「クロさん、この資料は」
「ほい。あとこれも確認頼む。こっちのは俺がやっとくから」
「ありがとうございます」
あれから俺は連邦生徒会にて会長補佐として働いている。
財団はブラックだとは思っていたのだがここも───というより彼女がブラックな環境に身を置いている。
連邦生徒会長こと船方アロナは超人と言われており、実際その異名に違わぬ力を持つ。
毎日キヴォトス中からやってくる書類を一般人の何倍もの速度で捌いていく。
仕事の合間に俺も書類に目を通すが彼女の判断力は凄まじく、最高責任者としての手腕は持っていると思う。
ある期間、彼女は失踪していたらしく、その間は他の役員で仕事を分担していたらしいが、それでも連邦生徒会としての役割を十全には行えず、代わりに失踪直前にキヴォトス外から呼んでいた先生へ各学校での問題を解決させていた。
彼女が帰ってきてからも先生は精力的に生徒の為に動いているらしく、これでも仕事量は減っているのだとか。
それを俺が手伝ってさらに減っている。
「クロさん、この書類の」
「あー、ちょっと待ってろ」
彼女がさっきから俺の事を呼ぶ時に言っているクロはもちろん俺の本名では無い。
俺が頑なに本名を教えないでいると不便でしょうと俺のナンバリングである14196の語呂合わせで石井クロと名付けられた。
俺としては本名を知られないなら問題ないからなんでもいいのだが。
棚へ手をやる。
確かここら辺に。
「ほら」
「ありがとうございます」
そこで彼女の手元を見る。
「おい!」
「え?ど、どうしました?」
「これだよ!この井戸!」
手元に置かれていた書類には古い小屋、井戸、そして人の目が付いたこちらを見るネコのイラストが載っていた。
「あぁ、猫が見えるという井戸の調査報告書ですね」
「中を見た人数は!対処は!まさかお前も見たのか!」
「は、はい」
「影とかの暗闇にそのねこが見えたりイエネコとかが人みたいな目を付けた毛のないネコに見えてたりとかは!」
「え、えぇ。保健室はその治療で追われていまして。私もずっと見えていて困っています」
ため息が出てしまう。
「それは見た記憶を消さないと意味無いぞ」
「知っているのですか?」
「あぁ」
報告書を手に取る。
「SCP-040-JP。古井戸の中にいるねこを見るとミーム汚染を受けて暗闇の中とか普通の猫が毛の無い人の目がついたような姿に見えるようになる。対処法は記憶処理……見たという記憶を消せばいい」
「なるほど」
「あとこの報告書以外にこれについて書いた人。それと読んだ人はもれなく全員影響者になっているだろうな」
「なんでですか?」
「ほら、よく見ろ。途中の文章に『ねこはいます』とか『ねこです』とか書いてるだろ。コレは感染者が執筆したからだ。これを読んだら普通の人はミーム汚染を受ける」
「クロさんは大丈夫なんですか?」
「対ミーム処置を数え切れない程受けてきたからな。それで体質的にある程度のミームなら耐性を持ってる」
「耐性を……。ですがどうしましょうか。記憶を消す方法なんてありますでしょうか」
「記憶処理薬は生半可じゃ作れないからな」
俺だって作り方は知らないがSCPを利用して作ってるなんてのも聞いたことがある。
それが嘘か本当かは不明だが。
「さて、どうしたもんかな……」
それからできる方法を思案して色々と対策を講じた。
しかし、その対策は全て上手くいかず感染はキヴォトス中に広まっていた。
「ミーム汚染の条件の緩さってのは恐ろしいな」
「そうですね……」
彼女はテキパキと書類仕事を進める。
「そこ、ミーム汚染文入ってる」
「おっとありがとうございます」
そして修正する。
彼女もミーム汚染が進行しているはずなのに目立った反応は書類にミーム汚染の文章をたまに入れるだけ。
基本会話をすればねこについておしえようとするのがSCP-040-JPに感染した人の行動だ。
実際どこに行ってもねこの話を聞かない日は無い。
会話に問題ないのはこれも超人故ってところか。
「えっと次は」
「そろそろシャーレに行かないとじゃないか?」
「そんな時間でしたか」
今日は元から先生へ用があった。
こんな元の世界なら大規模収容違反で大騒ぎになってトップが出張って来そうな事態の中でも仕事をしないといけない。
必要なものをまとめて建物から出た。
「にしても暑いですね……」
「だな。今日の気温は40℃を超えるらしいぞ」
「これは熱中症対策しないと危険ですね」
「やぁ、こんにちはアロナ。それと貴方が異世界から来たという博士ですね」
「初めまして。異世界で超常的な物の研究を行っておりました石井クロです。先生の話は色んな生徒の方から聞いていて興味があったんです」
彼と会うのは初めてだ。
「私も興味がありましたから、またお話しましょう」
「はい、また飲みにでも」
大人同士なのだから仕事だろうがそれ以外だろうが緩めの話の席は飲みに決まっているだろう。
「それで今日はこちらについてなのですが……」
そして仕事の話を始めた。
ん?何か違和感があるのだが。
あれ?
