龍娘々伝   作:苦心惨憺

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明日、早いのに感想をもらってやる気が出てしまった。


第7話

 カリンの杖の先にぶら下げている壺を見て言う。

 

「その壺とは、超聖水が入っている壺ですよね。しかし、それは水なのでは?」

 

 昨日カリン自身が言ったはずだ。それなのに壺を取るとはいったい。

 

「なあに、この壺をワシから奪う修行でおぬしの身体能力を向上させようというのじゃ、スタミナ、スピード、反射神経、先読みの技術、様々な要素を駆使しなければワシから壺を奪えんぞ」

 

「分かりました」

 

 すっとカリンは構えをとる。

 

「さあ、来るが良い」

 

 その声と同時にカリンが真正面から突っ込む。それはカリンの予想を大きく上回る動きだ。

 

(早い!!じゃが)

 

 カノンの直線的な動きに上に飛んで避ける、しかしそれを読んでいたカノンはカリンの尻尾を掴みにくる。空中では方向転換ができない、このまま尻尾と掴み引きずりおろし壺をとる。

が、カリンは杖の先から壺を宙に放り投げる。壺を奪うことに集中していたカリンはとっさにそちらの方を見てしまう。その瞬間、カノンの頭を衝撃が走る。

 

「う、痛いです」

 

 杖をカノンの頭に一撃し、そして一回転して空中からおり、放った壺を再び杖の先にぶら下げる。

 

「おぬし、とんでもない速さじゃの驚いたぞ。しかしその速さを全くコントロールできていない。」

 

 確かにカリンの言う通り、カノンはその身の内に抱える莫大な力をうまくコントロールできていない。前世の時と比べれば雲泥の差の気の容量だ。亀仙流の修行でマシにはなったが、まだまだ荒削りなところが多い。

 

「さ、修行は始まったばかりじゃ。どんどん来るがいい」

 

 今度は直線的にいかず、高速で周りを回りだすカノン。その速さはまさに目にも留まらぬ速さだと言えるだろう。事実、カリンはカノンの動きを完全に捉えられている訳ではなかった。

 

(こいつは驚きじゃ。悟空以外にここまでの使い手がいるとは、じゃが、自分の力に引っ張られているのか突っ込んでくる瞬間、わずかに態勢が崩れておる)

 

 カノンが態勢を崩した瞬間を狙い、足の先に杖をだし転ばせる。カノンは転がるままに勢いをつけ腕の反動で空中に飛び、そのまま再びカリンに突っ込む。

 

「それでは先ほどと一緒じゃぞ!!」

 

 壺をカノンから遠ざけ迎撃の為、足蹴りにする。だがそれはカノンの残像、と同時に多くの残像が現れる。くしくもそれは悟空が使った手だ。しかしその量が違いすぎた、残像が所狭しと現れ、隙間がないほど埋め尽くされる。これでは目で探すことなどできない。

 しかしそれは、それだけ動いているということだ。空気が薄いところでの運動に慣れていないカノンの呼吸は乱れ、動きは緩慢になる。それは動きの単純化を意味する。早く目的のものを手に入れるために不用意にカリンに突っ込んでしまう。

 

「ほれ」

 

 勿論、そんな隙を見逃すカリンではない。先ほどと同じく頭を杖でたたく。カノンはそのまま無様に床に倒れこむ。

 

「はあ、はあ、はあ。つ、疲れました」

 

「そりゃそうじゃ。こんな高所でそんな無茶な動きをしたらそうなる。ここは地上よりずっと空気が薄いのじゃぞ。そもそもおぬしは動きに無駄がありすぎる」

 

(とは言え、あんなありえない数の多重残像拳は見たことはないがの) 

 

 タラりと冷や汗を流すカリン。今はまだ、この環境に慣れていないカノンだがこの分ではすぐになれるだろう。悟空と同じように数日でこの修行が終わりそうである。

 

「まだ、まだ行きます!!」

 

 と思っている間にもう回復したカノンが壺を取ろうと張り切っていた。

 

 

 

 

 

 それから5時間ほど、7時から始めたのでもう12時だ。ノンストップで動き続けていたカノンも流石に疲れ倒れこんでいた。

 

「はあ、はあ。タフなやつじゃ。このワシがこれ程息を乱すとは」

 

 5時間全く休みなしで、動き続けたカリンも相当疲れていた。カノンの地力はカリンより上だ、一部の隙も見せられないその緊張感が、高所に慣れているはずのカリンを疲れさせていた。

 

「まったく、よくやるだぎゃ~」

 

