「今日はカノンちゃんの晴れの舞台だ。しっかりした格好しないとな」
天下一武道会、開催当日カノンはホテルにて着替えていた。チチに髪を三つ編みに整えられている。カノンの髪はかなり長い、カノンとしては武術の邪魔なので短くしたいのだがチチがそれを許さなかった。確かに3年前、武術をするのを認めてくれたがその時、お洒落をすることも条件にされたので何も言えないカノンであった。
「よし!終わりだ。」
カノンは目の前の全身を映す鏡を見る。髪は三つ編みにし肩に掛かっている。服装は龍の刺繍が描かれている白いチャイナ風の道着、黒いリストバンドと帯、そしていつものように帯の中に尻尾を入れている。
「いいぞ、カノンちゃん。ばっちり決まってるだ」
カノンは帯をギュッと締め気合を入れる。ついにこの時が来た、修行の成果を試す時が。
「いきましょう!母様!」
そして天下一武道会会場に赴く。
「うわっ!昨日よりたくさん人がいます」
会場の周りには多くの人が集まり、花火が打ち上げられ出店もある。まるでお祭りだ。
「こんな中で試合をするんですか」
「緊張してきたか。カノンちゃん」
「大丈夫です!周りなんて関係ありません!!相手に集中あるのみです」
カノンはそう答える。前世では殺し殺される戦場を駆けてきたのだ、今更この程度で気後れするカノンではない。とそこに拡声器で予選を促す声が聞こえる。
『間もなく予選を行いますから、出場する選手の皆さんは競武館の方にお集まりください』
「さ、カノンちゃん。おっかあは予選会場には入れねえからここからは一人になるけども大丈夫だな」
「大丈夫です。それでは行って参ります!!」
気を付けるだぞー、怪我すんなよー、応援してるべー。という声を背に受けながらカノンは競武館に歩いていく。競武館に入る途中、止められたりとひと悶着あったが受付名簿に名前が記されていたのを確認してもらいやっと入ることができた。
そしてカノンはきょろきょろと目的の人物を探す。
(いた!!あの人だ!!あの人が父様!!孫悟空!!)
会ったことはないが、チチや牛魔王から聞いた風貌と一致する。何よりその感じる強さがそれを物語っている。そして周りにいる者たちも相当な達人たちだ。おそらく同じ一派なのだろう、集まっている5人の内3人が同じ前後に亀と書かれた赤い道着を着ている。
カノンはドキドキしながら悟空の元に歩いていく。周りから奇異な目で見られているがそんな視線は無視する。
「あ、あの!」
そして悟空に声をかけ、振り返る悟空。ここで初めてカノンは悟空の容姿を見る、黒いシャツの上に赤い道着を着、顔は凛々しく、独特な髪形をしている。
(母様、結構面食いなんですね)
悟空たちは見知らぬ女の子に声をかけられ戸惑う。こんなところにこんな小さい女の子がいるなんておかしいからだ。
「君、迷子かな?お母さんは?」
迷子になって声をかけてきたのだろうと悟空と同じ道着を着ている顔に傷がある男、ヤムチャがしゃがみ込みカノンと目線を合わせ聞いてくる。
「俺、係の人を探してきますよ」
そして、こちらも同じ赤い道着を着て頭をツルツルに剃っている男、クリリンが駈け出そうとする。
「あっ、違うんです。私も参加選手なんです」
え~!!、と驚く悟空以外の者たち。
「ほ、本当に出場するのか?」
心配そうに聞いてくるこちらも頭がツルツルで額に第三の目がある上半身が黄色、下半身が緑の道着を着ている男、天津飯。
「だ、大丈夫?」
こちらも心配そうに見てくる天津飯とは真逆の色合いの道着を着ている男、餃子が言う。こくりと頷くカノンに如何やら本当のようだと思う一同。
「それにしてもなんだって我々に声を?」
クリリンが疑問に思いカノンに聞いてくる。もしかして過去に出場していた自分達のサインをねだりに来たのかな?と思いながら。その疑問に答えずカノンは悟空の前に立つ。
「あなたが孫悟空さんですね?」
「ああ。おめえは?」
「私、カノンと申します。悟空さんのお噂はかねがね、母様やお爺様に聞いております」
首を傾げながらカノンの言う母や祖父とは誰か考える。
「おめえのかあちゃんとじいちゃんはオラと会ったことがあるんけ」
「はい。昔、会ったことがあると言っていました。そしてたいへん強い人だと」
本当は会ったどころか、チチを孕ませているのだがそれは言わないカノンだった。それを聞いてもわからない悟空。
「誰なんだ?おめえのおっかあとじいちゃんって?」
勿論、カノンはこんなところで言うつもりはなかった。悟空とは真剣に勝負をしたいのだ。
「それは、私と戦った後に話します」
カノンは悟空の目を見ながら言うが、クリリンとヤムチャは少し笑いながら言ってくる。
「おいおい。悟空と戦うって、悟空はめちゃくちゃ強いんだぜ」
「まあ、予選を勝ち上がらなくては悟空と戦うどころではないけどな」
カノンはそのセリフに気を悪くしなかった。それは自分が子供なので仕方がないと思っていたし、これから勝ち上がって実力を示せばいい。
「確かに私はまだまだ未熟です。でも精一杯頑張って悟空さんと戦ってみせます。それでは、失礼致します」
