龍娘々伝   作:苦心惨憺

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第11話

「ご、51番、天下一武道会出場決定!!」

 

 審判により本選出場の宣言がなされ舞台を降りていく、そこで悟空と目が合い礼をして去っていくカノン。そのカノンの背を見ながら先ほどの桃白白との戦いを振り返る悟空達。

 

「とんでもないな。あの子」

 

「ああ。悟空と戦いたいってのは冗談なんかじゃないな」

 

 クリリンとヤムチャはカノンの強さを目の当たりにし悟空と戦うだけの力があるとみた。それよりも気になるのは最後に見せた桃白白のスーパーどどん波をはじき返した技だ。あれはただはじき返した訳ではない。

 

「あれは、自分の気を上乗せしてはじき返したのだ」

 

 天津飯は、桃白白を担ぎ上げながら思った。あの技ははじき返すタイミングが少しでも狂えばそのまま直撃してしまう、また自分の気を上乗せする時もうまく乗せることができなければ暴発してしまうだろう。まさに気功波のカウンターとでもいうべき技だ。自分にも使えるかどうか。

 

「それにただ上乗せしたわけじゃねぇ。相手の技のコントロールを完全に奪っていた」

 

 悟空の言う通りカノンが桃白白に気功反射砲を当てる瞬間上に方向を変え、さらに爆発しないよう気を炸裂させて周りに被害が出ないようにした。あの年にしてこのセンス、悟空は心臓が高鳴るのを感じた。

 

「オラ、ワクワクしてきたぞ!」

 

 

 

 

 

 悟空がワクワクしていた時、カノンはズーンと落ち込んでいた。悟空の呼びかけがなかったら確実に桃白白を殺していた。別にあんな奴が死んでも構わないのだが、それでは悟空と戦う為に来たというのにあそこで終わっていた。3年間の修行も無駄になるところだった。

 なにより、

 

「私の後ろには母様はいなかった」

 

 そうなのだ、桃白白は挑発してきたがカノンの後ろにはチチはいなかった。チチの気ならば直ぐにわかる、なので巻き込まれるということはなかったのだ。どうもカノンは身内のこととなると怒りやすくなるようだ

 

「え~とでは、出場が決定された選手の皆さんはこちらの方へお集まりください」

 

 スーツ姿にサングラスの審判が出場選手を呼んでいる。集まってくる選手はどれもこれも滲み出る強さを持っている。一人だけ確実に一般の強さの者もいるが、これは単純に運がよかったのだろう。

 やはりこの中で飛びぬけて強いのは、孫悟空、そして白いターバンにマントの緑の肌を持つ男、それに眼鏡をかけたちょび髭のおじさん、カノンもチラリと予選の様子を見たが道化を演じながらも相手に接触する瞬間だけは、気の運用が抜群だった。なぜそんなことをするのか分からないが、ぜひ戦いたい相手だ。

 

 本選のくじを引くときに何やら審判の人とクリリンがやり取りをしていたが、いよいよ悟空と戦える舞台に立つことができる。そしてカノンはドキドキしながらくじを引く。

 

(父様と!父様と!!孫悟空と!!!)

 

 そして対戦相手が決まる。

 

 第一試合、カノン対天津飯

 

 第二試合、孫悟空対 カズーセ

 

 第三試合、マジュニア対クリリン

 

 第四試合、シェン対ヤムチャ

 

 

 

(父様と一回戦では戦えませんでしたか。でも天津飯さんとだ!ワクワクしてきます!)

