百鬼姫を闇落ちさせたかっただけの話(旧題:忘却の灯火) 作:you are not
春の夜、桜町に異変が起きた。
太陽がまだ頭上にあるはずの時間帯だというのに、町全体がまるで黒い帳に包まれたように沈んでいた。黒雲が空を覆い、風は止まり、気温はぐっと下がっている。人々は一様に不安を口にし、家の窓という窓を閉じて、祈るように静寂に身を委ねていた。
「な、なんニャ……この気配……!」
ジバニャンはアッカンベーカリーの屋根の上から、空を見上げていた。かつての丸っこく可愛らしい姿はもうない。今や鍛え直された引き締まった体だったが、瞳の奥には困惑が宿っていた。
(この妖気‥‥まさか!?)
――どれほど時が経とうとも、忘れようとしても、あの気配だけは、体が覚えていた。
「百鬼姫ニャン‥‥!?」
前にあったのは、数か月前だった。あの時、顔色が悪かったのは覚えているが、それがなぜこんなことになっているのか、ジバニャンにはわからなかった。
「ジバニャン……!」
誰かが呼ぶ声に振り返ると、そこにはUSAピョンの姿があった。
「それに、みんなも‥‥」
USAピョンだけではない、ケータと共によく戦っていた戦友達もいた。今この場にいない百鬼姫とウィスパーを覗いて‥‥
「感じているかい?」
ケータの友達妖怪だった一人、キュウビが真剣な面持ちで問いかけてくる。それに、ジバニャンは無言で頷いた。
「どうなってるニャン?どうして、百鬼姫が‥‥」
「それについては、私の方から説明しよう」
キュウビの背後から、影オロチが語り掛けてきた。その顔には、その瞳には深い後悔と痛みが滲んでいた。
影オロチは深く息を吸い、声を低く絞り出した。
「姫は、人間界から戻ってきた後、ずっと塞ぎこんでしまっていた。風呂にも入らず、食事にもほとんど手を付けないほどにな。だが、半日前、突然姫様が暴れはじめたんだ。おかげで地獄は大変なことになってしまった。だが、最悪なことにその被害が人間界のここ、桜町にまで及ぼうとしている」
重苦しい空気が、その場の全員を包んだ。影オロチの言葉が事実なら、百鬼姫は今――「災厄」そのものになってしまった。かつて皆で倒した『どんどろ』のように
「信じたくはないニャンよ。百鬼姫は‥‥本当に優しい妖怪だったニャン。人間なんかに興味ないって言いながら、いつもケータのこと見てたニャンから‥‥!」
「その『優しさ』が、心を壊したのかもしれないね」
キュウビが静かに目を伏せる。
「執着と愛情は紙一重‥‥それが積もり積もって、今の百鬼姫を形づくったのなら、止める必要がある。それが、仲間としての義務だろう?」
「止める……って、どうやってダニ?」
USAピョンが困惑を滲ませる。
「あの妖気、もはや常識じゃ通じねーぞ。並の攻撃じゃ歯が立ちそうにないダニよ!」
「だとしても、戦わない理由はない」
ゴルニャンが前に出て、腕を構える。
「かつて、ケータと共に守ったこの街のために、そして、彼の大切だった彼女を止めるために、我らは今一度集ったのだ」
「ゴルニャンの言う通りだね。僕としても、彼女のあんな姿みたくはないね」
ぜっこう蝶が羽を広げ、淡い光を散らす。
「もしも、彼女に殺されることになるとしても、僕たちは戦うよ。忘れられても、僕たちはやっぱり、彼の『友達』なんだ。」
その顔は、諦めと嬉しさとが入り混じった顔だった。周りを見れば、皆同じ顔をしていた。
「‥‥ミーも同じダニよ。イナホに忘れられても、やっぱり人間が大好きなんダニ」
「みんな、心で考えることは一緒ニャンね」
誰もが同じ思いだった。百鬼姫が恨めしいわけでも、殺したいわけでもない。
――けれど、だからと言って黙って見ているわけにはいかない。
