龍娘々伝   作:苦心惨憺

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今、俺の中二病が炸裂する。




第12話

「ほ、本当に何者なんじゃ!あやつは!?」

 

 今もハイスピードで繰り広げられる戦いに驚きを隠せない亀仙人。予選の桃白白との試合の様子は悟空達から聞いていたが、ここまでできるとは思いもしなかった。

 

「ね、ねぇ、、、あの子、天津飯と互角に戦ってるのよね」

 

 格闘に関して全くの素人のブルマは天津飯が手を抜いているのではないのかと確認するが、亀仙人は首を振る。

 

「いや、それはない。天津飯は全く油断しておらん。なのにあのカノンは天津飯に一撃を食らわせておる。そのあとの攻防も見事というしかない」

 

 カノンが一撃を与えてからは両者にクリティカルヒットはないが、それがまさに天津飯が手を抜いていない証拠だ。ダメージ自体はないが、それでも一撃を与えたカノンの方が優勢なのは違いない。そして今も攻撃を当てようとしているがカノンは防ぎ、躱している。

 だがカノン自身もそれほど余裕があるわけでもない。

 

(早い!!さっきは何とか奇襲が決まって攻撃を当てることができましたけど、やはりこの人はすごい!!)

 

 余裕はないが、口元の笑いは抑えられていない。そしてそれは天津飯も同じだ。

 

(やる!!わかっていたことだが、ここまでやるとは!!だが!!)

 

 飛びかかっていくカノン、天津飯の攻撃が当たる直前に残像を残し掻き消える。

 

「凄いぞ!!あの子かなりのスピードで動いてる!!」

 

 カノンの動きはクリリンから見てもかなりの速さが出ている。だが、天津飯の三つの目にはカノンの動きは手に取るようにわかる。

 

「そこ!!!」

 

 右肘がカノンの左頬に当たり吹き飛ばされ壁にぶち当たる。ガラガラと崩れてくる壁を吹き飛ばし、またもや突っ込んでいくカノン。拳を握りしめ頭上から振り落としてくる。天津飯はそれを避け、その攻撃は武舞台の石畳を砕くにとどまる。しかしカノンは途轍もない左足の踏み込みで地面を砕きながら天津飯を果敢に攻撃していく。

 天津飯を惑わす為に四方八方から凄まじい攻撃を繰り出す。そのたびに強く踏み出す蹴り足によって石畳が砕けていく。天津飯はそれに冷静に対処し、攻撃をさばいていく。カノンの体力は天津飯以上に動き回る為、消耗していく。

 それを見逃す天津飯ではない。動きがほんの少し鈍ったところに蹴りを打ち込みカノンをはじき返す。

 

「もらったぞ!カノン!!」

 

 勝機を見出し、吹き飛んだカノンを追撃する。しかしカノンも反撃をかわす為小さい体を利用して股下をくぐり天津飯の足首を掴み倒す。その隙に間合いを広げる。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 息を整えるカノン。それを見て立ち上がる天津飯はニヤリと笑う。

 

「カノン、お前のパワー、スピードは悔しいが、俺と互角の強さがあるだろう。その年で大したものだ、素直に尊敬するぜ。しかしそれが弱点でもある。」

 

「弱点?天津飯と互角だってのに何が弱点なんだ?」

 

 ヤムチャの発言に応えるように天津飯は答える。

 

「それは体格の差だ。俺が攻撃する際、一歩踏み出すのに対して、小さいお前は2歩踏み出さなくてはならん。パワー、スピードを乗せる為に2倍動かなくてはならんということだ。それは、お前の体力を2倍消耗させていくということでもある。先ほども初めの動きに比べスピードが落ちていたぞ」

 

 つまり、カノンは天津飯と持久戦になれば勝ち目がなくなるということだ。

 

「そしてこれからは、スピードの落ちたお前では俺に攻撃を当てることもできん!勝たせてもらうぞ!!カノン!!」

 

「はあ、はあ、すーーーー。ふーーーー」

 

 大きく息を吸い吐き出すカノン、そして天津飯を見るカノンの目には自分が絶対に負けるはずがないという自信に満ちていた。

 

「どうやら諦めてはいないようだな」

 

「はい、私の攻撃が当たらないのならば絶対に当たる攻撃をすればいいんです」

 

 そういうとカノンは左半身となり、両手の指を鉤爪にし右腕を地に向け、左腕を空に向け腰を落とす。そして集中する、体の周りが仄かに光り紫電が迸る。大気が震えだす。

 

「なんだあの構え、そ、それにカノンの周りがまるで台風だ!」

 

「な、なんて気だ。この気は尋常じゃないぞ!!」

 

 ヤムチャ、クリリンの驚きの声、一体この少女に何度驚かされるのか。ビリビリと肌を震わす気を受けて悟空も自分が興奮してくるのが抑えられない。

 

「ははっ、、すげえ!ホントにすげえぞ!!」

 

