「クソっ!ふざけんな!」
俺は銃撃戦の中にいた。
「まだまだ行くぞ!」
相手は有名な不良組織のヘルメット団。対してこちらはこの都市の警察組織であるヴァルキューレ警察学校。
この世界では警察でさえ子供がやるのかと初めは驚いた。
バーン!
「!?」
そんなことを考えていたら俺の隠れていた壁を銃弾が貫通した。
「クロさん!こっちです!」
さらに後ろの遮蔽物へアロナに呼ばれてサッと移動する。
「博士を守りながら攻撃しろ!」
警察の中でも1番偉そうな獣耳の付いた生徒が声を張る。
俺はアロナ以外には基本的に博士と呼ばれている。
シャーレの彼が皆から先生と呼ばれているのと似ている。
「クロさんも危険な世界から来たんじゃないんですか?」
「防衛手段として銃は使えはするが、基本的な仕事はデスクワークとかだけで荒事は機動部隊とかエージェントの仕事なんだよ」
実際俺が出向く時には基本立ってるだけかそこまで危険性がない状態での奇襲の時くらい。
その時だってしっかりとした防護装備を着用していた。
今みたいに着のみ着のままに危険な場所に放り出されることなんてサイトで収容違反が発生した時くらいなもんだ。
一応俺だって彼らの収容対象のオブジェクトだ。
もし死んでしまったら研究ができなくなってしまうからな。
どうする……発動して逃げるか?
そんなふうに考えている時にざわめきが起きる。
慎重に遮蔽物から顔を出して確認する。
「仲間割れか?」
「いえ、何もいなかった場所に突然武装した方達が現れました」
どうやら第三者が乱入してきたらしい。
しかも突然4人も。
そしてそのままに大量にいたヘルメット団を次々に倒していく。
撃たれて倒れるが数秒すれば元の出現地点で復活する。
「クロさん、あれは……」
「アノマリーだろうな」
あれが異常性じゃない訳が無い。
「やっぱりですか」
突然武装した複数人が現れて死んでもリスポーンする。あれは……。
「SCP-2639。ってことは!おい!撤退だ!即時撤退!」
叫ぶ。
「博士、今は作戦中です。対象の無力化も終わっていません」
「ヘルメット団じゃなくてあの4人のことだよ!アイツらは1時間経過するかその場にいる人を倒しきらないと消滅しない!そして基本的にアイツらは自分達以外は全員敵判定!早く逃げないと」
「打ってきたぞー!」
こちら側から声が聞こえたと同時に銃弾が向こうから何発も来る。
「1度撤退しましょう」
「……撤退!全部隊即時撤退!速やかにこの場から離れろ!」
アロナの言葉で彼女は撤退命令を出した。
安全圏まで退避して10分後、ドローンカメラで戦いが終了したのが確認された。
「それであれはなんですか?」
俺はアロナと騒動の後に集まった。
話の内容はもちろんあのアノマリーについて。
「あれはSCP-2639。突然武装した数人の集団が現れて周囲の人を倒し始める」
「対処法は?」
「その場での対応は民間人の避難くらいだな。そいつらは基本的に倒しても数秒後には復活する。倒しても意味が無い」
対処には苦戦したと聞いている。それに報告書でも何十回も発生したインシデントについてのものを読んだことがある。
発生地点が完全にランダムなので財団をもってして対応が後手に回るしかない。
「ではその場以外でなら何かありますか?」
「ある」
それは調査にて判明している。
「それは?」
「アイツらはどこかのデスクトップPCから立ち上げたゲームであの場にスポーンしてるんだよ。だからそのPCさえ回収すれば同じことは起こらない」
財団は必死の捜索の末にそれを発見した。それにより元はオブジェクトクラスがKeterだったのがsafeに分類されることとなった。
「ですがどのように探せば?」
「アイツらなら誰かわかるぞ」
「ホント?」
「というかお前も会ったことあるんだけど。分かんないか?」
アロナに聞くが首を傾げられる。
アイツらはフルフェイスで全身を覆うように装備を付けていた。
普通じゃ誰か特定するのは難しい。実際財団が苦戦したのは身元の確認が出来なかったからだろう。
とはいえこの世界の住人───というより生徒達にはヘイローと呼ばれる天使の光輪のようなものが浮かんでいる。
それは個々人で形が異なっている。そして被り物をしてようが普通にそれを無視して頭上にヘイローは出る。
つまり簡単に個人が特定出来る。
しかも幸運なことに会ったことのある人と同じものだったので助かった。
「それで名前は?」
「名前は知らん」
「え?」
実際軽く話しただけだし。
「ほら、この前カタナを折った3人組いただろ」
「あの子達ってことですか?」
「1人は知らんがそれ以外は合ってるはず」
「すぐに調べます」
そうしてすぐに身元が特定された。
