奴隷から始まる異世界転生譚   作:青い灰

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18話

 

 

 

 

 

「し───────ッ!」

 

 

風を切って振り抜かれる、居合いの形を取った一閃。

ガリアの剣術は耳にした程度だが、それらは速度を重視し、そして的確に敵の弱点を狙うものだという。確かに、成程。

 

アランの放ったそれは、完成された技だ。

居合いの構えをとる初動はともかく、隙がない。構えられた時点で反撃を確定する。居合いとはそういうものであるし、何より、その速度が異様だ。黙視では捉えられない。

 

だが、それだけに弱点は明確だ。

剣の軌道が分かりやすく、ましてや初撃で撃つはぶっちゃけ馬鹿だと思う。

 

 

「っ……!」

 

 

軌道を読み、大きく腰を落とした回避。

木剣はその白髪を掠めて空振り、低姿勢のまま、だが一切の速度も落とさず、少女が突撃する。

 

 

「「──────!」」

 

 

そうして素早く振るわれる木の小剣は、だが、引き戻されたアランの木剣に防がれる。

 

かぁん─────

そうした木刀同士の小気味良い衝突音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………光るところはありますけど、てんで駄目ですね」

 

「アルくん……ちょっと冷静すぎませんか……?」

 

 

溜め息混じりに呟いた俺の言葉に、シスターが青ざめた顔をこちらに向けた。この教会の中庭で繰り広げられてるのは、アランと白髪の少女……セブンの、木刀による模擬戦。

 

ルールとしては、両膝をつけるか倒れるかで敗北。

魔法、魔力の使用は禁止。怪我はシスターが治療する。

 

今回で四戦目、アランが二勝、セブンが一勝。休憩は与えず連続で戦わせている。どちらにも疲労が見えるが、しかし、アランの方が体力に余裕が見て取れる。

 

 

アランは、全体的に良質な戦い方をする。

姿勢、動き、呼吸、剣の振り方、どれもそれなり、といったところだろう。だがどれも中途半端、完成にまでは至ってはいない。それを、それぞれで補っているのは巧いやり方だ。

 

セブンは……その真逆だ。

どれをとっても、ピーキーな戦い方。一撃必殺を狙うこともあれば、少しずつ相手の精神力を削ろうとする動きもある。だが姿勢制御に関しては完璧だ。どれだけ無茶な姿勢でも、その柔軟さと重心移動で動き回れている。

 

 

どちらにも言えることだが、才能はある。

必要なのは経験の蓄積、いわゆるレベルアップだ。

 

相手の動きに合わせるのではなく、それを学び、そして己に活かす。彼を知り己を知れば百戦殆うからず、という言葉を実戦を以てこいつらの身体に覚えさせる、というのが今回の模擬戦の目的だ。ちなみにそれは伝えていない。

 

事実、一戦目で大勝したセブンは、二戦目でアランの防御を崩せずに敗北、三戦目は追い詰めたものの、体力差を見せたアランに再び敗北している。どちらも相手の戦い方を吸収し間違いなく成長している。

 

 

 

そして、見学している俺としても学びはある。

アランの型、セブンの動き、そのトレースは終えた。特別な技量は必要ない、身体動作で再現できるものだ。

ガリアの剣術も興味深い。エルトアの柔軟性に重きをおいた武術とはまた違った流派だ。ガリアで槍があまり使われず、剣が主流なのは残念ではあるが………

 

しかし、たまには剣を握るのも良いだろうか。

折角エルトアの剣術を学んだのだし、ホゥロゥにまた新作を注文しておこう。たまには木刀も振っておかなければ忘れてしまいそうだ。

 

 

 

「シスター、次、手合わせでもします?」

 

「えっ!?い、いえ、私は……遠慮しておきます……」

 

 

木刀を片手に取り、立ち上がりながら言ってみる。が、だがシスターは驚いたような顔をして首を横に振った。

そうして、木刀を打ち合わす二人を眺める。

 

 

「……傷つけ合うのは、あまり好きじゃありません」

 

「あの二人よりはずっと強いでしょう、シスターは」

 

「強さは誰かを守るものですけど……

 同時に誰かを傷つけるものでもあります。

 だから私は釘と金槌を棄てました。もう、ずっと前に」

 

 

