フライパン山にある居城の一室、そこに転生した彼女はいた。
生誕してからひと月あまりたった頃、いろいろ周りの状況が分かってきた。この世界は、以前生きていた世界ではないこと、なにせ動物が言葉をしゃべり二足歩行しているからだ。そんなことは前世の世界では聞いたことがない。
それにずいぶん文明が発達している、絵が動き話す箱に、馬も引いていないのに動く馬車。何より世界が平和で豊かだ。
そして身近にいる家族、母親の名前はチチ、長い黒髪の14歳の少女、とても一児の母には見えない幼い容姿だ。
祖父の名前は牛魔王、髭が生えた信じられないぐらいの巨漢の男。
そして父親の、孫悟空。
父親の顔は分からない、ひと月たっても見ないからだ。でも母と祖父の話題には毎日のように上がる。とんでもなく強い武闘家らしい。
そして、彼は子供が生まれたことを知らない。それは、父親としてどうなんだ?と思うが、チチも牛魔王も納得済みで彼が武闘家として強くなるのを邪魔はしたくないようで今は黙っているつもりのようだ。
確かにチチと同い年の14歳で子供ができたと知ったら修行どころではないだろう。 (近い将来、子供ができたと知っても働かず修行に明け暮れることになるが。)
ある日、使用人の者が赤子の近くで、悟空とチチとが何故子供ができるようなことになったのかその経緯を喋っているのを聞いた。使用人もまさか赤子が聞いているとは思わなかったのだろう。
それによれば、第22回天下一武道会に向けて修行の旅に出ていた悟空が、以前立ち寄ったフライパン山、その近くを通りかかった悟空は久しぶりにチチや牛魔王に会いに来た。それを大層喜んだ二人は、ご馳走を用意し歓迎した。
その時、酒を悟空、チチともあやまって飲んでしまい、眠りこけた二人を牛魔王が同じ部屋に押し込みその間にということらしい。
悟空にはそうゆう知識がない為、チチの方から迫ったというのが使用人の見解だ。
まあ珍しくない話だ。
それより驚くべきは、転生を果たした体だ。
生まれてすぐに見える目、聞こえる耳、考えられる頭脳(これは前世を覚えている為だと思うが。)そして驚きの尻尾が生えているという事実。悟空も尻尾が生えていたらしいので父親の血だ。本当に地球人か?
そして、ひと月で首が座り、3か月後にハイハイ、つかまって立てるようになり、5か月後には言葉しゃべり歩けるようになる。
7か月後には走り出すのだ。
普通の子供の倍以上の成長速度、完全に異常だ。それともこの世界では、これが普通なのか?
彼女にしたら素晴らしい体のスペックだが、チチや牛魔王からしたらどうだろうか。
気味悪がられないか。
「さっすが悟空さの子供だべ」
「まんず、まんず。そうだなぁ」
そんなことはないようだ。
走れるようになった彼女は、思いっきり体を動かした。あまり動けなかった7か月のうっぷんを晴らすように。野をかけ、山を登り、木から木へ伝う。
ひとしきり遊んだら遠くからチチの声が聞こえる。
「空詩
「わかりました!!!母様ーーーーーー!!!」
紹介が遅れたが転生した彼女、空詩
カノンの家の朝は早い、母は使用人の人たちと朝餉のしたく。使用人がいるのだから任せればいいのだが、いつか悟空と住むときの為の花嫁修業だ。そして牛魔王はカノンと遊んだり、カノンがあまり遠くに行かないように気を付けながらカメラをパシャパシャやっている。
そしてカノンはというと前世と違う体になれる為、それ以上に前世の体とは比べ物にならないあふれ出るパワーを我が物にするために走り回り、牛魔王にわからないよう遊んでいるふりをしながら、前世で身に付けた武術の型をチョコチョコと体に覚えこませていた。
「すごい力です。これなら、前世以上の力が手に入ります。この世界に生まれてよかった。あたたかい家族、前世を超える体。これで、私以上の強者がいれば」
牛魔王に聞こえないようにポツリとつぶやく。
しかし、自身も武術を学んだ牛魔王にはわかっていた。日々、目に見える形で力を付けていくシオンの天性の資質を。
若き日、武術の神と称された武天老師、亀仙人の下で同じ弟子である孫御飯(悟空の祖父)と切磋琢磨していた頃を思い出し、その時の情熱が蘇ってきた。
「なあカノン、亀仙流武術を習ってみねえだか?」
「亀仙流?どんな武術なんですか?お爺様」
この世界で初めて聞く流派にカノンにすればかなり気になる言葉だ。
そしてどんな流派か聞くと天下一の武術家、武天老師の流派で牛魔王、悟空の祖父も教えをこいカノンの父親、悟空もその教えを受けたと。
これに食いつかないカノンではな。二つ返事で答える。
「是非、教えてください!!!お爺様!!!」
「そうか、そうか!!カノンだったらすーぐ強くなれるだ」
牛魔王は孫可愛さに贔屓目のセリフをはくが、カノンには確かにその資質はあった。
そして朝ごはんの為に城に帰る。
さて、カノンのしゃべり方は1歳の子供にしてはかなり言葉使いがいい。それは母親であるチチの教育の一環なのだが、そんな教育ママの片鱗を見せ始めている母に亀仙流のを習うと報告すると予想通り。
