「ではこれで進めますね」
「はい、よろしくおねがいします」
俺達はトリニティ総合学園に来ていた。
目的はトリニティから連邦生徒会へ出されていた学園自治区及び周辺自治区の治安維持及び向上についての提案。
つまるところ今回のメインはアロナ。俺は付き添いだ。
正直着いてくる必要もなかったのだが、まだ行ったことのなかった学園だしキヴォトスの三大校に数えられる程の規模だったのでどんな雰囲気かは気になっていた。
「さて、では失礼させてもらいます」
「えぇ、後日お茶会でも行いましょう」
そうして生徒会室を出た。
「トリニティ……ねぇ……」
「いかがですか?」
「まさにお嬢様学校だな。どこもかしこも格式ばってる。あと何より三頭政治式で学校を運営してるのがなぁ……」
「それは……はい……」
三頭政治は独裁政治になりにくかったり、有事の際に手を組むことによる社会の安定を維持しやすいという利点もある。
しかし、意見の不一致による意思決定の遅れや権力争いによる内部抗争や1人の離脱による体制の崩壊が起きやすい。
「実際私が失踪している間に1人が一時的に死亡扱い、1人が裏切り、最後の1人が疑心暗鬼となり無茶な行動を取りました」
「ダメダメじゃねぇか」
「まぁその時には先生が解決してくださいましたので何とかなりましたが」
「それ本当に解決してる?」
「先生からは『大丈夫!3人は仲良しだから、もう同じことは起きないよ!』とは言われましたが」
「言いそうだな」
あの生徒全肯定マンなら想像にかたくない。
「さて、では───」
「おい待て」
建物から出ると異様な人物が歩いていた。
「なんだアイツ……」
ここは先程も言ったがお嬢様学校だ。
裏ではどうだとかは知らないが少なくとも表向きは規律正しく、お淑やかにってのが一般生徒のデフォルトだと思う。
しかし目の前でニコニコ顔で歩いてる奴の服装は水着。スクール水着。
ここが学校で時期が夏ならギリギリ理解できないことも無い。
しかし現在は冬。
寒さは恐らく1桁台だろうというくらいには冷え込んでいる。
そんな中で防寒もへったくれも無いスクール水着1枚だ。
周りのすれ違う生徒達はチラッと見るがそのまま歩いていく。
なんというか慣れているかのように。
「ハナコさんですか」
「有名人なのか?」
「はい。トリニティにおいてのトップクラスの才があり、次期ティーパーティーホストと言われるほどの人物です」
「……アレが?」
「こんにちは」
「どわっ!?」
さっきまで10mは先に居たはずだったのに一瞬目を離したら目の前に立っていた。
「びっくりした……。寿命縮んだわ」
「あらあら。申し訳ございません」
変わらずニコニコとした笑顔を浮かべている。
「珍しい方がいらっしゃったので。それに私の話をしていましたよね?」
「変な奴がいたからな」
「ふふっ。初対面でも容赦ありませんね」
「悪いな。俺は連邦生徒会所属の博士だ」
「浦和ハナコです。連邦生徒会長さんもこんにちは」
「こんにちは。相変わらずのようですね」
「えぇ♪」
そこで気がついた。
彼女の体は全身が濡れている。
「あら?男性には女子高生の水着姿は刺激が強すぎましたか?」
「アホか。そういう挑発やら色仕掛けは先生にでもやっとけ」
あの人もあの人で鋼の意思持ってるから効かなそうだが。
「そうじゃなくて浦和、さっきまで水を浴びてたのか?」
「浴びてませんよ?」
「え?じゃあどうしてそんなに濡れているんですか?」
その濡れ方はさっきプールから上がったばかりくらいにはビショビショだ。
「……♪」
「ひとつ聞くが寒くないのか?」
「いいえ?全く。普通の防寒着よりも快適なくらいです」
うん確定だな。
「クロさん……」
「あぁ、オブジェクトだ」
「?」
「ここで見つけました」
あれから少し説明して発見経緯を聞くと連れてこられたのはトリニティの屋外プール。
さすがに冬なので水は張っていない。
「ここに凍っている状態でありました」
「どこから来たんでしょうか」
「さあ?気がついたらありました」
「それを着たのか」
「着心地が気になって」
「凍ってたやつを?」
「はい」
「そのままだと溶けない氷のついた水着を?」
「砕きました」
