「ハハハハ!私は最強ですよ!今ならなんでも出来る気がします!」
「おおー!」
「……何やってんだ?」
街中───というより連邦生徒会の建物の前にアロナと防衛室室長である不知火カヤがいた。
「カヤちゃんがカタナを手に入れたらしくてですね」
「今なら銃弾だって切ってみせましょう!」
「おおー。という感じで自信満々で可愛らしくて」
「へぇー」
不知火は子供のチャンバラごっこのように手に持つカタナをブンブン振り回している。
彼女は基本的に自信過剰な節があるのは短い期間の間でわかっている。
とはいえ実際能力的には防衛室長を任せるに足る人物らしく、アロナが居ない間に連邦生徒会を転覆させてトップに君臨したこともあるほどには能力が高い。
まぁ数日で奪い返されたらしいけど。
というかそんなことをやらかした奴を普通に元のポストに戻すって懐広すぎね?信長かよ。
「じゃあやってみましょうか」
「はい、いつでもどこからでも来てください!」
キヴォトスに住んでいる人達のほとんどは謎に固い体を持っており、銃を打たれても痛いくらい。
前にどれくらいの痛みかと聞くと同じくらいなのが普通に殴られることらしい。
だとしても銃声が日常なのは治安が悪いとしか言いようがないが。
アロナが銃を取り出す。
にしてもカヤは自信満々すぎるのでは?
ん?というかアレってもしや。
「行きますよー!」
アロナはカヤへ銃を向ける。
「ストッp」
バン!
次の瞬間放たれた銃弾を不知火がカタナに当てた。
そのまま銃弾を切る───ことが出来るはずもなく勢いに負けて弾かれ、カタナは彼女の手から吹っ飛んで通りががったトラックに乗って走って行った。
「すまん不知火!オリァ!」
「オグッ……」
不知火の背後へ回り込み、出来る限りの力を込めて後頭部目掛けてぶん殴った。
するとそのまま不知火は地面に倒れた。
「え?なんで殴ったの」
「これが影響を受けた対象の治療法なんだよ!」
報告書に実際にある対処法である。
記憶処理方法が確立される前なんかはこの殴打による記憶処理を行っていたらしい。
もちろん色々危険性があるため現在では行われておらず、他の記憶処理の名称になぞらえてクラスP記憶処理なんて言われている。
とはいえ何故かこのオブジェクトに対してはこのクラスP記憶処理が効く。
「とりあえずあのトラック追うぞ」
「ですがどうやって」
トラックと逆方向の道路を見るとたまたま通り掛かったバイクがいたので止める。
「おわっ!?危ねぇだろ!」
「悪い!バイク貸してくれ!」
「ハァ!?何言ってんだ!」
俺はバイクの前に立ち塞がり無理やり止める。
「お願いします」
「連邦生徒会長!?」
俺の頼みに加わってきたアロナに驚いていた。
「そこに寝てる防衛室長を中に送ってくだされば充分の報酬は渡します」
「……何か急ぎなんだな?よし!ぜってぇに返せよ!」
「助かる!ありがと!」
バイクに乗り込むとアロナが後ろに乗ってきた。
このバイク2人乗りじゃないけど……まぁここだと別にいいか。
「しっかり捕まれ!」
「はい!」
ハンドルを勢いよく回す。
すると一気にスピードが出た。
「なかなかいいバイクじゃねぇか!」
コレは貸してくれた人には感謝だな。
「とはいえどこに行った?」
走り去ってから時間が少し経ったせいで見失ってしまう。
「3つ目の信号を右です」
後ろからそんなナビの声が聞こえた。
「はいよ!」
俺は法定速度ギリで走り抜ける。
さすがに都市のトップ乗せて2人乗りの上に速度違反なんてした日にはどうなる事か。
まぁ相手も通り過ぎた時とかはスピードを出しすぎたりはしてなかった。
ならこれで!
「いた!よし、このまま!」
そして信号で止まったところでトラックの横に付けてドアをノックする。
運転手はこちらを怪しむような顔で見てきたが連邦生徒会の紋章を見せると窓を少し開けた。
「連邦生徒会がなんの用だ?」
「先程トラブルがありまして、そちらの荷台の上に物が乗ってしまいまして。それの回収をさせて貰いに来たんです」
「なるほどな。ほら、早く取ってきな」
「どうも」
バイクは彼女に預け、俺が取りに行った。
もし、アロナが取ったらオブジェクトの影響下になってしまう。
「あれ?ない?」
ここにないということは……。
ドン!
