深夜12時を回った頃。そろそろ寝ようとした時、1件の通知が届いた。
アノマリーが出現しました。
俺はアロナと合流し、発生地点であるアドビス高等学校へ向かい、到着すると校庭で1人の緑髪の少女が踊っている。
「アレがアノマリーですね」
「みたいだな……」
その踊っている少女の隣にはピンク髪の少女───小鳥遊ホシノが立っていた。
彼女とはこの世界に来た時に通った穴のオブジェクトを確認するためにここの砂漠にやってきた時に会っている。
「こんばんは、この前ぶりだな」
「こんばんはホシノさん」
「博士、アロナちゃん」
その雰囲気は以前会った時のような緩い感じではなく苦しそうな表情をしていた。
彼女はこちらを見てからまた踊っている少女へと視線を移す。
「あの人はユメ先輩じゃないんですよね?」
「あぁ、あくまでアノマリーだ。そのユメって人じゃない」
彼女の手には拳銃が握られていた。
アロナへ目配せしてユメという人物を知っているか確認する。
すると首を振って、タブレットを触り始めた。
「踊るだけだったりしないんですか?」
「そんな優しいもんならいいんだがな。アレが出現している間、周囲の人物が夜明けを知覚出来なくなる。その効果範囲は拡大していき、放置してると世界に朝が来なくなってしまう」
これはAK-クラス:世界終焉シナリオというものが発生してしまうアノマリー。
世界終焉シナリオ、又はKクラスシナリオとはその名の通り、財団が仮定した世界が滅びる場合に起こりうるシナリオ。
そしてこのAK-クラスはアノマリーの異常性により人類の認識が書き変わり、それまで通りの生活が出来なくなるというものだ。
「対処法は」
「拳銃が手元に出現した人物───今回はホシノだな。お前が踊っている人を撃たないといけない」
「それ以外の方法は」
「無駄だろうな。試してみるか?」
ホシノに聞いてみるとギロっと睨まれる。
少し小馬鹿にしているように取られたか?
「お前が望むなら好きなだけ試させてやるし、協力もしよう。ただタイムリミットは夜明けの6時だ」
その殺意を持った目をあえて無視して話を進める。
もし何か攻撃してきてもアロナが防いでくれるしな。
「いい。その代わり話させて」
「ご自由にどうぞ」
俺とアロナは下がる。
「良かったんですか?急がないと大変なんじゃ」
「まぁな。でも大切な人の偽物であっても自分が引導を渡すんだ。決心には時間掛かるだろ」
ほんと酷というかなんというか……。
とはいえ朝までには無力化してもらわないと困る。
逆に言えば夜明けまでに対処してくれれば問題は無い。
「ユメ先輩……」
「ホシノちゃん、こんばんは!」
「こんばんは。どうして踊ってるんですか?」
複雑な顔をしながら彼女に話しかける。
「夜の次には朝が来るから、ずっと、朝が来るまでなら踊っていられるの」
踊りながら彼女は答える。
「疲れないんですか?」
「全然!いつまでだって踊り続けられる、そうであってほしいでしょ?だから朝が来るまでは」
「……」
1分の間の沈黙。
「クロさん」
その時にアロナがタブレットを見せてくる。
そこには今目の前で踊るアノマリーの元になっている少女である、梔子ユメについて纏められていた。
アビドス高等学校の元生徒会長。
2年前にアビドス砂漠で死亡。詳しい死因は不明だが、大嵐によって遭難して死亡というのが公的な原因となっている。
なるほどな。不幸な事故って奴か。
「そうですか。でも、駄目なんです。朝は来なくちゃいけないんですよ、ユメ先輩。みんな朝は来て欲しくないと思っていますけど」
苦しそうに。泣きそうな声で伝える。
「そう、分かった。ずっと踊っていたいけど、朝なんて来てほしくないけど。それが駄目なら止めてほしい。ずっと夜の中にいるのが嫌なんだったら───」