 そばで見ていたヤジロベーが肉を頬張りながら呆れたように言う。それを見て昼時だと気づいたカリンは、昼食後に続きをしようとカノンに言うがフラフラになりながらも続けようとするカノン。

 

「休むことも修行じゃぞ、無理をしても効率が悪くなるだけじゃ」

 

「はい、分かりました」

 

 しぶしぶ了解したカノンはカリンとともに昼飯を食べる為に1階に降りる。しかし明日用に残しておいた弁当がない。こんなことをするのはヤジロベーしかいない。

 

「ヤジロベー!!おぬしはホントに意地汚いの!!」

 

「うるせー。置いてあった物を食って何が悪い」

 

 悪びれる様子もなくヤジロベーに思いっきり杖を叩き付けるカリン。

 

「困ったの。こやつ備蓄している食材も全部食っておる」

 

 カリンはキッチンを見て溜息をつく。カノンはぷすぷすと頭から煙を上げて倒れているヤジロベーを見ながら提案する。

 

「あのカリン様、私が下まで行って食料を買ってきましょうか?」

 

「いや、それは無用じゃ。ほれ、これを食べるがいい」

 

 そう言いながらカノンに豆を差し出すカリン。

 

「カリン様、この豆1つだけですか?仙人様は肉魚を食べないということはないですよね。実際、昨日食べていましたし」

 

 精進料理みたいなものかとカノンは思ったがどうやら違うようだ。

 

「その豆は、仙人の食べる豆つまり仙豆じゃ。一つ食べればゆうに十日は腹が持ち重傷の怪我でも直してくれるありがたい豆じゃ。」

 

「そんな貴重なものを私に!!ありがとうございます!!」

 

「う、うむ。さあ食べるがいい」

 

 仙豆を食べて腹が膨れ、すごいすごいと言っているカノンに実は残り少ないとはいえ数か月に一度はなる仙豆にここまで喜んでくれるなんて素直ないい子だなーと温かい目になるカリン。

 

「さ、どうする。疲れはとれたはずじゃ、続きをするか?」

 

 自分も仙豆を食べながら、再度2階に上がり続きを促すカリンだがカノンは先ほどとは違って頭を横に振る。

 

「すいません、カリン様。今までの動きを整理したいのでしばしお待ちいただけますか?」

 

 そう言って、カリンからの了承を得たカノンはその場で正座し目を閉じる。今までのカリンの動き、そして自分の動きを頭の中でトレースする。徐々に徐々に自分の無駄な動きを削っていき、ゴールへの道筋を立てていく。

 しかし途中で気づく、カリンは言っていたではないか。とんでもない速さだがコントロールができていないと。ということはコントロールさえできればこの修行はおしまいだということだ。午前中に何度か惜しい場面があった、このまま続ければそう遠くないうちに達成できるだろう。

 だがそんなことは、他のところでもできる。ここで得られるものはないか必死で考える。そこで思い出す、初めにカリンを見たときに感じた澄んだ気配。カリンが言っていたではないか、鋭い感覚を持っていると。

 

(そうだ、気配だ。気配を感じるんだ。)

 

 では気配とはなんだ。それは、生きとし生けるものがすべて持っている生命エネルギー、気だ。

 気を感じるのだ。ではどう感じる。まずは自分の気を感じる。荒々しい気だ、これでは外に目を向けるなんてできない。まずは自分の中の気を平静に抑えていく。

 この時点でカリンはカノンが何をしようとしているのか気づいた。

 

(バ、バカな!!こやつ自分を無にしようとしておる!!そんなことは教えておらんぞ!!しかもわずかこんな短時間で!!!)

 

 カノンは溶け込むように自然と一体化していく。そうすると今まで見えていなかったものが見えてくる。

 正面にある気配(気)はカリン、この下にいるのはヤジロベー。

 さらに感覚を広げていく。カリン塔を登ってくる大きい気の持ち主が4人、さらに広げると地上に2人、少し離れたところに1人。これは母だろう。

 そしてこのカリン塔の宮殿よりさらに上空に強大な気を感じる。

 

(わかる。一度も会ったことはないが、この気は父様だ!!孫悟空だ!!!わかる気の本質とは何か。どうコントロールすればいいか!!!)

