だからそれを受け入れた。
きっと、寂しかっただろうから。
こんな人間でも、その火の薪くらいにはなれるから。
その苦しみの声を、見逃すことは出来なかったから。
「さて、話をしようか」
レイラは、そう言って椅子に座る。
あのフードの少女をアランたちに任せて、俺はレイラと共に邸宅に戻った。簡単に食事を済ませ、食堂のテーブルを挟み向かい合うように座る。なんか面接みたいだな、と雰囲気に合わない感想を頭に浮かべながら、俺は意識を切り替えた。
「まず……聞きたいことはある?
大まかな説明の前に、確認しておこうか」
「聞きたいこと、っつっても……多すぎて。
悪いけど、ちょっと待ってくれ」
「うん。待つとも」
そんなことを言われても、って感じでな。
話を整理してみよう。
あのフードの正体。
同じ顔の人間が、二人いたこと。
フードの女が侵されていた強力な呪いのこと。
それから、俺が誰に
今気になるのは、この辺りだろうか。
クローンとかそういった技術があるのかも気になるし、俺の出生に関することも分かるなら聞いておきたい。
「成程ね」
「思考読みやめろ」
「視えるんだから仕方ないだろ?」
「ぐぬぬ」
思考読みって自動発動かよ。
こいつも隠さなくなってきてるし。唸っている間にも思考を読んだのか、レイラは四本の指を立てた。
「まず、君の知りたいことは4つ。
今回の事件、確かにその全てが関わってくる」
「……なんか随分と大事らしいな」
「あの娘の素性が厄介でね。
それは、私たちの問題でもある」
「私、たち……?」
そういえば、レイラの正体についても分からないままだ。
正直、気にはなるけどそこまで興味もないが……
「え、そうなの?」
「だから思考読んで話すんじゃねぇよ」
「別に良いじゃないか、
君だって私の夢想視について分かっているんだし」
「むそうし?」
「君の言う思考読みだよ。
前にも言ったじゃないか、視ていた、って」
「あー、そういえば………」
『視ていたからね』
確か、冒険者試験で気絶した後に夢を見て。見透かされて、レイラはそう言っていたか。言葉通り、人の夢を覗き見れる獏みたいな力でもあるのかと思っていたが……
思考読みそのものだったのか。
「正確には、思考を読むのとも違うけどね。
私は夢を視ることが出来る。夢は心そのものだ。
口では出任せを言えても、心は嘘を言えない」
「………」
つまりこいつ、他人の心を読めるのか。
ふむ………レイラの服を剥ぎ取るのを妄想してみる。
「あ、君そういう感情あるんだね」
「お前はあんまり反応ねぇな。
あと俺だって悟り開いてるワケじゃねぇよ」
「人間の男は割とそういうこと考えてるからね。
君は酷いことされてたみたいだから興味ないのかと」
「考えてる暇とかなかったしな………はぁ」
そう考えたら湧くものも湧いてくる。
やっぱり俺も人間だなぁ、なんて自己嫌悪に溜め息をつき、顔を上げれば、レイラが凄いニヤニヤしているに気付く。
びっくりするからやめろ。
「ふふ、なにさ。私に欲情したの?」
「…………話が逸れてるぞ」
「人間扱いしてない相手に?」
「聞けよ。つーか……」
一週回って、こいつもやっぱり人間なんじゃないか、寧ろ、人間らしいとすら思うようになってきた。
「……………」
「どうせ読んでるんだろ、なんとか言え」
「いや、ちょっと意外でね。そうかい?」
「そうだろ。
他人の考え読める癖にしっかり話はするし、
最低限でも気遣いだって出来てる」
俺の夢を視たとき、レイラは自分の言葉を反省するように、悪いね、と言った。それに、アランやシスターに取り引きを持ちかけたときも相手に合わせて話をつけていた。
「ちゃんと笑って、驚いて、他人を揶揄ったりする。
他人に優先順位だってつけてるみたいだしな」
読めなかっただけで、感情は確かに出ていたこともあった。たまには驚いたり、考え込んだり、今みたいに俺を揶揄って笑ったり、希薄なだけなのかもしれない。
無関心な相手もいれば、名前を覚えるような相手もいて。
それこそ、人間でないなら他人に優先順位などなく、纏めて人間という括りで、全員に無関心になるはずだ。
彼女も、俺と同じ人間だ。
「人間味がないだけで、
お前も確かに人間なんだな、って思ったんだ」
「────────」
レイラは、口を小さく開けたまま動きを止めた。
………なんだ、おかしなことを言ったか。言ってたな。
思い返せばかなり失礼なことを言ってるようだ。
「………いや、いいや、失礼なんかじゃないよ。
うん、そっか。君は優しいね」
「優しくはない。思ったことを言っただけだ」
「そっか。ありがとう」
「お礼を言われるようなこともしてない」
気恥ずかしくなって、目を逸らす。
彼女の浮かべた微笑みの方が、ずっと優しげだ。暖かな熱を帯びたそれは、なんだか直視できない。
「………ふふ、話を戻そうか」
「そうしてくれ。
ええ……と、なんの話だったっけか」
「私に欲情してる君の話だったっけ?」
「違う!いや違わな……違う!
