百鬼姫を闇落ちさせたかっただけの話(旧題:忘却の灯火)   作:you are not

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久しぶりに妖怪ウォッチ見てみたらさ、やっぱ百鬼姫可愛いってなった。そして、思いついたから書いた。


星影に散る約束

 

風がやわらかく吹き抜ける屋上の片隅。高校生になったばかりの自称普通の人間、天野ケータは百鬼姫と向かい合っていた。理由は単純、人気のない場所で一緒にご飯を食べているだけである。いつも一緒にいるウィスパーとジバニャンには空気を読んで席を外してもらっていた。

 

「ほれ、ケータ。はよ食べさせい」

座りながら膝の上で小さく手をぱたつかせているのは百鬼姫。感情がないと自称する彼女だが、その声色には待ちきれないのが感じとれた。

「はいはい」

天野ケータは笑みを浮かべながら箸でお弁当のおかずをひとつまむと百鬼姫の口に運ぶ。

 

「あーん」

「‥‥ん」

ケータが差し出した料理を何の迷いなく百鬼姫は口にしてもぐもぐと食す。

「どう?」

「‥‥」

百鬼姫は黙々とケータのお弁当を食べ続ける。周囲には散り行く桜の木のざわめきと春を祝う虫の声だけが響く。

「‥‥メロンパンの次くらいには好きじゃ」

ようやく絞り出した言葉を百鬼姫は呟く。

「よかった。」

だが、ケータには百鬼姫が喜んでいると受け取ったようで喜びをあらわにする。事実、百鬼姫の上がった口角は誤魔化せなかった。

 

こんな風に不愛想で天邪鬼に振舞う彼女が可愛らしかった。もっともそう感じられるようになったのもここ数年の話で小学生のころは大変だったものだ。

 

「ごちそうさま」

「うむ、ごちそうさまじゃ」

食事を終わらせ、ケータは立ち上がりかけたが、ふと足を止めた。 百鬼姫が小さく肩を揺らして、今にも消え入りそうな声を上げたからだ。

 

「のう、ケータ」

「うん?なに百鬼」

百鬼姫に声をかけられケータは振り返る。その顔は真剣そのものだった。

 

「お主は、わらわすらも忘れぬよな?」

「‥‥ッ!」

 

百鬼姫の顔を見返すケータの胸中には、言葉にならない焦りと悲しみが渦巻き、咄嗟に答えれなかった。

 

 

 

 

数年前、天野ケータは突然、妖怪の姿がまったく視えなくなった。これまでは一度妖怪ウォッチで視認すれば、レンズを外しても妖怪を認識できていたのに──。幸いにも妖怪ウォッチを使えば再び妖怪は視界に戻ってくるものの、根本的な異変は解消できなかった。

 

原因を教えてくれたのはエンマ大王だった。曰く「大人への階段を昇り始めたせい」だという。子どもの頃に妖怪を視る能力は、大人に近づくにつれて徐々に衰退することがあり、その状態では妖怪ウォッチを使ってもまったく視えなくなってしまうというのだ。多くの人間は成長してもなお妖怪を視られる例が珍しくないが、ケータは残念ながら普通ではなかった。

 

さらに一度妖怪が見えなくなると、妖怪にまつわる記憶まで薄れていく。最初こそあらゆる手を尽くして抵抗したケータだが、今は避けられない現実と折り合いをつけ始め、恋人である百鬼姫と最後の時間を過ごしていた。

 

「大丈夫だよ、忘れても何度も思い出すから」

正直、そんな根拠はケータにはなかった。だが、そう言わずにはいられないほど百鬼姫の、愛しい人の悲しい顔が耐えられなかった。

「約束じゃぞ。破ったら承知しないからの?」

「うん、約束」

そう言って二人は小指を絡ませて叶うことのない約束を交わした。

 

 

 

―――

 

 