カタナが見つからず探しているとさっき通った道の方から衝撃音が聞こえてきた。
宙を舞うのは人ともうひとつ。
「あんなとこに!」
急いで荷台から降りてバイクに乗る。
「まさかあれって!」
「その通り。追うぞ!」
軽く運転手に感謝を述べてカタナを追いかける。
しかし逃げるようにどんどんと離れていく。
「取ろうとしたら逃げるものなんですか?」
「そんな異常性は無い……と思う」
「なんでそこで曖昧なんですか」
「まずもって俺の持ってる知識は向こうでの知識だからな。こっちのオブジェクトと全く同じとは言いきれん。というか俺もアクセス出来る情報には制限が付いてたしな」
俺はクリアランスレベル3を持っていた。
まぁ普通の研究員なら1番上だな。それより更に上となればサイト管理官とかの上級研究員になるしかないし。
「それであのカタナってどんなものなんですか?」
「SCP-572。持った人にこのカタナがあればなんでも出来るみたいな無敵感を与えて走ってくる車とか飛んでくる銃弾を切ろうとする。まぁカタナ自体は刃引きされてて切れ味は一切無いから重症を負うって結果になるけどな」
「危険じゃないですか!」
「だから急いでんだよ!」
放置すればするほどに被害は大きくなる。
「追いついた!」
曲がり角を曲がるとそこにはカタナを掲げる少女がいた。
「パンパカパーン!アリスは勇者の剣を手に入れました!」
「なんでこんなところに落ちてるんだろ」
「珍しいね。ヴァルキューレに届けようか」
外見の似た猫耳とシッポのアクセサリーを付けた2人も一緒にいた。
「勇者の剣!これがあれば金属のイノシシだって一刀両断できます!」
「ストープ!」
カタナを持った少女は道路に飛び出る。
「危ない!」
「アリス!」
双子らしき少女達も止めようとしていた。
目の前にはスピードを出した車。
「クソ!」
間に合わないと悟り、悪態をついた。
「一刀両断!」
ドゴン!
重たい衝撃音が響く。
しかし次の瞬間、驚くべき光景が広がっていた。
もちろんカタナで切れたりはしていない。
その代わりに少女はその場で立ち、車の方がひしゃげていた。
「だ、大丈夫か?」
近寄って聞いてみる。
「はい!アリスは平気です!」
満面の笑みで答える。折れたカタナを手にして。
「もービックリしたよ!」
「心配したよ」
「ごめんなさい!なんだがどうしてもやりたくなってしまいました」
助けに飛び出た2人も無事。
運転手は……まぁ気を失っているな。
「すいません、そちらのカタナは連邦生徒会で管理する物品でして。渡していただけますか?」
「連邦生徒会長!?」
彼女の姿を見て驚きの声をあげた。
やっぱりそういう反応になるよな。
「はいどうぞ!あ……すいません、壊してしまいました」
そこで気がついたのか差し出してきた折れたカタナを見てしょんぼりしていた。
「べつに気にしなくていいよ。元々そんなに貴重なもんじゃないし」
そうして受け取って3人とは別れた。
「本当に良かったんですか?」
「んー、まぁ壊れちゃったのは仕方ないし保管してても研究とかの価値もないしな。というか研究もしないだろ」
「今のところ連邦生徒会には研究するためのリソースは無いですね」
「だからこれでいいんだよ」
確保、収容、保護のSCPというよりオブジェクトの破壊が目的のGOCの行動に近いが事故だし仕方ない。
その後、街中で起きた事故は生徒達の行き過ぎたおふざけという緩すぎるカバーストーリーで片付けられるのだった。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-572
↑今回のSCPはSCP-572の『パッと見無敵のカタナ』でした。
本文にて逃げるように移動して被害が拡大していましたがこれはただの偶然です。たまたまそうなっていただけでもし、全く別の状況なら。というよりカヤが振り回していた時に回収出来れば普通に収容出来ました。
あくまでこのオブジェクトの異常性は無敵感を与えるだけなので。