 しかし間近でこの衝撃を受けている方は堪ったものではない。先ほどから冷や汗が止まらない。どんな攻撃が来てもいいように構え、どんな動きも逃すまいと三つの目が射抜く。

 そして一際強い迸りが地を伝い、左足を踏み込む。と同時に前に前傾姿勢になり地面に向けていた右腕が地を削るように背まで大きく振りかぶられる。

 それと同時に気の槍が槍衾のように隙間なく武舞台から生えてくる。

 

『地()!!』

 

「なにーーー!!!」

 

 慌てて飛び上がる。そこに接近するカノンは右の踏み込みと同時に今度は左腕が空を裂くように背まで大きく振りかぶられる。上空から気を伴った嵐が武舞台全域を囲み降ってくる。

 

『空(くう)!!』

 

「がっ!」

 

 飛び上がった天津飯に直撃し地面に広がった槍に突っ込む。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 観客席から、穴だらけになった天津飯を見て悲鳴が上がるが血は一滴も流れてはいない、そのように気を調整したからだ。その代り体が縫い付けられ、また上空からの嵐で上から押さえつけられと上と下からの押さえつけにどうすることもできない。

 

「ぬああああああ!!!」

 

 何とか逃れようとするが、すでに一条の閃光と化していたカノンは背に回していた紫電走る両の鉤爪をまるで龍の咢のようにし天津飯の腹に掌底を叩き付ける。

 

『双龍掌(そうりゅうしょう)!!!!』

 

「がばああああああ!!!!!?」

 

 縫い付けられて動けない為、後ろに吹き飛ぶ衝撃さえもダメージになり血反吐を吐きその場に崩れ落ちる。その時になって槍と嵐が霧散していく。

 

「て、天津飯――――!!!」

 

 死んだとしてもおかしくない衝撃を受けたはずだ。これにはクリリンたちも焦る。

 

「あ、あのもしかして死んじゃったんじゃ?」

 

 審判が恐る恐る聞いてくるが首を横に振る。

 

「大丈夫です。天津飯さんは直撃の瞬間、逃げられないと悟って全ての力をお腹のガードに回しました。流石です。そして」

 

 これから先は言わなかった、何故ならこの技は未完成だからだ。

 

「な、なんてガキだ。やつの戦い全てがこの技に繋がっていたということか」

 

 屋根の上で見ていたピッコロは、如何やら悟空以外にも世界征服を阻む存在がいることを認めていた。

 

「ど、どういうことだよじいさん?今まで戦っていた攻防もこの技の布石って」

 

 意味が分からないと、ウーロンは亀仙人に聞いてくる。

 

「うむ、始め上空で無駄とも思える気功波を撃っていたじゃろ?天津飯は最後の気功波を握りつぶした奇襲の布石と思ったはずだ。しかし本当の狙いは上空に気をばら撒くことだったんじゃ」

 

 

 

「ばら撒くことが目的?悟空、何でカノンはそんなことをしたんだ?」

 

 首をひねるクリリン。

 

「ああ、あの技で空から嵐を降らせてたろ?あれは残っていた気の残照をカノンがひっぱたんだ。そして地上での石畳が砕けるほどの踏み込みも一緒で地面に気をばら撒くことが目的だったんだ」

 

「しかしそんなにうまくいくか?いくら気をばら撒いていたとしてもそんなに長く放置していたら、どんどん気が弱くなってくる。それなのにあれほど強い効果が出るとは思わんのだが?」

 

 ヤムチャの疑問ももっともだ。外に出た気は気功波など強い気で放てば別だが、自分のコントロール化から外れたり、はじき返されたり掻き消された場合どんどん霧散していく。

 

「最初カノンが構えて気を集中していた時に、空と地面に気を送って維持していたんだ。何よりすげえのは攻撃の直前まで天津飯に悟られずにいたことだ。少しずつ空と地面に気を送り込み、必要以上に自身に気を集中し目線を自分に向けさす。そして攻撃の時に一気に気を送り込んだんだ」

 

「なんてやつだ。こんなことが5歳の子にできるものなのか?」

 

 

 はっと気づいた審判はカウントを取る。

 

 「ワン!」「ツー!」「スリー!」

 

 カノンは構えを解かない、ヒットの瞬間、気で防御されたのもあるが打点をわずかに反らされた。なので絶対に起き上がってくると確信しているからだ。

 カノンが目指している完成形は、わざわざ気をばら撒く必要はない。それに上下の拘束だけでなく360度全てから襲う。それも押さえつけるだけでなく串刺しにし、切り刻む。最後の掌打も拘束している気を掌に巻き込み収束し叩き付けることができるはずなのだ。

 この熟練度の低い未完成の技では倒せないだろう。

 

「エイト!おお!!」

 

 天津飯は足を震わせながらもゆっくり立ち上がってくる。その頑張りに観客も興奮し声援を送る。

 

「ハアハア。と、とんでもない技をくらっちまったな」

 

