「残りは後でやればいいですよね……」
「……」
アロナの執務室にやってくると、いつもテキパキと仕事をしているはずの彼女がやる気なくぐでーっとしていた。
「何してんだ、仕事はしなくていいのか?」
「いやー、どうにもやる気が湧かなくて」
彼女はやる気以前に義務の為に仕事を進めているような人間だと思っていたが……。たまにはそういうこともあるよな。
誰にでも、どうしたって何もしたくない日はある。
「ちょっと見せてみろ」
彼女の机に置いている書類を確認する。
どうやら今日中に処理しないといけないものは既に終わらせているらしい。
やる気がなくてもやらないといけないことはやっているのは流石としか言いようがない。
「触るぞ」
彼女の額に手を当てて熱を測る。
「お気遣いありがとうございます。でも体調が悪いとかでは無く、やる気が出ないだけなので」
確かに熱は無さそうだし、顔色もいつもと変わらない。
「体調不良じゃなくても心が疲れてるんだろ。今日は早上がりするか?」
「……そうですね」
時刻は昼を回った頃。
いつもならここから夕方、下手したら深夜に差し掛かる時間まで仕事をするのが基本。
ほぼ休みなく働いてるんだから午後休くらいあっていいだろ。
「さてと、これからどうする?」
とりあえず七神リンに午後休を取ることを伝えると快くOKを貰えた。
元々働きすぎと思っていたらしい。
それにアロナが失踪していた期間には彼女が連邦生徒会長代行として動いていたらしいし何かトラブルが起きても問題なく対応できるだろう。
「そうですね……」
いつもより覇気のない返答をしながらも一応何するかを考えているらしい。
すると彼女の腹がぐぅーと鳴って答えた。
「とりあえず何か食べに行くか」
「ですね」
「プリンアラモードとブレンドコーヒーをふたつずつ、以上で」
注文を伝えると「かしこまりました」と言って店員は離れていった。
「こんなところ知ってたんですね」
今いるのは明るく可愛い系の装飾の施された、いわゆる女性向けスイーツカフェ。
正直こんな場所を知っているなんて意外と思われるのは俺だって理解できる。
「モモカとこの前話してた時に話題になってるってのを聞いてさ」
この店はどうやら持ち帰りできるらしいし買ってってやるか。
「仲良いんですね」
「まあ仕事仲間だからな」
仲間とは良好な関係を築いていて損はない。
彼女の性格的に仕事には真面目では無いが室長なのは間違いないしな。
「……」
「?」
俺の顔をジーッとみてくる。
「なんかついてるか?」
自身の口元に手をやり聞いてみるが「なんでも無いです」と返ってくるだけだった。
そうしていると「お待たせしました」と言って料理が届いた。
目の前に置かれたのはメロン、イチゴ、マスカット、さくらんぼ、りんご、などなどのフルーツに囲まれたたっぷりのクリームが乗ったプリン。
なかなかに食いごたえがありそうなプリンアラモードだな。
そして一緒に注文したブレンドコーヒーは香りから深みを感じる。
正直コーヒーはあまり好きじゃないから良し悪しはわからんが。
「いただきます」
「いただきます」
俺の後に続いて手を合わせると食べ始めた。
「美味しいですね」
「だな」
プリンをクリームと共に口にすると苦味の強いカラメルと甘いクリームがちょうどよい。
フルーツも食べてみるが、こちらも噛めばフルーツ特有の瑞々しさと甘さがやってくる。
それに合わせてコーヒーを飲めば口の中が味わい深い苦さでリセットされた。
なるほど、話題になるだけあるな。
顔を上げると食べ進めている彼女の口元にクリームが付いていることに気がついた。
「アロナ」
「?」
「ついてる」
そういうとテーブル端に置かれた紙ナプキンを見てから目を閉じて食べるのを再開した。
それさえも億劫なのか。
「ほら」
紙ナプキンを取って口元を拭いてやる。
子供の世話をしているみたいだな。いやまぁ子供ではあるんだが。
どのみち今日は甘やかしてやろう。それくらい許されるだろ。
「マッサージ店ですか」
「あぁ、先生がオススメしてたからな」
アロナをおぶってやってきたのは以前に先生が「本当にすごく体が軽くなったのでオススメですよ」と勧めてくれた場所だ。
ちなみになんでおぶっているかというとスイーツ店を出た後に「移動するのは後でいいんじゃないですか?」と言われた。
疲れたかと思いベンチで休憩していたが、1時間経っても同じことを言うので仕方なくおぶって移動している。
