このキヴォトスは学園都市と言うだけあって大小合わせて数千もの学校が存在している。
それだけあれば昔に廃校になっている学園なんかもある。
それがおかしい事だとかアノマリーだとかなんて言うのはバカの考えだ。
とはいえ、まれに異常性を獲得した悲しき場所もある。
「ここがその廃墟か」
「はい、昔は多くの生徒で賑わっていましたが廃校となり取り壊しになったのですが、その工事が終わった翌日に元通りに建物が戻っていたので調査が始まりました」
外見はどこにでもある普通の校舎。
しかし壊しても戻っていた……か。
「校舎へ入ると3分間隔で放送で『誰々さん、誰々さんがお呼びでした』と流れ、その後者の人物の記憶から前者の人が消えるのです」
「やっぱSCP-544-JPで間違いなさそうだな」
「やはり、そちらにもあるんですね」
「あぁ、違いとすれば場所が校舎じゃなくて潰れたデパートだったってことだな」
そうしてそこで放送をしていたのはデパート最後の迷子の女の子。
「アナウンスの声の正体は分かってるのか?」
「はい、過去に行われた調査により、その調査を行ったとされる人物がそれまでアナウンスを行っていた人物と交代したとされています」
こんなとこまで一致するのか。
「じゃあその代わりに出てきた元々アナウンスをしていた人がいたんじゃないか?」
「はい、その人は現在連邦生徒会で働いてます。会いますか?」
「頼む」
そうして連絡を取り、インタビューの場を設けた。
「君がSCP-544-JP───あの廃校でアナウンスを流していた人ってことで合ってるな?」
「はい。あの人に代わって助けられたんです」
「あの人というのは」
「調査で校舎へ侵入した方です」
もちろん調査記録時の映像や音声なんかも事前に確認済みだ。
「その人について教えてくれ」
「……あの人は悪人だったそうです。人を不幸に陥れて捕まって」
犯罪者か。財団みたいにDクラス職員を雇用していたってことか?
今はそんなことしてないはずだが昔は俺らと似た思想の人達が居たのか。
「あの人は償いをしなくちゃならないと言っていました。でも、世界は誰も自分を覚えちゃいないから嬢ちゃんに償うって……」
「そうして入れ替わったと」
頷く。
アノマリーも同じであれば起きた事象も似ている。
もしかしたら元いた世界とここは意外と近い世界なのか?
まぁ俺は時空間とかの話は門外漢だからなんとも言えねぇが。
「よし、ありがとう」
「……もういいんですか?」
もっと聞かれると思っていたのか少し驚きの混じった感じで聞いてくる。
「あぁ」
そして席を立とうとしたところで思い出す。
「そういえばアンタはアノマリー───変な能力を持った存在を調べてるらしいな」
「はい、いつかあの人をあそこから救い出すんです。あの時、私がしてもらったことを、今度はあの人に」
「……」
俺は仕事の合間に資料を読みなおす。
内容はSCP-544-JPについて。
「なにか悩み事ですか?」
「んー、まぁ」
横に置いていた紙を彼女へ渡す。
「ほら、SCP-544-JPから出てきた子いただろ」
「その子からの校舎への立ち入り許可ですか」
ここでは元々アノマリーの対処は対処可能な人で行う。……まぁこのごろはアロナが基本的に行っていたようだが。
そんなところにアノマリーの専門家とも言える俺がやってきた。
ということで俺はアノマリーに対するこの都市での管理者としてアロナと同等の決定権を持っている。
まさか一介の研究員でオブジェクト指定されてる俺がO5評議会のような立場になるとはな。
O5には異常性を持った奴も在籍してるという噂を聞いたことあるしそれは問題ないか。
「あとはこれ」
今度は書類の束を彼女に渡すとペラペラペラとパラパラ漫画のように紙をめくる。
これで全文を読めるんだから超人だよな。
「廃墟の無効化案ですか」
「うん」
いくつかの方法が提案され、それが細かくまとめられていた。
いくつか抜粋してみよう。
1.破壊
これは単純にして過去の実例から見て破壊すると効果を失ったものもある。そのため可能性は高い。
ただ、あの校舎自体が1度解体された後に復元して異常性が発現したので壊した後で元に戻る。もしくは新たな異常性を発現させる可能性もある。
そしてもうひとつの懸念点が放送室の人物がどうなるのか分からない。
2.入れ替え
言語の発話が可能なロボットに侵入して貰い、入れ替わる。
放送室の扉が開かず失敗する可能性もあるがその分、失敗しても損害はロボット一体のみであり、デメリットが少ない。
3.人が立ち入り、規定時間内に放送室へたどり着いて回収
