せめて、財団らしく
目が覚める。
体を起こして体についたコードを外す。
ピーッという電子音が鳴り響き、足音が聞こえる。
「……先生!?い、一体……。あなたは、指一本動かすどころか、意識を取り戻すことだって絶望的な──」
そこで記憶が鮮明になってきた。
シャーレにいた時に爆破に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになったんだ。
「ハッ……!それよりも、今すぐ逃げてください───」
次の瞬間、振動と共に爆発音が響く。
「うわぁぁああああ!に、逃げろ!!」
そう言ってその人影はどこかへ行った。
私はシッテムの箱と大事なものを手に取って起動する。
「……生体認証完了。先生を確認。……大丈夫ですか?」
白髪の私の相棒は不安そうに聞いてくる。
大丈夫だよ。
そんな丸わかりの嘘をつく。
今の私は点滴が繋がれ、まだ爆発に巻き込まれた時の怪我が治っておらず、顔もプレートで固定されたままだ。
目もあまり見えていない。
「分かりました。これより私A.R.O.N.Aが先生の目と耳、そして足になります。こちらです先生」
点滴台を杖にしながら歩き出した。
「…………」
今の状況を教えてくれる?
「……はい。現在色彩による影響でキヴォトスの空が赤く染まっています。その影響でシロコさんは破壊と殺戮を行い続けております」
私はぼんやりとした視界の中でアロナのサポートを受けながら、体を引き摺り、歩いていく。
「どれだけの間寝ていたのかな」
「104日です」
「寝すぎていたね」
3ヶ月が経ってもこれだけの傷。そしてさっきの人の言葉からして私は自分が思っているより酷い状況なのかもしれない。
「シロコはどこにいるか分かる?」
こんな体だ。近い場所だったなら助かるんだけど。
「シロコさんは……病院前。…………先生の目の前に居ます」
目を凝らす。すると入口に到着した私の目の前に居たのは銀髪で特徴的な青い目の少女───シロコがいたのに気がついた。
「……なんで今更」
自分に呆れてしまう。
もしもっと早く目覚めていればこんな事にならなかったのかもしれない。
彼女の苦しみを、悲しみを無くせていたかもしれない。
でも、後悔しても過去は変えられない。なら。
君を助けに来た。
動かない口で伝えられない言葉を彼女に目で伝えた。
「……」
私は何もできずに倒れる。
傍らを見るとシッテムの箱は3つの弾痕を残して動かなくなっていた。
「もう、先生を守る手段はない。先生……」
シロコが私に銃口を向けてくる。
「これで……。これで、全部……終わるはずだから」
バンと私に向けられていた銃が鳴る。
しかしその銃弾は私には当たらなかった。
「……。だめ……私、私には……できない」
これ以上は……私の体が。
身体中が悲鳴をあげる。いや、悲鳴を上げることすら無くなり、感覚が無くなっていく。
私の顔を涙を流しながらシロコが覗いてくる。
「先生、ごめんなさい……私のせいで、私が間違ったせいで……わたし、が、いきて、いるから……」
ちがう……違うんだよシロコ……。
最後に見たのは悲しく、苦しい顔をしたシロコだった。
「初めまして」
目の前に現れた存在は認識は出来るが認知は出来ない。
「君は?」
「私は死した人間の願いを叶えるモノだ」
そんな機械的な、そして威圧的なソレは淡々と私の質問に答える。
「願いを叶える?」
「あぁ」
これはアレか。奇妙な力を持った物や存在なんかのひとつ。
なら、本当に願いを叶えてくれるのかも。
少し考える。
「キヴォトスを救うことは出来る?」
「それはできない。他の願いを言え」
キッパリと返答される。
なるほど万能では無いか。
この存在がどうして私の前に現れたかは分からない。それが全くの偶然なのかもしれない。
でも他の人にも現れるのだとしたらそういう大きすぎる願いを叶えてしまえば世界が無茶苦茶になるだろう。
他の願いを考える。
「なら生徒を生き返らせてくれる?」
「それはできない。他の願いを言え」
死者の蘇生もダメか。
とすると私自身も無理かも。
なら、せめて先生(おとな)らしく───。
私は恐らくこのまま苦しみの中でキヴォトスを滅亡させてしまう生徒を守る為に出来ることを考えた。
