」
「そんなことより上では何があった!雲も無くなってるし……」
電波塔を見上げると、たしかに雲に覆われて見えなかった上部が視認できるようになっている。
まぁこういった物事の専門家なら気になるか。
ただとりあえず一言でまとめると……。
「奴らを言いくるめた」
その後、オブジェクトの無力化を確認。
また、オブジェクトの影響で病床に伏していた人たちも次々と復活し、日常生活へと戻って行った。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-062-jp
今回は『生存権』です!
そしてこの作品のカノンによる弱体化で元記事の被影響者の死亡は機能不全や弱体化等になり、適切な医療処置を施せば生存が可能です。
メインとして今回はミノリ視点での内容になりましたが、彼女の頭の良さとイカれ感を上手く表現出来た気がしませんね。
ただこのオブジェクトにおける2つの名言である「上告します」と「彼らを言いくるめました」の2つを言わせれたので満足です。