そうじゃなくて……あぁそうだ、あのフードの素性だ」
揶揄ってくるレイラの言葉に思考を切り離し、記憶を探って掘り起こす。そう、あのフードの少女の素性が問題だという話だった。
「あぁ、そうだったね。
それについてだけど……私は立場上、彼女に関して
干渉は禁じられてる。勿論、言及することもね」
「教えてくれる流れだったろ、今のは。
ていうか、干渉は禁じられてるって……立場上?
騎士隊長ってそんな重要なもんなのか?」
「いや、それについても言えないかな。
あまり軽々しく正体は明かせないんだ」
「めんどくせぇ……」
「禁忌、というやつだ。
本来は踏み込むべきでないものなのさ」
言えないってなんだ。禁忌ってなんだ。
秘密主義ってのは厄介なもんだな。だが、仕方ない。それがレイラが正直に言ってくれている事実だ。悶々とするが。
「そう言ってくれると助かるよ」
「言ってはいないけどな」
「けど、君から知る分には問題ない」
「?????」
「つまり、君が知れば良い。
私が秘密を教えることは出来ないけれど、
君が秘密を暴けば、私たちが咎めることはないんだ」
「…………分かったような気がする……?」
つまり、俺が自分で秘密を知ればいいということ。
それに関してレイラは無干渉を貫く。そういうことか。
「そういうこと。
私の秘密、暴いて欲しいな」
「その言い方やめろ」
「興奮するだろ?」
「やめろ」
なんかぐいぐい来るようになったな……
しかしまぁ、レイラの正体については何となくアテがある。確信はないが、そういうことなんじゃなかろうか。
「ぶっぶー、違うねー」
「腹立つなそれ」
違うんかい。
調停者とかそういうやつかと思ったが、違うらしい。
「残念だけどね」
「むう」
まぁクイズはここまでだ。
となれば………
「全部、聞けなくねぇかな」
「呪いについては教えられない、けど……
同じ顔の人間、そして君のことについてなら、
多少は教えてあげるよ」
「ん、助かる」
そうとなれば、まず気になるのはクローン疑惑だ。
俺のことはまず置いておこう。なにせフードの奴に関しては仕事だ。こればっかりは完遂せねばならない。
レイラは頷き、だが。
「けど、それより先に君のことからいこうか」
「えっ、なんで?」
「これに関しては私も不明瞭でね。
確かなことは言えない」
ふむ、レイラもなんでも知ってるワケではないか。
しかしまぁ、異世界転生の理由か。何故わざわざ俺みたいな面倒くさい人間をこの世界に寄越したのか、いや、そもそも誰でも良かったんじゃないか?
「誰でも良かった、か……
ふむ、それも分からないけど……呼ばれた、というのは
君も感じていた通り、間違いないだろうね」
「んー、そう、か……」
呼ばれたのは、確かだ。
それが誰だったかは覚えてない。思いだそうとしても、頭が理解を拒むように痛み、黒い靄がかかる。ズキズキと痛みが走るなかで、だが、確かに、声が聞こえたのは覚えている。助けを求めるように、嘆くように、泣き叫ぶように。
「声か。誰のものかは、
私の考えも推測の粋を出ないね」
「それでも構わない。
心当たりがあるのなら、教えてほしい」
「……………恐らく、彼女たちのものじゃないかな」
彼女
繋がるとしたら、まぁ可能性はなくはない、という感じだ。結局は手探りで行くしかないのだが。
そういえば、クローン技術はやはりあるのだろうか。
異世界というよりはSFとかそういう方向性だが………
「クローン、ね……人間の複製か。
確かに似た技術はあるし、それが質問の答えだね」
「おお、そうか」
「古い魔術、名を
ゴーレム技術、その延長線上にあるものだ」
ホムンクルスときたか。
錬金術、パラケルススで有名なやつだ。しかし成程、ここでゴーレムが出てくるのか。この世界での魔術は古いもので、古代の産物らしい。魔女がそれを受け継いでいるが、しかし多くは失われ、今では再現も難しく、使い手は少ない。
この世界、というか皇都でも、ゴーレムはたまに見る。
それでも博物館だったり、朽ちたものだったりするものだ。動くものは見たことない。なんでも昔、ガリアは魔術最盛の地とも呼ばれ、古い時代のそれが残っているのだとか。
「あぁ、君の知る白髪の少女はホムンクルスだろうね。
彼女らは人間でなく、だが人間として造られた存在。
不完全で、だがその不完全さを求められたモノ」
「…………」
不完全さを、求められたモノ。
何故?人間はそもそも不完全なものだ。ホムンクルスなんて普通、完璧を求めるものだろうに。いや、違うのか……?
不完全さを求められたとは、ヨミたちのこと………?
考え込んでいると、レイラは目を伏せて続けた。
「白髪の娘。その痕跡を辿り、そして追うといい。
そうすれば、見えてくる真実があるだろうね」
ホムンクルス、国の秘密、異世界からの呼び声。
まさか、こんなにも早く繋がりが見えてくるとは。
………俺がここにいる意味があるのなら、それを知りたい。
「焦ることはないよ。
君が手を伸ばそうとするものは秘密であり、禁忌だ。
おぞましい秘密にこそ、隠すものがいる。
暴いたとして、知るべきでないものもあるだろう」
レイラが言う。
真っ直ぐに、その赤い瞳がこちらを捉えている。
「覚悟することだ。
代償は、いつ求められるか分からないのだからね」
血のような赤の眼には、後悔に似たものがあった。