 

 悟空と初っ端に戦えないのは残念だが、相当の実力者である天津飯と戦えることを考えたらこの組み合わせも悪くない。何せ一回勝てば悟空と戦えるのだ。ほかにも強い者が大勢いる中で決勝まで進まなければ悟空と戦えないとしたら、それまでの戦いで消耗する体では思いっきり悟空と戦うことはできない。できるなら万全の状態で戦いたいカノンだった。

 

「あっそうだった!母様と待ち合わせしていたんだった!」

 

 本選試合までの短い時間だがチチが軽い食事を用意してくれているはずだ。急がないととカノンは待ち合わせ場所に急ぐ。

 待ち合わせ場所にはすでにチチがいて、カノンに手を振っている。

 

「カノンちゃん!本選出場おめでとう!」

 

「有難うございます!母様!」

 

 カノンに抱き付きながら祝福するチチ。そして荷物の中から包みを取り出しカノンに渡す。

 

「はい、カノンちゃん、おにぎりだ。一回戦から戦うことになるだ。あまり詰め込んだらダメだべ」

 

 チチからおにぎりを受け取りおいしそうに頬張るカノン。そこでチチは飲み物を取り出そうとして気が付いた。

 

「あ、おらとしたことが飲み物を入れ忘れただ。御免なカノンちゃん、すぐ買ってくるからここで待ってるんだぞ」

 

「いえ、母様。私別に」

 

 とカノンの制止も聞かず駈け出してしまう。それを見て、しょうがないので残りのおにぎりを食べてしまおうとしてふと、怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「この恩知らずが!!」

 

「・・・・・鶴仙人様」

 

 壁の影から覗き込むと、あの餃子が着ていたものにそっくりな道着を着て鶴をあしらった帽子を被っている老人が、天津飯を怒鳴り散らしている。

 

「年端もいかぬお前に武道のイロハを教えた弟をこんな目に合わしおって」

 

 鶴仙人は肩に背負っている桃白白を見ながら言う。折れた左腕、白くなった髭、後ろから垂れている髪も白くなっている。何より余程恐ろしい目にあったのかがくがくと震えている。

 天津飯は何も言わず佇んでいる。これを見たカノンは誤解を解く為に鶴仙人に話しかける。

 

「あの、すいません。桃白白さんをそんな目に合わせてしまったのは私です」

 

「カノン!」

 

 黙ってかつての師の暴言に耐えていた天津飯はカノンが現れたことに驚く。鶴仙人は突然現れた小娘の発言に鼻を鳴らす。

 

「ふん。なんだ小娘がお前のような奴が」

 

「ひ、ひいいいいいいいいいいいい!!!!!!!?」

 

 しかし、カノンの声を聞いた桃白白は奇声を上げ背負っていた鶴仙人から転げ落ち、カノンから少しでも遠ざかろうというのか地面を這ってずり下がる。

 

「た、桃白白・・・・?」

 

「・・・鶴仙人様、もう二度と我々の前に姿を現せないでください」

 

 完全に心を折られてしまった桃白白に憐みの目で見て、鶴仙人にお願いする。鶴仙人は怒りでプルプル震え再び桃白白を背負い、そのまま舞空術でフワフワと浮く。

 

「貴様!!碌な死に方はせんぞ!!そこの小娘も!?」

 

 天津飯は鶴仙人に義理がある為何も言わないが、カノンには関係ない。悪意を持って接してくる相手には悪意を持って応える。

 

「・・・・・・」

 

 鶴仙人は、なぜこんな小娘に桃白白が怯えるのか理解した。あの目だ、あの冷たい目。こちらを虫けら以下に見ている目。こんな小娘ができるような目ではない。鶴仙人はごくりと喉を鳴らし、去っていく。もう二度とこいつには関わらないと思いながら。

 

 

 

 

 

「すまんな、カノン。結局、俺がやるべきことをすべてさせてしまった」

 

 頭を下げてくる天津飯にカノンは慌てて手を振る。

 

「そ、そんな!私こそでしゃばった真似をして」

 

 それを見た天津飯はふっと笑い、次はカノンの顔を真剣に見る。

 

「しかし世話になったからといって、試合では一切手は抜かん。お前が強敵だと理解できたのでな」

 

「はい、勿論です。」

 