シスターの声音は、少しだけ影が差す。

かん、かん、と木刀同士がぶつかり合う音が響いて、それに視線は向けたまま、互いに顔も向けずに語らう。

 

 

「勿体ないですね」

 

「私は、誰かを癒す者で在りたいのです」

 

 

高潔で、それでいて、謙虚だ。

力を持ちながらそれを振るわず、他のために在ろうとする。それは、たとえ偽善であろうとも、尊ぶべきものだ。

 

 

「それが貴方の信念なら………

 勿体ないとは、失礼なことを言いましたね」

 

「いえ。それに、私情がないこともありません」

 

「私情?」

 

「あまり暴力的なところは、見せたくないんですよ」

 

 

ふふ、と微笑みながら言うシスターに、俺も笑う。

成程確かに、女の子であればそうだろう。教会のシスター、という立場にありながらも、彼女もまた一人の少女だった。力量だけに目を曇らせてしまうとは、反省、反省。

とはいえ、だ。

 

 

「……成程。ですが、それもまた強さです。

 その信念を否定し、他者を害することでしか

 在れない者が貴方を阻んだのなら、どうします?」

 

「話し合います。

 同じ人間同士なら、理解し合えるはずですから」

 

「それは綺麗事、絵空事ではありませんか?」

 

「それでも私は誰かを癒す。

 それが私だけの信仰であり、強さです」

 

「………」

 

 

驚いた。………正直、みくびっていた。

綺麗事、絵空事。そう言ったのは本心だ。それに対しても、それでも、と言葉を返し、その自我を己のものとして自らの信仰、強さと断言した。

信仰という形での一つの理想、その完成形のような人間性。

 

 

「お見事……流石はシスター。舌戦もお強いことで」

 

「これでも多くの人と関わっていますから。

 ………にしても、まるで司祭様と話しているようですね。

 まさか、アルガリアさんとこんな話をするなんて」

 

「くっくく、それはそれは………疲れましたか?」

 

「かなり」

 

 

思わず笑いがこぼれ、それにシスターは苦笑を返す。

声だけでも分かる、げんなりした声音。それにしても、俺は最近の舌戦では負け続けている気がする。敬虔な信徒を少し試してみたくなって意地悪したつもりだったが、真正面から敗北させられるとは思わなんだ。

 

 

「なら……逆に聞いても?」

 

「なんなりと」

 

「アルガリアさんの強さ、とは……なんですか?」

 

 

強さ、か。

単純明快だ。悩む必要などない質問だ。シスターに言うのは憚られるが、こうも負けておいて虚偽を吐くのは良くない。木刀のぶつかる音を聞きながら、彼女に顔を向ける。

 

 

「ただ、敵を排除するためのものですよ」

 

「………」

 

 

彼女は、微笑んでいた。

否定されると思っていたそれは、だが、その微笑みだけで、言葉もなく返された。

 

 

「言い方の問題ですね。

 教会のシスターとして一つ助言をするとすれば、

 ()()()悪意を振り撒く姿勢……正すべきと思いますよ」

 

「では俺の強さはどう正しましょうか、シスター」

 

「それこそ、簡単ですよ」

 

 

シスターは微笑んだまま、告げる。

その微笑みは、その青い瞳は鏡のように、俺を映す。

 

 

 

 

「貴方の強さは、生きるため」

 

 

 

 

醜く歪んで腐り果てた、血肉の塊を映す。

 

 

 

 

 

 

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い………気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

 

逃げるように、目を逸らす。

 

そして。

 

 

 

 

「が、っは………!?」

 

 

セブンの木刀、その柄尻が、アランの鳩尾を捉える。

短い絶叫、それに俺とシスターの視線が向き、アランはゆらと身体を揺らし、そうして、膝から崩れ落ちた。

 

 

「そこまで」

 

 

その瞬間に、試合の決着を告げる。

セブンはふふんと鼻を鳴らし、それをアランが憎らしそうに見上げて立ち上がる。

が。

 

 

「く、っ……ふぅ、はぁ……っく………

 アル、ガリア……まだ続けるとは、言わないよな……」

 

「………っは、っ、は、あっ………しん、どい……」

 

「はっ、まだまだ体力は足りないらしいが、

 お前たちの試合はこの辺で終わりにしておくか」

 