「ここか……」
「はい、彼女達が在籍するゲーム開発部の部室ですね」
そこはミレニアムサイエンススクールにある一室。
コンコンとノックする。
「はい!今出ます!」
元気な声のすぐあとに扉が開け放たれる。
「こんにちは」
「あっ!この前のカタナの時の人!」
「連坊生徒会長もいる」
「突然押し掛けてすいません」
すると歓迎するように喜ばれ、部室へ入れて貰った。
「もしかしてやっぱり壊したから弁償とか?」
「すいません!アリスが遊んでしまったせいで!」
「その事じゃないから安心して」
実際あれはもう報告書作成時にNeutralizedに分類した。
つまるところ異常性が消失したということ。
「今回はこれについてだ」
皆へ写真を見せる。
すると驚いた顔をした。
間違いないか。
「知っているよね?」
「えっt───」
「はい!これはアリス達です!」
桃色の猫耳カチューシャを付けている才羽モモイが誤魔化そうとした素振りをした次の瞬間、自身の身長より長い髪を持ったカタナを壊した張本人である天童アリスが肯定する。
「? 言っちゃダメでしたか?」
「いや……えっと」
困りながらこっちを見てきた。
「ダメじゃないし助かる。それにここに来るまでに調べたが、今までの発生地点は暴動が発生した地点のみ。まぁそこに駆けつけた鎮圧部隊もそのまま倒してるのは問題だが」
そういうと目を逸らす。
「別に死んだりとかはしてないからそこは問題ない」
この世界の人達の頑丈さとこの町の治安の悪さに感謝だな。
「とはいえ危険なことには変わらないので回収に来たんです」
「どこにある?ってそれか」
部屋の一角にあるテーブルの上に置かれたPC。
他にはなさそうだし間違いないな。
「待って!」
PCの置かれた机に向かうとモモイが立ちはだかる。
「このパソコンにはこの部活で作ったゲームの大事なデータがいっぱい入ってるから渡せないんです」
するとその横にモモイの双子の妹で緑の猫耳カチューシャを付けた才羽ミドリが立ち、モモイを挟んで逆側にアリスが立つ。
「そんなこと言われてもな……」
頭を搔く。
無理と言われてはいそうですかと渡せるほどの問題では無い。
「では内部データを調査し、別のPCへ異常なものを除いて転送するというのはいかがでしょう」
俺たちが欲しいのはあくまで本体と異常性の原因であろうゲームのデータ。
「このPCも大事なものなんです」
さて、困ったぞ。
元の世界なら記憶処理の上で全く同じ型番のPCと差し替えれば問題ないがその記憶処理が出来る薬がない。
「なら、対戦して勝った方が勝ちにするのはどうですか?」
ずっと隠れてこちらを見ていたこの部の部長である花岡ユズがそんな提案をしてきた。
「対戦か……言っておくけど俺の体はシャーレの先生と同じだからな?」
あの先生はキヴォトス外から来た人間らしい。そんな先生の耐久力は銃弾1発で致命傷になるというほぼ俺基準の普通の人間と同じ。
じゃあ逆にこのキヴォトスの住人が硬いのが謎になってくるが。
「直接なんてしないよ!やるのはこのゲーム!」
そう言って彼女はPCを立ち上げた。
それはFPSゲーム。つまるところSCP-2639の原因であろうものだ。
「どうしますか?」
アロナがこちらを見て聞いてくる。
危険ではあるが……。
「わかった。やろう」
仕方ないか。
「よし!じゃあルールを決めよう!まずモードはPvPのチーム戦!そっちは2人だし2対2にしてフィールドは……」
「他の人を巻き込まない場所で頼む」
「なら体育館!それでバトルルールはどうする?」
「そうだな……」
彼女らはゲームに関する部活。開発、つまり作るという側面に置いているが下手な訳が無い。そして向こうから吹っ掛けて来るってことはその分勝てる自信があるってこと。
なら、アレをやるしかないか。
「復活なし。制限時間は2分。終了条件は2分間経過かチーム合計2キルに達する。以上だ」
「それだけでいいんですか?」
「あぁ、早速設定してくれ」
「はーい」
そうして準備を始めた。
彼女らから離れ、アロナと小声で作戦会議をする。
「勝てるんですか?」
「……1つ確認だ。もしアイツらと2対1。つまりアロナ1人のみで対戦するとなったらどう動く」
「変な質問ですね。私なら基本は敵の動きを見極めるために守りや逃げに徹しますかね」
「なら勝てる」
俺は確信した。
「ではカウントダウンと同時にスタートです!」
「よ、よろしくお願いします」
「お手柔らかに」
ゲームを起動させた次の瞬間、場所は体育館へ変わっていた。
ゲーム開発部側のメンバーはアリスとユズ。
空中にカウントダウンと2:00という数字が出る。
5.4.3.2.1.GO!