成功する可能性はあるが放送室まで行くための道が封鎖されており、どうやっても遠回りしないと行けないので1度や2度は放送を受けてしまう。
「クロさん的にはどれが1番良いと思いますか?」
「それを悩んでる。こういう収容プロトコルが確立されてるものへの対処として最も正解の行動はなんだと思う?」
「……何もしない」
「そうだ」
何もしない。何も新しいアクションを起こさず、収容プロトコルに則ってオブジェクトを収容下に置いておく。それが正解。
しかしそれはあくまでSCP財団の理念によるもの。
GOCなら最適解は破壊だし、他の要注意団体なら神の復活の為に使うとこもあれば一般人へ販売を行う等もある。
そしてこの連邦生徒会にはそういう決まりは無い。
唯一あるとすれば危険は極力対処する。
「もうわからん。お前が決めてくれ」
どうしても財団としての思考になってしまう。
入ったのは犯罪者───つまるところDクラスと同じ価値だという冷酷な考え。
ソイツを助ける価値があるのか。それで起きうるインシデントで起きるリスクに見合うのか。
「……」
彼女は改めて書類に目を通す。
「遠隔機器による調査は行っても良いかも知れません。ですか他の案はもっと調査しないとなんとも言えませんね」
苦い顔をしてそう言うしか無かった。
「悪い、安全面の問題からお前の出してくれた案のほとんどは見送りってことになってな」
「いえ、仕方ないです」
後部座席に座る彼女からは諦めと悔しさの混じった声が聞こえる。
「その代わりという訳ではありませんが内部に入るのを許可させていただきました」
「はい」
車を停めて降りる。
そこは件の廃校。
「改めてだが説明だ。入っていいのは2分。アナウンスが始まる前には絶対に出てもらう。すぐ出られるように入っていいのは入口まで」
「必ず2分です。過ぎた時点で私達で連れ出します」
その私達というのはアロナとここの警備員。俺はもちろん入っていない。
彼女達と俺とでは元々の力の差が激しいから本気になった相手に俺が止めようとしても弾き飛ばされるだけ。
「はい、私も、もう二度と忘れられたくは無いので」
「言うことは決めたか?」
校舎の入口に立って聞くと彼女はこくりと頷く。
アロナが入口の警備員に言うと道が開けられる。
そして俺とアロナ、そして彼女の3人だけが入り口に足を踏み入れる。校舎の中はひんやりとしていて薄暗い。
さて、どういうことになるかな。
「…覚えていますか?」
彼女の声は震えていた。
「ずっと長い間、私はここで迷子になっていて…貴方に助けて貰いました」
貯めていた思いを言葉に変えていく。
「私、それから元気に生きてきました!友達も、家族もできました!旅行にも行って、勉強も頑張って、私、連邦生徒会で働くことになりました!」
「30秒……」
俺は手元のスマホのタイマーを見て経過時間を告げる。
「私は貴方を覚えています!貴方を覚えたまま、生きていくから!貴方のおかげで、私は、私は」
届くように。届くことを願って。届くと信じて見えない、彼女しか覚えていない忘れられた人へ叫ぶ。
きっと孤独な放送室に届くはずと。
「もうすぐ1分、急げ」
言葉が詰まっていた彼女に催促する。
「私は、楽しく生きてこれました!ありがとう、ごめんなさい、私は貴方の優しさに甘えます!貴方を覚えて、生きていきます!」
叫びが人気のない校舎に反響した。
時間は進んでいく。
彼女は涙を拭いて、静寂の戻った冷たい廊下の先を見つめる。
「後1分、きっかりで出るぞ」
機械的に3分ごとにアナウンスが流れるだけ。
返答なんてものは無い。それは誰もが予想していた。
「大丈夫です、解ってます。自己満足でも良いんです。私がやりたかっただけ…」
その時、ジジ、とノイズの音がした。
ハッとしてみんなが天井の音声機器を見上げる。
ノイズが続く。
そして。
『…久しぶりだな、お嬢ちゃん』
アナウンスが流れた。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-544-jp
今回の題材は孤独の放送室です。この作品に出てくるDクラス職員は私的にはトップクラスで大好きなキャラですね。
http://scp-jp.wikidot.com/sinro-soudan
また、どちらかと言うとこちらのSCP-544-JPのtaleである進路相談の方が今回のメインで着想を得た作品です。
taleの方は今作の世界観イメージとして取り入れているカノンである『ちいさなざいだん』に則って作成されているので書きたかったというのもあります。