ぺこりと頭を下げ去っていくカノン。それを見てクリリンは、大丈夫かな~あんな小さい子がと心配げにカノンの背中を見つめる。
「いや、あいつは強いよ。それもとんでもなく、な」
へっ?と悟空を見るクリリンとヤムチャそして天津飯、餃子。悟空にはわかっていた、カノンが実力を隠していることを。そしてその底知れない力を。
「はあ~緊張しました。でも母様が惚れるわけです」
カノンの悟空への第一印象はかなり良かった。かっこいいし、優しく包み込むような雰囲気、そして何より強い。カノンが隠していた実力も見抜いていただろう。あの人が父親なら不満などない。
『選手の皆様!!お待たせしました!!只今より予選を行いますので中央にお集まりください』
いよいよ予選が始まる。もしかしてここで悟空と試合が当たるかもしれない、チチが見ている武舞台で戦えないのは残念だがその時はその時だ、目一杯やるしかない。
武道寺館長から予選開会のあいさつが始まる。それによると今回の参加者は72名と前回に比べて少なくなっているらしい。カノンも前回の試合の映像を見たが、かなりハイレベルだった。あれでは参加人数も減るだろう。
そして武道寺館長の挨拶も終わり、予選の組み合わせ抽選が始まる。
「と、届くかな」
背の低いカノンに合わせてくじ箱を下げてくれる係員。それをすいませんと言いながらくじを引く。
「えーっと、51番。3ブロックの後半ですか」
3ブロックの方に移動し悟空がいないことを確認し安堵する。やはり悟空とは、チチの見ている前で戦いたい。ここでの強敵になりそうなのは悟空と一緒にいた、確か餃子という人だ。前大会で本選に出場を果たした人だ油断はできない。
あとはっと周りを見、変な人を見つけた。服の前に『殺』と書かれ、後ろにはKILL YOUと書かれたピンクの道着を着て、髪を三つ編みにしている人。そこまではいいのだが口元だけ出ているヘルメットをかぶり、長袖になっているので分かりにくいが手の部分がプロテクターになっているようだ。あれは反則にならないのかなーと疑問に思う。実は自分も周りに変な目で見られていることに気づかないカノンだった。
「えーそれでは予選を始めたいと思います」
ついに予選が始まる。初めは餃子とあの変な人だ。どちらもなかなかの達人同士だ、本当は悟空の方を見に行きたいが予選では全く実力を出さないだろうと自分のブロックの戦いに集中する。
そして試合が始まると餃子が宙に浮かぶ。そんなこともできるのかと度肝を抜かれるカノン。しかし餃子は対戦相手を見、ついで驚きの顔を見せ無防備になったところに攻撃を受ける。そしてそのまま昏倒してしまう。あたりをうおーという歓声が上がる。
(うーん。なかなか)
見た感じ確かに達人の域に達している変な人だが、ワクワクはしてこない。その騒ぎに天津飯を先頭に悟空たちが近寄って来て、天津飯が餃子を抱える。
「くっくっくっくっく、かろうじて生かしておいてやったぞ。殺してしまっては失格らしいからな」
その言葉に怒りの表情を向けるが天津飯もそれが誰だか気づいたらしい、名前は桃白白、そして殺し屋をやっている。如何やら天津飯、餃子の師匠の弟らしく、悟空が昔に倒しそのケガが原因でサイボーグ化したようだ。
カノンはサイボーグって何?と思いながらさらに話を聞く。悟空にはやられた借りを返す為、天津飯には亀仙流に靡いた裏切りに対する行為に二人を殺しに来たらしい。
「首を洗って待っているんだな」
と舞台を降りていく桃白白。そこで同じブロックで見ていたカノンに気づいたクリリンがこちらに声をかけてくる。
「君!たしかカノンって言ったね。もしかしてここのブロックなのかい!?」
「はい、そうですけど」
「棄権した方がいい。やつは危険だ」
近くにいたヤムチャも言ってくるが、勿論カノンにはそんな気はない。
「ご心配ありがとうございます。でも悟空さんと戦うまで私、負けませんから」
頑なに棄権するのを固持するカノンに危なくなったらすぐ降参するんだよと自分のブロックに帰っていく悟空達、いい人たちだなーとニコニコしているカノンに審判の声が聞こえてくる。
「51番のひとー。早く来ないと失格になりますよー」
クリリンたちとしゃべってる間に試合が進んでいたようだ、カノンは慌てて舞台の上に上がる。
「す、すいません。お待たせしました!」
「えーっと?51番?」
「はい。そうです」
手元にある資料をペラペラめくり間違いないことを確認した審判は、開始の合図をする。
「お願いします」
元気よく言ってくるカノンに対して対戦相手の大男は困惑するが、すぐに楽に勝ち星を挙げることができると思いカノンに向かっていく。ただしこんな小さい女の子だ、無駄に痛め付ければ周りに非難されてしまう。優しく押し出してやろうと考えてる内に、顎に衝撃が来てそのまま意識を失ってしまう。
周りで見ていたものにはカノンの姿が見えていなかったのだろう。大男が何もしていないのに倒れたことにシーンと静まり返る。
「えっと、気絶かな?51番の勝ちです」
うおーーと歓声が上がる。カノンは周囲の人に礼をしながら舞台を降りていくのだった。
どんどん文章が増えてきてなかなか先に進めない。