それと同時に2チームを分断していた半透明のバリアが消失した。
1:59
「██████」
「さて、どう出ますか?」
アロナは体育館内に設置された様々な障害物の影に身を潜め、頭を出す。
次の瞬間ビームが顔を掠めた。
「───ッ!」
すぐに遮蔽へ戻る。
「ビーム……いや、あれはレールガンですか」
使用者はアリス。
アロナはその一瞬で彼女達の武器を確認した。
「つまりこのまま隠れていれば……」
アロナはタイミングを見計らいその遮蔽から飛び出る。
その瞬間、先程まで隠れていた遮蔽物は爆発した。
「グレネードランチャー!」
爆発の原因はユズの持つ武器。
そしてアリスが銃口をこちらへ向けてきていたのが確認できた。
アロナは急いで身体をねじる。すると自身のすぐ側の空間にまたビームが飛んできた。
1:40
弾切れ、もしくは引き分けを狙いますか。
射撃の為に立ち上がった2人に合わせて一瞬顔を出して2発打つ。
アリスはレールガンの本体で防ぎ、ユズは遮蔽物で回避する。
当たらなくても牽制にはなりますかね。
1:30
「行きます!」
そんな大きな声と共に走る音が聞こえる。
少し重たさを感じる足音だった。
「正々堂々勝負です!」
アロナは立ち上がり、真正面から受けて立つ。
アリスのビームを回避しアロナの発砲。しかしそれも防がれる。
距離は縮まり、直接の肉弾戦となる。
アリスはレールガンを振り回して打撃武器として使う。
回避しアロナは超近距離から発砲するが、それと同時にアリスは後ろへ飛んで銃を弾く。
1:20
一瞬ユズの方を確認するがアロナへ照準を合わせてはいない。
彼女の武器は範囲攻撃、こうも近いとフレンドリーファイアを誘発する恐れがある。
なら各個撃破が可能!
アロナはそう確信し意識をアリスへと戻す。
とはいえアリスの方がこのゲームの経験値がある。
そのせいでアロナは勝ち筋を見つけられないでいた。
「これで終わりです!」
悩んでいるとそこを見計らうかのように至近距離レールガンを発射。
「くっ。せめて道連れ!」
回避できないと判断し銃を連発する。
そうしてアロナ、アリス両名は直撃し、死亡した。
1:10
「これで勝ち……」
1:09
「あれ?終わらない?」
敵チームを倒したのに対戦が終わらないことにユズが首をかしげる。
そうして思い当たる。
この試合のルールは2分経過、もしくはチーム合計2キルを達成したら。
じゃああと1分待ってればいいのか。
「……そういえばなんで2対1?」
連邦生徒会長は自身の能力を見誤るような人ではないはず。
なら向こうから提案するのは1対1。
何かおかしい。
1:00
「俺らの勝ちだ」
ありえない程に強い存在感を感じ後ろを振り向こうとする。
しかし次の瞬間には頭に強い衝撃を喰らってしまっていた。
「ということで勝ったから回収、それと交換させて貰うから」
「うー!くーやーしーいー!次は私!私達の番だよ!さっきのは……そう!2人に慣れさせるための練習試合!」
「無理だ。そんなのが大人との交渉に通らねぇよ」
「仕方ないよ。諦めよう」
モモイをミドリがなだめる。
「連邦生徒会長さん凄く強かったです!また一緒に遊びましょう!」
「はい、機会があれば喜んで」
激闘を繰り広げたアリスもアロナは少しの絆が生まれていた。
「あの……博士さん」
「ん?」
PCを手に取ったところでユズに話しかけられる。
「先程の気配を消すのはどうやっていたんですか?」
「あー……まぁ特殊スキルみたいなものを発動させただけだ」
「そんなのゲームにあったっけ?」
「さあ?」
皆首をかしげる。
「とりあえずこれは回収だ。遅くても3日以内に新しい異常性のない物を届けるから。じゃあお邪魔しましたー」
「あっ、ちょっと!失礼します」
そうしてSCP-2639の回収は完了し、彼女らに言った通り、内部の異常性の無いデータのみを別の非異常性のPCに移し替えてゲーム開発部へと戻され、収容となった。