「あの先生、それとアロナ」
「はい?」「何か?」
会話の間だったが流れをぶった切って声を掛ける。
これは今どんなことよりも重要だろう。
「ねこは今どうなってます?」
「どうって……そういえばいなくなってる」
「確かに……」
どういうことだ?
「ねこがいた記憶はあるんですよね……?」
そう聞くと2人とも頷く。
つまり記憶処理による治療では無い。他にも治す方法があるのか?
「2人とも!なんかさっきメール来たんだけど」
そう言って彼の持つタブレットの画面を見せてきた。
メールの内容は以下の通り。
ねこから伝言をもらいました。よろしくおねがいします。
よろしくおねがいします。 ねこはいます。ねこはどこにでもいます。 ねこはどこにでもいます。が、ねこはねこです。あついがにがてです。
ねこはおもにくらやみにいます。あなたのめのおくにいます。あたまのなかにいます。すずしいところにいます。のが、なつはあついがどこにでもいます。くらやみもめもあたまもあついがいます。ひとはあついところにねこをとどけます。くらくらするところにねこをとどけます。
ねこはねこです。ので、ねこはねます。ねこだからねます。ねるこはねこです。ますが、ひとがねこをみます。ねこがすきなひとはねこをみんなにみせます。たくさんのひとがねこをみます。よろしくおねがいされます。よろしくおねがいします。
ひとはいつでもねこをみます。あさもみます。よるもみます。ねこはおきてひとをみます。みられるのでみます。がんばってみますが、ねこはつかれます。ねろ。
ねこはいいます。ひとがねこをみるときは、すずしくして、からだをよくして、けんこおおおおおおおお0-^^¥@」」¥;lkp・・
d っdめ きいてますか。
きいてますか。
おい。
いきてますか。
みずがない。あつい。ねっちゅうしょうです。このひとふようじょうですね。じぶんのせいですよ。
きゅうきゅうしゃよびます。ので、あとはよろしくおねがいします。 もうめんどくさいです。
ねこのそうていがいでした。いどがいちばんです。
ねこはくににかえります。よろしくおねがいしました。
「これは……」
「博士、どう思いますか?」
先生が聞いてくる。
「収容かなぁ……」
そうしてSCP-040-JPはキヴォトスの暑さに負けて収容されましたとさ。
以降、SCP-040-JPの古井戸はこの世界では研究の必要性も無いので金属の蓋でガッチリと固定して物理的に誰も中を覗けなくすることで収容することに成功したのでした。
ねこはどこにでもいます。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp
↑ということで今回はSCP日本支部の代表作と言っても過言じゃない『ねこですよろしくおねがいします』でした。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp-j
↑そして後半はジョークSCPである『ねこですよろしくおねがいしません』でした。最後のメール部分はこの記事からそのまま引用しています。
今作の主人公の石井クロことSCP-14196はもちろんオリジナルキャラです。SCPは本家アメリカ版でも5000番台までしか存在していません。彼については話を追うごとに情報を出していくので楽しみにしておいてください。
あと、ジョークSCPというのはあくまでSCPの世界観にはそぐわない職員のおふざけで書かれたSCP記事というのが私の考えなのでクロはジョークSCPのことは知りません。
ジョークSCPだって普通のSCPだろ!財団世界には他と変わらず存在している!という方もいると思いますがその考えも分かります。ただ、私の中のSCP財団はジョークSCPは存在しない。貴方の財団では存在する。それが許されるのがSCPのいい所ですので。