「行くニャンよ、みんな!」
ジバニャンが先頭を歩き、皆がそれに付き従うように、その後ろをついていく。歩くうちに、桜町中の妖怪たちが集まり、その行列に入り込む
闇に包まれた桜町を行進するその有様は、正しく百鬼夜行。突き進むはオオモリ山へと向けて、かつての『ケータの友達たち』が今、ふたたび肩を並べて走り出した。
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桜町の妖怪たちによる『百鬼夜行』は、静かに、しかし力強くオオモリ山を目指して進んでいた。道すがら、次々と集う妖怪たちが合流していく。かつて天野ケータと心を通わせた者たち、正体すら知らぬがただ空の異変に気づいた者たち。
理由は違えど、皆その足を同じ方向へと向けていた。
そして、彼らがご神木の前に辿り着いた時
――空が、裂けた。
「来るニャンよ‥‥!」
ジバニャンの言葉と同時に、空間の歪みが木々のざわめきを飲み込み、黒い霧が地表を這うように広がっていく。冷気が一気に温度を奪い、息を吸うだけで喉が焼けるような感覚が走った。
ご神木の前に佇む妖怪ガチャが消え、妖魔界へ通ずるエレベーターが現れる。その扉は、黒炎を帯びて脈動し始める。
そこに――百鬼姫が現れた。
かつての気品ある装束は影に焼かれ、今や漆黒の衣に紅の刺繍が禍々しく浮かぶ。彼女の長い紫髪は乱れ、足元には黒い炎の群れが舞っている。顔を隠すように伏せたまま、しかし彼女の妖力は、誰よりもその場を支配していた。
「どうやら姫様は随分と元気になられたようだね?」
皮肉交じりにキュウビが呟く。
「あぁ、それ自体は喜ばしいのだがな」
それに対して、影オロチが皮肉で返す。
「ケータ‥‥」
百鬼姫はただ一言、ぽつりと呟く。その声はかすかに震え、どこか泣いているようにも聞こえた。
「憎い‥‥」
だが次の瞬間、空気が変わる。百鬼姫が顔を上げると、瞳は赤く染まり、理性の欠片もないほどに濁っていた。
「消えろ!こんなに苦しいだけの世界!!壊れてしまえ!」
その叫びと同時に、黒い瘴気が爆発する。
「ニャニャ!」
ジバニャンは驚きながらも耐え凌ぐが、周りの妖怪たちは吹き飛ばされないように、その場に踏ん張るので精いっぱいだった。
「まるで、別人ダニ‥‥!」
USAピョンの言葉に、誰も否定の声を上げることができなかった。
「このままでは、こちらが危うい‥‥やはり戦うしかないようだね」
キュウビが炎をまとって躍り出る。ゴルニャンもその前出て、衝撃に備えた。
「百鬼姫!!目を覚ますニャンよ!!」
ジバニャンが渾身のひっかきを放つが、ひるむことなく百鬼姫の放つ妖力が、前衛の妖怪たちを薙ぎ払う。
「効いてないダニよ!」
USAピョンも光線銃で後方から攻撃するが、全て届く前に黒い霧によって阻まれてしまう。
「まるで、どんどろや怪魔と同じだニャン‥‥いや、それ以上‥‥!」
それでも、誰一人退こうとはしなかった。
「いいか、みんな‥‥ここで諦めたら、この町はどうなる!?」
影オロチが黒い龍のマフラーで噛みつきながら、激励の言葉を周囲に投げかける。言われずとも、皆が分かっていた。
この厄災はダメだ。放っておけば、人間界は愚か、あらゆる妖怪が消えかねない。だからこそ、戦う。仮に自分が死すとも、仲間が明日の朝日を眺めることさえできるのならばと、この魂を賭けて厄災に挑むのだ。
補足すると、ケータのイツメンは
・ジバニャンS(思い出の鈴装備)
・百鬼姫(氷の指輪装備)
・影オロチ
・キュウビ
・ゴルニャン(てっぺきのおまもり)
・ぜっこう蝶(鬼神のバッジ装備)
です。これであやとりさまに勝利したのはいい思い出。