「お前も超人って言われるような奴だったとしても疲れはあるだろ」
「かもですね」
ということで入店。
内部は落ち着いた雰囲気。
観葉植物が置かれ、ライトは少し薄暗い程度。
そして手続きを済ませてマッサージが始まった。
すると的確に凝っている所を押されていく。指圧は少し強めだが、痛気持ちいいというような具合になっている。
施術開始直前に言っていたリラックス効果のあるアロマの匂いもとてもよく、体の力がどんどんと抜けていく。
そうしてマッサージ師に全てを委ねていたら、すぐにマッサージは終了した。
「んーっ!本当に体が軽くなりましたね」
「だな」
自分で思っていたより疲れが溜まっていた証拠か効果は抜群だった。
マッサージ店から出る。
空の太陽は傾いて、ビル群の中に沈み始めていた。
「クロさーん」
「ハイハイ」
しゃがんで背を向けてやると彼女は背中にピッタリとくっつく。
どうやら体がほぐれてもまだやる気は全く無いらしい。
「どっか行きたいとこあるか?」
「なんでもいいです」
俺に全体重を掛けて脱力している。
「じゃあ帰るか?」
「帰る……うーん…………」
どうやらまだ帰りたくはないらしい。
しかしこの時間からか……。
食べに行くのはまだ早いよな。まず俺の腹はプリンアラモードが居座ったままだ。
「じゃあ映画でもどうだ?」
「いいかもですね」
ということで映画館にやってきた。
「何見る?」
これから上映される作品を確認する。
「そうですね……シン・ペロロジラしかないですね」
「確かに。じゃあこれで決まりでいいか?」
「はい」
ということでシン・ペロロジラという巨大なブサイクな顔をした巨大な鳥のマスコットの映ったポスターの作品を見ることになった。
これってシン・ゴジラとかと同じ系譜というか、あの脚本家とは別人だしパクリなのでは?
……まぁいいか。
「意外と面白かったな」
「完成度高かったですね」
登場人物達の人間模様や空気感、そして演出がとても凝っていて見ていて飽きない良い作品だった。
これはパクリでは無くオマージュだな。……いや、まずこの世界にあの人いないか。ならこの作品の脚本家がこの世界でのあの人なのか?
……また調べとこ。
「豚骨ラーメン麺固め野菜普通の背脂マシマシで」
「あー…………私も同じで」
ということで夜ご飯はラーメン屋に来ていた。
何食べたいか聞くと、なんでもいいと言われたからじゃあとラーメン屋を提案したらOKが出たのでやって来た。
彼女は背もたれにもたれかかって天井付近をボーッと見ながら固まっている。
まるで抜け殻になったようで、疲れとかじゃなく、心が壊れたんじゃないかと心配になってきた。
明日も変わらなかったらもっとしっかりした対応を考えないとな。
そうして少しすると「お待たせしました!」と言いながら目の前に二郎系ラーメンが置かれた。
野菜を普通盛りにしたはずなのに山のようになっている。
普通盛りにして正解だったな。
「いただきます」
「……いただきます」
俺が手を合わせて食べ始めてからやっとのそのそと手を合わせた。
ラーメンは超こってりで体に悪そうだが、同時に美味い。
集中して食べ進めるとすぐにスープだけになった。
まだ腹には余裕あるし替え玉でも注文するか悩みながら横に座るアロナを見る。というより彼女のラーメンを見ると3分の1も食べれてないのに箸が進んでいない。
「大丈夫か?」
「……半分食べてくれませんか?」
「まぁいいけど」
前から思ってはいたが、やっぱり少食だったか。
彼女のどんぶりからラーメンと野菜を半分回収する。
そうして俺が食べきってから更に10分程で何とか食べきっていた。
「よし到着」
彼女が歩きたがらないのでそのまま家まで送ってきた。
「ほらここからは歩け」
「はい……」
しゃがむと渋々といったように背中から離れた。
するとその拍子に彼女のポケットから何かでてくる。
「落としたぞ……って石?」
拾ってみるとそれはどこにでもあるような石だった。
なんでこんなものポケットに入れてたんだ?
「それはクロさんが持っててください」
「え?なんだよコレ」
「それは………………明日説明します。では」
「お、おう……」
そうして彼女は扉の奥へ消える。
「明日聞けるなら明日でいいか」
俺はその石をポケットに入れて帰ることにした。
ちなみにその石にはやる気を無くさせるミーム能力があったのを次の日に知り、俺の手で収容。
アロナもいつも通りに戻ったのだった。