奴隷から始まる異世界転生譚   作:青い灰

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11話

 

 

 

組合の建物の中には、大きな中庭のような場所があった。

中庭、といっても砂地のもので、その周りには観客席とでも云うような椅子が並べられている。闘技場、とそんな言葉が最も似合うような場所だった。

 

実際、そうなのだろうが。

 

 

「その、なんだ、悪ぃな、アルガリア」

 

「アルで良いですよ。気にしないでください」

 

 

視線を合わせながら、前に進み出る。

俺は槍を模した木槍を、ザイル、と呼ばれた彼は短めの剣、グラディウスというべき幅広、分厚い刃を模した木刀を手にゆっくりとこちらの動きを見定めている。

 

武器の間合いに関しては俺が有利、だが相手はそれを承知であの武器を振ってくるだろう。そも戦闘経験なら間違いなく相手が格上、まだ酒の臭いはするが、さっきより大分薄い。酒が切れる前に決着をつけなければ負ける。というか、酒が入っている今の状態でも勝てるか怪しい。

 

ちなみに、魔法は禁止だ。魔法は殺傷力が高い。

 

そしてそれぞれ、正面。

向かい合い、構える。

 

 

「んじゃあ、始めるか?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

自然な流れ。

俺は槍を、両手に握り直して腰を落とす。

そしてザイルが握る木刀のグラディウスを腰だめに構え。

 

 

 

 

 

その姿が、掻き消えた。

 

 

「!!!」

 

 

──────速い!!

 

真っ正直、振り下ろされた一撃を間一髪、槍の柄で受ける。それに、重い!!潰されるかと思うほどの重さだ!!

まともに受け続ければ槍が折られる!

 

 

「ぬあッ────!」

 

「おぉ!?」

 

 

一歩足を下げ、踏ん張りを効かせて渾身の力で押し返す。

そして一瞬の脱力、力を入れ換え直す。

更に後ろへ下がりつつ、槍先で足払いをかける。

 

我流〝足削ぎ〟!

 

 

「ぐっ!?」

 

 

続けて、槍を握り直す。

本来なら足を削ぎ、そこから無防備になった所を狙う技。

返す刀で槍を振り払い、狙うは首。

 

我流〝首裂き〟!

 

 

 

「しぁッ!!」

 

「ぉおっ!?」

 

 

反応されたか。

首筋に打ち込む一撃。素早く振り払われたグラディウスが、それを弾き返す。続く反撃より先に、更に後ろに飛び退いて互いの間合いから離れる。

 

相手は肩で息をしている。

酒の臭いが消えかかっている、今ので決めるつもりだった。それにあのスタートダッシュは、眼で追える速度じゃない。勘と計算で避けるか受けるか、対策しなければ。

 

 

「ふぅ、ふぅ……おいおい……!

 酔い醒ましってもんじゃねぇぞ。とんでもねぇな……」

 

「お互いに。

 今ので決めるつもりでしたが、最初のは危なかった」

 

「……っは。おもしれぇじゃねぇかよ」

 

 

ザイルが笑い、グラディウスを振り払う。

これ不味くないか?いや、だが、うん。確かに、そうだ。

 

前世で好きだったゲームを思い出す。

アクション、格闘、そういった類いのゲームは楽しかった。今の緊張感も似通った感じがする。それにこの肌がビリビリ震えるような感覚、確かに、面白い。

 

思い直せばギアが上がってきた。

あぁそうだ、こんなにも心が踊るのも久し振りだ。折角だ。存分に、楽しんでやろう。

 

走り出す。

 

 

「しッ!!」

 

「おっ、と!!」

 

 

頭を狙った三連突き。

ザイルは回避と同時に懐に潜り込んでくる。

 

 

「おらァ!!」

 

「ぐ、っ!!」

 

 

槍を引き、胴に振り抜かれる一閃を受け止める。

退避、いや反撃に移る。踏み込む。

 

 

「おぉッ!!」

 

「な、ぐぉっ!!?」

 

 

零距離。ならば槍より拳が良い。

がら空きの腹に拳を叩き込む。力を込める暇こそなかったが十分、直撃の瞬間に全霊を打ち込み、よろめかせる。

 

 

「おらァ!!」

 

「ッ、おおァ!!」

 

 

だが瞬時によろめきから立て直し、ほぼ同時に、また互いに挙動が被る。一歩下がり、頭を狙った上段蹴りが全く同時に放たれ、激突。強烈な痛みが足首に迸り、軸足に力を込めて後ろに跳び、離脱する。

 

 

「思った以上にやりやがるな……!」

 

「そりゃどうも……!」

 

 

まるでダメージがない。いや、マナで防御されたのか。

それにこの動き、気付かなかった。マナを循環させて一点に集中、肉体を活性化している。少し集中すれば分かったが、問題はそこじゃない。真似は出来るか……?

 

いや、真似る必要はない。効率化しろ。

高速で全身に循環させれば問題ない。燃費は悪いが総量なら問題ない程度には多い。………おぉ、身体が熱い。軽い!

これだ!

 

まだ、上がる!

