龍娘々伝   作:苦心惨憺

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第3話

 1年前交わした約束の日の朝、カノンとチチは対峙していた。

 

「それでは、1年前に約束したと通りこの試合でチチが勝った場合カノンちゃんは武術はやめる、カノンちゃんが勝ったらチチはカノンちゃんが武術を続けるのを認めるそれでいいだな」

 

 審判役の牛魔王が、両者を見ながらそう言う。そして二人は互いにうなずく。

 

「悪いだがカノンちゃんに武術をするのを認めるわけにはいかないだ。本気でいくだぞ」

 

「はい!!母様、私も精一杯頑張ります!!!」

 

 カノンはかつてないほどの充実感を感じていた。今朝いままで背負っていた亀の甲羅を脱いだ。途端に感じる体の軽さ、軽く飛ぶととんでもない高さを飛び、動きも数段上がっている。

 ここまで強くなれるのか、これなら前世の世界では負けなしだ。そしてこの世界でもそうだろう。強くなれる嬉しさと同時に、敵がいなくなる一抹の寂しさがある。

 

「それでは、始め!!」

 

 牛魔王の開始の合図がかかると同時に、構えをとる。じりじりと両者の距離が縮まっていく。先手はチチだ。

 

「はあああああ!!!」

 

 右、左、左右連続の突きからの蹴り、カノンはそれを紙一重で避け続ける。チチは攻撃の手を緩めず攻め立てていく。

 

「どうしただ!!カノンちゃん!!そったらことじゃ武術を習うのを認めることなんてできないだぞ!!!」

 

 

 カノンは攻め立ててくるチチの攻撃を躱すのをやめ掌または、手の甲で払い始める。それでもチチは攻撃の手を緩めない。娘を戦いの世界にはいかせたくない為に。武術を習うということは敵を倒すすべを学ぶということ、そしてそれを身に付けたなら試したくなるのが人だ。

 ましてカノンは悟空の血を継ぐ娘。その血が戦いを求めていくであろうことをチチは無意識の内で予感していた。その結果もしかして大けがをしたり、最悪死んでしまうかもしれない。その為に厳しいであろうがここで倒すという気迫が、拳にはのっていた。

 そして、その思いは実際に戦っているカノンには痛いほど伝わってきていた。

 

(御免なさい。母様、それでも私は戦いたい、強くなりたい。そして絶対の力を手に入れたい!!)

 

 それは前世の思い、悟空の遺伝子が求める戦いの欲求、それが混ざり合い前世以上の“力”の渇望をカノンにもたらしていた。

 

 だから進む、前へ前へチチの懐へと進んでいく。チチからしたらこんなにやりにくいことはない。ただでさえ小さいカノンだ、懐に入られたら攻撃しにくい。そして突き放すため、腕を大振りに振るう。

 それを待っていたカノンがその腕を受け流し、チチは大きく右に態勢を崩してしまう。

 

「しまっただ!!」

 

 腕を苦し紛れにカノンに振るうチチ、しかしそのカノンは残像を残し消えチチの背後から右側頭部に手刀を放ち、当たる寸前に止める。

 

「・・・・ふう。おらの負けだ。カノン」

 

「ごめんなさい。母様」

 

 娘として母の思いに応えたい、その思いもある。だがだめなのだ。その思い以上に強くなりたい思いがカノンにはあった。前世の苦しく、辛い人生に光を与えてくれた武術に。

 

 二人の押し黙る空気に耐えかねた牛魔王は、陽気な声で言う。

 

「い、いや~。二人ともすごかっただな~。チチも負けたとはいえいい試合だった」

 

「いや、おっとう。カノンちゃんの方がすごかったべ。約束だ、カノンちゃんが武術をするのを認めるだよ」

 

 寂しそうにチチが、答える。

 

 それを見てカノンは勝って認めてもらえたのに、母に対して罪悪感を感じていた。

 

「だども!!武術をするのは認めるだが、カノンちゃんは女の子なんだからお洒落をしたりおっかぁのお手伝いもちゃんとするだぞ!!」

 