 

 カノンはすっと立ち上がり、カリンを見る。

 

「お待たせしましたカリン様。続きをお願いします」

 

「いいじゃろう。見せてみよ、おぬしが掴んだ感覚を」

 

 互いが無言になり、ふっとカノンの気配が消えたと思ったらカリンの後ろに佇んでいた。そして杖の先にあったはずの壺はカノンの手の中に納まっていた。

 

「み、見事じゃ。まさかここまでできるやつだとは思わなかったぞ」

 

 カリンは素直に驚嘆していた。正直、目の前で見せられても信じられなかった。どうして信じられる。今までコントロールできていなかった力を制御し、そして目をつぶった状態で壺を奪ったのだ。完全に相手の気を読んでいる。

 この修行の目的は相手の動きを予測し、無駄な動きをなくし壺を奪うことだ。

 

(それなのにこの娘は、さらにその上を行きおった。この修行の成果は天界で授かるものじゃぞ)

 

 勿論こんな短時間でこの域まで行けるわけがない。それは、前世の経験値によって到達できたのだ。カノンが前世で死を感じたときに感じた、溶け込む感覚を覚えていたのが大きい。

 

「見事じゃ。過去ここに上ってきた中でおぬし以上に成長したものはおらん。しかもわずか半日足らずで、あのピッコロ大魔王を倒した孫悟空でも3日だったというのに」

 

「孫悟空さん・・・」

 

 はるか上空に感じる気。徐々に膨れ上がっていくのを感じる。さらに強くなっていく孫悟空に喜びが溢れだしてくる。

 

「カリン様、その孫悟空さんと会えませんか?」

 

 我慢できなくなったカノンが、カリンに尋ねる。早く自分の修行の成果を試したいのだ。だがそれは、無理だとカリンは言う。

 

「今、悟空のやつは天界で神様に教えを受けておる。天界には資格を持った者にしか行けんのじゃ」

 

「て、天界!!神様!!」

 

 予想以上の答えに驚くカノン。この世界には神がいて、会うことができるのか。そんなところで修行をしている父親を羨ましく思いながらでは、いつ会えるか問う。

 

「悟空は、3年後に開催される天下一武道会に向けて修行しておる。そこでなら会えるじゃろう」

 

 天下一武道会と呟き、カノンはまさに父と戦う絶好の舞台だと思った。3年も母を待たすのは悪い気はしたが、そもそも天界とやらにいけないのではしょうがない。

 

「もしや、おぬしが戦いたい相手とは悟空のことかの?」

 

 頷くカノン。悟空と何やら因縁があるようだが野暮なことだと聞こうとしなかった。そしてもうここには用はないだろう。

 

「ここでの修行は終わりじゃ。正直、おぬしの助けになったかどうか」

 

「いえ、ここでの修行がなければここまでには至れなかったでしょう。感謝いたします、カリン様」

 

 そう言って頭を下げるカリン。

 

「うむ、ではあとは下界で力を付けるがいい。出るんじゃろ天下一武道会に」

 

「はい、孫悟空さんと戦う為に」

 

 自分の成長させるべき道筋は見えた。あとはこれを伸ばしていくのみ。

 

「では、大変お世話になりました。ヤジロベーさんにもよろしく言っておいてください。また、お会いしに行きます」

 

 まだ、気絶しているであろうヤジロベーを気遣いよろしく言っておく。

 

「達者でな」

 

 カリンに背を向け宮殿から去っていこうとするカノンにカリンが声をかける。

 

「そういえば名を聞いていなかったな?」

 

「は!!申し訳ありません。ここまでお世話になっていながら名前を語らないとは」

 

 心底、申し訳なくするカノンによいよいと手を振る。

 

「して、名は?」

 

 カリンの目を見、答える。

 

「カノン、、、、、、、、孫 空詩(カノン)です。それでは!!」

 

 そのまま空中に飛び出し落下していくカノン。それを驚愕の顔で見るカリン。

 

「孫、孫カノン、いや、まさかな」

 

 

 

 

 

 落下していくカノン、その心の内は歓喜でいっぱいだ。

 

「孫悟空と戦える!!戦えるーーーー!!!」

 

 その途中で、先ほど感じていた4つの大きな気の持ち主を見かけた。

 

「餃子、もう少しだ頑張れ!!」

 

「うん、天さん」

 

 頭がつるつるの額に目?がある男、その下に小柄で帽子をかぶっている子。

 

「悟空もこれぐらい登ったんだ、クリリン俺たちもやるぞ」

 

「分かってますって、ヤムチャさん。これぐらい!!」

 

 そして同じ胴着をきているハンサム風な男と、これまたつるつる頭の男。

 その横を急加速で落下していくカノンはすれ違いざま。

 

「もう少しです。がんばってくださーーーーーーーーぃ」

 

 そのまま消えていくカノン。4人は小さな女の子が、上から急降下で落ちていく様を見て呆然とするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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