 

 

 

「───!」

 

「はははっ……!!」

 

 

全速力で砂地を蹴り、一息に駆け抜ける。

 

エルトア流。

 

 

「む……!」

 

 

薙ぎ払う一閃。

受け流されるが、問題ない。

振り抜いた瞬間に槍を持ち直し、逆手に握る。

 

 

「らぁッ!!」

 

「うお……っ!?」

 

 

柄尻の打突。

幅広の刃腹がそれを防ぎ、だが大きく後退させる。強く強く踏み込み、前方へ跳んで一気に距離を詰める。

 

 

「こりゃあ、古エルトア流か……!!」

 

「ご名答!!」

 

 

分かっても受けきれるわけではあるまい。

槍を払い、大きく引き絞る。

 

エルトア流、第五式。

 

 

「っ──────!!」

 

「お、ぉ……!!?」

 

 

〝飛天〟。

跳躍、連撃、勢いを全て乗せた最後の刺突の一撃。

斬撃・打撃・刺突の三連続。

 

だが。

 

 

「全部……捌ききられたか……!!」

 

「っは!伊達に冒険者やってねぇ──────!!」

 

 

弾き上げられた槍。

体勢が崩れ、無防備を晒してしまう。

 

瞬間、またもザイルの姿が消える。

懐に───────

 

 

 

 

 

 

「よッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされる。

これはまずい、いしき、が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 

舌を噛み潰す。

 

 

吹き飛ばされながらも槍を地面に突き立てブレーキをかけ、砂埃を巻き上げながら体勢を整える。

 

 

「っが、は、っ……!!

 が、ほっ、げほっ……げほっ………!!」

 

「────」

 

 

腹への膝蹴り。

とんでもない威力だ、身体を意識ごと吹き飛ばされた。

 

 

「っ、べッ!!

 はぁっ、はぁ、はぁっ………!!」

 

「─────!」

 

 

噛み千切れた舌を吐き捨て、呼吸を整え、槍を構える。

追撃はない。エルトア流じゃ駄目だ。我流の二連は効いた、ならば我流の槍でやるしかない。二度目の足削ぎと首裂きは通じない、ならば──────

 

 

「……ふう、ふぅ…………!!」

 

「───────!!」

 

 

耳鳴りがやけに煩い。集中しなければ。

踏み込み、槍を構えて走り──────

 

 

 

「待て待て待て!!

 おい!!試験は終わりだっつってんだろ!!!

 聞こえてねぇのか!!!?おい!!!」

 

「あ?」

 

 

 

立ち止まる。

終わり?

えっ試験って言ってたよな。あっそっか試験だったか。

あれじゃあつまり……

 

 

「俺もしかして落第!!?」

 

「ちょっとは落ち着けねぇのか!!?」

 

 

ザイルに突っ込まれる。冷静になれ。なった。

口が錆の味がする。あぁ舌噛み潰したんだった。えっじゃあ俺もしかしなくても冒険者になれないのか?ザイル強すぎ。この世界の人間種ってもしかしてザイルとかレイラみたいな馬鹿みたいに強いやつしかいないんですか?駄目だろそんなの。俺馬鹿みたいじゃん。恥ずかしい。

 

 

「シルバーさん!!?」

 

「おお正気に「俺駄目でした!!?」戻っておらぬなぁ」

 

「俺は正気ですよ!!」

 

「正気じゃない人間のセリフなんだよねぇ、それ」

 

 

おれはしょうきにもどっている!

いや落ち着いてきた。正気に戻った。ベロが痛い。

 

 

「うえっ、べっべっ……」

 

「………はぁ、マジで殺されるかと思ったぜ……

 とんでもねぇ殺気だったぞ。

 人間が相手なんだ、ちょっとは抑えろよ……」

 

「………えぇ?

 そんな殺気に溢れてました?」

 

「気付いてねぇのかよ……イカれてんな、お前」

 

 

正気だっつってんだろ殺すぞ。

 

 

「あぁ~……良いか?」

 

「あぁごめんお爺ちゃん」

 

「おじい……まぁ良いわ。

 アルガリアよ、今回のでお主の実力は十分にわかった。

 才覚に溢れておって何よりじゃよ」

 

 

戦うための才能かぁ。

俺もしかしたら戦うために生まれてきたのかもなぁ。すごい楽しかった。なんなら死ぬまで戦りたいところだったのだが試験だし仕方がない。また死に損なったよクソッタレ。

 

 

「冒険者試験は合格。

 1級のザイルを相手に良く頑張ったの」

 

「えっ合格ですか?」

 

「なんじゃ不満か」

 

「ザイルさん倒せなかったので」

 

「お前は誠実な奴だと思ってたんだがなぁ……」

 

 

なんか横から聞こえてきたが無視する。

勝手に俺に期待しといて落胆するのはやめろ。ぶち殺すぞ。殺せなかった。クソッタレが。ていうか1級ってなんだよ。

観客席にいるシルバーさんは、それを聞いて溜め息をつく。

 

 

「お主その歳で高望みし過ぎじゃろうが……

 世界最強でも目指しとるんか?」

 

「なれれば良いなぁとは思ってますけど」

 

 

男の子は必ずと言っていいほど最強に憧れるものだ。

大抵は現実に打ちのめされて諦めるものだが。しかし、もし届くのなら手を伸ばすのも悪くはないだろう。

いやしかし………

 

 

「……勝てると思ったんだけどなぁ」

 

 

悔しい、というよりも残念な気分だ。

まだギアは上げられた気がする。マナの循環にもっと早く、そして速度を上げていければ限界まで身体強化が出来た。

恐らく、これは時間経過で加速させれば更にギアが上がる。上げすぎれば身体がマナに耐えきれずに焼き切れそうだが、そこは鍛えて肉体強度を上げなければ。やっぱり筋肉か。

 

 

「悩んでるとこ悪いが……お前さん、大丈夫か?」

 

「え、なんでですか?」

 

「顔色がやべぇぞ」

 

 

あっヤバいマナ循環させっぱなし──────

 

 

 

 

 

 

「ぴっ」

 

 

 

 

 

 

意識が途切れた。

 

 

 

 

 

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