 腹をおさえ、息が乱れる。

 

「素晴らしいです、天津飯さん。しかし今度は私が言わせてもらいます。ダメージが残ってスピードの落ちたあなたでは私に攻撃を当てることはできません」

 

「はあはあ、だったら俺も言おう。攻撃が当たらないと言うならば絶対に当たる攻撃をすればいいだけだ。」

 

 

 腕を交差させ気を集中させる。体からオーラが滲み出すと天津飯の体が左右にブレだす。

 

「え!残像拳?いや違います!!天津飯さんが二人に!!」

 

「まだ、驚くのは早いぞ」

 

 二人になった天津飯がまたブレだし、4人となる。

 

「どうなってんだ!?全部本物だぞ!!」

 

 会場中が驚きに包まれる中クリリンの声が響き渡る。

 

「くっくっく、その通りこれぞ天流秘奥義」

 

『四身の拳!!』

 

 4人の天津飯が襲い掛かる、それを迎え撃つ。正面からの連続の突き、それを防ぐ。だが上からもう一人の天津飯が襲ってき、後ろに飛び退る。その先にいる天津飯に背後から蹴りを受け、吹き飛ばされたところに腕を取られ投げ技で地に叩き付けられる。

 

「がはっ!!」

 

 叩き付けられた衝撃で肺の空気が吹き出し、それでも地面に手を付き逆さになって足を振り回す。仕切り直しと離れる4人。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

「はあ、はあ、どうした?また息が乱れてきたぞ。まあ無理もない、体力を消費していたところにあれだけの技を使ったのだからな」

 

「凄いです、本当に凄い」

 

「ふっ、いくらスピードが落ちたとはいえ4人の波状攻撃をくらえば落ちたスピードもカバーできる」

 

 まだ、ダメージが抜けていないのだろう。ふらつきながらも攻撃の手を休めない。

 

「そして、十二の目を駆使し死角をなくせば絶対に俺の攻撃は躱せん!!」

 

 4人は武舞台の四隅に配置しカノンに手を向け気功波を放つ。四方を取られ逃げ場がなくなっては上に逃げるしかない。

 

「無駄だ!!この攻撃からは逃れられん!!!」

 

 第三の目から怪光線を上空に放つ。カノンは四条の光線に向けて気を集中し掌を向けて気功反射砲を使おうとするも光線のスピードがそれぞれ違う。これでは使えない、集めた気を防御に回すも凄まじい衝撃が体を貫く。

 

「があああ!!!」

 

 真っ逆さまに落ちるも何とか四つん這いなり衝撃を緩和させる。

 

「ちっ、、はあ、はあ、やはりかなり威力が減っているな。だがこれ以上攻撃を食らえば命に係わる、降参しろ!カノン!!」

 

「はあ、はあ、い、嫌です!」

 

よろよろと立ち上がり、構えを取る。

 

「あの気功反射砲という技を使おうとしても無駄だぞ。はあ、はあ、あの技は同じタイミングの気功波しか跳ね返せないのだろう?ならばタイミングをずらし、複数の気功波を放てばいい」

 

「さ、流石ですね。はあ、はあ、一回見ただけで見切るとは」

 

 そう気功反射砲は反発する気で相手の気功波を一瞬止め自分の気を上乗せして跳ね返す技、なので止めているところに第2撃を食らうと暴発してしまうのだ。

 

「降参をしないのだというならばしかたない、もう一度食らうがいい!!」

 

 再び四隅に配置しカノンに気功波を放とうとする天津飯。力を集中し放つ瞬間、この試合で見せた最高のスピードをみせ一人の天津飯に向かい放たれた直前の気功波の前に躍り出て、手をかざす。

 

「はやっ」

 

『気功反射砲!!』

 

 増幅させた気功波の一撃を受け吹き飛ぶ天津飯。それを尻目に超スピードで二人、三人と吹き飛ばし最後の一人が左の手刀を振り落としてくるが、それを払いのけ懐に入り拳を叩き付ける。

 

「がはっ!」

 

 そのまま崩れ落ちる。分かれた残り三人が消える。それでも立とうとするが、力が入らず立てない。

 

「どうしますか?まだ続けますか?」

 

 全く息を乱していないカノンが問う。

 

「いや、参った。俺の負けだ」

 

「おーーと!!天津飯選手、降参しました!!この勝負カノン選手の勝ちです!!」

 

 わあ、と観客が声援を上げる。まさか、たった5歳の少女がこれ程の試合をし勝ってしまったのだ、その驚きもあって大いに盛り上がる。

 

「あの息切れもスピードも演技だったということか。完全に完敗だな」

 

 苦い顔で言う天津飯。それを見、アドバイスをする。

 

「天津飯さん、貴方は敵の動きを見破るいい目を持っています。でも女の嘘を見抜く目も養うべきです」

 

 5歳の少女が前髪をかき上げ、舌をペロッと出して言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 









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