「亀仙流?武術?ぜーーーたい、ダメだ!!!」
勿論こうなる。
「いやしかしチチ、カノンには武術の才能が・・・」
「武術の才能なんて関係ねえべ!!女の子はおしとやかにしているのが一番なんだ。それにまーた今日もこんなに泥だらけになって」
カノンの汚れた顔を拭きながら反対するチチ。
母親の気遣いはうれしいカノンだが、力を求める彼女からしたらどうしても亀仙流とやらを教えてもらいたい。祖父や父が通った道を。
「母様!!お願いします!!顔も見たこともない父様ですけど、その父様が教えを受けたという亀仙流をどうしても習いたいのです!!!」
可愛い娘の必死のお願いに、うーん、でもと思い悩む。まあ普通は1歳かそこらの子供が武術を習いたいといっても(普通そんなことはないが)、絶対にさせる親などいない。
でも顔も知らない父親のことを言われるとチチにしてみたら強く出ることはできなかった。でも、このまま「わかった、いいだよ」といってもなし崩し的にカノンは武闘家の道を歩んでいくだろう。チチにはそういう予感があった。
なので条件を付けることにした。
「わかっただ」
喜ぶカノンとその祖父。
「ただし!!おらも亀仙流を習うだ。そして一年後、おらとカノンちゃんが試合をして、おらが勝ったらカノンちゃんは武術をやめる!!カノンちゃんが勝ったらおらはもう何も言わないだ」
チチには勝てるという自信があった。いくら牛魔王がカノンに武術の才能があるといってもわずか1歳、条件を付けた1年後でも2歳の子供だ。条件を付けたのは、母親として怪我をしてほしくないという母心だった。
その母心を知ってか知らずか嬉しそうにその条件をのむカノンだった。
1年後に試合をするということで、カノンとチチはそれぞれ離れた場所で修行をすることになった。
まず、渡されたのは亀の甲羅だった。
「あ、あのお爺様これは?」
「うむ、カノンちゃん。亀仙流はこの甲羅を背負って修行をするだ。ささ、背負ってみるだ」
カノンは後ろを向いて牛魔王に甲羅を背負わせてもらう。そんなに重さは感じない、手足を動かしてみるが十分動けそうだ。それを見た牛魔王は驚愕する。
「カノン!!その甲羅は5キロはあるだぞ、大丈夫だか!!」
「あ、はい。全然大丈夫です」
亀仙流で初めに渡される甲羅は20キロ、1歳のカノンには5キロでも重いはずだ。
しかし、牛魔王は、孫の力を見余っていたようだ。
この後、10キロ、15キロ、20キロと重さを増やした甲羅を試していき、最終的に動きを阻害するほどの重さは40キロになった。
「信じられないべ。この子は武術の神に愛された子だぁ」
牛魔王は戦慄とともに、嬉しさも感じていた。自分の孫がとんでもない資質を持っていることに。兄弟子の孫御飯を越えられなった牛魔王。強さを求め極めたいという過去の思いをこの孫は継いでくれるかもしれない、そう思わずにはいられなかった。
亀仙流の修行は、自己の鍛錬だけではなく、精神修行、基礎的な学問におよび、要はよく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。まさに基本を学ぶ武術といえるだろう。
しかしやってることは完全に子供の虐待だろう、早朝の牛乳配達、それもただの牛乳配達ではなく牛乳を持ってスキップ、先が見えない並木道をジグザグに走り数百mの高さがありそうな階段を上るなど、ときには川も横断する。
それが終われば素手で広い畑を耕す。勿論耕す場所は、城のまわりで農作業をしている人の手伝いも含んでいる為、まわりは恐縮しきりだ。
「お、お嬢様にこんなことさせるわけには」
「いえ、これも修行ですからご遠慮なさらず」
修行もでき、またカノンの好感度も鰻登りだ。そして昼まで勉強、前世では名前を書くのが精一杯だったカノンにしたら勉学は新鮮で楽しかった。昼食の後はお昼寝、午後からはサメや近くに住む巨大なイノシシから全力で逃げ回り、木にロープで結ばれ近くの蜂の大群から逃げる。
朝の修行はともかく、昼からの修行には流石に牛魔王もやらせる気はなかったが、亀仙流ではやることなのでカノンは牛魔王を説き伏せ実行していた。
「はっ!!せい!!や!!」
巧みな足運びで蜂をかわし、手で払い落としていく。勿論こんな修行は普通の子供はできない。いくらカノンの体のスペックが高くてもわずか1歳なのだ、耐えられるはずがない。
その秘密は、前世で習得していた生命エネルギー、気を操り体を強化する術を身に付けていたからだ。しかもこの体は信じられない気を持っている。だから耐えられるのだ。
この様な修行を日々こなし、そしてチチとの約束の日がくる。
しかしその約束の日の前に世界にとって戦慄の出来事、カノンにとっての歓喜の日がくる。
ピッコロ大魔王が全世界に恐怖をもたらす日が。
こんなんでいいのかなぁ?
とりあえず、サイヤ人編あたりまでやります。
需要がなければやめることにしよう。