「嫌なわけないじゃないですか、ずっと先輩の踊りを見ていたいです。今も一緒に馬鹿なことを出来ていたはずの貴方と一緒に踊りたい」
「彼女はお前の知っている梔子ユメでは無いぞ」
「クロさん!」
俺の言葉にアロナが声を荒げる。
彼女の顔に目をやると顔をしかめて怒っていた。
「じゃあ一緒に踊ろうよホシノちゃん♪」
「博士……」
踊りながら差し出された手に、ホシノは手を伸ばしそうになって止め、俺のことを縋るように見てきた。
「ダメだ」
「…………」
これで日が昇る時間になっても拒否した場合、手のつけようが無くなる。
「大丈夫!ホシノさん!踊っておいで!」
「───ッ!」
アロナが許可を出すとパァァァと笑顔になり、彼女の手を取って踊り出した。
「お前なぁ……」
「子供の願いを聞くのが大人の義務だからね───って先生なら言いますよ?」
「できた大人じゃないんでね」
不良含め、ほぼ全ての生徒から信頼されているような完璧人間と比べられても困る。
こちとら天才達の集まる組織で忠誠心があるからってだけで博士やらされてただけの凡人だぞ。
頭を掻きむしり、ため息をつく。
「6時までだ」
タブレットを取り出す。
「あと5時間しかないんだ。お別れの挨拶でもしとけ」
アラームを設定して寝るために校舎の中へ向かう。
「アロナはどうする?」
「……見ています」
「そうか……じゃあ記録は頼んだ」
アラームが鳴る。
外を見ると空は白んで来ていた。
とりあえず起きて校庭へ出るとローテンポな社交ダンスをしていた。
「おはよう」
「おはようございます」
アロナのそばへ行き挨拶する。
その顔はいつも通りで疲れは見えてないが、休まずに彼女達をずっと見ていたのか。
「この時間でもまだ真っ暗な夜ということは……」
「アノマリーの影響下ってことだ」
相変わらずこのアノマリーのミーム汚染も俺には効かないか。
「2人はずっと踊ってたのか?」
「はい、ユメさんはアノマリーだから踊れるとしても、ホシノさんも休まず踊れるなんて驚きですね」
5時間休まずか。バケモノ体力だな。それこそ熟練の機動部隊員並だ。
「ホシノ!タイムリミットだ!」
踊りながら話している所へ呼び掛ける。
そして2人は少しそこから踊ってダンスに一区切りつくとホシノだけ離れ、ユメは踊りを再開した。
ホシノはふぅと息をつき置いていた拳銃を手に取る。
「最後にお前に言わなければならんことがある」
「……なんですか?」
こちらを見ずにホシノは答える。
その視線はユメへと向いたまま。
「彼女を撃ち抜くことで夜明けを認識出来ない異常性は消失する。だがお前だけはその異常性は残る」
「えっ、それってつまりホシノさんだけはずっと夜のままってことですか?」
「そうだ」
このアノマリーは射撃を行う人物のみ、この異常性が残る。これは記憶処理などの財団による様々な処置によっても解消されることは無い。
「そんなの……あんまりですよ」
「いえ、夜が明けないことがユメ先輩からのプレゼントなんです。それを最後に貰えるなんて嬉しい以外ありません」
そうして彼女はユメへと銃口を向ける。
「最後に5時間でしたが話せて良かったです……さようなら」
「うん……バイバイ、ホシノちゃん!」
銃声は暁の空に響いた。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1917-jp
今回は死者と残された人に関係するSCPでした。
このSCPをブルアカでやるならホシノとユメの2人しかいないってことになりました。
そしてホシノの世界にはこれから夜明けは来ません。ずっと夜です。
まぁ元記事でも夜明けを認識できなくなった対象はそれを受け入れてるらしいのでホシノも大丈夫でしょう。