「シロコの苦しみを私が肩代わりできないかな?」
「……1部可能だ。しかしその場合、屍となったお前は苦しみながらソイツの行動を見ることになる。それでもか?」
「もちろん。生徒の苦しみを減らせるなら迷いなくする。それが先生だからね」
「良いだろう」
次の瞬間目の前には何かが現れた。
それは空間に空いた穴のような黒。
色彩。
意思があるかも分からないソレは間違いなく、キヴォトスを無茶苦茶にして、生徒達を、シロコを悲しませた元凶だ。
「『色彩』が、箱の主と接触した!」
「この事態は想定していない……色彩があの者の『苦しみ』に反応したのか、それとも───」
「不可能だ。あの者は『崇高』、『神秘』、『恐怖』のいずれも有していない。『色彩』が無価値な存在に接触する理由など無い」
「つまり───何を意味する?」
「あの者が、死の神の代わりに『色彩の嚮導者』になるということか?」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
「理解できぬ───だが、あの『箱』を我々が所有できるのなら、理解する必要も無い」
「箱の主よ───お前の望み通り、『色彩の嚮導者』の役割を与えよう」
「お前に『
「『色彩の嚮導者』は我々無名の司祭の意思を代弁するのみ。己の意志を持てると思うな」
「『箱』の力は、我々が預かる」
「お前はこの選択を……未来永劫、後悔するだろう───!!」
「オマケだ。こんな最悪の世界なんだ。蜘蛛の糸程度なら垂らしておいてやる」
シロコの悲しむ顔が見える。
私を覗いてくる色の違う2つの目から大粒の涙が溢れてくる。
「あなたのせいじゃないよ、シロコ」
それを伝えられなかった。
シロコ……自分の生を、悔やんだり───責めないで。
幸せになりたいと願う気持ちを───否定しないで。
生きることを諦めて、苦しみから解き放たれた──だなんて悲しいことを言わないで。
どんな
子どもの『世界』が、苦しみで溢れているのなら……。
子どもが、絶望と悲しみの淵でその生を終わらせたいと願うなら──。
そんな願いが、この世界のどこかにまだ存在するというのなら──。
それは──。
その『世界』の責任者のせいであって、子どもが抱えるものじゃない──。
たとえ罪を犯したとしても、赦されないことをしたとしても──。
いつ、いかなる時であっても──。
子どもと共に生きていく大人・・が背負うべき事だからね。
「……責任は、私が負うからね」
色彩は広がっていく。いや、近づいてくる。
「驕るな──!!」
「アレは、お前の知る
「アレは神が顕現したもの──『神秘』であり、『恐怖』であり、『崇高』……『光』であり、『絶対者』!!」
「アレは『観念』で……お前が理解できない、畏怖すべき対象なのだ!!」
「想像界で表象され、現実界へと至る──象徴界の記号であり隠喩なのだ!!!」
違う、あの子は……あの子は、ただ……純粋に……自転車と、運動が大好きな……仲間のために、覆面を作って強盗を行うことだって厭わない……アビドス高等学校の…………砂狼シロコだよ。
私の『世界』で苦しんでいる、ただの『子ども』だよ。
「お前はこの選択を……未来永劫、後悔するだろう──!!」
そうなのかもしれない……でも。
フラッシュバックする。今までの記憶。キヴォトスに来てからの生徒たちとの記憶。
青春の鮮やかな青色の記憶。
そして、数多の後悔。
大人として──子供を守り、先生として生徒を守るため。
大人の責任──先生の義務を果たすためだよ。
どんな方法だったとしても、いかなる代償を支払うことになったとしても。
「せん、せい……?」
シッテムの箱が起動する。
「分かりました。仰せの通りに。たとえ、世界の終焉を招くとしても」
「生徒たちを……よろしく、お願いします」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2513-jp
ということで今回は『せめて、財団らしく』です。
ブルアカにおいてあまりにピッタリなシチュエーションとオブジェクトでした。
何故、色彩が先生に反応したのか。加えて無名の司祭が「己の意志を持てると思うな」と言ってるのにどうして最後に意志を少しでも出せたのか。
そこに意味のある答えとして