「なんだその執念……」
なんというかヤバいやつだなコイツ。
「ちなみに何か危険性は?」
「無いな」
「無い?」
「あぁ、着用した実験では確か-50℃から300℃まで耐えれるようになる。まぁその代わりに常に全身が謎の液体で濡れるようになるって感じだな」
「今のハナコさんの状況ですね」
「便利ですよねこれ♪」
「ただ、着用してないと表面温度が-2℃になってどんな温度に晒しても分離させない限り溶けない氷が生成される」
「何かに使えそうですね」
「実際財団だと無電源冷蔵庫の冷媒として使っていた」
「……つまり冷蔵庫の中を見たら凍ったスクール水着が入ってるという?」
「そういう感じだな」
「あら、変わっていますね」
「お前に言われたくない。まぁ実際俺も初めて知った時は正気を疑った」
危険性は無く、無限に冷却を行えるなら使うのが正解なんだろう。
しかし実際に見に行った時にもなんとも言えない異物感がヤバかった。
「あとはその氷を飲料水にしたりかき氷にしたり」
「もう少し堅物な組織だと思っていました……」
「有用であれば利用もすることもある」
それにしたってではあるが。
「かき氷に関しては『口どけまろやか』『頭がキーンってならない』と報告されてた。俺は食べた事ないから実際はどうか分からんが」
「では試してみましょう♪」
「「……はい?」」
「準備出来ましたよー♪」
俺達は浦和の所属する補習授業部の部室にやって来ていた。
部屋は暖房が強めに効いており、少し暑いくらい。
教壇の上には浦和の持ってきた氷とかき氷機が置かれている。
「こ、これもしかしてアンタが着た後に作られた氷じゃないでしょうね!」
「……♪」
下江コハルの言葉に無言で答える浦和。
「ハナコ!?えっちなのはだめ!死刑!」
「安心しろ。俺がちゃんと確認した清潔な氷だ」
「……本当?」
「あぁ、さすがに人が着た後のものから生成される氷なんて俺も食いたくないからな」
下江のことを宥める。
「あら、JKのエキスが染み出た氷ですよ?」
「どうなんですかクロさん」
疑惑の目を向けてくる。
「冤罪の言いがかりだ。そんな変態趣味はねぇよ」
「あら残念。先生はどうですか?」
そうして次の標的は先生に向けられた。
「…………」
ニコリと笑う先生。
「えっちなのはダメ!死刑!」
「溶けちゃうし早くかき氷作ろうか」
「はい♪」
「先生!」
そのまま先生は答えることなく進んだ。
「アズサちゃんは何味にしますか?」
「そうだな……悩んでしまうな……」
白州アズサと阿慈谷ヒフミはかき氷の盛られた皿を手にシロップの置かれた机の前で話している。
「アロナは決まってたりするか?」
「はい、とりあえずいちごと練乳ですね」
そういいながら迷いなくいちごシロップと練乳を手に取るとサッと掛けた。
「クロさんはどうします?」
「俺は昔から決めてんだ」
俺はその場にあったいちご、レモン、メロン、ブルーハワイの全種を虹のように掛け、さらにその上から交差するように半分にだけ練乳を掛ける。
「これが俺の選択だ」
「……クロさんってドリンクバーで混ぜるタイプの人ですか?」
「さすがにしない。が、したくないかと言われたら嘘になる。男ってのは何歳になっても童心を忘れないものだからな」
「博士……!」
俺は先生と視線を交わし熱い握手を交わした。
どこまで行っても。どんな真面目なやつだろうと、男ってだけで大人でも精神に子供が宿っているもんだ。
「ん!ふわふわ!」
「口の中で一瞬で溶けるな」
「美味しい……」
「ですね♪」
「イチゴ味美味しい!」
「メロンもいいぞ」
「本当に頭がキーンってならない……」
そうして真冬の暖房の効いた部屋でかき氷を食べたのでした。
ちなみにオブジェクトに関しては特に危険もないので、そのまま浦和が管理することになった。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-081-jp
ということで今回は「永久ひんやり水着」でした。
そろそろトリニティの生徒関連の話を作りたいなと思っていたところドンピシャのオブジェクトを見つけました。
初期だからこそ許されるようなシンプルな異常性、良いですよね……。