 差し出してきた拳に拳を合わせ、天津飯は去って行った。カノンが充実感を感じているとチチの呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「そうだった!!母様を待たせたままだった!!」

 

 急いで戻るカノンだった。

 

 

 

 

 いよいよ始まる第一試合、武舞台の周りは客でいっぱいになりすごい熱気になっている。

 

「第一試合はカノン選手と天津飯選手の対決です。それでは両選手、登場してください!」

 

 カノンは武舞台に進む中、前にいる悟空と目が合う。

 

「頑張れよ!カノン!」

 

「は、はい!!頑張ります!!」

 

 まさか応援してくれるとは思わなかったカノンは、感激し足が軽くなる。そして先頭をカノンその後ろを天津飯が続き大勢の客が見ている武舞台に歩みカノンと天津飯は向かい合うように相対する。

 ざわざわとしだす観客たち。

 

「おい、あれ」「え、子供?なんで子供が?」「大丈夫か?あんな子供が?」

 

 そのざわめきにサングラスの審判はカノンを紹介する。

 

「みなさん!!カノン選手はなーーんと、今までの天下一武道会最年少5歳の天才少女です!!予選ではほとんどの選手を一撃のもとに下してきました!!それだけの実力者なのです!!!」

 

 観客が驚きの声を上げる。

 

「そして天津飯選手は前回の優勝者!!果たしてこの試合どうなるのか!!!それでは!!はじめてください!!!!」

 

 わーーーと興奮の声が上がり、カノンと天津飯は構えをとる。お互いじりじりと間合いをつめていく。ドンと地を蹴り先に仕掛けたのはカノン、それを迎え撃つ天津飯。拳、蹴り、肘、膝、互いに打ち合い、互いに防ぐ。それが炸裂するたび大気が弾ける。そしてそれは地上戦だけではない。

 天津飯の蹴りを避けるのに合わせ、上空に飛んでいくカノンそれを追撃する天津飯。追ってくる天津飯に左右の掌から気功波を放つ。

 

「甘いぞ!!!」

 

 それを両腕で軽く弾く天津飯。弾かれた気功波は散り散りになり霧散する。それでも近づけさせずと連続で放ち続けるカノン。しかし天津飯には無駄だった、鶴仙流の奥義、舞空術で空を自由に飛べるこの技の前では真っ直ぐに進んでいく気功波は、余裕で躱せることができるものだった。カノンの気功波を縫うように飛ぶ天津飯に諦めたのか空中で構えをとる。それに応えるように突っ込んでくる天津飯にカノンはニヤリと笑い、またもや気功波を放つ為、右の掌を向ける。

 

「ただ消耗するだけだぞ!!」

 

 単純な攻撃を繰り返すカノンに落胆する天津飯は、それでも手加減はしないとさらに加速する。気功波を放つ寸前のタイミングで右に素早く回り込み、技の後の隙をつく。天津飯は一瞬で考えを組立て、カノンに向かう。

 

 

「はああああああ」

 

 しかし掌を向けていたカノンはその手を握りしめ指の間から拡散された気功波が、目の前まで来ていた天津飯に降り注ぐ。勿論、拡散され威力が落ちた気功波ではダメージはほとんどないが、単純な攻撃による慣れ、目の前で広範囲に広がる予想外の攻撃、そして気功波が握りつぶされたときに発した光が天津飯の思考を一瞬止める。

 そこを拳を握りしめたカノンが天津飯の左頬を殴り飛ばし、一回転して左の足で首を刈る。が、流石に天津飯もいいようにやられずそれを防ぐ。蹴られた勢いを殺す為そのまま地上に落ち、カノンの追撃をかわす為跳躍しその場を離れる。カノンも仕切り直しと天津飯の反対側に降りていき構えをとる。

 会場はあまりにもハイレベルの戦いに静まり返り見守っていたが、カノンと天津飯の戦いの流れが止まったことで正気に戻り大歓声となった。

 

 

 

 

 

 

 


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