奴隷から始まる異世界転生譚   作:青い灰

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9話

 

 

 

 

ガリア皇国。

 

大陸西方に位置する、大陸一の領土を持つ大国だ。

かつてガリアは、エルトア、クレスト、アルシールの三国を主とした大陸連合国との大規模な戦争があり、なんと、その大戦は8年もの間続いたという。

 

その戦による多くの死がもたらしたのは、〝厄災〟の出現。それは戦場となった大陸の三分の一を荒野に変え、大規模な地形変化と人員の死亡によって、戦を強制的に凍結。

 

厄災はガリア、連合国の主三ヶ国の〝調停者〟たちにより、その内二人が殺害されたものの封印され、大戦は終結した。

 

 

現在は、大陸全土に停戦条約が結ばれている。

それは厄災の再復活を防ぐためではあるが、未だに水面下で国家間での小競り合いは起きているとか。

 

 

その巨大な戦いは〝大戦乱期〟と呼ばれている。

調停者の死、そして影の厄災の出現と封印が起きた……

 

 

───────歴史上、最悪の戦乱の時代だ。

 

 

 

 

 

 

 

さて。

 

そんな大戦乱期は、今から30年くらい前のこと。

今となってもその傷跡は健在ではあるものの、人間とは強い生き物だ。生き残った各国の小競り合いは少しずつ肥大化、アニキたちは、かつての連合三ヶ国から引っ張ってこられた奴隷で、このガリア領内にある坑道にて働かされていた。

 

俺たちはそこから脱走。

それも当然だが大事件として、このガリア皇都でも騒がれる大きな話題の一つとなっているようだ。

 

 

城下町を歩けば、そんな話も聞こえてくる。

なんでも事件を起こしたのは魔物だとか、皇国の転覆を狙う組織が起こしたものだとか。どこの世界のどんな国の人間も陰謀論がお好きなようで。

 

 

「そういえばお前、

 俺を国に突き出すべきじゃないのか?」

 

「うん?

 まぁ別に国も奴隷全員を把握してる訳でもないしね。

 私も皇宮に戻ったら尋問されたけど、

 面倒だったから知らぬ存ぜぬで通したし」

 

「国への忠誠とかないのか」

 

「私そういうの嫌いなんだよね」

 

「なんで騎士とかやってるんだお前……」

 

 

目を細めて嫌そうな顔をするレイラを見上げて、俺はそんな彼女に歩幅を合わせて歩く。昼間の皇都の大通りは、かなり賑やかで、立ち並ぶ出店には本やら果物やら、中には武器も売っているものもある。どんな店にもつい目を引かれるが、今は冒険者組合だ。

 

とはいえ、他愛のない話も楽しいものだ。

情報も入るし、何よりレイラについて知るのも悪くはない。こいつは恐ろしいところもあるが、割とおもしれー女だ。

 

 

「ま、騎士だと何かと都合がいいからね。

 貴族としての身分も自分で守れるし、

 面白くない政治の話もしなくていいし」

 

「それでいいのか」

 

「そんなもんだよ」

 

 

レイラはそう言って笑う。

騎士は国の防衛を主とする、前世での警察みたいなものだ。逆に兵士は普段は騎士と同じながらも、戦争となれば前線へ赴き、攻撃を行うことを主としている。

 

そして騎士は、貴族の身分だ。

ガリア貴族は誇り高き貴族としての格があるようで、贅沢を是としながらも、だがそれ以上に品性と格を求めるらしい。ちなみにかなりの金額を国に納めれば平民も貴族になれる、とのことだが、そんな輩は珍しいらしい。お堅い感じなのはどれだけ贅沢が出来ようと好まれないようだ。

 

 

「あぁ、そうそう。

 話は変わるけど……一ついいかい?」

 

「なんだ」

 

「人前では敬語を使って欲しいんだ。

 貴族は誰からも舐められたら終わりだから」

 

「了解しました、我が主」

 

 

やはりか。

なら、普段から敬語の方がいいだろうか?

特に敬語で話すのが苦手というわけでもない、それに立場を改めて考えるのなら、俺は奴隷、レイラはその主だ。基本は敬語で接した方がいいだろう。

 

 

「それと、あと二つ。

 今みたいに人前じゃ立場を弁えること、

 それから魔女とは関わらないこと。

 守れるかい?」

 

「一つ目は構いませんが……魔女?」

 

「あぁ、私は魔女が嫌いでね」

 

 

レイラの微笑みの絶えない顔からは、僅かな怒りを感じた。

魔女……魔法使い、魔術師の中でも悪事を働く女の集団だ。

 

悪事に手を染めた魔導士を〝黒魔導士〟と呼ぶが、その中で特に厄介なのが〝サバト〟という黒魔導士の魔女の集団で、連中は、人体実験だとか魔物を生み出しているとか黒い噂が絶えないという。坑道では魔女についてはこう聞いたので、本当にロクでもない連中なのだろう。

 

 

「特にアルシールの魔女。あれは駄目だね。

 根暗で陰湿で執念深くて強欲で最低最悪な連中だ」

 

「そうですか」

 

「私も立場さえなければ連中を

 一人残らず皆殺しにしたいんだけどね。

 あいつら、バラバラになって集まらないのさ」

 