2年近くが過ぎ、天野ケータと縁あった妖怪たちは次々と別れを告げた。高校三年の秋、まもなく迎える十八歳の誕生日。それこそが、妖怪を覚えていられる最後の日だった。

「ケータ‥‥」

「ケータ君」

自室のベットに座りながら、声がする方を見れば、相棒と言ってもいい二人の親友の輪郭が写っていた。

「ウィスパー、ジバニャン。お別れを言いたいんだ。そこにいる?ぼんやりとしか見えなくて‥‥」

「はい。あなたの妖怪執事ウィスパーはここにいるでうぃす」

「俺っちもケータの側にいるニャンよ」

ケータは目を凝らしながら、二人に近づき、抱き着く。

「俺の友達でいてくれて、本当にありがとう。俺が忘れても二人は忘れないでね?」

涙を流しながら、二人と抱き締めて別れを告げ、二人を離して部屋を後にする。

 

「もうよいのか?」

一階に降りると百鬼姫が待っていた。ウィスパーとジバニャンのことを彼女なりに気遣ったためだ。

「うん。待っててありがとう百鬼」

「なに、構わぬ。じゃが、待たせたのだから‥‥」

百鬼姫は手を伸ばし、夜気を纏った黒い袂をぱっとはためかせた。その行動の意味をケータはすぐに理解し、彼女の手を握り返した。

「じゃあ、行こうか百鬼」

「うむ。」

二人は最後のデートを始めた。

 

ふたりは並んで歩きながら、夜の風に乗って過去の記憶がひらりと舞い戻る。

アッカンベーカリーでメロンパンを並んで買ったこと、桜小学校に一緒にいったこと、おおもり神社の参道で浴衣姿のケータと手を繋いで金魚すくいをしたこと、

「全部が昨日の出来事みたいだ」

ケータは少し顔を上げ、隣の姫を見遣る。百鬼姫の頰に月明かりが当たり、その頬が静かに輝いていた。

 

二人の時間を邪魔するものは何もなかった。夜出かける際の懸念点だった鬼時間はケータの成長により起きなくなってしまった。それゆえにケータと百鬼姫は、思い出を懐かしむようにわざと遠回りの道を進んでいた。それでも、時間は過ぎゆくもので二人は目的地であった。おおもり山のごしんぼく前についてしまった。

 

おおもり神社右横の舗道が途切れ、石段の先にごしんぼく。

その前には、石でできたようなカプセルトイ、妖怪ガチャが佇んでいた。

 

「覚えてる?ここで俺たちが初めて出会ったんだ」

二人は石段に腰かけながたあと、ケータはそう言った。

「あぁ、あの時お主は妖怪ガチャに夢中で、まるで見境なしとでも言うべきかのようにコインを放り込んでおったな」

石段に腰かけたまま、姫は背筋を伸ばしながら続ける。

「あの時のお主の必死さと言ったらまるで猿と見まがうほどじゃった。今でも阿呆かと思うがの」

「あはは、お恥ずかしいな」

ケータは顔を背け、苦笑を漏らす。

「じゃが、阿呆はわらわかもしれん。そんな阿保にほれ込んだのじゃから」

その言葉にケータは背けていた顔を百鬼姫に戻す。

「ケータ。約束じゃ必ずまた会おう」

「うん。さよなら、百鬼」

星の下、二人は抱き合いながら誓い合った。やがて、時間は零時を指し示し、天野ケータは大人になった。

 

 

 

気が付けば、ケータは石段に斜めになるよう仰向けに倒れていた。直前の記憶はなく、ズキズキと頭が痛む。空に手を伸ばしながら、何かを掴もうとした。それは何かケータ自身にもわからなかった。だが、瞳に熱がたまり汗をかくように涙が流れた。

「なんでこんなに、悲しんだ」

星空を眺めながら、ケータは静かにそう呟いた。やがて、涙の理由もわからず涙は乾き、一人帰路に着いた。

 




次話書くつもりはある。いつになるかしらんけど。
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