「っっ!!はい、わかりました!!母様!!!」

 

 ただでは起きないチチだった。

 

 

 

 

「がはは!!めでたし、めでたしだなや」

 

 牛魔王が今度こそ陽気に言う。

 

「しかし、カノンちゃんはオラの予想以上の強さだべ。これならもしかして『かめはめ波』を使えたりするかもなぁ」

 

「かめはめ波?なんですか。それは?」

 

 『かめはめ波』それは、亀仙人が50年の歳月をかけて生み出した技で体内の潜在エネルギー、気を両掌に集め放出する技、気功波である。

 

「放出?体の外に気を出すということですか?!」

 

 カノンは信じられなかった。前世では主に気は体を強化しそれをもって攻撃したり、体の外に出すことも可能だが、それは相手の体に触れ内部を攻撃するというものだ。

 

「凄い!!!お爺様すごいです!!ぜひやって見せてください!!」

 

 物凄いキラキラした目で牛魔王を見つめ、懇願するカノン。牛魔王はタラりと汗をかき目線をずらす。

 

「あ、いや、オラは・・」

 

「お願いします。お爺様~~」

 

 今度は、手を合わせウルウルした目でお願いする。

 

「わ、わかっただ。よ、よーく見とくだぞ」

 

 そういって足を広げ妙な構えをとる。

 

「か」

 

 両手首を合わせ、手を開き前方に向ける。

 

「め」

 

 腰付近に手をもっていく。

 

「は」

 

 腰にもってきた掌に気を集中させる。

 

「め」

 

 しかし見た目なにも感じない。

 この時点でカノンは気づき、真相を知っているチチは呆れた顔で見ている。

 

『はーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 

 

 

 し~~~~ん

 

 手のひらを前方に出したまま牛魔王は、固まっている。

 

「あ、あのお爺様?大丈夫です!!なんとなくわかりましたから!!」

 

「はぁ~~~~」

 

 カノンの気遣うセリフとチチの溜息に牛魔王のHPはゼロだった。

 

 

 

「ま、まあこうやって気を集中、凝縮して放つ技だ!!!」

 

 そういって牛魔王はやけくそ気味に言い、カノンはオロオロし、チチはもう一度溜息を吐く。そしてみんな一斉に笑い出す。

 

「だっはっはっはー。いやーすまん。オラなんかにかめはめ波なんてできないだ」

 

「もう。お爺さまったら」

 

「孫の可愛いお願いにできもしないことをするからだぁ」

 

「だっはっはーーー。いやー恥かいたら腹が減ってきただ」

 

 確かにもう昼時だ。かめはめ波のことは午後から試すことにして昼飯にすることにした。

 さっきの出来事やカノンのこれから、そして今はいない悟空のことを話しながら楽しく昼飯をしていると、牛魔王が不意に提案する。

 

「そうだ!!カノンちゃんがチチに認められた記念に明日、みんなで遊園地に行くべ」

 

 生まれてからカノンは、ここの周囲にしか出たことはない。遊園地というものが知識として知っているが、行ったことはないのでワクワクする。

 

「じゃあ、お弁当作らないとな。カノンちゃん、おらが腕によりをかけてお弁当作るからな」

 

「はい!!すごく楽しみです!!」

 

「そんなら、明日の天気を調べないとなぁ」

 

 そしてテレビをつけるとこの世界の国王が映っていた。

 

「国民の皆さんみなさんにお知らせしたいことがあります。テレビの前に集まってください。私は国王の座を追われました。そしてこの世界はピッコロ大魔王のものになったのです。こんなやつが王になっては世界が破滅だ!!誰かこの無法者をやっつけてくれ!!」

 

「余計なことは言うなといったはずだ。まだ死にたくはないんだろ」

 

 そしてピッコロ大魔王が姿を現す。緑の体色をし、頭には触覚のようなものをはやし胴着を着ている。それを見た瞬間、カノンの背筋に悪寒が走る。

 

 

(強い!!それも途轍もなく強い!!テレビ越しでもヤツの強さが伝わってくる!!!)