 

汗だくの二人が視線をこちらに向けてくる。

その様子を鼻で笑いつつ、俺は握った木刀で肩を叩く。まだ鍛えさせたいのは本当だが、二人はうんざりしているのだ。心意気もないまま求めたところで、結果は出ない。

 

 

「趣向を変える。

 二人同時にかかってこい」

 

「「………………」」

 

 

二人はおぞましいものを見るかのような顔で沈黙した。あと拒否権はない。木刀を垂らし、その切先で地面を削り上げて二人へ向け、軽く殺気と土を飛ばしてやる。

 

 

「「!!」」

 

 

びく、と二人の肩が跳ね、瞬間的にそれぞれ木刀を構えた。反応は悪くない。これくらいの緊張感を保たねば、実戦ではすぐ死ぬことになるのだが。

 

 

「殴られたいなら動かなくてもいい。

 シスターは治療したくてウズウズしてるようだぞ」

 

「捉え方おかしくないですか!!?」

 

「癒す者なのでしょう。役目を果たして貰うだけです」

 

「それは……そうなのですけど……!?」

 

 

シスターが渋い顔で慌て出す。

そして。

 

頭上からの木短剣の一閃を、木刀で受け流す。

 

 

「………ちッ!!」

 

「それで良い」

 

 

追撃の一撃を、セブンは空中で身体をひねって見事に回避。着地と同時に、素早く間合いから抜け出した。

そして、強くこちらを睨みつけてくる。

 

 

「………一発、殴られた分は返したかった」

 

「やる気があるようで結構。

 ただ、その()()は貯まっていく一方だがな」

 

「必ず返す」

 

「返せるよう無料(タダ)で鍛えてやる」

 

 

無口だが言うことは言う女だ。

お喋り好きなヨミとはかなり違うが、嫌いじゃない。そして最後に、アランの方へと向き直る。

それにアランは剣を抜刀術の構えに直し、腰を落とす。

 

 

「お前も、お家を守るつもりなら鍛練を欠かすな」

 

「っ、ふ……そのつもりだ。

 機会があれば僕にも殴らせてくれよ、セブン」

 

「私が先だから」

 

「早いもん勝ちさ。覚悟しろよ、アルガリア」

 

「強めに寝かしつけてやろう。

 夢でその機会とやらが見られるようにな」

 

 

悪い顔で笑うアランに、言葉を返す。

二人が木刀を構え、俺もまた、それに応じる。

 

 

 

 

────

 

───────

 

 

 

 

 

 

「7番って……お前、そりゃ名前じゃないだろ」

 

 

思わず、俺はツッコむ。

目を覚ました白髪の少女が名乗ったのは、型番としか思えぬ番号。だが、それでも彼女はその首を横に振った。

 

 

「それでも、私は7番」

 

「……」

 

 

二人きりの部屋で、俺は深い溜め息をつく。

ホムンクルス、そうレイラは言っていた。人造生命、或いは人のカタチを模したゴーレム。その雪のように白い髪と肌はそれを象徴するかのように、人の色をしていない。

 

 

「……」

 

 

七番は静かに、目を閉じた。

自分から何かを語り出す様子はない。落ち着いている、そう見えるが……内心は、さて。

三本、指を立てる。

 

 

「聞きたいことは3つ。

 お前の素性、何故盗みを働いたか……それと」

 

「……それと、なに」

 

「お前と同じ見た目をした女のことだ」

 

「───」

 

 

やはりか。

一瞬、閉じられた瞼が動いた。何か知っている。

その瞼が開かれ、琥珀色の懐かしい瞳が俺を捉えた。そこに宿る感情は、だが曇って読むことが出来ない。

言葉を続ける。

 

 

「無理に答える必要はない。拷問するつもりもない。

 だが、正直に話して貰えると助かる」

 

「それで、話した後は私を殺す」

 

「俺は雇われただけだ。

 その依頼は強盗事件の解決、お前を殺すことじゃない。

 要するに、お前が盗みを辞めればそれでいい」

 

「………」

 

 

彼女は沈黙する、が。

すぐにさっ、と顔を上げた。

 

 

「私が盗みを止めれば、貴方はお金が貰えるの?」

 

「そうだな」

 

「………」

 

 