 

このレイラからは今までで一番本気さを感じる。

坑道の戦いでも感じなかったので何だか嫉妬してしまうが、僅かに溢れ出る殺気に当てられて引く。一体何があったかは知りたいが、聞けば呪詛が撒き散らされそうなのでやめる。

 

 

「おっと、見えてきたよ」

 

 

レイラが顎で示した先に、大きな建物があった。

屋敷と同じか、それ以上には大きな建物。でかい。そして、そこから冒険者と思われる動きやすそうな格好をした一団が出てくる。剣や盾、槍や斧を持った男二人、女二人の集団はこちらに、というかレイラに気付くと、笑顔で手を振る。

 

 

「レイラさん!」

 

「ん?」

 

 

そうして駆け寄ってくる女二人と、それらを追ってくる男を見て、やっとレイラは手を振られたことに気付いたらしい。彼女の元に彼らがやって来ると、レイラはにこりといつもの笑みを浮かべた。

 

 

「レイラさん、お久し振りです!」

 

「あぁ、久し振りだね。調子はどうかな?」

 

「かなり良いです!

 聞いてください、私たち、4級に上がったんです!」

 

「おや、それは凄いね。おめでとう」

 

「レイラさんが指導してくれたお陰です!」

 

 

女二人は、近くで見るとそれなりに若いようだ。

まだ二十になるか、ならないくらいだろうか。

と、そこに男たちも追い付いてくる。こちらも片方は中年といった雰囲気と、片方は女二人と同世代くらいだろうか。

 

 

「はぁ、はぁ……お久し振りです、レイラさん」

 

「うん。久し振りだね。

 4級に上がったって聞いたよ、おめでとう」

 

「いや、まだまだ………と?

 レイラちゃん、その子は?」

 

 

と、髭面の中年男がこちらに気付く。

俺は胸に手を当てて頭を下げ、挨拶する。

 

 

「どうも。アルガリアです」

 

「うん、実は奴隷を買ってね。

 冒険者として働いて貰おうと思って連れてきたんだ」

 

「ほお、奴隷……

 レイラちゃんにそんな趣味があったとはなあ」

 

「わあー!可愛い!」

 

 

女の片方、槍を背にした方に頭をがしがし撫でられる。

レイラほどではないが見目の良い女にされて嬉しいような、しかし小馬鹿にされているようで腹立つような、複雑だ。

 

 

「良ければ可愛がってあげてね。

 槍術と魔法を仕込んであるから役には立つはずだよ」

 

「えっ、討伐依頼に行かせるんですか!?」

 

「賢いし今から連れてっても動けるとは思うね。

 登録がまだだから、また今度よろしく頼むよ」

 

「お前、レイラさんに直接教えて貰ったのかー。

 羨ましいぞーうりうり」

 

 

若いとはいえ男に頭を撫でられても不快でしかない。

ていうか寧ろ坑道での扱い思い出すからやめろ。

それでも撫でに耐えつつ、笑顔をキープ。俺は接待のプロ。そして十歳児を演じる役者である。耐えろ。

 

 

「さて、そろそろ私たちは行くよ。気をつけてね」

 

「あ、はい。それでは。

 そちらもお気をつけて。行こうか」

 

 

そんな俺の心中を知ってか知らずか、レイラはそう言って助け船を出してくれた。

リーダーだろう若い男は声をかけ、こちらに手を振って背を向け、去っていく。その姿は人混みの中に、ゆっくりと消え失せていった。

 

 

 

 

さて。

 

 

「誰か覚えてませんでしたね?」

 

「おっと、バレたかい?」

 

「なんとなくそんな雰囲気があったので」

 

 

微笑みを絶やすことのないレイラ。

彼女の彼らの対応には〝興味〟がまるで感じられなかった。そこらの蟻を見下ろして、ただ、言葉だけを返すかのような対応は、まさに無関心のそれだ。

 

俺も、その視線はよく知っている。

明確な上の立場にある者の、感情のない視線。

 

 

「一々覚えてられないんだよね。

 人間なんて、それこそ飽きるほどいるし」

 

 

まるで、自分は人間ではないかのような言い方だ。

 

…………実際、そうなのではないかと思う。

こいつの反応は、まるで子供のようだ。

自分勝手で、我儘なところもあるのが余計にそう思わせる。そして今の発言も、神様じみたものだ。

 

 

「ふふ、私が怖いかい?」

 

「まさか。怖がる必要はないでしょう」

 

 

俺は首を横に振った。

それに不快感を感じはしない。何より恩があるし、俺はその彼女から今のところ何かしらの〝関心〟を向けられている。それが一時的なものなのかは分からないが、感情もしっかり見て取れる。気味が悪いとは思っても、そこまでだ。

 

そういうものであると思ってしまえば、恐ろしくもない。

 

彼女はにこりと笑みを深める。

 

 

「君も大概、不思議な感性を持ってるよね」

 

「俺の主ほどじゃないですよ」

 

 

頭の中身を読まれるように思えても、別に、やましいことを考えているわけでもない。俺も笑みを返して、組合に向かい歩き出した彼女に続く。

 

 

 

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