 

 ピッコロ大魔王は玉座に座り、自らがこの世界の王になったのだと宣言する。

 

「さて、では早速新国王の抱負でもきかせてやろうかな?まず私の嫌いな言葉を教えてやろう。それは正義と平和だ。言っておくが私は何も国民を縛り付けようなどとは考えておらん。むしろ好きなように自由に振る舞えといっておるのだ。警察などというものは廃止する。戦争、暴力、殺人何でも自由だ。誰も咎めはせん。悪人どもよ、やりたいことをやれ。

正義を振りかざすものはわが魔族がことごとく退治してやる。必ずや悪と恐怖に満ちた、素晴らしい世界になる」

 

 伊達や冗談ではない、本気でピッコロ大魔王はする。そんな迫力がある。ピッコロの名を聞いた時から牛魔王は震えていた。それに気づくカノンとチチ。

 

「ど、どうしただ?おっとう」

 

「もしかして、このピッコロ大魔王と言う方をしっているのですか?」

 

「ああ、武天老師様から昔、聞かされたことがあっただ」

 

 その昔、どんな武道家も敵わない力でもって世界を恐怖に陥れた、まさに大魔王と呼ぶべき存在。その力は、当時の亀仙人やその師の武秦斗でさえ敵わないほどだった。

 しかし、魔封波という技を開発した武秦斗の命がけの技で封印され海底の底に沈められたはずだった。

 

「そ、それが何故」

 

 テレビに映るピッコロ大魔王を見ながら言う。

 そしてさらにピッコロ大魔王は、恐怖の提案をする。

 

「さて、ではわが国民となった貴様らにこのピッコロ大魔王からプレゼントをやろう」

 

 そういうと玉座から立ち上がる。そして喉が異様に膨れ上がり巨大な卵を次々に生み出す。生み出された卵が、次々とひび割れ1個の卵につき3匹の化け物が生まれる。

 その化け物は子供ほどの背の高さで緑色をしたトカゲに似ていた。しかも両の足で立ち翼をはやしている。

 

「こやつらが、私からのプレゼントだ。そうだな、こやつらを解き放ち1日10人の死体をもってこさせ、その恐怖で引き攣った死体の顔を国民に見せてやろう。どうだ?たのしみだろう?ぐわーはっはっはっ!!!」

 

 さも楽しそうにピッコロ大魔王は笑う。事実、本心から楽しんでいるのだろう。

 

「では、行け。わが子らよ。わが魔族の恐ろしさを世界に知らしめて来い。」

 

 トカゲらは頷くとそれぞれ四方に散っていく。

 

「くっくっく。まあ安心しろ、今の者らは知能も低く力も弱い。ただし我々魔族にとってはな。もしかして頑張れば倒せるかもしれんぞ」

 

 ピッコロ大魔王の笑い声が響く中、番組が終了する。

 カノンは体の震えを止めることができなかった、それを見たチチがカノンを抱きしめる。

 

「大丈夫、大丈夫だべ!!カノンちゃんはおらが守ってやるだ!!」

 

「そうだ!!チチ!!村のみんなを城に避難させるだ!!!」

 

 確かに、村の中にいるより城の方が頑丈で守りやすい。早速、行動に出る牛魔王とチチ。

 

「カノンちゃん、ジッとしてるだぞ!!!」

 

「・・・・・・・」

 

 カノンは震えていた、恐怖ではない。歓喜だ。体の奥からくる狂喜。

 

「ふふっふふふふ、はぁっははははーーー!!!!!!!!なんて世界なんだここは!!!こんなことがあっていいのか!!!」

 

 いまだかつてない歓喜がうずまき、周りに人がいないことをいいことに大声で言う。

 

「ここに来い!!化け物共!!!私の疼きを鎮めてくれ!!!」

 

 その数時間後、カノンの願いが叶うことになる。

 

 

 

 

 




全然、話が進まない。



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