金に食いついてきたか。

だが、それでは彼女が盗みを働いていた意味がない。盗めば金を払う必要はないだろう。ここですぐに盗みを認めれば、俺を騙してまた盗みに出られることも彼女は考えたハズ。

 

だがそれをせず、金に興味を示した。

養っている相手でもいるのか?或いは、他の………

いや、今聞くべきことがある。

 

 

「そろそろ、質問に答えて貰おうか。それと、

 殺しはしないが下手な動きを見せれば攻撃する」

 

「………私はただの七番。それ以上でも以下でもない。

 盗みをやってたのは、お腹が減ってたから。

 あと、私と同じ見た目の人なんて私は知らない。

 私は一人だから」

 

 

成程。

墓穴を掘ったな。二人、もしくはそれ以上。ヨミ、そして、この七番と同じ見目の女がいる。こいつは一人だが、しかし二人、或いはそれ以上で存在している。こいつ自身が独立し動いていると、それだけの意味を持つ言葉を吐いた。

そもそも七番の時点で意味はないが。

 

 

「嘘は見逃そう。

 お前たちが頼れる者はいないのか」

 

「……」

 

「そうか。食糧が必要なんだな?」

 

「…………そう」

 

 

それは確からしい。

 

ふむ、金があれば食糧も買えるが、盗む方が早いと考えた。動機はそんなものだろう。盗んだ量から考えて、二~三人、それ以上は確実だろう。恐らく同じホムンクルスを庇いつつ食わせるため、盗みを働いていた、というところか。

 

 

「職を紹介してやる。盗みはやめろ」

 

「………何が目的?」

 

「事件解決以外に何がある。

 条件は俺たちと一緒に働くことくらいか」

 

「……」

 

「夕方には終わる仕事ばかりだ。報酬は山分けだがな。

 必要なら、今回の報酬で木箱二つ分の食糧がある。

 それもくれてやってもいい」

 

 

悪くない条件を提示したつもりだ。

彼女は驚いたような顔で、だがすぐに表情を元の仏頂面へと戻す。平静を保っているつもりだろうが、割とすぐに表情が変わるのはヨミと同じだ。

 

 

「……分かった。でも、裏切ったら刺し殺すから」

 

「好きにすればいい。出来るものならな」

 

 

笑みと共に言葉を返す。

裏切る、その言葉の意味がどこまでかはともかく、こうして仲間が増えるのは悪いことではない。それに言えないことがあるのなら、言えるまで信頼して貰えばいいだけだ。

それが、いずれ知るべきものに繋がるはず。

 

……そう、慌てることはない。

ゆっくりと、だが確実に、道は辿っていけば良い。

 

 

『そろそろ話は終わったか?』

 

 

と、そこで。

ノックと共に、アランの声が扉の向こうから聞こえてくる。俺が彼女に視線を向けると、彼女は頷く。

 

 

「丁度話が纏まったところだ。入ってくれ」

 

『あぁ、分かった』

 

 

そして、扉が開かれてアランが入ってくる。

手には木刀が握られており、本人は首に巻いた手拭いで顔の汗を拭き取っている。

 

 

「そういえばお前、何してたんだ」

 

「見ての通り、鍛練だ。

 君の強さを見聞きして、僕も鍛えなければ、と」

 

「良いことだ。あぁ、折角だ。俺が鍛えてやろうか?」

 

「へぇ、良いのか?」

 

「そこの……七番女と一緒にな」

 

「七番?」

 

 

顎で指し示し、またそれにアランが首を傾げて顔を向ける。そうだ、人の名前でないという話だったか。

 

 

「君、そんな名前なのか」

 

「名前じゃないけど、そういうもの」

 

「………名前は必要じゃないか?」

 

「いらない。私は七番」

 

「いや、それだと悪目立ちする。名前は必要だ」

 

 

首を横に振る七番に、俺はそう指摘する。

七番なんて呼び方は分かりやすいが、俺以上に奴隷のような呼び方だ。冒険者として働いて貰うにしても、名前は要る。彼女が断固として七番で在りたいのなら………

 

 

「セブンだな」

 

「セブン?」

 

「いらないって言ってる」

 

「セブンは七番目の意味だ」

 

「じゃあそれでいい」

 

「いいのか……」

 

 

セブンが仲間になった。

 

 

 

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